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春
第18話:頭を悩ませる_3
しおりを挟む「それで? 浩一君にはなんて言うの?」
「えっとね、もう、最初っから直接会ってもらおうかと思って」
「いきなり?」
驚いた顔で俊君が言う。雪と司が眠った後、私たちリはビングで生ハムをつまみながら炭酸を嗜んでいた。
「下手にどうこうするよりも、そっちのほうがすんなり聞いてくれそうじゃない? 良くも悪くも素直な性格だと思ってるし。小細工噛ますより、直球勝負が良いと思うんだよね」
「……まぁ、そうかもしれないけどさ。でも、それはちゃんと土台がないと駄目なんじゃないの?」
「土台って?」
「例えば、美代だったら、昔の話で美代とお義父さんしか知らない話をするとか」
「あ、それはね、考えてるの。私の時みたいに、二人しか知らない話をしてもらおうかなって」
「お義父さんと、弟君の記憶力にかけるか」
「……多分、大丈夫でしょう。コウはいままでずっと実家にいるわけだし、ホラ、なんて言うか同性だし?」
「そんなもん?」
「って、勝手に思ってるけど」
男同士でしかしない話もあるだろうし、子どものころの話は、私にもわからないことは多い。父は比較的弟の学校行事にも参加していたし、そこは二人にかけるしかないのだ。
「まずは、休みの日にコウを呼び出す。お父さんも」
「……それで?」
「で、二人きりにして、お父さんの覚えている、かつ、お父さんしか知らないコウの話をしてもらう」
「うん」
「それで、コウが納得してくれたら、私みたいに信用してくれると良いなって言う希望的観測」
「……心配しかないんだけど」
「コウは変なところでリアリストだからね。難しいところはあるかもしれないけど。ま、ダメな時はお姉ちゃん権限で強く出る予定」
私はグラスに入った炭酸を飲み干した。
「……でも、コウはコウで、きっとお父さんにまた会いたいと思ってるはずなんだよね」
私は知っている。あまり旅行が好きではないコウが、父のために、父が行きたがっていた場所への旅行の予定を組んでいたことを。父の負担にならないように、それでも、父の希望を叶えるために、距離や移動方法、時間を調節して、細かな計画を立てていたことを。
――しかしそれが、実行されることはなかったことも。
ペットボトルから二杯目の炭酸を汲み出す。授乳中だから、お酒は飲まない。元々あまり飲まないが、今日はただの炭酸を飲んでいるはずなのに、なぜか目元が熱くなった。
「お義父さんを呼び出す時、ちゃんと説明はするよね?」
「勿論」
「浩一君を呼び出す時も?」
「……それなんだけど、多分コウには、家にきてもらってから理由を話したほうが良いと思ってる」
「何で?」
「そもそも、きてくれない可能性があるから」
「『お父さんが家にいるから来てほしい』じゃダメってこと?」
「うん、そういうこと」
そう、コウは妙なところでリアリストだ。こんな突拍子のない話、私でなければ真面目に聞いてくれないだろう。だが、それでは困るのだ。まずは、コウを父と合わせなければならない。そして、話を聞いてもらわなければ。会わなければ、スタートラインには立てない。言い方は悪いかもしれないが、母と同じくしくじれば今後この話を聞いてくれない可能性だってある。そうなってしまったら、後悔役立たずにもほどがある。
一番話を聞いてくれそうなのはコウだと思うものの、自分の予想がまだ信じられなかった。だって、こんな突拍子もない話、ネガティブな結果や最悪の結果しか浮かばない。そうならないように、一つずつ、確実な方法をとる必要がある……と、私は感じていた。
「怒られない? 浩一君に」
「……うーん。怒られる気はしてる」
「良いの?」
「もし、もし、ね? 実はお父さんじゃなかったとしても、今のところ危害を加えるような素振りも見えないじゃん? だから、危ないことにはならないと思うの」
「……それ浩一君が知ったら、怒りそうだな」
「……やっぱり?」
「でもまぁ、俺もそんなに浩一君のこと知ってるわけじゃないけど、美代の言いたいことはわかるよ」
「でしょ?」
「だけど、ちゃんと話をしたほうが良いと思うよ? 美代への信頼も変わってくれるでしょ? 今後の関係とかね」
「……うっ」
「家族だってさ、信頼は積み重ねでしょ? その積み重ねがあるから、美代だって浩一君が受け止めてくれるって思ってるんだよね?」
「……うん」
「それなら尚更だよ。今後の関係もあるし、お義母さんやお義姉さんにも、お義父さんのこと話すって言うなら、絶対きちんとしておいたほうが良いと思うけど。要は、味方になるわけだし」
「……ですよね」
私の理想を、俊君は簡単に口にする。私だってわかっている。それが一番良いことを。
「大丈夫だよ。だって、美代と俺が『おとうさん』って認めて、雪と司が『じぃじ』って認めたんだから。浩一君も、きっと認めてくれるよ」
「だと良いんだけどさ……」
「美代が先のことを考えてないとは思ってないけど、きちんとしておこうよ」
「……わかった」
もう一度、作戦を練り直す。簡単に紙にまとめ、遅くなった今日はもう寝ることにして、明日コウに連絡を入れることに決めた。
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