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58: ドキドキ☆デビュタントです!

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ふぁぁ、夜会だ!凄ぉい!

夜会当日、俺はジュリアが何処からか借りてきてくれた、めっちゃ華やかな馬車の中から辺りを見回し、ソワソワと降車の順番を待った。

本当は、普通にテルカズヨシダの常連おっちゃんの辻馬車でも出して貰おうかと思ってたんだけど、何だかジュリアが凄い勢いでダメ出しするから、ジュリアにお任せしたんだよね。

まさか、あのぼろアパートにこんな華やかな馬車で迎えに来るとは思わなかった。
でも、こうやって会場入りするために馬車で行列を作っているのを眺めていると、辻馬車で来たら確実に浮いてたな、と思う。

いや、若干……他の家門入りの馬車に混じってのこの馬車は…浮いてる気がするけど……うん、辻馬車は確実にダメだった気がする。ジュリアありがとう。

俺は心の中でジュリアに感謝しつつ、白と金を基調にあちこちに真っ赤な薔薇の彫刻と絵が描かれた馬車を見回した。内装はキンキラキンで、ソファはふかふか深紅のベルベットで、天井には天使が舞い踊り、あちこちからクリスタルが下がり、キラキラと虹色の欠片を降り注いでいる。キレイ♡

「この馬車凄いなぁ、誰の馬車?チョーキレイ♡」

あ、窓にくっついてるせいか、今日の馭者を務めてくれたキャバレー"ダンカン"の黒服君が物凄く緊張した声で話してるのが聞こえる。
元男爵家五男な彼は、今日休みの人の中で一番礼儀のある振舞いが出来ると駆り出されて来たのだ。声が微かに震えてる。
ごめんね、ありがとう。ジュリアからバイト代出てるらしいけど、俺からも酒の一本位は今度プレゼントしておこう。

「…叔母さんの馬車借りた。ダンカンとか、知り合いの馬車片っ端から比較して、一番豪華だけど悪目立ちしなさそうなのがこれだった…。」

何かを思い出してるのか、ぐったりとした声でジュリアが言う。

「あー……繁華街は、目立ってなんぼの商売だからな…ハハハ。ありがとうジュリア、馬車でお迎えとか初めてだから舞い上がっちゃったよ♪それに、辻馬車で来なくて良かった…。」

俺は、ジュリアの行き着けのキャバレー数軒の外装内装を思い出し、乾いた笑いをあげた。

皆豪華絢爛異国情緒溢れる設えで、まるで桃源郷の様なのだ。そこに勤めている踊り子や歌い手、高級娼婦用の馬車ならきっとスーッゴいんだろうな…。

ちょっと見てみたいなぁ、なんて夢想する俺に、まぁ、辻馬車よりはマシだよな、とジュリアが苦笑いする。

「そーそ、辻馬車で一人で来るよりはずっとロマンティックなデビュタントになったよ、ありがとうな♪」

そう言って、黒服君が開けてくれた扉から勢い良く出ようとした俺をそっとジュリアが留め、先に降りて俺に手を差し出してくれる。

「お手をどうぞ、ネオン・ブレーカー子息。」

あ、そ、そか。こーゆー時ってエスコートして貰わなきゃだもんな。俺ってば馬車に乗る時も降りる時もジュリアに言われなきゃ忘れてるんだから。

俺は急に畏まったジュリアの色気全開具合にドキドキしながら手を取り、ゆっくりとレッドカーペットに降り立つ。
瞬間、レッドカーペットと蛍光イエローの靴がまるで喧嘩するように引き立て合い、目に突き刺さる様な光を周囲に放った。うわぁ。そっか、レッドカーペットの事は考えてなかったな。

犇犇と黒服君とジュリアと横に居た警備兵と侍従の目が俺の靴に釘付けになったのを感じたが、俺はそれを気付いてない素振りで優雅にジュリアの腕に掴まった。目を擦る警備兵さんとか視界に入ってないよ。俺は何も見てないよ。

それにしても、今まで、ジュリアにエスコートに何度かして貰った事はあるけれど、畏まった場では初めてで……ってそもそも俺ってば今デビュタントで畏まった場自体が現在進行形で初めてで。

何だかレッドカーペットを踏み締める度に緊張してきてガチガチと音が出そうな歩き方になってしまう。

「ううう、何だか俺浮いてるね…。」

今日の会場は個人の屋敷ではなく、王都で二番目に大きな演劇ホールの夜会で、畏まってるけれど気持ちはカジュアルな夜会なんだとか。本当に身分が高い人達はめっちゃきらびやかなホールに集まってて、その横の少しスッキリしたホールに若手や低位貴族が集まるらしい。
そのせいで、少々の失敗は目を瞑って貰えるということで、サキュレントの人気デビュタントホールになってるんだそうだ。

国によっては皆同じ夜会でデビュタントする国もあるらしいけど、サキュレントは何代か前の王女様が「見本市みたいでイヤ!」って言ってこの五月雨スタイルになったんだって。

なんて違う事を考えてもどんどん緊張してきちゃう。俺達は長い長いレッドカーペットを歩いて、やっとそのスッキリした方のホールの前に辿り着いた。

「まぁ、浮くのは判ってただろう?大丈夫。楽しもう。」

そう言って、ジュリアは優しく笑ってくれたけど、声が少し緊張してる。
そうだよね、外国人で元貴族なジュリアを無理矢理連れて来ちゃった上に、このファッションだけ派手派手平凡顔嫌すぎΩのパートナーとして振舞わせちゃうんだから、緊張するよね。アウェーにも程があるよね。

「うん。美味しいもの食べよう!」

出来るだけジュリアに負担かけないように、すぐに壁際に行こう。

侍従に再度招待状を見せて、開放された扉から一歩、踏み込む。

「ネオン・ブレーカー侯爵子息とパートナーのご入場です。」

カツリ、踏み出した先は艶々の大理石で、踏み締める度に俺の靴と喧嘩したレッドカーペットと違い、どこか優しく蛍光イエローをその表面に映し出した。

けど、うわぁぁあ帰りたいよーー!!
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