最初で最後のサヨナラを。

三嶋トウカ

文字の大きさ
18 / 37

第18話:頭を悩ませる_3

しおりを挟む

 「それで? 浩一君にはなんて言うの?」
「えっとね、もう、最初っから直接会ってもらおうかと思って」
「いきなり?」

 驚いた顔で俊君が言う。雪と司が眠った後、私たちリはビングで生ハムをつまみながら炭酸を嗜んでいた。

「下手にどうこうするよりも、そっちのほうがすんなり聞いてくれそうじゃない? 良くも悪くも素直な性格だと思ってるし。小細工噛ますより、直球勝負が良いと思うんだよね」
「……まぁ、そうかもしれないけどさ。でも、それはちゃんと土台がないと駄目なんじゃないの?」
「土台って?」
「例えば、美代だったら、昔の話で美代とお義父さんしか知らない話をするとか」
「あ、それはね、考えてるの。私の時みたいに、二人しか知らない話をしてもらおうかなって」
「お義父さんと、弟君の記憶力にかけるか」
「……多分、大丈夫でしょう。コウはいままでずっと実家にいるわけだし、ホラ、なんて言うか同性だし?」
「そんなもん?」
「って、勝手に思ってるけど」

 男同士でしかしない話もあるだろうし、子どものころの話は、私にもわからないことは多い。父は比較的弟の学校行事にも参加していたし、そこは二人にかけるしかないのだ。

「まずは、休みの日にコウを呼び出す。お父さんも」
「……それで?」
「で、二人きりにして、お父さんの覚えている、かつ、お父さんしか知らないコウの話をしてもらう」
「うん」
「それで、コウが納得してくれたら、私みたいに信用してくれると良いなって言う希望的観測」
「……心配しかないんだけど」
「コウは変なところでリアリストだからね。難しいところはあるかもしれないけど。ま、ダメな時はお姉ちゃん権限で強く出る予定」

 私はグラスに入った炭酸を飲み干した。

「……でも、コウはコウで、きっとお父さんにまた会いたいと思ってるはずなんだよね」

 私は知っている。あまり旅行が好きではないコウが、父のために、父が行きたがっていた場所への旅行の予定を組んでいたことを。父の負担にならないように、それでも、父の希望を叶えるために、距離や移動方法、時間を調節して、細かな計画を立てていたことを。
 ――しかしそれが、実行されることはなかったことも。

 ペットボトルから二杯目の炭酸を汲み出す。授乳中だから、お酒は飲まない。元々あまり飲まないが、今日はただの炭酸を飲んでいるはずなのに、なぜか目元が熱くなった。

「お義父さんを呼び出す時、ちゃんと説明はするよね?」
「勿論」
「浩一君を呼び出す時も?」
「……それなんだけど、多分コウには、家にきてもらってから理由を話したほうが良いと思ってる」
「何で?」
「そもそも、きてくれない可能性があるから」
「『お父さんが家にいるから来てほしい』じゃダメってこと?」
「うん、そういうこと」

 そう、コウは妙なところでリアリストだ。こんな突拍子のない話、私でなければ真面目に聞いてくれないだろう。だが、それでは困るのだ。まずは、コウを父と合わせなければならない。そして、話を聞いてもらわなければ。会わなければ、スタートラインには立てない。言い方は悪いかもしれないが、母と同じくしくじれば今後この話を聞いてくれない可能性だってある。そうなってしまったら、後悔役立たずにもほどがある。
 一番話を聞いてくれそうなのはコウだと思うものの、自分の予想がまだ信じられなかった。だって、こんな突拍子もない話、ネガティブな結果や最悪の結果しか浮かばない。そうならないように、一つずつ、確実な方法をとる必要がある……と、私は感じていた。

「怒られない? 浩一君に」
「……うーん。怒られる気はしてる」
「良いの?」
「もし、もし、ね? 実はお父さんじゃなかったとしても、今のところ危害を加えるような素振りも見えないじゃん? だから、危ないことにはならないと思うの」
「……それ浩一君が知ったら、怒りそうだな」
「……やっぱり?」
「でもまぁ、俺もそんなに浩一君のこと知ってるわけじゃないけど、美代の言いたいことはわかるよ」
「でしょ?」
「だけど、ちゃんと話をしたほうが良いと思うよ? 美代への信頼も変わってくれるでしょ? 今後の関係とかね」
「……うっ」
「家族だってさ、信頼は積み重ねでしょ? その積み重ねがあるから、美代だって浩一君が受け止めてくれるって思ってるんだよね?」
「……うん」
「それなら尚更だよ。今後の関係もあるし、お義母さんやお義姉さんにも、お義父さんのこと話すって言うなら、絶対きちんとしておいたほうが良いと思うけど。要は、味方になるわけだし」
「……ですよね」

 私の理想を、俊君は簡単に口にする。私だってわかっている。それが一番良いことを。

「大丈夫だよ。だって、美代と俺が『おとうさん』って認めて、雪と司が『じぃじ』って認めたんだから。浩一君も、きっと認めてくれるよ」
「だと良いんだけどさ……」
「美代が先のことを考えてないとは思ってないけど、きちんとしておこうよ」
「……わかった」

 もう一度、作戦を練り直す。簡単に紙にまとめ、遅くなった今日はもう寝ることにして、明日コウに連絡を入れることに決めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

あなたの隣は私ではないけれど、それでも好きでいてもいいですか、レオナルド様

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢エリアーナには、三年間ずっと抱えてきた秘密がある。 婚約者であるヴァルフォード公爵・レオナルドへの、誰にも言えない恋心だ。 しかし彼の隣にいるのは、いつも幼馴染の伯爵令嬢・ソフィア。 儚げな笑顔と上目遣いで男性を虜にするあざとい彼女に、レオナルドも例外ではないようで—— 「レオ、私のこと嫌いにならないでね?」 「……そんなことにはならない」 また始まった二人の世界。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
【3月中――完結!】 積み上がった伏線の回収目前!! 夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。 長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。 待っていたのは、凍てつく絶望。 けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。 「夫は愛人と生きればいい。  今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」 それでも私は誓う―― 「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」 歪で、完全な幸福――それとも、破滅。 “石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

熱い風の果てへ

朝陽ゆりね
ライト文芸
沙良は母が遺した絵を求めてエジプトにやってきた。 カルナック神殿で一服中に池に落ちてしまう。 必死で泳いで這い上がるが、なんだか周囲の様子がおかしい。 そこで出会った青年は自らの名をラムセスと名乗る。 まさか―― そのまさかは的中する。 ここは第18王朝末期の古代エジプトだった。 ※本作はすでに販売終了した作品を改稿したものです。

【完結】どうか私を思い出さないで

miniko
恋愛
コーデリアとアルバートは相思相愛の婚約者同士だった。 一年後には学園を卒業し、正式に婚姻を結ぶはずだったのだが……。 ある事件が原因で、二人を取り巻く状況が大きく変化してしまう。 コーデリアはアルバートの足手まといになりたくなくて、身を切る思いで別れを決意した。 「貴方に触れるのは、きっとこれが最後になるのね」 それなのに、運命は二人を再び引き寄せる。 「たとえ記憶を失ったとしても、きっと僕は、何度でも君に恋をする」

あなたの片想いを聞いてしまった夜

柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」 公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。 政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。 しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。 「好きな人がいる。……片想いなんだ」 名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。

さようなら、お別れしましょう

椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。  妻に新しいも古いもありますか?  愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?  私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。  ――つまり、別居。 夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。  ――あなたにお礼を言いますわ。 【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる! ※他サイトにも掲載しております。 ※表紙はお借りしたものです。

処理中です...