親無し小太り取り柄無しな田舎娘がある日突然獣人伯爵の運命の番になった話

syarin

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48: 侍女デビューと眠れる菫の妖精。

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「おはようございます、イオンウーウァ様。よく眠れましたか?此方の二人は今日からイオンウーウァ様の侍女を務めるシフォンとモカです。お見知り置きを…。」

バジルの妹二人が、初出勤した一週間後、二人はアナ侍女長と一緒にラートンにキスの嵐で起こされたばかりのイオンウーウァの部屋に来ていた。

アナの姪だとか、バジャーの娘、バジルの妹、二人は姉妹、そんな事は一切伝えられなかった。

バドワイザ家の使用人やバドワイザ商会の大半の使用人は皆親戚同士である。
アナグマ獣人は他種族を受け入れる寛容な種族ではあったが、同時にかなり密度の濃い家族経営の様な面も有る為だ。

それ故、家族だから、親戚だから、となぁなぁにすると全部立ち行かなくなる。
なので、家族経営の常とは逆に、勤務に着く際は一切の家族の情を忘れるという暗黙のルールが出来上がっていた。

まぁ、一切の家族の情を忘れると言っても皆情に厚い種族である為、殺伐とはせずに、寧ろ丁度良いアットホーム感を築けているので、アナグマ獣人達には必要な措置だったのだろう。

そんな訳で只のシフォンとモカと紹介された二人は、静かにイオンウーウァにお辞儀をした。

「そうなの。宜しくね…。」

アナに頷き、ぽそりと二人に言ったイオンウーウァの声に、シフォンはビクリと肩を跳ねさせ、モカはそっと横髪の毛先を弄った。

(はゎゎゎ……聞きしに勝る神秘的な深緑の髪と菫の瞳!可愛いけど抑揚の少ない声、無表情だと何考えてるか全く読めない耳も尻尾もないお姿!!…いや、耳はあるけど動かないんだっけ。
ああ、森の奥深くにいる菫の妖精さんみたい。神秘!神秘だわ!
大丈夫かしら、不興を買ってないかしら。くぅう…私、今日からあの深緑の髪を整えたりするのね…。綺麗な色!触ってみたい!)

(フン……聞いてたよりデブじゃないじゃない。それにみすぼらしくもないわ。
でも、モカのが絶対可愛いし、あんなむっちりボディよりモカのふわふわスリムボディのが絶対魅力的だし!
何だか耳と尻尾が無くて感情が読めないのもキモチワルイし~。
ラートン様もすぐに私の魅力にメロメロになっちゃうわ♪)

シフォンは無表情で心中大興奮、モカは澄ました顔で良からぬ事ばかり考えていた。

そんな二人をイオンウーウァは気にせずメイド達にぽやぽやした顔を蒸しタオルで拭われたり、寝巻きを剥ぎ取られたり、されるがままになっていた。

「………zzzzz」「あ、イオンウーウァ様ぁ、番様ぁ、起きて~♡」

フフフ…クスクス…とメイド達がさざめきの様に笑みを溢しながらイオンウーウァを飾り立てて行く。

ふんわりした薄い生地をギャザーで沢山寄せた着心地の良いドレスは生地が重なりあった所がほんのり黄緑に見える色合いで、襟元やパフスリーブの袖口、裾などに濃紫と濃紺のリボンをぐるりと縫い付けてシンプルなラインを描いている。
それだけだとネグリジェに見えそうなデザインだったが、その上にアルペソ山の民族的な赤い生地に沢山の花が刺繍されたエプロンを着せれば、可愛いエプロンドレスの完成である。

馬車で眠る事と、街で観光することを考えた着心地重視のスタイルである。

メイド達は可愛い装いに溜め息を洩らし、イオンウーウァは静かに寝息を立てる。

(つ、番様……、人形劇の操り人形みたい…。出来るかしら、私…。)

シフォンはガリガリとメモを取りながら、数人がかりで髪を結ったり服を着せたりアクセサリーを着けたりされてカクカクした動きを見せるイオンウーウァに驚嘆と不安を綯交ぜにした気持ちになった。

(ううん、やらなきゃ、なのよ!)(つまんなーい)

「イオンウーウァちゃん♡僕の可愛い奥さん♡♡もーいーかい??もーいーよね??出来上がりだよね??出来上がりだよ!ヨシ!」

決意を固めるシフォンと笑顔を貼り付けてボーッとするモカの前を、ゴキゲンのラートンが通り過ぎ、メイド達から奪い取った眠るイオンウーウァを抱えてエントランスへと早足で向かった。

「あ、待ってくださいよぉ、ラートン様ぁ♡」「ぁ、…行ってきます…!!」

すぐにその後をモカが追い、シフォンはメイド達とアナ侍女長にビシッ!と敬礼して気合いを入れてから静かに追いかけたのだった。




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