恋愛短編まとめ(現)

よしゆき

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満月の夜に恋して 1

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 來愛は不良に絡まれてたところを助けてくれた同級生の通和に恋をして猛アピールを繰り返し告白するがフラれてしまう。しかし來愛をフッたのは通和が狼男だったからだった。來愛は狼男である彼を受け入れ、二人は結ばれる。

 高校生




───────────────────







 來愛くれあは恋をしていた。相手は同じ高校に通う高山たかやま通和みちかずという男子生徒だ。
 きっかけは帰り道、不良に絡まれているところを偶然彼が近くを通りかかり助けてくれた、というベタなものだった。
 クラスは違うが、來愛は彼のことを知っていた。背が高くて体つきもがっしりしていて、容姿は整っているが目付きが非常に鋭く強面で、無口で無愛想。校内で恐れられている存在だった。
 周りは彼を怖がるが、関わることもなかったので來愛は特に彼を気に留めたり不必要に怯えたりすることもなく、ただ同じ高校に通っている生徒、という認識だった。
 けれどあの日。運悪くたむろする不良の一人とぶつかってしまい、絡まれてしまった來愛。数人の男に囲まれ凄まれ、恐怖に震えることしかできず、通り過ぎる人達は関わりたくないとばかりに見て見ぬふり。そんな中、通和だけが助けに入ってくれたのだ。
 そうして來愛は彼に恋をした。どれだけ目付きが悪くても來愛には誰よりもカッコよく見えた。顔も声も体格もぶっきらぼうな態度も全部魅力的で、來愛の心を惹き付けてやまなかった。
 そして、來愛の猛アタックがはじまったのだった。止める友人達を振り切り、弁当を作って彼のところへ持っていった。

「この間は助けてくれてありがとうございます! これ、作ってきたのでよかったら食べてください!」

 と弁当を差し出すと、ギロリと睨まれた。

「ああ? んなもんいらねーよ。別に助けたわけじゃねーって言っただろ。いちいち礼とか、うぜーんだよ」
「うっ……! そ、そうだよね……。私の作った弁当なんて食べたくないですよね……」

 きっぱりと拒否されて來愛はどんよりとした空気を纏う。

「っていうか、よくよく考えたらいきなり手作り弁当とかめちゃくちゃ気持ち悪いよね……。ごめんなさい、高山くんの好き嫌いも知らないくせに、勝手にこんなもの作ってきて……高山くんがドン引きするのも当然だよね……。私みたいな、痛くてキモい女の作ったものなんて、お金貰ったって食べたくないよね……」
「なっ、そ、そこまで言ってねーだろっ」
「いいの、そう思われても仕方ないし……。本当にごめんなさい……。気持ち悪いことして、高山くんを不快な気持ちにさせて……」

 ずーんと深く落ち込み、來愛は弁当を持ってその場から去ろうとした。

「……っくそ、よこせよ、それっ」

 通和はそう吐き捨て、來愛から弁当を奪い取る。

「高山くん……!?」
「仕方ねーから食ってやるよっ」
「ええっ、そんな、無理しないで、気持ち悪くなって吐いちゃうよ!」
「うるせーな! 俺に食わせる為に作ってきたんだろーがっ」

 喚くように言って、通和は弁当を食べはじめた。ガツガツと、勢いよく口の中に掻き込んでいく。
 來愛はそれをポカンと見つめていた。
 そして彼は米粒一つ残さずに弁当を完食した。
 空になった弁当箱を突き返され、來愛は反射的に受け取る。

「食ってやったんだから、これでチャラだ。もう二度と俺に近づくなよ」

 こちらを一睨みして、通和は去っていった。
 弁当箱を手に、來愛は彼の背中を見つめる。
 この時、彼が優しくて素敵な人なのだと再認識したのだ。
 そっけなく突き放すような態度を取りつつ、彼は強く相手を突っぱねることができない。
 その彼の優しさにつけこんで、來愛はめげずにアプローチを繰り返した。
 自分が相当ウザイという自覚はあった。けれど、通和と少しでも親しくなりたかったのだ。好きだから一緒にいたい。顔が見たいし声が聞きたい。
 だから、冷たい言葉をぶつけられても睨まれても怯まず声をかけ続けた。
 その内に、彼のことを少しずつ知ることができた。
 とにかく肉が好きで、実は甘いものも好き。照れると目を逸らして耳を赤くする。一人暮らししてる。学校は休まず、授業は真面目に受けている。
 どんな些細な事でも知れると嬉しい。知る度に好きになる。
 一緒に帰ろうと誘っても無視されるけれど、帰る方向が同じなので帰宅する彼に無理やりついていく。足の長さが違うので彼の歩くスピードは速く、それに小走りでついていく。道中話しかけてもほぼ無視される。
 通学中や校内で見かける度に笑顔で声をかけた。手や顔にちょっとした傷を負っていたら心配し、絆創膏を無理やりはりつけた。
 そんなことを繰り返す内、ほんの少しずつ彼の態度は軟化していった。
 挨拶をすれば「おう」と返してくれたり、話しかければ相槌だけは打ってくれるようになった。目が合う回数が増えて、無視される回数が減って。
 帰り道、來愛がつまずき転びそうになったら腕を掴んで支えてくれた。懲りずにお弁当を作っていけば、「余計なことすんなって言ってんだろ」と文句を言いつつすんなり食べてくれるようになった。炭酸の缶ジュースを開けて炭酸が吹き出し慌てふためく來愛を見てほんの少しだけど笑ってくれた。「『通和くん』って呼んでいい?」と断られる覚悟で訊いたら、好きにしろと言ってくれた。
 邪険に扱われる事がなくなり、二人の距離は確実に縮まっていった。來愛はそう思った。
 だから。
 彼に恋をして、アプローチをはじめて半年が過ぎた頃。
 とっくに來愛の気持ちはバレているかもしれない。でもきちんと伝えなくては意味がない。これからも通和と一緒にいたい。もっと彼に近づきたい。
 ならば、來愛が一歩を踏み出さなくては。
 覚悟を決めた、いつもの帰り道。
 心臓が痛いくらいにドキドキして、緊張で体はガチガチだった。
 人気のない住宅街、いつもの別れ道で、來愛はついに彼に告白した。

「私、通和くんのことが好きです……。付き合ってください……!」

 頬を真っ赤に染め潤んだ瞳で見上げれば、彼はぐっと眉を顰めた。

「俺は…………無理だ」
「え……?」
「付き合う、とか……。俺は、お前には相応しくねー」

 通和はとても苦しそうな顔をしていた。懸命に言葉を選んでいる様子で、真剣に返事をしてくれていた。

「私を、恋愛対象としては見れないってこと……?」
「っ、そうじゃねーよ。ただ、俺は……こんなんだし……お前は俺なんかより、もっと別の男の方が……」
「なにそれ……!?」

 冷静にならなくてはと頭の片隅ではわかっているのに、感情が抑えられず声を荒げてしまう。

「私が! 通和くんのことが好きで告白したんだよ!? それなのに、なんでそんなこと言うの!? 私は通和くんが好きなのに、通和くんの傍にいたいのに、他の人じゃなくて、通和くんがいいのに……!」

 自分で自分が何を言っているのかわからなくなる。

「私と付き合いたくないなら、そう言ってよ! そんな風に言われるくらいなら、私のことなんか嫌いだって言われた方がいいよ!」
「っ、お、俺は……」

 通和が何かを言いかけるが、來愛はそれを最後まで聞かずにその場から駆け出した。
 走って走って、辿り着いたのは人のいない寂れた公園だった。ベンチの上で体を丸めうずくまる。
 やってしまった。
 ぼろぼろ涙を零しながら、來愛は深い後悔に苛まれる。
 一方的に喚き散らして、最悪だ。
 フラれて逆ギレなんて、最低だ。
 通和は呆れていたに違いない。來愛が彼の立場だったらドン引きしていただろう。
 彼は優しいから、來愛を傷つけまいとしてくれたのだと思う。
 けれどその彼の言葉は來愛には受け入れがたいものだった。
 最後の最後で手酷く突き放されたような。そんな気持ちになってしまった。
 だからって、あんな風に彼を責め立ててしまうなんて。
 自分で自分が嫌になる。
 こんなはずではなかったのに。
 フラれても、きちんと冷静に受け入れる覚悟で告白したのに。

「うううぅ~……もぉやだぁ……消えたいぃ~……」

 來愛は一人ベンチの上で泣きじゃくる。
 通和にちゃんと謝りたい。でももう合わせる顔がない。恥ずかしい。こうなってしまったら、気まずくてもとの関係にも戻れない。これからどんな顔で学校に行けばいいのだろう。
 でも、そもそも通和とはクラスも違う。積極的に会いに行かなければ遭遇することもないはずだ。彼と関わる前は、校内で彼の姿を見ることなんて殆どなかった。來愛の方が彼に会いに行っていただけで、それをやめればほぼ会うことはないのだ。
 その事実に気付き、悲しくなった。
 通和はもう來愛とは関わりたくないだろうし、彼から來愛に会いに来ることはない。何もなかった頃に戻るのだ。
 こんなにもあっさり関係が終わってしまう。そもそもその程度の関係だったのだ。
 來愛が一方的に付きまとっていただけなのだから。
 少しは仲良くなれたと思ったのに。あんな風に逆ギレなんかしなければ、これからも友達としてならば傍にいられたかもしれないのに。
 自己嫌悪に陥り、來愛はただ泣き続けた。
 何時間そこにいたのか、辺りはすっかり暗くなっていた。空には満月が浮かんでいる。
 深く落ち込み悲しみの淵に沈む來愛は、数人の男達が公園に入ってきたことに気づかなかった。
 ぞろぞろと近づく足音に顔を上げると、向こうも來愛の存在に気づいた。

「あれー? こんな時間にこんなとこでなにしてんのー?」
「えっ、あ、あの……」
「女の子が一人で危ないじゃん。俺らみたいなのに絡まれちゃうよ?」

 ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべ近づいてくる。

「あれ、もしかして泣いてんの?」
「どーしたの? 失恋とか?」
「俺らが慰めてあげよっか?」
「俺らときもちーことしたら、嫌なこと全部忘れられるぜ」
「け、結構、です……。あの、私、もう帰ります……」
「まーまー。まだいーじゃん。折角会えたんだからー、一緒にあそぼーよ」
「そーそー。楽しもーぜ」
「てか、JKの制服とかコーフンするな」

 ベンチの上で、数人の柄の悪い男に囲まれる。
 逃げなくてはと思うのに、体が震え恐怖で声も出ない。
 男達の手が來愛に向かって伸ばされる。
 怖くて、ぎゅっと目を瞑った。

「触るな!」

 怒りの滲む声と共に、バキッと鈍い音が聞こえた。
 驚いて目を開けると、学ランを着た後ろ姿が來愛の前に立っていた。來愛を守るように。
 地面には、男の一人が倒れている。鼻血を流しているから、恐らく顔を殴られたのだろう。

「こいつに手ぇ出すんじゃねー」

 地を這うような低い声に、ぐるるる……という唸り声が混ざる。
 來愛は呆然と、学ラン姿の大きな背中を見上げた。
 学ランを着ているけれど、フサフサの尻尾を垂らしている。頭に耳を生やした獣の顔。
 それはまさしく学ランを着た狼男だった。
 來愛に絡んできた男達は、青ざめ後退る。

「ヒッ、な、なんだ、コイツ……!?」
「ばけ、バケモンだ……!!」
「逃げろ、早く……っ」

 倒れた男を引き摺るように、彼らは逃げていった。
 それをポカンと見送ってから、來愛は我に返った。
 狼男の背中に向かって声をかける。

「あの、通和くん……?」
「っ……!!」

 名前を呼べば、肩がびくんと跳ねた。
 姿は違うが、來愛はこの狼男が通和なのだと確信していた。だてにずっとまとわりついていたわけじではない。姿が変わったって、声や雰囲気でわかる。好きな人だから。

「助けてくれて、ありがとう……」

 通和は何も言わない。振り返らない。

「通和くん、あと、あの、さっきのことだけど……」

 先程の逆ギレを謝ろうと更に声をかけたら、通和はそれを無視して歩き出した。
 もう來愛の顔も見たくないし、会話もしたくないということだろうか。
 だったら、どうして助けたりしたのだ。
 助けてもらったくせにまた腹が立って、來愛は鞄を彼に向かって投げつけた。さすがに彼も振り返る。狼の顔の通和と目が合った。

「通和くんのバカ!! 私のことが嫌いなら私のことなんてほっとけばいいでしょ! なんで助けたりするの!」
「っ……」
「フラれて逆ギレするような最低な女と口もききたくないなら、私のことなんてほっといてよ! そうやって優しくするから! もっと好きになっちゃうんでしょ! 諦めなきゃいけないのに、諦められなくなっちゃうじゃん!」

 今度は助けてもらったくせに逆ギレしてしまっている。こんな女好きになってもらえるはずもない。
 それを自覚し泣きそうになるが、感情が高ぶって止まらない。こんなことが言いたいわけではないのに。ただお礼と謝罪をしたかっただけなのに。

「私がどうなろうと通和くんには関係ないんだから! それなのに、またカッコよく私のこと助けたりして……私、あんな、責めるようなこと言ったのに……。通和くんのこと、もう好きになりたくないのに……」
「お前、俺の姿がちゃんと見えてんのか?」
「……え? 見えてる、けど……」

 通和はこちらに近づいてきて、來愛の正面に立った。

「よく見てみろ! 俺は、こんな……化け物なんだぞっ」
「化け物じゃないよ、通和くんだよ!」

 きっぱり言い切れば、狼の顔が奇妙なものを見るように歪む。

「っ、化け物だろーが、どう見ても! こんな俺の姿見て、まだ好きだなんて寝ぼけたことぬかせんのかよ!?」
「だって通和くんのこと好きだもん! どんな姿だって好きだもん! 化け物なんかじゃない、通和くんは通和くんだよ!」
「……くそっ」
「きゃっ……!?」

 ぐるるっ、と唸り声を漏らし、通和は來愛を地面に押し倒した。
 肉食獣の鋭い瞳が真上から來愛を睨み付けてくる。

「見ろよ、この牙。お前の肌なんか簡単に噛みちぎれるんだぞ」

 歯を剥き、大きな牙を見せつけてくる。

「こえーだろ。怯えろよ。化け物って罵れよ。もう二度と近づくなって、俺を突き飛ばして逃げ出せよっ」
「怖くないもん。通和くんのこと、怖いなんて思わないもん……っ」

 來愛は負けじと睨み返す。
 本物の狼や別の誰かであれば來愛も怯え死に物狂いで逃げ出しただろう。でも、今目の前にいるのは通和だ。怖いなどと思うはずがない。

「っ……だったら、もうそんなこと言えなくしてやる……!」
「えっ……んっ……!?」

 ぐっと顔を近づけられた、と思ったら唇の隙間からぬるっとしたものが侵入してきた。熱くて長くてぬるぬるしたそれが、口の中を蹂躙するように動き回る。
 それが通和の舌だと気付き、自分がキスされているのだとわかった。
 なんでキス? という疑問は粘膜の擦れ合う気持ちよさにどうでもよくなっていく。

「んっ、はっ、ふぅぅんっ」

 狼男の通和の舌は長くて、口の中をぐちゅぐちゅと舐め回されると少し息苦しい。でも口内を犯されているような感覚に、ぞくぞくと背筋が震えた。キスというよりも、一方的に口腔内をめちゃくちゃにされているような。
 けれど、彼が牙で來愛を傷つけることは決してなかった。だから來愛はすっかりされるがままになっていた。

「ぁんっんっ、んっ、んんんっ……」

 飲み込みきれない唾液が口の端から溢れ、顎を伝って流れていく。もう來愛の口の周りはべたべたに汚れていた。
 気持ちよくて、息が上がって、下腹部がむずむずする。
 大きな舌が上顎を擦り、びくんっと背中が浮いた。脚の間からじわっと蜜が漏れるのを感じ、腰をもじもじと捩る。
 呼吸さえ奪うように、口づけは一層激しくなる。舌に舌が絡まり、擦り合わされ、快感に体が震えた。キスだけでどんどん蜜が溢れ、下着がじっとりと濡れていく。
 下肢に通和の腰がぐりっと押し付けられたその時。くちゃりと恥ずかしい水音がはっきりと響き、二人はピタリと動きを止めた。來愛は羞恥で、通和は驚きに。
 鼻が触れ合いそうなほど近くで、二人の目が合う。
 一気にものすごい羞恥が込み上げ、來愛は顔面を真っ赤に染めた。

「いやぁあああ……!!」

 恥ずかしさでパニックになり、來愛は悲鳴を上げ通和を殴った。通和には全くダメージを与えることはなかったが。

「お、おい……」
「いやー!! もう見ないで!」

 叫びながら両手で顔を覆う。

「やだもう、ばかばかばかばか! 恥ずかしすぎて死にたいぃ! き、キスされて、ぬ、ぬ、濡れちゃって、好きな人に恥ずかしい音、聞かれて……もうお嫁に行けないぃ……!!」

 キスされてうっとりして、しっかりと音が聞こえるほどに秘所を濡らしてしまうなんて。
 淫乱だと思われたに違いない。キスされて発情する、淫らな尻軽アバズレ女なのだと。
 恥ずかしさと悲しみで泣きそうだ。
 そんな羞恥に悶える來愛を、通和は呆然と見下ろす。
 なんなんだ、コイツは。
 偶然不良に絡まれているところを見つけ、放っておけなくて助けたのがきっかけだった。それまでは、彼女の存在など知らなかった。
 同じ学校に通っているなら通和が恐れられていると知っているだろうに、彼女は怯えもせずに何度も声をかけてきた。
 目付きが悪く口も悪い。決して友好的ではない通和に、屈託のない笑顔を向けてきた。
 通和は敢えて人を遠ざけてきた。自分は狼男だ。普通ではない。もし知られれば、相手は通和を恐れ離れていくとわかっていたから。
 だから親しい相手を作らずにいた。
 わざと周りが近づけないような態度を取って、一人でいることを選んだ。
 けれど、來愛はしつこく通和に付きまとってきた。近づくなと言っても近づいてきて、挨拶してきたりくだらない話をしてきたり。無視してもめげずに寄ってくる。
 そんな彼女に通和はどんどん絆されていった。
 距離を縮めてはいけないとわかっていたが、近づいてくる彼女を突き放す事ができなくなっていた。
 少しだけなら大丈夫だ。友達とも呼べないような関係なら。これ以上親しくならなければ。
 自分に言い訳をして、彼女との関係を続けてきた。
 気づけば、彼女が傍にいるのが嬉しくて。彼女の笑顔を見られると嬉しくて。声をかけてもらえると嬉しくて。
 自分の中で彼女の存在がどんどん大きくなっていた。
 そんな時に、告白された。
 嬉しかったが、それを受け入れることはできなかった。
 自分は狼男。化け物なのだから。
 傷つけたくなかったのに、通和の言葉は本人の気持ちとは裏腹に來愛を深く傷つけてしまった。
 その場から逃げるように走り去る來愛の後を、心配で追いかけた。公園のベンチで一人泣きじゃくる彼女を公園の外からこっそりと見守った。声をかけ、慰めることはできない。その資格はない。
 だが、彼女がちゃんと家に帰るところを隠れて見届けるつもりだった。
 今夜は満月だ。通和の体は満月に反応し変化した。人に見つからないよう隠れていると、数人の男達が公園に入っていくのが見えた。
 來愛が襲われそうになっているのを見て、通和は狼男へと変化した姿のまま助けに入った。
 男達は通和の姿を見てすぐに怯え逃げていったのに、來愛は怖がりもせず、通和だと気づいて声をかけてきた。
 そして信じられないことに、この姿の通和を見て、まだ好きだなんて言うのだ。まっすぐに通和の目を見つめ、怖くなんかないと。
 そんなわけがない。普通の人間なら、彼らのように裸足で逃げ出す。
 今は感情が高ぶっているだけだ。冷静になれば來愛だって恐怖し、通和から逃げていくに違いないのだ。
 彼女を突き放すべく、通和は押し倒した。もう二度と好きだなんて言えないように、襲いかかった。
 彼女の唇を舌で犯す。來愛は嫌悪し、舌に噛みついてくるだろうと思った。
 しかし彼女は一切抵抗しなかった。無防備に口を開き、通和の舌を受け入れている。甘い吐息を漏らしながら、時折こくりと喉を鳴らして通和の唾液を飲み込むのだ。
 そんなつもりではなかったのに、彼女の反応にぞくりと官能を刺激された。
 気づけば通和は夢中で來愛の口腔内を味わっていた。
 彼女の口の中は蕩けるように甘い。小さな舌が可愛くて、食べてしまいたい。
 息を吸い込めば、來愛の匂いが鼻一杯に広がる。特に下肢の方から、濃い匂いが。
 その時、不意に通和の腰が彼女の陰部に擦れた。同時に、濡れた音が耳に届く。ピクピクと狼の耳が揺れた。
 通和は思わず舌を引っ込め僅かに顔を離した。
 真上から、來愛の顔をまじまじと見下ろす。
 確かに濡れた音がした。彼女のあそこから。いやらしい水音が。この匂いは、発情した雌の匂いだ。通和に口を犯され、彼女は欲情し蜜を漏らしたというのか。
 呆然と見ていると、急に來愛は悲鳴を上げ通和をぽかりと殴った。
 羞恥で悶絶しながら、まだ通和のことを好きな人だと言っている。
 自分が狼男であることに懊悩する自分が馬鹿らしく思えるくらい、簡単に、まっすぐに、好きだと伝えてくるのだ。
 耳まで真っ赤に染めて両手で顔を隠す來愛に手を伸ばす。
 ふわりと、柔らかい毛の感触が手の甲に触れて、來愛は顔から手を離した。

「通和、くん……?」
「…………お前、俺のこと怖くねーのかよ」
「またそれ? 怖くないって言ってるでしょ」
「こんな俺のこと、まだ好きだなんて言うのか?」
「好きに決まってるよ。……フラれたからって、すぐに好きじゃなくなるなんてムリだもん」
「…………ほんと、お前って変な女」

 心底呆れたような、そんな通和の呟きがぐさりと胸に突き刺さる。

「へ、変……。そ、そっか……通和くんにとって私って変人だったんだ……。そ、そうだよね。フラれて逆ギレとか私も人としてどうかと思うもん。頭おかしいって思われても仕方ないよね……。通和くんに相応しくないのは私の方だよ……」

 それなのに、思い上がって告白なんてしてしまって恥ずかしい。
 深く落ち込む來愛に、通和のぶっきらぼうだけれど優しい声が降ってくる。

「ばか、そうじゃねーよ」
「へ……?」

 じわりと涙の浮かぶ視界に、照れたような通和の顔が映る。人ではない狼の顔なのに、來愛には照れているのがわかった。

「だから、つまり……その、変なとこも含めて、好きだってことだ」
「はぇ……?」

 來愛はポカンと通和を見上げる。

「え? え? 好きって、だって……」
「まさか、俺のこの姿を見ても好きだなんて言ってくるとは思わなかったんだよ……。だから、お前とは付き合えないって思って、ああ言ったんだ」
「えっ?」
「こんなの、フツーは怖がるだろ……。なのに、お前は……」
「怖くなんかないよ!」

 來愛は彼の顔に手を伸ばす。

「寧ろもふもふしてて素敵だと思う」

 両手で彼の頬を撫でる。柔らかい手触りが気持ちいい。

「その耳も、すごく可愛いし」
「かわっ……」
「尻尾だって、頬擦りして撫で回したいくらい魅力的だし」
「っ……」

 來愛は通和を見つめ微笑んだ。

「人間の通和くんも、狼の通和くんも、大好きだよ」

 素直な気持ちを伝え、來愛は彼に口づけた。
 開いた口に舌を差し込み、彼のそれと触れ合わせる。

「通和くんの、この、おっきい舌も、好き……」
「っ、っ、っ、お前はっ、ほんと……っ」

 毛に覆われているのに赤面しているのがわかるくらい照れている。來愛のすることで照れる彼も、堪らなく可愛い。
 仕返しとばかりに、再び深く舌を口の中に挿入された。

「んっ、ふぁんっ……んっんっ」

 狼男の姿の彼とは、唇をぴったりと重ねるようなキスはできない。その代わりというように、互いに舌と舌を絡め合う。擦り合い、舌をねぶる。

「はっ、ぁっ……ふっ、んっ、んーっ」

 濃厚なキスはとろとろと溶けてしまいそうなほどに甘い。
 來愛の胎内はじんじんと痺れ、脚の間から新たな蜜を零し続けた。
 キスをしながら身動げば、また二人の陰部が擦れた。
 通和の固くなっているそこが、ごりっと來愛の陰核を押し潰す。途端に、強烈な快感が走り抜けた。

「んふぅっ、んっんっんんぅっ」
「っ、はっ、はあっ……んっ」

 はしたないと思うのに、腰が勝手に動いて快楽を追い求めてしまう。
 それは通和も同じようで、彼も腰を揺すり來愛のそこへ何度も擦り付ける。
 通和の膨らんだ股間が、ぐちゅぐちゅと音を立てて來愛の秘所を捏ね回す。
 恥ずかしくて気持ちよくて、彼も同じように興奮している事が嬉しくて、頭がくらくらした。
 口の中の彼の舌にちゅうちゅうと吸い付きながら、クリトリスを刺激し続ける。
 布越しに、互いの敏感な箇所を擦り付け合う。

「んはぁっんっ、みち、ず、くぅっんっんっ、~~~~っ」
「っはあ、んっ、っ、來愛……んっ、んっ」

 快感はどんどん強くなる。二人は絶頂へ向け駆け上がり、腰の動きは速くなっていった。
 まるでセックスしているみたいだ。そう思うと更に体は高ぶった。

「んっんっんっ、ぁっ、すきっ、んっんんっ」
「はっはっ……んっ、はあっ、來愛……っ」
「あっんっんっんっ、んぅううううっ、~~~~~~っ」
「っ、──~~っ、くっぅ……っ」

 ガクガクと体を震わせ、二人は絶頂を迎えた。はあはあと、荒い呼吸を繰り返す。
 來愛はくったりと地面に体を預けた。絶頂の余韻に全身が痺れている。
 陶然となっている來愛の顔を通和が覗き込む。

「大丈夫か……?」
「ぅ、うん……」
「立てるか?」

 手を差し出され、來愛は目を丸くする。

「えっ!? 最後までしないの!?」
「っ、はあ!? するわけねーだろ、こんなとこで!!」
「え、今してたのは? ここまでしたら、最後までしても同じなんじゃ……」
「同じじゃねーよ!!」

 ぽかりと優しく頭を殴られた。

「バカなこと言ってないで帰るぞ! 送ってやるから!」
「えー」
「いいから、ほら立て!」

 通和にひょいっと体を持ち上げられ、立たされる。
 來愛は歩き出す通和の腕にしがみついた。腕に抱きつきながら、ふさふさの手を握る。

「っおい」
「いいよね? 私達、もう恋人だもんね?」
「っ、っ……」
「通和くん、照れてるの? 可愛い」
「っ、っ…………はあ……。俺に可愛いなんて言うのはお前くらいだ。ほんと、変な女……」
「変でいいもん。通和くんの彼女になれたんだから」

 満面の笑みを浮かべ、彼の腕に頬擦りする。
 通和は呆れと照れの入り交じったような溜め息を零した。
 満月の浮かぶ夜道を、二人はぴったりと寄り添って歩いていくのだった。
 







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