半神の守護者

ぴっさま

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第52話 悪魔と支配

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「ロッド様。その者は身体に雷の魔力をまとっています。恐らくは所持している魔剣の能力を使用していると思われます」
アイリスが相手の力量に一応注意を促す。

「分かった。ありがとうアイリス! 俺が言うのも何だが、お前は何者だ?」
ロッドが斬撃を放った男に問い質す。

「仮面を被った怪しい賊などに名乗る名は無いが、皇帝陛下を護る近衛兵このえへいとだけ答えておこうか!」
男はそう答えると、直ぐに斬りかかろうとしたが後ろの方から声が掛かった。

「「「団長!」」」
遅れてやって来たと思われる近衛隊が続々と現れる。

「お前ら遅いぞ! 4名は皇帝陛下をお護りしろ! 残りは賊の殲滅せんめつだ!」
近衛兵団長=斬撃を放った男が指示した。

男は表向きは余裕を装っていたが、最初の奇襲で倒せなかったのと、その後の剣戟けんげきで優位が取れなかったので、内心はあせりが生じていたのだ。

(やっと来たか。だがこれで勝ったな。この俺の魔剣の身体強化で、速攻で倒せなかったのは少し焦ったが、魔法をからめて集団で掛かればひとたまりも無いだろう)

一方、ロッドは他の者に被害が及ばないよう、強度を上げた〔サイコバス〕に乗せて皆を一旦、空中に逃がした。

ロッドはどの道、皇帝のあの様子だと圧倒的な力を見せつけないと、こちらの言う事に耳を貸さないだろうと思っていたので、恐らく帝国内では強者であろうこの者達の相手をしてやろうと考えた。

重装備で重厚な大盾ラージシールド長剣ロングソード長槍ロングスピアを構える者、軽装備で短弓ショートボウスタッフを携える者など、総勢数十名に囲まれるロッド。

スタッフを構えた近衛兵の女性魔法使いの3名が、慣れた様子で呪文を手速く唱え、攻撃魔法を発動する。

迸る稲妻ライトニング
迸る稲妻ライトニング
迸る稲妻ライトニング

同士討ちにならないよう計算された複数の稲妻がロッドを襲うが、ロッドも瞬時に対抗魔法を発動する。
魔法消去ディスペル〛☓3 同時発動!

すると発動していた3本の稲妻が、ロッドに届く前に消失する。

「「「 ! 」」」

「そんな! 攻撃魔法を打ち消すなんて! それも全て!」
必中だと思っていた魔法が難なく消去され、女性魔法使い達は驚愕する。

「お返しだ」
そう言うと、ロッドが魔法を発動する。

迸る稲妻ライトニング〛最大出力 ☓3 同時発動!

(ゴゴゴオオオオオオオオオオオッ)

人の胴体よりもっと太い極太の強烈な稲妻が、轟音を立てて近衛兵達の頭上を通り過ぎる。

「きゃああああっ!」
「うああ~っ!」
「ひいい~っ!」

ほんの少しでも触れれば確実に死ぬと分かる攻撃魔法に、恐れおののく近衛兵達。

「今のはわざと外したのか?」
一転して不利をさとった近衛兵団長が、吐き捨てるように言った。

「お前達を殺す理由が無いからな」
ロッドが近衛兵団長に答える。

「くそっ! 弓兵と近接部隊で前後左右から一斉にかかれ! 弓や魔法は仲間に絶対当てるなよ!」
近衛兵団長が指示する。

だがロッドは様々な超能力を使い分け、近衛兵達を翻弄ほんろうするのであった。

ーー

斬ったと思ったら消え、離れた場所に現れる。

複数人で追い詰めても、容易に空を飛び逃れられる。

呪文詠唱中に背後にいきなり現れ、軽い衝撃で詠唱をキャンセルされる。

槍で刺しても何かにはばまれ、槍ごと180度回転して地面に叩きつけられる。

弓から発射される矢も、当たる直前に空中に停止して落ちてしまう。

攻撃魔法が発動出来たとしても、ことごとく消去される。



何人で掛かっても、ロッドに自分から触れることさえ出来ない近衛兵達。

「そろそろ良いか」
ロッドはそうつぶやくと魔法を発動する。

上級魔法〚連鎖する稲妻チェインライトニング〛最小バージョン!

ロッドの手から発射された細い稲妻が、まだ立っている近衛兵達を連鎖するように次々と貫通し、一瞬でダメージと共に1人を除く全員を、一定時間痺れて動けなくさせた。

「後はお前だけだ」
ロッドは〔サイコブレード〕を近衛兵団長に突き付けて挑発ちょうはつする。

「くそがっ! はあああっ!」
近衛兵団長が気合を入れ、雷を纏ってもの凄い速さでロッドに斬り込む。

ロッドも〔サイコ纏い〕と〔思考加速〕をある程度上げ、〔サイコブレード〕を片手に近衛隊長と交差し、お互いに背中を向けたまま残心する。
※サイコバリア使用時はサイコ纏いを最大限で使用する事は出来ない。

「ぐあっ!」

ロッドが近衛兵団長の剣を握る方の腕を、肩口から綺麗に切断したのだ。

近衛兵団長は切断された傷口を押さえ、片膝をつく。
魔剣が離れると、纏っていた雷が無くなった。

だが、近衛兵団長のは戦意をまだ失ってはおらず、傷口を押さえ膝をついた状態で振り返り、ロッドを睨みつけた。

しかしロッドは近衛兵団長から視線を外すと、もう決着は着いたとばかりに〔サイコバス〕を地上に降ろすのであった。


ーーーーー

「ロッド様。そこの人間、帝国皇帝ですが魔力感知マジックパーセプションで視たところ、何らかの魔法の影響下にあるようです。アイテムなどで精神支配されている恐れがあります」
アイリスが精神支配の可能性をロッドに向け話した。

ロッドはアイリスに頷くと皇帝の目の前まで行き、おびえる皇帝の頭に軽く手を当てて超能力を発動した。

治癒ヒーリング

すると皇帝から黒いもやのような物が出て行き、空中に拡散して消えてゆく。
皇帝のめていた豪華な指輪の一つが、同時に砕け散る。

少しすると、放心していた皇帝は静かに涙を流した。

「……くう。余は長年の間、何者かに操られていたようだ。自分の意志ではない声が余の身体をあやつっておった。余は何も出来ず、ただそれを黙って見ているしかなかった……」

呪いのような物が解けた今、自分が今まで何者かに操られていた事実を話した。

「「「!」」」

帝国皇帝の言葉を聞いた帝国人達が、皆驚く。

「誰に操られたのか、心当たりは無いのか?」
ロッドが皇帝に尋ねた。

「……分からぬ。だが、皆の者には申し訳なく思う。特に、獣人達には気の毒な事をした。許せ……」
下を向き、長年の後悔にさいなまれる皇帝。

ミーアを始めとするジュリアン達も、複雑な顔で皇帝を見ている。

「何という事だ……」
「そんな、皇帝陛下が何者かにあやつられていたなんて……」
辺境伯領に攻め込んできた者達も、信じられない事態に、つぶやき絶句する。

若干じゃっかん、この雰囲気ふんいきに耐えられなくなったロッドは、先程の戦いで切断した腕を回収し、同じく絶句したままの近衛兵団長の側に行くと、超能力で腕を治療した。

治癒ヒーリング

すると切断された腕が、綺麗に元通りとなった。
高位の治癒魔法使いでも出来ないような治療に、驚愕する近衛兵団長。

「な、なぜだ? なぜ俺を治療する?」
近衛兵団長が手のひらを握ったり閉じたりして自分の腕が完全に元に戻っているのを確認し、再び魔剣握り締めながらロッドに尋ねた。

「特に理由は無い。後で治す事を前提として切断しただけだ。気にするな」
ロッドは何でも無い事のように返しながら、一人の人物の接近を〔遠隔知覚テレパス〕で感知して警戒していた。

感知した感覚から、人間とは思えないような感じを覚える。

「おおお、丞相じょうしょう閣下だ!」
丞相じょうしょう様!」
「閣下よく来て下さった!」
皇帝の近侍達が帝国丞相と言われる男を歓迎する。

だが、その丞相は邪悪そうな薄い笑みを浮かべ、右手を皇帝に向けると攻撃魔法を放った。

地獄の炎矢ヘルフレイム・アロー

黒炎を纏った巨大な矢のような魔法が、皇帝を含めた人々に迫る。

〔サイコバリア〕!

ロッドは全ての人を護るように前に立ち、巨大な半円形の〔サイコバリア〕を瞬時に構築した。

(ドガンッ!)

青白い壁が魔法の直撃を防ぐ。

〔サイコバリア〕を突破出来なかったが魔法が、バリアの周囲で燃え上がり、立ち消える。

「ひいっ!」
「丞相!」
「丞相がなぜ魔法を……」
「こちらを攻撃したぞ!」

皇帝の近侍の者達が丞相が魔法を使える事や、こちらに向け攻撃魔法を放った事に驚く。
皇帝や近衛兵達、近衛兵団長なども愕然とする。

「ほう、我が魔法を防ぐか。我は、偉大なる御方おかたに仕える大悪魔アークデビル一柱いっちゅうである。
人間の国をまどわせとの命により、この国の重鎮じゅうちんに成り代わっていたのだ。
〈支配の指輪〉が破壊されたので来てみれば、どうやったのか分からんが、皇帝の精神支配が解けているとはな。
我の人形となった皇帝を使って、もっと人々の怨嗟おんさまみれた戦乱の世を作りたかったが、暴かれたのでは仕方がない。
後は、お前達をここで皆殺しにして終わりにしようではないか!」

丞相であった男はそう言うと、大悪魔アークデビルの姿を現すのであった。
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