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3 魂の形
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案内されて1時間くらいして、晴香が部屋に訪れた。
「ごめん。待った?」
そう言いながら晴香は料理の載った皿を机に並べていく。
「夕飯時だし、作ってきたんだ。どうぞ」
目の前に置かれたのは、ふわふわ卵のオムライスだった。デミグラスソースの匂いがとても食欲をそそる。そう言えば、荷造りや店探しなどで、昼ご飯を食べていなかった。朝もバタバタしていたから、残り物の食パンを一切れずつ食べただけだ。
時計を見ると17時を過ぎている。
「あ、ありがとうございます。いただきます」
思い出したら急にお腹が空いてきた。
「──美味しい」
空腹だったのもあるが、晴香が作ったオムライスはとても美味しかった。
「良かった。オムライスは俺の得意料理なんだ。まぁ、親父には、まだまだ及ばないけどね」
そう言う晴香は嬉しそうだ。
「御馳走様でした」
「いえいえ、お粗末様でした」
あっという間に完食し、鈴音はスプーンを置き手を合わせた。
「あの…倉橋さんは、視える人って事ですよね?」
空腹が満たされたところで、先ほどの話の続きを晴香に促す。
「晴香で良いよ。親父が帰ってきたら「倉橋さん」2人になっちゃって、ややこしいから。───で、俺も視える人で合ってるよ。それに、なんて言ったら良いのかな…簡単に言えば魂のオーラみたいなのが視えるんだけど、君の魂は他の人と違って所々欠けて視えるんだ」
鈴音と違い、晴香はただ視えるだけでないようだ。
「他の人と違う…」
「そう、親父に神隠しに遭って『彼岸』に迷い込んだ人が、そういう魂の形になるって聞いた事がある」
『彼岸』という言葉は初めて聞いたが、鈴音が一週間彷徨った世界のことだろうか。体感的には一夜だったあの時の。
「あれが迷い込んだって事なのかは、わからないんですけど……森で迷って、一晩しか経ってないと思ったのに、一週間経ってた事がありました」
鈴音の運命を変えたあの時の出来事は、記憶に刻み込まれている。
あの出来事の後から、鈴音は視えるようになった。
そして、幼い鈴音は視たままを周囲に話してしまった。
好奇心、畏怖、疑心……人は多くの者たちと違う事に対し排他的だ。「気持ちが悪い」「目立ちたがり」__悪意に満ちた言葉は鈴音の心を突き刺した。
だから、自分の事を誰も知らない所へ行こうと、高校進学に合わせて引越しをした。
霊感があることを隠すのは時々苦労する事があったが、今のところ当たり障りのない人間関係を築くことが出来ていた。
鈴音は、「視えることを隠していれば大丈夫!」と自分を奮い立てていたが、本当は心細かった。誰かに相談したかった。受け入れて欲しかった。
鈴音の頬を涙が伝う。
これまで気を張っていた反動からか、涙が溢れ出して止まらなくなった。
初対面の男性の前で泣きじゃくるのは抵抗があり、涙を止めようとするが、今度は喉が震え嗚咽が止まらなくなる。
「…っ…ごめん…なさ…いっ」
手で顔を覆い俯く鈴音の頭を、晴香が優しく撫でる。
「今まで、色々大変だったんだね」
そう言って、鈴音が落ち着くまで晴香は頭を撫で続けてくれたのだった。
「ごめん。待った?」
そう言いながら晴香は料理の載った皿を机に並べていく。
「夕飯時だし、作ってきたんだ。どうぞ」
目の前に置かれたのは、ふわふわ卵のオムライスだった。デミグラスソースの匂いがとても食欲をそそる。そう言えば、荷造りや店探しなどで、昼ご飯を食べていなかった。朝もバタバタしていたから、残り物の食パンを一切れずつ食べただけだ。
時計を見ると17時を過ぎている。
「あ、ありがとうございます。いただきます」
思い出したら急にお腹が空いてきた。
「──美味しい」
空腹だったのもあるが、晴香が作ったオムライスはとても美味しかった。
「良かった。オムライスは俺の得意料理なんだ。まぁ、親父には、まだまだ及ばないけどね」
そう言う晴香は嬉しそうだ。
「御馳走様でした」
「いえいえ、お粗末様でした」
あっという間に完食し、鈴音はスプーンを置き手を合わせた。
「あの…倉橋さんは、視える人って事ですよね?」
空腹が満たされたところで、先ほどの話の続きを晴香に促す。
「晴香で良いよ。親父が帰ってきたら「倉橋さん」2人になっちゃって、ややこしいから。───で、俺も視える人で合ってるよ。それに、なんて言ったら良いのかな…簡単に言えば魂のオーラみたいなのが視えるんだけど、君の魂は他の人と違って所々欠けて視えるんだ」
鈴音と違い、晴香はただ視えるだけでないようだ。
「他の人と違う…」
「そう、親父に神隠しに遭って『彼岸』に迷い込んだ人が、そういう魂の形になるって聞いた事がある」
『彼岸』という言葉は初めて聞いたが、鈴音が一週間彷徨った世界のことだろうか。体感的には一夜だったあの時の。
「あれが迷い込んだって事なのかは、わからないんですけど……森で迷って、一晩しか経ってないと思ったのに、一週間経ってた事がありました」
鈴音の運命を変えたあの時の出来事は、記憶に刻み込まれている。
あの出来事の後から、鈴音は視えるようになった。
そして、幼い鈴音は視たままを周囲に話してしまった。
好奇心、畏怖、疑心……人は多くの者たちと違う事に対し排他的だ。「気持ちが悪い」「目立ちたがり」__悪意に満ちた言葉は鈴音の心を突き刺した。
だから、自分の事を誰も知らない所へ行こうと、高校進学に合わせて引越しをした。
霊感があることを隠すのは時々苦労する事があったが、今のところ当たり障りのない人間関係を築くことが出来ていた。
鈴音は、「視えることを隠していれば大丈夫!」と自分を奮い立てていたが、本当は心細かった。誰かに相談したかった。受け入れて欲しかった。
鈴音の頬を涙が伝う。
これまで気を張っていた反動からか、涙が溢れ出して止まらなくなった。
初対面の男性の前で泣きじゃくるのは抵抗があり、涙を止めようとするが、今度は喉が震え嗚咽が止まらなくなる。
「…っ…ごめん…なさ…いっ」
手で顔を覆い俯く鈴音の頭を、晴香が優しく撫でる。
「今まで、色々大変だったんだね」
そう言って、鈴音が落ち着くまで晴香は頭を撫で続けてくれたのだった。
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