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大学3年冬

第46話:クリスマスとお誘い_2

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 まるで、彼氏に異性関係の報告を必ずするようにと命じられた彼女のように、私はこうやって連絡を入れている。

 出来の悪いこの【カップルごっこ】は、私の心に淡い光を灯しながら、その奥で深い穴を掘り進めていた。
 世間では、こういうのを【友達以上恋人未満】というのだろう。――少なくとも、私はそう思っている。

「えーっと。『祐輔からクリスマスイブ誘われた。何も予定ないし、行ってこようかな?』って感じかな」
「ほんとに送るんだ」
「だって、後で『知らないんだけど』って言われるのもやなんだもん」
「え、そんなこと言うかなぁ?」
「言う言う。今までもそうだったから」
「なんなの? 航河君お父さん? 保護者なの?」
「それはよく言われる」
「言われてるのね。……それか彼氏?」
「それもよく言われる」
「誰に」
「バイト先の人達」
「……公認か」

 後は返事を待ち、講義を受けるだけだった。

 周りから見て、私と航河君の関係はどれだけ歪なんだろう。ただの片思いが、ここまで相手に干渉することになるなんて。初めは思ってもみなかった。それだけ相手のことが好き。私にとって、そういうことである。

(私はそうだけど。航河君は一体どう思ってるんだろう)

 航河君の気持ちも考えも、航河君にしか分からない。いくら考えても、知りようもないことを考えるのは、現実逃避なのだろうか。
 時々本人に聞きたくなるのだ。『私が好きだと知っていて、そんな態度をとるのか』と。

 ――もし、知っていてこの状態ならば、航河君はなんて優しく残酷なんだろう。
 悲しいくらいに深い沼に溺れていく私を見て、その伸ばす手を引き上げようとはしないのに。一体何を考えて何を思っているのだろう。こんな私を、更に深い沼へと素知らぬ顔で誘うのだから。

 ――なんて、授業ひとつ、こんな風にずっと航河君のことを考えて終わってしまった。

 「んで、航河君からメールの返事来たの?」
「来てない」
「意外と遅いんだね、返事来るの。もっと早いかと思ってた」
「まぁまぁ遅いよ。いつもね」

 私達は講義を終え、学校の近くのカフェに来ていた。このお店の抹茶パフェは、私のお気に入りである。ほろ苦い抹茶クリームに濃厚な抹茶アイスクリーム、黒糖のゼリーときな粉のかかったわらび餅がたまらなく美味しい。少しだけ添えられた小豆はアクセントになっていて、苦味と甘さがバランスよく口の中に広がっていた。

 摩央とテストの話、レポートの話をするためにここ来たのだが、授業前のこともあり、ついつい話題が逸れてしまう。いつものことだが。

「でもさぁ、いつも思ってたんだけど、航河君彼女いるのに千景に干渉し過ぎじゃない? 今更感あるけど。ちょっと凄いよね?」
「うーん、それは私も思う」
「なんかさ、好きな子にちょっかい出すみたいだよね。いじめじゃないけど、本人の行動が左右されてるからさ。やり過ぎみたいにみえる」
「保護者って言われてるよ、バイト先の人に」
「あー、分かるよそれは。さっきも言ったじゃん! 保護者っぽい、彼氏っぽいって」
「最近じゃあもう気にならなくなってきたよ」
「うん、それおかしいから」
「バイト先の人達も、そんなもん……って思ってるみたいだし」
「……みんなさ、2人が付き合ってるって勘違いしてんじゃないの?」
「そんなまさか。だって航河君、美織さんの話、彼女の話普通にしてるし」
「もう意味分からん」

 摩央は苺パフェを頬張りながら、思ったことを口に出す。私自身も分かってはいたことなのだが、改めて他の人から言われると、実感が増すから不思議だ。バイト先の人達は、馴れ合いが過ぎて当たり前になっている。そうじゃない、摩央の意見は貴重だった。
 ……そうすると、余計に好きな気持ちとこのままで良いのかという気持ちがせり上がって、心の中で喧嘩を始める。駄目だと分かっていて、現状に甘んじている私は、狡い人間だと。

(狡いのは重々承知ですよ……)

 ヴーヴヴ、ヴーヴヴ――。ヴーヴヴ、ヴーヴヴ――。

「……あ。航河君だ」
「マジ? 噂をすればなんとやらって奴?」
「そうかもね。……見るの怖いんですけど」
「私が見てあげようか?」
「……自分で見ます」

 サブディスプレイに表示された送信者を確認して、ゆっくりと携帯を開く。メールの受信画面には、確かに一通、航河君からのメールが来ていた。

(なんだか緊張するなぁ……)

 少々躊躇いながらも、意を決して開くためのキーを力強く押す。

『それ、行くの? クリスマスイブなんてデートじゃん。祐輔の態度見てると、千景ちゃんに気がありそうだけど。何かあるかもしれないよ? 行って良いの?』
「うー……まぁ、まとも?」
「まともっちゃあまともね」

 もっといつもの調子で返ってくると思っていた。だが、今日に限っては見る限り真面目な返信だ。

「どうしよう、なんて返そう……」
「そこは自分で考えな? 言っていることがもっともなら、ちゃんと返せば良いのよ」

 真面目に返されたなら、こちらも真面目に返すべし。ゆっくりと指を動かして、言葉を選ぶ。打っては消し打っては消しを何度か繰り返し、ようやく出来上がった文面を送った。
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