親無し小太り取り柄無しな田舎娘がある日突然獣人伯爵の運命の番になった話

syarin

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49: ロックオンされたシフォン

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「わぁー!凄い人だわ!」

「湖と貿易の街、シンシューポリスだからねー!さー!何処に行こうかな??」

ごとごと早朝から馬車に揺られて数時間。そこは山河に囲まれた開けた街シンシューポリス。

此処は特筆する名産はなかったが、地理的に3ヶ国に繋がる街道が合流する地点であり、様々な国から集まった商品や海産物、農産物が一旦此処に集積され、再び様々な土地に運ばれている貿易の要所だった。

故に、街には仲買商人や問屋が多く、問屋街の店先の小売り品を冷やかして歩くのがウリの観光名所にもなっていた。

着いて早々、ラートンはバジルとアンズとグーマを従えて各商人商会達と契約を締結したり更新したり、相談に乗ったりと小一時間…。
それはもう暴走した馬車馬の様に猛スピードで仕事を終わらせ、今から観光を楽しもうかという所だった。

勿論、イオンウーウァは今起きた所である。

ラートンが商会でも必要な研究だと言い張り工夫を凝らして新調した馬車は街道を爆走してもイオンウーウァが寝ていられる程に振動を吸収する新構造で出来ており、更にゆったり寝れる様にと座席スペースをふかふか広々として、さながら走るデイベッドだった。

勿論、爆走する馬車の衝撃全てを感じさせなくする事は出来ないが、それでも、ラートンの筋肉を枕に図太いイオンウーウァが熟睡出来る位には静音設計だった。

今後繊細な宝物や王侯貴族を運ぶ馬車として重宝されるであろうふかふか静音設計馬車で、ラートンがシンシューポリスに着いて仕事に走り回っている間も一人気持ちよーく惰眠を貪っていたイオンウーウァは現在、お目目パッチリ気分爽快、元気百倍にして牛一頭まるごと食べれそうな腹ペコだった。

ぐーーん!とラートンの横で再度大きく伸びをしてから、ハンターの目で屋台群を睨む。

「ラァト!あそこで小さい魚が焼かれてるわ!」「ヨシきた!」

早速、川魚の塩焼き屋台目指して駆け出す二人の後ろで、グーマとアンズ、バジルはへたへたとその場にあった花壇の縁にへたり込んだ。

「あああああ……疲れたァ……。」

グーマのへにゃへにゃした声に、アンズとバジルがコクリと無言で頷く。

そんな二人にそっとシフォンが水筒を差し出した。

「お三人方、お疲れ様です。只の水ですがどうぞ。」

「おお、そうか、シフォンが居たのだったね。」

ありがとうと水筒を受け取り、喉を潤したグーマが言えば、シフォンは困った様に微笑んだ。

ハッキリ言ってシフォンとモカは全員に忘れ去られていた。

「水、ありがとう。そういえばモカが静かだな。もう散策に出たのか?」

勝手に散策に出るなど侍女失格だが、こんな街に着いたら遊びたいとうるさいモカが静かなのは不在以外考えられないバジルだった。

「いえ、道中に酔ったらしくて寝てます。」

二人が押し込められた荷馬車はイオンウーウァのふかふか静音設計馬車とは違い、質実剛健そのものな馬車で、固定されてる荷物達の狭い隙間で、シフォンとモカはシャカシャカゴトンガタンとシェイクされまくって此処まで来たのだった。

商会で働きたいと言っていたシフォンはある程度鍛えていたし想定もしていたので平気だったが、相変わらずキツいコルセットのふわふわドレスで馬車に詰め込まれたモカは完全にグロッキーだった。

道中、最初は痛い固いとギャァギャァ五月蝿かったがすぐに静かになり、シフォンがモカのドレスの裾を仮眠用ふわふわ毛布扱いしても何の反応も示さず、現在、シフォンの居なくなった馬車の床で自分のドレスの裾を敷き布団にぐったりと寝込んでいた。

「お水を置いてきてあげたので、回復したら出てくるでしょう。
それより、毎度このように道中仕事がないなら私もリザードランナーに乗っても良いですか?なんなら、今何処かで騎獣出来る服を買って、此処から先は騎獣したいです。」

その方が荷馬車も軽くなるし、というシフォンにバジルがそうだな、と頷いた。

「取り敢えず今日はシンシューポリスの支部に常駐してるリザードランナーに乗ってくれ。」

バジルの言葉に、シフォンは判りました。とだけ言い、騎獣出来る服を買いに行った。

「そうか……。シフォンとモカは、イオンウーウァ様がお着替えやお髪を直したりしなきゃ仕事が無いんだよな……。」

グーマが小さくなるシフォンの背中を見ながら呟いた。

「シフォンには、スモモ村の土地建物管理等も引き継ぎませんと…。」

グーマの独白にアンズが言葉を繋ぎ、バジルはうーんと首を捻った。

「モカは……体力は有るんじゃないかと思いますが…。」


新たな戦力として三人にロックオンされた等露知らず、シフォンは足早に雑踏を抜けるのだった。





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