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49: 貝殻拾ってヨットに乗って……。
しおりを挟む白に水色に紺色、薄紫、緑色、琥珀色、チョコレート色。
コロコロと掌で転がる沢山のビーチグラスに俺はむふむふと笑みを溢した。それらをコートのポケットに入れ、パンパンと掌や膝に付いた砂を払う。
足元に置いた、ジュリアが見つけてくれた錆びたペンキ缶の中には流木や綺麗な貝殻がぎっしりだ♪
「……っと、…ちょっと、流石に冷えてきたな。」
夢中になって拾い続けてたせいか、いつの間にか身体がキンキンに冷えきってた俺は、ぶるり、と身震い一つして呟いた。
「うぉっ」
途端にふわりと暖かいものに包まれる。柔らかい感触、首元と頬を撫でるツルツルした毛。
そして、ぶわりと広がる、少し邪魔の入った甘くスパイシーな香り。
冷えた身体が一気に沸騰する。ダメダメダメヤバイよ!何だこれ!
色んな感情でチカチカする脳内に、満を持して、と言わんばかりに蒼い海の香りが届いて…。
「ヒョーー!ダメダメダメ!ジュリア出して!ヒートになっちゃうよ!心臓がもたない!」
俺は後ろからジュリアの大きな毛皮のコートの中に閉じ込められ、ヒャーヒャー悲鳴をあげた。
「大丈夫、人間意外と丈夫なもんで、心臓は破裂しないし、こんなのでヒートは起きないのさ♪」
モコモコのコートの中で、ジュリアの腕が俺の体を抱き締め、さわさわと俺の薄手のコートの上から冷えた肘や肩をさすってくれる。暖かいけど心臓がばくばく五月蝿い。
「もしこんなのでヒートになるなら、その前に俺は朝から三回ほどラットになってるよ。」
「な、なん……はゎゎ」
耳にキスしながら囁くジュリアの程好く低い声に、カリカリと爪で引っ掻かれるカラーの細かな振動に、漂う色気とフェロモンに、俺はまともに喋れず体温だけをカッカカッカと燃やし続けた。
「ふふん♪絶対寒くなるだろーから、今日は大きめコートにしたんだ。買って良かったよ、コレ♪」
頭の上からジュリアの御機嫌声が降ってくる。顔が熱い。
「さ、軽くヨットでぐるっと一回りしながら珈琲でも飲もうぜ。」
カラリ、とジュリアが手を片方コートの袖に通して足元のペンキ缶を拾う。
一緒に俺までペコリと頭を下げる形になり、何だかその操り人形感に思わず口角が上がる。
(何だこれ。人形遊びの人形になった気分だ。)
俺がもそもそと歩けば、もこもことジュリアも付いてくる。
「引っ張るなよ~!ハハハ」
どうやら勝手に歩こうとするとコートで互いに引っ張り合ってしまったり、足がぶつかったりしてかなり動きにくい様だ。
暫くジュリアとくっついて、息を合わせてペンギンみたくモタモタ歩いた。
だが、飽きてきたな、とジュリアが呟いたと思ったら腹に腕が回り、俺はジュリアに片手で抱き上げられてしまった。
そうして買い物で抱えられて帰ってくるバゲットみたいな気分を暫く味わいつつヨット停泊所に戻った俺は、そのままジュリアに抱えられてレンタルヨットに乗り込む。
「夏なら、もう少し小魚とか珊瑚とか、ハッキリ見えたのにな…」
なんて言うジュリアに、
「見て見て!クラゲだ!…いや、今でも充分楽し…あ、"中範囲鮮明化"!!うおーー!見てジュリア!珊瑚だ!タコだ!ウツボだーー!」
と、充分楽しいけど、もしかしてジュリアはもっと珊瑚とか見たかったのかと気を利かせて魔法を掛けてみたら、
「ぎゃぁ!船が浮いてる!?ってこれ戦時に霧が出た時の魔法じゃないか!!」
「ヒェェエ!!な、なんじゃこりゃぁぁぁ!??」
俺的には大成功だったのだが、ジュリアと船長さんが海水が透明になって船が浮いてるみたいだと阿鼻叫喚したり。
まぁ、そんな感じで俺達は船上の景色を楽しみ、ブランデーを垂らした珈琲なんかを飲みながら夕陽を眺め、ロマンティックな気分でヨットを降りたのだった。
え??阿鼻叫喚はロマンティックじゃない??いやいや、あの後綺麗な魚いっぱい見れたし!ロマンティックだったし!!
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