恋愛短編まとめ(異) ②

よしゆき

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恋する二人の隠し事 前編

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 ディアナは街で小さなアクセサリーショップを経営している。アクセサリーの材料を売ってくれるシルヴェストルと一月前に交際をはじめ、順調に愛を育んでいた。そんな時、二人の暮らす街で若い女性が狙われる殺人事件が起き、犯人は獣人だと噂されていた。人間の大半は獣人を恐れているが、ディアナは獣人を恐ろしいと思ったことはなかった。しかし、シルヴェストルが獣人だと知ったディアナは彼から逃げようとする。


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 裏口のドアをノックする音が聞こえ、ディアナは作業する手を止めてそちらへ向かった。
 ドアを開けると、そこには見慣れた男らしく整った顔がある。見慣れたけれど、見るたびにドキドキしてしまう。

「こんばんは、シルヴェストルさん」
「こんばんは、ディアナ」

 笑顔で挨拶を交わし、シルヴェストルは両手に抱えた箱の中を見せてくれる。

「今日も色々採ってきたんです」
「本当ね。どうぞ、中に入ってください」

 ディアナは彼を作業部屋へと招き入れる。既に何度も繰り返されたやり取りだ。
 台の上に置いてもらい、箱の中身を物色する。
 中には鉱物などアクセサリー作りに必要な様々な材料が入っている。
 ここはディアナの店兼作業場兼住居だ。こじんまりとした二階建ての建物の一階の表側が店で奥が作業場で、二階が住居となっている。
 知り合いに格安で売ってもらい、この街に引っ越してきてから五年、ずっとここで暮らしてきた。
 細かな手作業が得意で物作りが趣味のディアナはアクセサリーを手作りし、販売している。
 ディアナの作るアクセサリーは繊細で美しいとそれなりに評判で、そこそこの売り上げを保っていた。
 アクセサリー作りに欠かせない材料を売ってくれるのがシルヴェストルだ。知り合いに紹介され、それからは材料はいつも彼から買っている。
 はじめて顔を合わせたとき、背が高く長い前髪から覗く瞳は鋭利で、彼のことを怖い人なのかと思い少し怯えてしまった。けれど話してみると優しく親切な人だった。
 銀色にも見える灰色の髪に、それに隠されるように見え隠れする双眸は琥珀色。目付きは鋭いが、笑うととても可愛いのだ。最初は笑顔など見せてもらえなかった。けれど接していくうちに、徐々に笑みを浮かべてくれるようになった。今では顔を合わせるだけで瞳を輝かせ綻ぶような笑顔を見せてくれる。
 はじめは事務的な必要最低限の言葉しか交わさなかった。話を振っても相槌しか返ってこなかった。けれど少しずつ、彼の方からも話しかけてくるようになって、二人の距離は確実に縮まっていった。
 そんな彼との交際がはじまったのは一月ほど前。彼に告白され、ディアナはそれを受け入れた。
 数日前、はじめてデートというものを経験したり、恋人としての楽しい時間を共有している。順調に二人の関係は深まっていると、ディアナはそう感じていた。

「シルヴェストルさん、この後用事がなければ、今日もご飯食べていってください」

 最初は緊張して、ご飯に誘うのも一苦労だった。二人分の食事を用意したのに結局誘えずに終わってしまったことも何度かあった。けれど今では、自然と誘えるようになっていた。
 シルヴェストルはわかりやすく喜色を浮かべる。

「ホントですか! 嬉しい、ありがとうございます!」

 そして誘えば、彼はこうして毎回素直に喜びをあらわにしてくれる。子供のような反応を見せてくれる彼が可愛くて、堪らなく愛しくなる。
 二人で二階に上がり、仕込みを済ませておいた料理を仕上げていく。シルヴェストルにも手伝ってもらいながら完成させ、それを二人で食べた。
 こんな風に彼と過ごす時間は穏やかで、とても幸せだった。
 談笑しながら食事を終え、食後のお茶とデザートも済ませると、触れるだけのキスを交わしシルヴェストルは家に帰っていく。
 付き合いはじめて一ヶ月。まだ清い交際だ。知り合ってからはもう数年経っているが、恋人になってからは一月しか経っていないのだ。もう少し一緒にいたいと思わなくもないが、焦らずゆっくり時間をかけて恋人としての仲を深めていくのもいいだろう。
 さすがに自分から泊まっていって下さいとは言えない。ご飯に誘うのとはわけが違う。だが、もしシルヴェストルに誘われたらいつでも受け入れるつもりでいた。心の準備はしっかりできている。
 そこは彼のペースでお任せしようと、特に不満も不安もなく交際は続いていた。





 その日、ディアナは早めに店を閉めて買い物に出掛けた。食料が尽きてしまったので色々と買っておかなくてはならない。

「ディアナちゃん、聞いたかい?」

 馴染みの八百屋で商品を見ていると、声をかけられた。この八百屋のおかみで、おしゃべりな彼女はこうしてよく客を話し相手にしている。

「聞いたって……何をですか?」

 きょとんと首を傾げるディアナに顔を寄せ、おかみは声を潜めて言った。

「事件だよ、事件。殺人事件」
「えっ……」
「ほら、先月も何人かやられただろ? 若い女ばかり狙うっていう事件。昨夜も一人殺されたらしいんだよ」
「そ、そうなんですか……?」
「可愛い女の子に乱暴した挙げ句殺しちまうなんて、人間のすることじゃない、きっと獣人の仕業に違いないよ!」

 おかみは決めつけるような口調で捲し立てる。
 獣人とは、人間とは違う種族のことだ。獣の耳と尾、鋭い牙と爪を持っている。
 獣人は人間よりも遥かに運動能力が高く、襲われればあっという間に殺されてしまう。しかし獣人の数は人間に比べ圧倒的に少なかった。獣人と人間との間で争いが起これば、根絶やしにされるのは獣人の方だ。だから彼らは獣人であることを隠し、人間に紛れ人間のように生活している。
 獣人は人間を殺すことを楽しむ残虐な生き物なのだと、多くの人間はそう思い込み獣人を恐れ嫌悪していた。
 けれど、実際に獣人についてわかっていることは少なく、その殆どが憶測に過ぎない。しかし確かなことがわからないからこそ、憶測は増長していった。
 人間が殺される事件が起きれば、獣人の仕業だと頭から決めてかかる。そうして獣人の噂はどんどん悪い方へと広がっていった。噂を信じ、勝手に獣人を恐れ憎悪する。
 大多数の人間は獣人を悪として認識しているが、ディアナは違った。
 というのも、ディアナの祖母が獣人と関わったことがあり、その時の話をよく聞かせてもらっていたからだ。
 祖母は幼い頃、足を滑らせ池で溺れた。その時、助けてくれたのが獣人なのだという。泣きじゃくる祖母を慰め、優しい言葉をかけてくれたのだと。
 祖母は何度もディアナに言って聞かせた。良い人間がいれば、悪い人間もいる。獣人も同じで、獣人だからというだけで悪と決めつけてはいけない、と。
 そう祖母に教えられ育ったディアナは、獣人を恐ろしいと思ったことはなかった。

「ほんっと、恐ろしいよ。獣人がこの街に隠れて、人間のフリしてのうのうと生活してるのかと思うとさ」

 おかみは自身の体を抱き締め身震いする。
 ディアナのような考えを持った人間は少なく、おかみのような反応が当たり前とされていた。

「物騒だから、ディアナちゃんも夜は一人で出歩いたりするんじゃないよ。必ず彼氏に送ってもらうんだからね?」
「は、はい。そうします」

 おかみはディアナとシルヴェストルの関係を知っている。というか、教えるまでもなくバレたのだ。「彼氏」という言葉に慣れていなくて、ディアナは顔を俯けはにかむ。そんなディアナをおかみは「初々しいわねぇ」と微笑ましそうに見つめていた。
 犯人が獣人であるかどうかはわからないが、殺人が起きているのは事実だ。しっかり警戒はするべきだろう。
 ディアナは早めに買い物を済ませ、日が落ちる前に家に帰った。





 ディアナの店は基本的にディアナ一人で切り盛りしている。午前中から夕方まで販売を行い、定休日や店を閉めたあとに製造作業をする。
 営業日の午前である今、ディアナは店に立っていた。
 ちょうど客足が途絶え、ディアナは奥から在庫を持ってきてそれを並べたり、並べられているアクセサリーの配置を変えたりということをしていた。
 ドアの開く音が聞こえ、振り返る。

「いらっしゃいませ」

 入ってきたのは、一人の男性だった。衣服を着崩し、軽薄そうな外見の若い男だ。ディアナの店で取り扱うアクセサリーを好んで身につけるようにはとても見えない。恋人へのプレゼントとかならわかるが。

「どうぞ、ごゆっくりご覧ください」

 頭を下げてその場を離れようとしたら、手首を掴まれ引き止められた。

「君、可愛いね。この店で働いてんの? てか君みたいな可愛い子がこの街にいたなんてなー。なんで今まで気づけなかったんだろ」
「えっ、あ、あの……」
「あ、この店が小さくて見つけにくいからか! 場所が悪いよね、この店。君みたいな可愛い子がこんな店で働いてるなんてもったいないよ、表通りのもっと大きな店で働いた方が絶対いいって!」

 物凄く失礼なことをペラペラと一方的に言われ、ディアナは反応に困る。

「それにしても可愛いね。名前は? あ、俺はゾルターンっていうんだ。ねえ、名前教えてよ」
「ディアナ、です……」
「ディアナちゃんかー。ね、これから俺とデートしない? 店番なんてしなくても大丈夫でしょ、お客、全然入ってないみたいだし」

 ぐいっと手首を引っ張られ、ディアナは懸命に足を踏ん張る。

「こ、困ります。ここ、私の店なんです。まだ閉店時間じゃありませんから……」
「えっ、ここディアナちゃんの店なの? じゃあ、もう店仕舞いしちゃおうよ。あ、なんなら俺が商品何個か買ってあげようか? それで充分でしょ」
「やっ、こ、困りますっ、本当に……っ」
「でさ、一緒に表通りの店に行こうよ。そこでディアナちゃんに似合うアクセサリー買ってあげるからさ。向こうの店の方が品揃えも多いし、ディアナちゃんが気に入るようなアクセサリーたくさんあるよ。ね、だから一緒に行こ」
「私、行けません、は、離して、ください……っ」

 ゾルターンはディアナの言葉など無視して強引に店の外へ連れ出そうとする。
 こんなことははじめてで、どうすればいいのかわからない。不安に押し潰されそうになった時、店のドアが開く音が聞こえた。
 そう思った次の瞬間には、手首を掴む男の手は離れていた。

「彼女に何をしている?」

 聞き慣れた、けれどいつもよりもずっと低い声が耳に入る。
 いつの間にかすぐそこにシルヴェストルが立っていて、彼がゾルターンの手を引き剥がしてくれたのだとわかった。

「ちょ、なんだよアンタ、急に入ってきて。邪魔すんなよ、俺はこれからディアナちゃんとデートするんだから」
「あ?」

 シルヴェストルの纏う空気が一気に冷たく鋭いものになる。
 彼の気迫に当てられたようにゾルターンは鼻白んだ。

「な、なんだよ、別にアンタに関係ないだろ……っ」
「関係ある。俺は彼女の恋人だ」
「は、ぁあ? なに、カレシ持ちだったのかよ」

 ゾルターンは先程とは一変、ディアナに向かって吐き捨てるように悪態をつく。

「だったら早く言えってーの。なに? 俺にナンパされて嬉しくなっちゃったとか? はっ、ブスだから普段ナンパなんかされないだろうしね」

 その時、ザワッ……と空気が変わった。
 寒気を感じ、ディアナの腕に鳥肌が立つ。
 そのゾッとするような空気を放っているのはシルヴェストルだった。
 ディアナを庇うように背を向けて立っている彼の顔はこちらからは見えなかったけれど、彼の顔を見るゾルターンの表情は明らかに怯えていた。

「な、なんだよ、あーあマジ萎えたっ……」

 顔を蒼白にしながらも虚勢を張り、ゾルターンは足早に店から出ていった。
 姿が見えなくなり、シルヴェストルが振り返る。彼は心配そうに顔を曇らせていた。張り詰めていた空気も緩んだ。

「ディアナ、大丈夫でしたか? 何もされてない?」
「は、はいっ、私は大丈夫です。シルヴェストルさんが来てくれて助かりました」

 いつもと変わらぬ彼の様子に、ディアナもホッと肩の力を抜く。

「私、どうしていいのかわからなくなってしまって……だから、シルヴェストルさんが助けてくれて嬉しかったです」

 笑顔で素直な気持ちを伝えれば、シルヴェストルは照れたように頬を染める。

「そ、それなら、よかった、です……」

 互いに顔を見つめ微笑み合う。

「あの、もうお昼ですし休憩しませんか? ディアナと一緒に食べようと思ってサンドウィッチを買ってきたんです」

 シルヴェストルは持っていた紙袋を持ち上げる。どうやらお昼に誘うために来てくれたようだ。
 ディアナは迷わず頷いた。
 奥へ移動して一緒にサンドイッチを食べる。

「そうだ、ディアナ、時間のある時に俺にアクセサリーの作り方を教えてくれませんか?」

 そうシルヴェストルに言われ、ディアナは少し驚いた。
 以前、ディアナがアクセサリーを作っているところを見ていたシルヴェストルは、「そんな繊細な作業、俺にはとてもできそうもありません」と言っていたのだ。

「もちろん、いいですけど……」

 どうして急に? というディアナの疑問を察し、シルヴェストルははにかむ。

「あ、えっと、その……俺の作ったアクセサリーを、ディアナに、身につけて、ほしくて……」

 たどたどしく理由を口にする彼は、頬だけでなく耳まで赤くしていた。
 ディアナはときめきに胸がきゅんと締め付けられる。

「あっ、いや、あの、たぶん、きっと、ディアナのように綺麗なものは作れないだろうし、というか不恰好なものになってしまう可能性の方が高いんだけど……」
「嬉しいです! 欲しいです、是非!」

 ディアナは身を乗り出し力一杯主張する。
 その勢いにシルヴェストルはビクッと肩を竦めた。

「そ、そうか……?」
「はいっ!」

 こくこくと何度も頷くディアナにシルヴェストルは苦笑を浮かべる。

「それなら、私も作ります。シルヴェストルさんの為だけのアクセサリーを」
「えっ……」
「お互いに作って、それを交換することにしましょう」
「いや、だが、俺にはディアナと交換できるようなレベルのものは作れないですよ……?」
「大切なのは気持ちですよ! 私にとってはシルヴェストルさんが作ってくれたことに意味があるんです!」
「ディアナが、そう言ってくれるのなら……」
「はい。これからずっと身に付けていられるように、頑丈なものがいいです」

 にっこり微笑んでそう言えば、シルヴェストルは表情を緩めた。

「ふ……。そうですね。ではディアナも、とびきり頑丈なものをお願いします」

 嬉しそうにくしゃりと笑う。
 シルヴェストルのその笑顔に胸がきゅんきゅんした。
 滅多に笑わない彼のこんな笑顔を見れる者は殆どいないのだろう。
 そう考えると自分は彼の特別な存在なのだと思えて、堪らなく幸せな気持ちになった。





 その日、ディアナはシルヴェストルと出掛けていた。
 これから一緒にレストランで夕食を、ということになり店へ向かっている途中、八百屋のおかみに声をかけられた。

「おや、ディアナちゃんにシルヴィじゃない」
「こんばんは、おかみさん」

 ディアナは足を止め挨拶する。
 彼女の隣でシルヴェストルも会釈した。

「なんだい、今日はデートかい?」
「は、はい。そうなんです……」
「いいねぇ、若いってのは」

 はにかむ二人におかみは生暖かい視線を送る。
 だが、彼女はすぐに和やかな空気を引っ込めた。神妙な顔つきになり、声を潜める。

「そういや、聞いたかい?」
「なんですか?」
「例の若い女を狙った殺人事件、やっぱり犯人は獣人だって話だよ」
「えっ……捕まったんですか……?」
「いいや、一昨日襲われた女の子は殺されずに済んだみたいで、その子が言うには、犯人が自分は獣人だって主張してたって」
「その女性は、犯人の顔を見たんでしょうか……?」

 ディアナが尋ねると、おかみは首を横に振った。

「目隠しをされて、顔は見てないんだってさ。まあ、もし見てたら確実に殺されてただろうけどね。声は聞いてても、襲われてる状況だったししっかりとは覚えてないって。恐怖で極限状態だったんだろうから、無理もないね」
「そう、ですね……」
「やっぱり、この街に獣人が隠れてるってことだろ? もう怖くて怖くて……。さっさとどっかに行ってほしいよ、全く」
「はあ……」
「シルヴィ、アンタしっかりディアナちゃんのこと守ってあげるんだよ」

 言われたシルヴェストルは「もちろん」と頷いた。
 彼の手が力強くディアナの肩を抱く。

「ディアナのことは、俺が必ず守ります」

 彼のまっすぐな言葉に、ディアナの胸はときめく。

「おやおや。若いっていいねぇ」

 おかみはニマニマとした笑みに、恥ずかしいやら嬉しいやらでディアナは顔を真っ赤に染めた。
 おかみと別れ、二人はレストランに向かった。店に入り、向かい合わせで席につく。注文を済ませたあと、シルヴェストルが口を開いた。

「ディアナはどう思いますか?」
「え……?」
「先程の、おかみさんの話。獣人が犯人だって聞いて、どう思いました?」

 前髪に隠れ、彼の瞳は見えなかった。
 静かなトーンで尋ねられ、ディアナは真剣に考える。

「少し、違和感があるような気がします……。獣人は存在を知られないように正体を隠して人間として暮らしているはずです。それなのに、獣人だなんて自分から言ったりするのかと……。しかも相手を殺さずに。そんなことをしたら、危険なのではないでしょうか……」

 被害者の女性が襲われている最中に獣人だと勘付いたというのならわかるけれど、犯人が自分から獣人とバラしたりするのだろうか。
 おかみの話を聞いて気になっていたことを素直に口にすれば、思っていた答えと違ったのかシルヴェストルはぽかんとしていた。

「えっ、私、変なこと言っちゃいましたか……?」
「あっ……いえ、てっきり、獣人は怖いとか、そういう反応が返ってくると思っていたので……」
「もちろん、怖いですよ。でも私が怖いのは殺人犯であって、獣人ではないです」

 長い前髪の向こうの双眸が僅かに見開いた。

「シルヴェストルさん……?」
「っ……すみません、食事前に、こんな話……。そうだ、前に話したアクセサリーですけど……」

 シルヴェストルはガラリと話題を変え、ディアナもそれに倣った。
 アクセサリーのデザインについて話し合いながら、楽しい食事の時間を過ごした。
 すっかり辺りも暗くなり、ディアナはシルヴェストルに家まで送ってもらう。

「送ってくださってありがとうございます」
「いいえ、当然のことですから」
「今日はとても楽しかったです」
「はい。俺もです」

 シルヴェストルは爽やかに微笑む。
 彼に送ってもらったお礼もしたいし、もう少し一緒にいたい。
 でもここで「お茶を一杯飲んでいってください」と部屋に誘ったら、変な意味に捉えられてしまうだろうか。はしたない女と思われてしまうだろうか。それは考えすぎだろうか。勇気を出して言ってみようか。いや、でも。
 逡巡していると、「じゃあ、また。おやすみなさい」とシルヴェストルに言われてしまい、引き止めることもできず、ディアナは「おやすみなさい」と手を振って彼を見送った。
 中に入り、一息ついたところで思い出す。ディアナの鞄の中には、彼の財布が入っているのだ。ポケットに入れていると落としそうだったので、ディアナが預かり鞄に入れていた。それを返すのを忘れていた。
 早く返さなくては、と物騒な事件のことなど頭から抜けていたディアナは家を飛び出した。彼と別れてからそんなに時間は経っていない。走れば追いつけるはずだ。
 そう思ってシルヴェストルの家へ向かったが、道中彼に会うこともなく辿り着いてしまった。部屋の明かりもついていない。ドアをノックしても無反応で、中にいる気配もない。
 もしかして、入れ違いになってしまったのだろうか。財布がないことに気づいて、シルヴェストルはディアナの家に引き返したのかもしれない。たまたま二人とも違う道を通ってしまい、途中で出会えなかったのだ。
 ディアナは再び走って来た道を戻る。
 自分の店が見えてきたところで、何か物音が聞こえた。不穏な空気を感じ、ディアナはそっと路地裏へと足を進める。足音を立てないようにそっと、慎重に奥へ進んだ。
 街灯の光の届かないその場所に、月明かりに照らされ二人の人物がそこにいた。
 ガツッという鈍い音が聞こえ、一人が地面に吹っ飛ぶ。
 殴り合い。喧嘩。何かの揉め事か。人を呼びに行くべきか迷うディアナは、そこにいるのがシルヴェストルだと気づいて息を詰め身を隠した。こちら側からは彼の後ろ姿しか見えないが、あれは確かにシルヴェストルだ。

「なっ、なに、するんだよ……っ」

 地面に吹っ飛んだ男が震える声を上げる。
 なんとなく聞き覚えのある声に、よくよく目を凝らして見れば、相手は前にディアナの店に来たゾルターンと名乗った男だった。
 どうして二人が一緒にいるのか。シルヴェストルは何故彼を殴ったのか。
 状況が飲み込めず疑問は膨らむが、けれど異様な雰囲気に呑まれ、ディアナはその場から動けなかった。

「お前、最近起きてる殺人事件の犯人だろう?」

 ゾルターンに向かってシルヴェストルはそう言った。その声は今まで聞いたことがないくらい低く冷ややかなものだった。本当にシルヴェストルなのかと疑ってしまうくらい、先程まで一緒にいた彼と纏う空気がまるで違う。
 ゾルターンが殺人事件の犯人とは、一体どういうことなのだろうか。
 言われたゾルターンは明らかに動揺していた。

「はっ、はああ!? なにを根拠にそんなこと言ってんだよ……! 俺が犯人なわけ、ねーだろ……っ」「血の匂いがするんだよ、お前から」
「はっ、血の匂い? テキトーなこと言ってんなよ!」
「わかるんだよ、俺は鼻がいいから。洗い流しても匂いは残ってる。お前は血を浴びすぎたからな」

 当然のようにゾルターンは否定するが、シルヴェストルは彼が犯人だと確信している様子だった。

「正直、俺はお前が何をしようと興味はない。どれだけ人を殺そうが、それを諌めるつもりもない」
「は……?」
「だが、ディアナを狙うというなら容赦はしない」

 自分の名前が出て、ディアナは息を呑む。
 シルヴェストルは尻餅をつくゾルターンに、一歩近づいた。

「お前、ずっとディアナの周りをうろついて機会を窺っていただろ?」
「な、なに、言って……俺は、そんなこと……っ」
「言っただろ、俺は鼻がいいんだ。ディアナといるとき、お前の匂いがずっとしてた。今日も俺達の後をつけてたよな?」
「なっ……」

 ディアナは全く気づかなかった。けれどゾルターンの反応を見る限り彼の言う通りなのだろう。デート中シルヴェストルの態度はいつもと変わらず、後をつけられていたなんて想像もしていなかった。

「彼女の家の近くに隠れて、俺がいなくなるのを待ってただろ。なあ、その隠してるナイフで、彼女を殺すつもりだったのか? あ?」
「ぐぁ……!」

 顎を蹴り上げられ、ゾルターンの上半身が後ろに倒れる。

「ディアナは俺の恋人だって言ったよな? 俺のものだとわかった上で手を出そうとしたんなら、殺されても文句はないよな?」
「ヒッ……」

 逃げようともがくゾルターンの腹を、シルヴェストルは躊躇なく踏みつけた。

「ぐぇっ……!」
「逃げれると思ってるのか?」
「やっ、やめっ、助けて、助けてくれ、もうしないっ、この街から出ていくっ、だから……っ」
「お前は、そうやって助けを請う女性を殺してきたんだろ?」
「ひぐっ……」
「獣人だって言えば、相手が勝手に怯えてヤりやすかったのか? そうして恐怖で動けなくなった女を嬲り殺すのは楽しかったか?」
「ぐっ、うっ、うぅっ……」
「一つだけ教えてやる。獣人はたとえ何があろうと女を殺したりしない。人間と違ってな。自分の快楽の為に女の命を奪うなんてことは絶対にしないんだよ」

 ぐぐ……っと、シルヴェストルは手に力を入れる。すると、彼の爪が鋭く伸びた。凶器のようなそれはまるで獣の爪だ。

「子を孕むことのできる女を、獣人は何よりも大切にする。どんな理由があろうと、俺達は女は殺さないんだよ」

 それは、つまり、シルヴェストルが獣人であると言っているのと同義だった。
 その事実を知ったディアナは、そこから逃げ出した。
 振り返ることなく自宅へ急いだ。
 シルヴェストルは獣人だったのだ。
 ならばもう、ディアナは彼の傍にはいられない。 家に帰り、荷物を纏める。
 とにかく、明日の早朝この街を出ようと、それだけを考え準備した。店はどうするのかも、どこへ向かうのかもわからない。ただ、シルヴェストルから離れなくてはならないと、ディアナの頭にはそれしかなかった。
 ひたすら時間が過ぎるのを待って夜を明かし、ディアナは荷物を持って外へ出る。まだ外は薄暗く、街は静まり返っていた。
 静寂に包まれた街中を、ディアナは足早に突き進む。
 しかし、突然後ろから腕が伸びてきてディアナの体を拘束した。

「きゃっ……!?」

 悲鳴を上げる前に鼻と口元を布で押さえられた。ツンとした薬品の匂いが鼻に入ってくる。思い切りそれを吸い込んでしまったディアナは、抵抗する間もなく意識を手放した。





 目を覚ますと、ベッドに寝かされていた。
 そして目の前にはシルヴェストルがいる。彼はディアナに覆い被さっていた。手枷のように、彼の両手はディアナの両手首を掴んでベッドに押さえつけている。

「目が覚めたか、ディアナ」

 ギラギラとこちらを見下ろす彼の双眸は、まるで獲物を狙う肉食獣だ。
 彼のこんな顔を今まで見たことがなかった。昨夜から今まで知らなかった彼の姿ばかり見ている。

「シルヴェストル、さん……」
「昨夜、見たんだろ? 俺があの男が一緒にいるところを。ディアナの匂いがしたからな」

 獣人である彼には気づかれてもおかしくないのに、そんなことすら考えが及ばないほど自分は動揺していたのだとディアナは自覚する。

「会話も聞いていたのか? 俺が獣人だと知って、だから逃げようとしたのか?」
「ぃっ……」

 ギリ……と手首を掴む手に力が込められる。
 ディアナは痛みに顔を歪めた。今まで一度も彼に痛みを与えられたことなどなかった。それほどまでにディアナは彼を怒らせてしまったということだろう。

「怖くなったのか? 俺が獣人だから? お前も結局、他の人間と同じように俺を恐れるのか?」
「ち、が……ぃます……っ」
「違わないだろ! 現に俺が獣人だと知った途端、逃げ出したんだからなっ」

 シルヴェストルは激昂する。彼の瞳は怒りと悲しみで満ちていた。

「残念だったな。獣人は番と決めた者を逃がさない。今さら俺から離れようなんて絶対に許さない」
「きゃあっ……!?」

 シルヴェストルはディアナのブラウスの前を乱暴に開いた。ボタンが弾け飛ぶ。
 彼の手が、ディアナの肌に触れた。

「やっ、だめっ、やめてっ、やめてください……!!」

 必死に叫ぶが、シルヴェストルは手の動きを止めない。

「ははっ、そんなに嫌か? 獣人に触られるなんて汚らわしいって? お前は、その獣人の子供を産むんだ。孕ませて、俺から離れられないようにしてやる……!」

 ディアナは遂に涙を流し、声を上げた。

「私は、子供を産めません……!!」
「っ……え?」

 シルヴェストルはピタリと止まる。そして、涙を零すディアナの顔を見つめた。
 震える声でディアナは再び言った。

「私は、子供を産めない体なんです……っ」
「…………」
「昔、事故に遭って、その時に怪我を負ってしまったんです……。それが原因で……」
「…………」
「すみません、隠すつもりはなくて……いつかはちゃんと打ち明けるつもりでした……」

 まだ交際をはじめて一月だ。もう少ししてから、きちんと伝えようと考えていた。
 その事を知っても、シルヴェストルなら受け入れてくれると思っていた。変わらず、ディアナを好きでいてくれると。
 けれど、彼が獣人であるのなら話は変わってくる。きっと彼にとっては受け入れることなどできない事実だろう。
 ディアナは泣きながら謝った。

「ほ、本当に、ごめんなさい……こんなことなら、もっと早くに伝えるべきでした……」
「…………」
「この事を知ったら、きっとシルヴェストルさんに捨てられてしまうって、そう思って……それが怖くて、知られる前に逃げ出してしまいました……」

 泣きじゃくるディアナを、シルヴェストルは呆然と見下ろしていた。

「は……? 俺が……獣人だから、逃げたんじゃないのか……? 獣人が怖くて、逃げ出したんじゃ……」
「違います! 獣人は、子孫を残すことを何よりも重要だと考えているって、そう聞いたことがあります……」

 人間よりもずっと数の少ない獣人は、本能で子を孕ませることを第一に行動しているのだと。
 シルヴェストルだって子供を作ることを一番に望んでいるのだろう。しかしディアナは彼の望みを叶えることができない。

「だから、私が子供を産めないと、知れば……シルヴェストルさんは、もう、私に見向きもしなくなると、思って……」
「……俺が、怖くないのか……? 俺は、昨夜、あの男を……」

 シルヴェストルは愕然とした様子だった。
 獣人は恐れられるのが当たり前だと、彼は思っているのかもしれない。
 そんなことはないのだと伝えたくて、ディアナは素直な気持ちを口にする。

「シルヴェストルさんを怖いなんて、思いません。怖いのは、あの男性の方です。私、自分が狙われているなんて気づかなくて……シルヴェストルさんが助けてくれなければ、きっと殺されていました……。だから、ありがとうございます」
「そ、そんな……。でも、俺は逃げようとするお前を捕まえて、無理やり、自分に繋ぎ止めようとしたんだぞ……」
「驚きましたけど、怖いとは思わなかったです……。寧ろ、そこまでして私を離したくないと、そう思ってくれたんだとしたら、嬉しい、です……」
「…………」
「あっ、も、もちろん、シルヴェストルさんは私が子供を産めないことを知らなかったから……だから追いかけてきてくれたって、わかってます……」
「…………」
「本当に、ごめんなさい……。私が紛らわしいこと、したせいで、シルヴェストルさんに勘違いさせて……こんなことまでさせてしまって……。あの、だから……えっと……」

 ディアナは懸命に笑みを浮かべる。

「私は、シルヴェストルさんに相応しくありません……。シルヴェストルさんは、私じゃなくて、他の女性と幸せになってください……」

 別れの意味を込めてそう伝えれば、次の瞬間、ディアナは彼に思い切り抱き締められていた。

「っ、え、と、シルヴェストル、さん……?」
「ごめんっ、ディアナ、ごめん……っ」
「ど、どうしたんですか……?」
「何も知らずに酷いことしてごめんっ……。好きなんだ、ディアナが……俺は誰よりもディアナが好きなんだっ……だから、そんなこと言わないでくれ……っ」

 悲痛な声で訴えられ、ディアナは戸惑う。

「で、でも、私は……」
「俺はディアナがいてくれればそれでいい」

 シルヴェストルはきっぱりと言い切る。

「確かに獣人は、番を孕ませることに執着する。それは子孫を残すことを、人間よりも重大に思っているからだ。でもそれだけじゃなく、好きな相手を自分に縛り付けて離れられないようにするためなんだ」
「え……」
「俺は他の誰でもなく、ディアナと一緒にいたい。離れたくない。好きなんだ。愛してる。ディアナ、俺とずっと一緒にいてくれ」

 シルヴェストルは泣きそうな顔で、懇願する。

「ディアナ以外と幸せになんてなれない。ディアナと離れるなんて嫌だ」

 まるで子供が駄々をこねるような言い方が可愛くて、彼は真剣だというのにきゅんとときめいてしまう。また新たな一面を見れて嬉しくなる。

「私でいいんですか……?」
「ディアナじゃなきゃ嫌だ」

 即答され、思わず笑みが零れる。

「私も、シルヴェストルさんと一緒にいたいです。これからもずっと」
「ディアナ……」
「大好きです、シルヴェストルさん」

 まっすぐに伝えれば、途端に彼の顔は喜色に塗り替えられた。

「嬉しい、ディアナ」
「んっ……」

 感極まった様子で、シルヴェストルは唇を重ねてくる。ディアナはそれを受け入れた。
 ちゅっちゅっと唇を啄まれ、角度を変えてそれを繰り返される。口を開いて伸ばされた舌を迎え入れれば、舌で舌を擦られた。濡れた音を立て、舌を絡め合う。
 蕩けるように甘い口づけに、ディアナは陶酔したように瞳を潤ませる。
 もっと……とディアナが望んだとき、唐突に唇は離されてしまった。

「シルヴェストル、さん……?」

 無意識に、ねだるように名前を呼んでしまう。
 シルヴェストルは頬を紅潮させ、ぐっと眉間に皺を寄せた。

「ダメだ……。このままじゃ、止まらなくなる……」

 彼の息は荒い。声は熱を帯び掠れていた。
 彼の言わんとすることを察し、ディアナの心臓が脈打つ速度を上げる。
 離れたくない。離してほしくない。このまま、触れ合っていたい。
 そんな思いが溢れ、ディアナは耳まで赤く染め、言った。

「…………止め、ないで……」

 蚊の鳴くような囁きは、獣人の彼の耳にはしっかりと届いたようだ。
 シルヴェストルは僅かに目を見開く。

「ディアナ……」

 確認するように注がれる彼の視線に、ディアナはしっかりと目を合わせることで応えた。

「ディアナ……っ」
「んんっ……」

 再び唇が重ねられた。先程よりも深く、貪るような濃厚なキスに官能が高まっていく。こんなキスははじめてで、恥ずかしくて気持ちよくて、頭がくらくらした。
 彼の唇が顎を辿り首筋へと移動する。肌を啄まれ、擽ったさと気持ちよさにびくびくと体が震えた。

「あっ、んっんっ……」
「ディアナ……ディアナ……っ」

 シルヴェストルはすんすんと匂いを嗅ぎながら夢中で肌を味わう。
 恥ずかしくて、けれど興奮してくれているのが嬉しくてディアナは止められない。

「はっ、ぁんっ、シルヴェストルさん……っ」

 無意識に、彼の肩をぎゅっと掴んだ。
 するとシルヴェストルは動きを止め、ディアナの両手を取った。

「シルヴェストル、さん……?」
「さっき、痛かっただろう……? 強く掴んでしまって……」

 そう言って、ディアナの手首を優しく撫でる。

「ごめん、ディアナ、痛い思いさせて、怖がらせて、ごめん……っ」

 手首を強く掴まれベッドに押さえつけられたことを思い出す。
 確かに痛かったけれど、大したことはない。現にもう痛みなど全く残ってはいない。
 それなのに、彼は眉を下げ悲しげな顔で必死に謝っている。
 素直に反省し謝る彼が可愛くて、ディアナは大丈夫だと伝えるように微笑んだ。

「平気です、あれくらい。痛みなんてもうありません。それに、驚きはしたけど怖くなんてなかったですよ」
「ディアナ……」
「だから、そんなに謝らないで」
「……ごめん」
「ふふ。また謝ってますよ」
「あっ……」
「ふふふ……。シルヴェストルさん、叱られた子供みたいで可愛いです」

 成人した男性に可愛いなんて失礼だとと思いつつも、笑みが漏れてしまう。
 シルヴェストルは不可解な顔をしていた。

「可愛い? 俺が?」
「はい、可愛いです」
「ディアナの方が余程可愛いだろう?」

 心底真面目な口調で返されて、ディアナは顔を赤くする。嬉しいけれど、そんなにはっきり言われると恥ずかしい。
 真っ赤に染まるディアナの頬を見下ろし、シルヴェストルは愛しげに目を細める。

「ほら、ディアナの方がずっと可愛い」
「んっ……」

 シルヴェストルの舌が、ディアナの手首を舐めた。
 ぬるぬると肌の上を舌が這い、ぞくぞくとした感覚がそこから生まれる。

「ふぁっ、んっ……シルヴェストル、さっ、あっ」

 ぴちゃぴちゃと濡れた音に官能を煽られた。
 羞恥と快楽にもぞもぞと身動ぐその様を、シルヴェストルが手首を舐めながらじっと見つめている。
 熱の籠った彼の視線に、炙られたように体が熱く火照っていく。


「可愛い……。可愛くて、食べてしまいたくなる」
「っ、あっ、シルヴェストルさ、んっあっ……」

 前を開かれたブラウスの中に着ていた下着を捲り上げられる。胸元が露になり、ディアナは羞恥に震えた。
 シルヴェストルの情欲を孕んだ視線が突き刺さり、恥ずかしさに身を縮める。
 荒い息を吐き、彼は剥き出しの乳房へと手を伸ばした。ふにゃりと掌で柔らかくそこを包み込み、更に呼吸を荒くする。

「ひゃっ、んっんんっ」
「い、痛く、ないか……?」
「大丈夫、です……。あの、もっと、強くしてもいいです、よ……」
「こ、こう、か……?」

 少しだけ強く、指が膨らみに食い込む。そのままむにむにと揉まれた。

「あっあっ、んっ、んぁっ」
「っは、はあっ……柔らかい……ディアナの、肌……っ」

 興奮したようにはーっはーっと荒い息を漏らしながら、シルヴェストルは顔を胸元へと近づける。
 彼の熱い吐息が肌にかかり、それにすらディアナはびくびくと反応してしまう。

「本当に、美味そうだ……っ」
「ひゃんっ」

 はむりと乳房にしゃぶりつかれた。中心をぬめった粘膜に包まれ、はじめて味わう快感にディアナは甘い喘ぎ声を抑えられなくなる。

「あっあっあんっ、あっはあっ、シルヴェ、トル、さぁっんんっ、んっあぁっ」
「はあっ、んっ、はっ、美味い、ディアナの、体……っ」

 シルヴェストルは本当に味わうようにディアナの肌をねぶる。ねっとりと舌を這わせ、はむりと口に含んでは音を立てて吸い上げた。
 蕩けるような快楽に、ディアナは声を上げ身を震わせる。下腹部がじんじんし、どんどん熱が蓄積していくような感覚がした。むずむずして落ち着かず、ひっきりなしに腰を捩る。

「あっんっんっんーっ」
「っは、可愛い、ディアナ……んっ、はあっ」

 はむはむと胸の膨らみを甘噛みされる。柔らかく歯が食い込む感覚に、ぞくぞくっと背筋が震えた。痕も残らないような優しい甘噛みを繰り返され、ディアナはいつしかもっと強く噛んでほしいと思いはじめていた。
 噛んで……と無意識にはしたなくねだってしまいそうで、ディアナは懸命にそれを我慢する。
 それに気づかず、シルヴェストルは唾液でべとべとになるまで両方の乳房を舐めしゃぶり続けた。
 胸の突起はすっかり尖り、腫れたように赤く染まって濡れて光っている。
 その様を見たディアナは恥ずかしさに赤くなり、シルヴェストルはぐるる……と興奮の滲む唸り声を漏らした。

「はあっ、はあっ……ディアナの匂いが、濃くなってる……」

 こちらが更に恥ずかしくなるような呟きを零し、シルヴェストルは下肢へと手を伸ばす。
 思わず身構えてしまったのは、羞恥からだ。
 抵抗されなかったことで同意を得たと判断し、シルヴェストルはスカートを捲る。
 反射的に隠すように内腿を擦り合わせれば、くちゅりと濡れた音が鳴った。
 とても小さなものだったが、獣人のシルヴェストルの耳はしっかりとそれを拾い、否が応にも情欲を刺激された。
 衝動のままにシルヴェストルはディアナの脚を開く。

「ひゃっ……!?」

 漏らした愛液で濡れる下着を晒され、ディアナはあまりの恥ずかしさに硬直する。
 シルヴェストルは興奮に息を乱しながら、濡れた下着を凝視していた。

「や、シルヴェストルさ……」

 見ないで、と言おうとするけれど、その前にシルヴェストルの手がそこへ伸ばされた。

「ディアナ、脱がせるよ」
「えっ、あっ、ま、待って、あっ……!」

 咄嗟に制止の声を上げるけれど、あっさり聞き流されて下着に手をかけられる。抵抗する間もなくするりと足から引き抜かれてしまった。

「はあっはあっ……ディアナの、匂い……」

 シルヴェストルは更に息を荒げ、羞恥に悶えるディアナの股間を瞬きもせずに見つめる。

「シルヴェストルさ、見ちゃ、や……」
「ディアナ、舐めたい、舐めていい?」
「えっ……!?」

 見るどころかもっと羞恥を煽るような要求をされ、ディアナは動揺する。

「ここ、ディアナの一番匂いが濃いところ……舐めたい、味わいたい、ディアナ、ディアナ……っ」
「ま、ま、待っ、そ、それは、ちょ、待っ……」
「舐めるよ」
「ええっ……!?」

 あわあわしている間に脚を広げられ、シルヴェストルは躊躇いなくそこへ顔を埋めた。

「ひぁあっあっ、んんーっ」
「っは、はあっ、ディアナ、ディアナの、味……」

 シルヴェストルの大きな舌が、滲み出た蜜をぬるーっと舐め取る。ぴちゃぴちゃと花弁を舐め、それから舌は花芽へと移動した。

「んひっ、あっあっああぁっ」

 敏感な肉粒を唾液で濡れた舌でねぶられ、強烈な快感が全身を駆け抜ける。

「はあっ……美味い、ディアナ……もっと、味わいたい……」
「あっあっあぁんっ、んっ、まって、そこ、だめぇっ、ひっぁああっ」

 強すぎる快楽に戸惑い、ディアナは首を左右に振り立てる。
 その声は耳に入っているけれど、シルヴェストルは彼女の匂いと味を味わうことに夢中になり行為を止めることはなかった。

「ひっあんっ、あっあっ、だめ、だめぇっ、あっんぁああっ」

 舌で花芽を捏ね回され、ディアナは甲高い悲鳴を上げ快感に背中を反らせる。とぷっと蜜が溢れれば、一滴も零すまいと舌で舐め取られた。
 丁寧に執拗に秘所の隅々まで舌を這わされ味わい尽くされる。
 わけもわからぬまま何度も絶頂へと上り詰め、はしたない嬌声を上げ続けた。

「ディアナ……もっと……」
「ひはぁんっ」

 まだ足りないと、シルヴェストルは蜜口の中にまで舌を伸ばす。
 ぐちゅりとぬかるみに舌を挿入され、ディアナはただ喘ぐことしかできない。

「ひっあっあっ、やぁんっ、なか、舐めちゃ、あっあっんんんっ」

 舌で肉襞を擦られる。舌が届く範囲をまんべんなく舐め回され、ぬぽぬぽと抜き差しを繰り返された。
 恥ずかしいのと気持ちいいのと、未知の体験にディアナはひたすらに翻弄される。
 どれだけの時間が過ぎたのかわからなくなるくらい長い時間舐められ、秘所は中も外も唾液と愛液でどろどろに濡れそぼっていた。
 おかしくなりそうなほどの快楽を与えられ続け、息も絶え絶えになりディアナはぽろぽろと涙を零す。
 ディアナの泣き声に、シルヴェストルは漸く我に返って顔を離した。

「わ、悪い、ディアナ、興奮して止まんなくなってた……ごめん、嫌だったよな!?」
「いや、です……っ」
「っ、だ、だよな、ごめ……」
「私、ばっかり……気持ちよく、なるのは……いや……一緒が、いい……」

 ぐずぐずと鼻を鳴らしながら、両手を彼へと伸ばす。
 するとがばりと覆い被さられ、抱き締められた。

「っきゃ……!?」
「ディアナ、ディアナ……っ」

 ぐりぐりぐりぐりと頬擦りされる。甘えるようなその仕種が可愛い。きっともう何をされても、彼にこうして甘えられたら何もかも許してしまいそうだ。

「悪かった、ディアナ。一緒に気持ちよくなろう」
「は、はぃ……」

 シルヴェストルは急いた手付きでズボンの前を寛げ、性器を取り出す。
 それは完全に勃起し腹につきそうなほど反り返っていた。うっかり目にしてしまったディアナはその大きさに驚愕する。
 あんなものが入るのだろうかと不安を覚えるディアナの膣穴に、太く張り出した亀頭が擦り付けられた。
 不安はあるが今更止めるつもりはなく、覚悟を決めディアナは体から力を抜く。

「入れるぞ、ディアナ……っ」
「は、いっ……あっあっあっあ────っ」

 ぐぷぐぷぐぷぐぷっと、太く硬いそれが胎内に埋め込まれていく。
 痛みと圧迫感はあるけれど、体は想像していたよりはずっと容易く彼の欲望を受け入れた。舌でぐちゅぐちゅにされた膣内を、熱い楔で貫かれる。
 胎内を彼の熱でいっぱいに満たされるのを感じ、ディアナはまた泣いてしまう。
 気づいたシルヴェストルは狼狽し、おろおろとディアナを気遣う。

「わ、悪い、痛いよな? 辛いか? 今、抜くから……っ」
「だ、だめです……!」

 陰茎を抜かれそうになり、ディアナは彼の体にしがみついてそれを引き止める。

「っ、ディアナ……?」
「違うんです……私、私……もう、シルヴェストルさんに、二度と触れてもらえないって、思ってたから……」

 彼が獣人だと知ったとき、自分は愛想を尽かされ見向きもされなくなってしまうのだと思っていた。

「こんな風に、だ、抱いてもらうことなんて、できないって思って……だから、嬉しくて……っ」

 ぎゅうっと彼に抱きつく。
 すると更に強い力で抱き締め返された。

「ディアナ、好きだ。俺がお前を手放すことなんてない。俺にはお前だけだ」
「シルヴェストルさん……」
「愛してる、ディアナ……」

 ぴったりと体を重ね、深く口づけ合う。

「あっ、んっんっ、すき、はっんっ、しるう゛ぇ、とる、さ、んっんっんっんぁっ、すき、すきぃっ」

 キスの合間に何度も好きだと伝える。
 ディアナの唇を貪りながら、シルヴェストルは腰を揺する。
 陰茎がずちゅずちゅっと内壁を擦り、亀頭で最奥をごりごりと刺激される。
 じんじんとした痛みは気づけば快感へと塗り変わり、胎内を抉られる感覚にディアナは甘く鳴いた。
じくじくと奥が疼き、もっととねだるように彼の欲望に絡み付き締め付ける。

「っ、ディアナ……っ」

 熱を帯びた声で名前を呼び、激情のままに腰を振る。
 その姿に、彼に求められているのだと感じられてディアナは堪らない気持ちになった。

「す、き、すき、すき、しるう゛ぇすと、さぁっ、あっあっあっ、~~~~~~っ」
「っ……」

 ディアナをきつく抱き締め、低く呻いてシルヴェストルは果てた。
 熱い体液を注がれるのを感じ、ディアナは歓喜にぶるぶると体を震わせる。

「ぁっ、あっ……うれし……中、シルヴェ、ト、さんの、いっぱい、出て……」

 肩で息をしながら、うっとりと瞳を蕩かせるディアナ。
 彼女を凝視するシルヴェストルの欲望が再び体積を増した。

「んっ……ん……?」

 むくむくと胎内で膨らむものに気付き、ディアナはシルヴェストルを見る。

「んっ……シルヴェストル、さん……?」
「どうした、ディアナ?」
「えっと……あっ! そ、そうです、今何時ですか? お店、家に、帰らないと……っ」

 すっかり忘れていた店のことを思い出し、慌てて起き上がろうとした。

「きゃぁんっ」

 ずんっと腰を突き上げられ、浮き上げた背中がシーツに戻る。

「あっんっ……し、シルヴェストルさん……?」

 視線を向けると、寂しげに眉を下げるシルヴェストルと目が合う。

「今日は、お休みしてくれませんか……?」
「えっ、で、でも、昨日も、休んで……」
「まだ、ディアナのこと離したくないんです。今日はずっと、このまま一緒にいたい……」
「っ、っ、で、で、でも……」

 切ない声音で懇願され、ディアナの気持ちはぐらんぐらん揺れ動く。

「ディアナは、俺と一緒にいたくないんですか……?」

 捨てられた子犬のような目を向けられて、突き放すことなどディアナにはできなかった。

「そんなわけありません! 私もシルヴェストルさんと一緒にいたいです!」
「良かった、嬉しいです、ディアナ……!」
「ひゃっ、あっあんっ、あっ、ま、待って、まだ、うごいちゃ、ひぁっあぁっ、なか、こするのまってぇっ」
「はあっ、はあっ、可愛い、ディアナ、ディアナっ」
「あっあっあっ、なか、おっきいのでずんずんってぇっ、んぁあっ、だめっ、そんなにしちゃぁっ、あっあっあっあーっ」
「っ、はあっ、煽らないで、ディアナ、今日だけじゃなくて、もうずっと部屋から出したくなくなるから……っ」
「あぁんっ、おくっ、ぐりぐりしたらぁっ、あっあっ、おなか、へんっ、あっあっあっ、むずむずって、ひっあっあっ、おかしく、なっちゃ……っ」
「ディアナの、仕事の邪魔は極力したくないから……今日も、日付が変わる前には帰すから……。でも、今だけは、俺のことだけ考えて……っ」
「ひぁあっあっ、しるう゛ぇすとる、さぁっんっんっんひぁああっ」

 それからディアナは身も心も彼で満たされ、彼の思惑通り他のことなど一切考えられないくらいの至福と快楽にどっぷりと浸かることになった。




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