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春
第19話:父と息子_1
しおりを挟む「……なぁ姉ちゃん。それ、本気で言ってる?」
言うと思った。俊君と話をした通り、ちゃんと真正面から父の話をしたのだ。その結果がこれである。休みの日、母が買い物に出かけている間、コウに少し時間をもらったのだ。母がいると間違いなくややこしくなるし、あまり今の段階では聞かれたくもない。
「私は本気だけど?」
「いやさ、普通に考えてみ? 有り得ないよね?」
「……まぁ、普通は」
「姉ちゃんは頭ン中、おかしくなってないよね?」
「と思ってるけど」
「じゃあ、何言ってんの?」
「そう言うとは思ってたよ、うん。わかってた」
「じゃあ、何でそんな話するんだよ」
「それは、コウに会ってほしいからだよ、お父さんに」
「いや、だってさ。死んでんじゃん、親父」
「そうなんだけど」
「喪主務めたの、俺なんだけど」
「勿論わかってる」
「俺らさ、骨上げまでしたよね?」
「したよ?」
「あの熱さニオイも、忘れてないよね?」
「忘れてない」
「……だから親父、死んでるよね?」
「うん、死んでる」
こうなるとは思っていた。だから、もういきなり父に会わせてしまいたかったのだ。
「えーっと、俊さんはなんとも思わないの? 姉ちゃんがこんなおかしなこと言いだして」
「……僕も、お義父さんだと思っているからねぇ」
「……俊さんまで頭おかしくなったの?」
「勿論おかしくなんかなってないよ?」
「……意味わからん」
コウがイライラしているのは、手に取るようにわかる。そりゃそうだろう。こんな突拍子もない、人間が一生を過ごす中で、絶対に有り得ないだろう話をされているのだから。私が彼の立場でも、同じことを言っていた自信がある。
「でもね、浩一君」
ニコニコと俊君が、コウへと話しかけた。
「君は、お義父さんに言い残したこととか、ないのかい?」
「……ないと言えば嘘になるけど」
「じゃあ『もう一度会いたい』と思ったことは?」
「……あるよ」
「少しだけ、信じてみてもらえないかな?」
「信じる要素がないんだよ」
「僕がそんな嘘を吐くメリットあると思う?」
「思わないけど、出来の悪いドッキリの可能性だって」
「美代がそんなことすると思う? わざわざ、自分の父親の死を冒涜するような」
「それは……」
「一度で良いんだ。本当に。なんなら、五分だけでも良い。会ってみてくれないかな」
「……」
「気持ちはわかるよ。今こんな突拍子もない話をしてる美代だって、意味わからなくて混乱しながら僕に相談してきたんだから。そのうえで僕は話を聞いて、自分でもお義父さんなのか確かめてやろうと思って、実際に会ってみたわけ。……だからさ、深く考えずに『マジで会えたら俺って超ラッキー』くらいの気持ちで、お義父さんに会いにきてよ。損はさせないから」
「……もし、嘘だったら?」
「嘘じゃないから、もしもの話はしないよ」
「怖過ぎて行けないから。どうしてもこいって言うなら、何でも良いから安心材料頂戴よ。親父に会うだけじゃなくて、俺にメリットのある話」
「うーん、それなら……。焼肉食べに行こうか。僕の驕りで」
「食べ放題?」
「うん。一番良いコースで」
「……わかった」
「え、それで良いの!?」
焼肉に釣られるとは思っていなかった。が、熱心な俊君に、引き下がることを諦めてくれたのだろう。これなら、なんとか父に会わせることができそうだ。
「なんなら、お義父さんに会った後、みんなで焼肉行く?」
「焼肉は、嘘だったらの場合だろ?」
「そのまま食べに行っても良いと思えるくらいに、浩一君の決断は、僕らにとって意味のあることなんだよ」
「……それは、好きにしたら?」
嘘だと信じて疑わないコウは、俊君の言葉に少し不機嫌になったが、私が買ってきたアイスクリームを口に運ぶと、その不機嫌も少し直ったような気がした。
「……で? その人には、いつ会えば良いのよ?」
「できれば今日か明日」
「急過ぎない? 心の準備もできないの?」
「いや、こう、変な先入観とか持たないうちに会ってほしくて」
「……先入観ならもう持ってるけど」
「それが、酷くならないうちに!」
眉間に皺を寄せて、コウが溜息を吐いた。私が言い出したら聞かないことをよくわかっていて、諦めたのかもしれない。ちょっとだけお姉ちゃん権限だ。相手の意見を聞くと見せかけて、譲るつもりはない。コウの会うという意思を手繰り寄せた今、それを手放すことも、遠く突き放すこともできないのだ。
「十分だけ。十分で、俺はもう親父かどうか決める」
「充分。お父さんには、お父さんとコウしか知らないことを、コウに話してもらうから」
「そんなこと知らないオッサンが、知ってるわけないじゃん」
「そう思うでしょ? ビックリするから」
「俺なんも喋んなくて良いの?」
「もしあれば、質問とか、問題みたいなの出してよ」
「要る? それ」
「コウが聞いたことに答えられたほうが、コウも信用できるんじゃないの?」
「まぁ、それはあるかもしれない」
「じゃあ、それで。んで、今日か明日、どっちが良いの?」
「……はぁ。早く終わらせたいから、もう今日だわ」
「おっけー。お父さんに連絡入れる」
「……何で当たり前みたいに『お父さん』って言えるんだよ……」
コウの言葉は聞こえないフリをして、私は父にメールを打つと返事を待った。思ったよりも返事は早く、すぐに『今日でも大丈夫』と連絡がきた。
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