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春
第20話:父と息子_2
しおりを挟む「今日の十六時に、ウチに来るって。コウ、今日はこのままウチに来てよ」
「はいはい」
「……やっぱり夜ご飯、予約しといたほうが良いよね?」
「なんだよ、行く気になったのに嘘ってこと?」
「嘘じゃないよ。コウなら、後でやっぱり一緒に焼肉行くって言うかなと思って」
「だからいらないよ、予約なんか」
「えぇ? でもさ、後で予約しようとしても、テーブル埋まっちゃうかもしれないじゃん? 予約はできるときにしておかないと」
「いや、いらないって、いらない」
「……はーい」
そう言われたが、私はそのままお店のホームページを開くと、今日の夜十八時半から焼肉食べ放題の予約を入れた。
(絶対! 一緒に焼肉食べに行くことになるもん!)
掘りごたつのある焼き肉屋を選んだ。ここなら、隅っこのほうに司を寝ころばせておける。まだ小さいうちは熱源もあるし危ないと思っていたが、今日だけはこの考えを撤回する。私と俊君で司と雪を見ながら食べて、父とコウには語り合ってもらえたら嬉しいなと思っている。邪魔だったら後日二人で会ってくれれば良い。
「あーあ、姉ちゃん、ついに頭がおかしくなったか」
「だから、おかしくなってなんかないってば」
「怪しいけどね」
「ビックリするよ? コウ」
「俺は普通の人間だかんな」
「私だって、そう思ってたんだってば」
「だってさ、俺、この目で確かめたんだよ? 呼吸が止まって、瞳孔も開いて。脈もないし、医師の診断だって目の前でもらったのに」
「それはわかってる、わかってるよ」
「その日だけじゃないよ? お通夜して葬式して、棺に入って高熱で焼かれて灰と骨になった人間が、どうやってこの世に戻ってくるって言うの。黒魔術? 呪い? 神頼み? 異世界から似た人召喚でもしたの? それともパラレルワールドからやってきた? 少し前の親父がタイムトラベル?」
「それがね、神頼みと人助け」
「はぁ?」
「だからわかってるって! 意味わかんないのは! 本人に聞いて! それが! 一番! 早いの!」
コウも、驚けば良い。父の存在に。
有り得るはずのない、この世の事象に。
思いがけない、神様からのプレゼントに。
「――ただいまー」
「あ、お母さん」
帰ってきた母は、その手に美味しい近所のケーキ屋さんの袋を下げていた。
「折角だから、食べていかない?」
「それ美味しいヤツじゃん!」
「美代、ここのケーキ好きでしょ?」
「良いの?」
「みんなで食べたら美味しいわよ。食べましょ」
コウの部屋で漫画を読んでいた雪を呼びに行き、ケーキを囲んだ。本日二個目のデザートだ。ここのお店のケーキは、父も好きだった。甘過ぎない生クリームは、口当たりも軽くサッパリとしていてとても食べ易い。お陰で罪悪感がなく、私自身油断すると何個でも食べてしまいそうだった。特に私はこのお店のチョコレートケーキが大好きで、他のお店だとくどくて食べられないのに、ここのお店だとホールでも食べてしまえそうなくらい美味しい。だから、他のお店ではまず選ばないチョコレートケーキが、ここのお店ではこれしか選ばないくらいのヒット商品になっている。
「はい、お義父さんの分」
母は、父の好きだったモンブランをお仏壇に供えた。父の遺影の前には、沢山のお菓子と果物が置かれている。毎日、母が買っては入れ替えているそうだ。
「……ちょっと、物置過ぎじゃない?」
「そういえば、置き場がほとんどどなくなっちゃったわねぇ」
「物減らしたら?」
「お父さんの好きだったもの見ると、ついつい買っちゃうのよ」
「……気持ちはわかるけどさぁ。お父さん食べきれないでしょ」
「あら、案外他の人にお裾分けしているかもしれないわよ?」
「お人好し」
「だって、お父さんだもの」
嬉しそうに母が笑う。まるで、父が生きているかのように扱うのはいつものことだ。母のことは笑えない。きっと、俊君が死んでしまったら、私もこんな風になるだろうから。
(……でもね、お母さん。お父さん、今そこにはいないんだ……)
「あ、母さん、俺、このあと姉ちゃんち行ってくるから」
「そうなの?」
「うん」
「夜ご飯どうするの?」
「夜ご飯は……」
「うちで用意するから良いよ」
「あらやだ、お母さん一人でご飯じゃない。ちょっと寂しいわね」
「ゆき、ばぁばのオムライスたべたいー!」
「あらあら、嬉しいこと言ってくれるわねぇ」
「おかあさん、ダメー?」
「うーん……今日はダメよ」
「えー!? やだ!」
「今日はダメなの。別の日にしなさい」
「また用意しておくわね」
「ぶー!」
「不貞腐れないの!」
「……ぶぅ……」
頬を膨らませた雪が、眉間に皺を寄せて怒っている。何時に迎えに来られるかわからないのだ。今日だけは勘弁していただきたい。それに、今日の夜ご飯は、雪がずっと行きたがっていた焼肉の予定なのだから。
ケーキを食べ終え、実家を後にする。車の中で雪がコウに話しかけるも、コウはどこかうわの空で、窓の外を眺めていた。その姿に、雪がまた不貞腐れている。こればかりは仕方がない。
(……そりゃあ、信じられないよね……急には、さ……)
私は、自分が父と再会した日を思い出しながら、同じようにぼんやりと窓の外を眺めていた。
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