最初で最後のサヨナラを。

三嶋トウカ

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第17話:頭を悩ませる_2

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 「……できた!」

 微妙に綺麗な丸にならなかったホットケーキへ生クリームを乗せ、切っておいたフルーツを飾る。温めたチョコペンを添えて、帰ってきた雪の目の前に置く。

「はい、どうぞ」
「ママすごーい! おみせみたい! おいしそう!」
「ありがとう。チョコペンは、固まらないうちに使ってね」
「はーい! いただきまーす!」

 早速チョコペンを握り、ニコニコなマークを描き始める雪。ジッとフルーツを見た後に、そこにもチョコをかけ始めた。

「みてみてママ! じょうずでしょう?」
「うん、ニコちゃん上手だねぇ」
「これ、しゃしんとって! じぃじにみせるの!」
「……良いよ、撮ってあげる」

 嬉しそうにはしゃぐ雪を見て、私は子どものころを思い出した。父は料理はするがお菓子は作らない人間だった。それでも、お菓子に含めて良いのかはわからないが、ホットケーキはよく作ってくれた。懐かしい。ホットプレートを準備して、薄く油を引き生地を伸ばす。たまに焦げたホットケーキもできあがったが、自分で作ればそれはそれで美味しいのだ。
 お玉から垂れて先に流れ込んだ生地がほんのちょっと焦げたホットケーキは、雪の手によって可愛らしいスイーツへと変身した。子どもの想像力は侮れない。スマホを準備している間に、もう一枚あったほんのちょっと焦げたホットケーキは、その焦げを利用してまた可愛いネコを作り出していた。垂れた部分を上手く使って、尻尾に見立てたのはお見事だ。

「ネコちゃん!」
「おぉー。上手ね」
「でしょ?」
「これも写真に撮ろうか?」
「うん!」

 ホットケーキだけ写した写真と、雪も写った写真を撮る。私はホットケーキだけ写っている写真を、父に教えられた番号へと送った。

「じぃじ、見てくれると良いね」
「すごいって、ほめてくれるかな?」
「きっとね。褒めてくれるよ」
「やった!」
「楽しみね」
「うん!」
「ふふふっ」
「……おへんじ、きた?」
「……まだだよ」
「……もうきた?」
「まだだってば」
「そろそろ?」
「そんなにすぐには来ないよ」
「えーっ? もうきたでしょ?」
「来ないよう……」

 子どもの時間の感覚は、どうなっているのかよくわからない。……私も子どものころ、こんな風に急かしてせがんでいたのだろうか。
 雪はいつも、どこかへ出かけようかと言うと『きょう?』と聞く。『今日じゃないよ』と言うと『じゃああした?』と言う。間隔がものすごく短い。待ちきれない感覚と、まだハッキリしない時間間隔がそうさせるのだろう。ちょっと面白いが、毎回それを言われると辛い。
 作ったホットケーキをペロリと平らげた雪は、宿題をしに部屋へと向かう。残された私は、自分用に焼いたホットケーキを頬張りながら、続けて夜ご飯の準備を始めた。

「……久し振りに、お父さんのご飯食べたいなぁ……」

 父は料理上手だった。私はあまり、料理が得意ではない。というか、家事全般好きではなかった。仕方なしにやっている部分もある。ただ、ご飯を作るからには美味しく食べてもらいたいし、自分だって美味しいものを食べたい。ニコニコと雪や俊君が食べてくれると嬉しいし、作った甲斐があると思える。

「……もっと、お父さんに『美味しい』とか『ありがとう』って言えば良かったな……」

 ありがたみがまだわからなかった当時の私には、正直考えることができなかったことだ。
 ……今なら、毎食『いただきます』『ごちそうさま』『美味しいね』も忘れずに言えるのに。

「最後に食べたのは、南瓜の煮物……だったっけ」

 砂糖の入った南瓜の煮物は、少し甘めの味付けだ。父に料理を習ったわけではないが、私の作る南瓜の煮物も少し甘めだ。ご飯のお供には、向いていないかもしれない。どちらかというと箸休めだ。百パーセント味付けを再現できているとは思っていないが、母にお裾分けをしに行ったとき『美味しい』そして『懐かしい』と言われた。だからきっと、遠くはない味だと思っている。

(……もっと料理習えば良かったかも)

 私はレシピのレパートリーも多くないし、だいたい同じ野菜を使いがちだ。味付けだってそう多くない。手際も良いわけではないから、微妙に作る時間もかかる。これらが解消されたら、きっともっと料理を楽しめるのに……と思うが、だからと言って何かすることもない。
 レシピサイトは見る。けれど、調味料を入れる段階で、つい、こう、みりんや砂糖を少しばかり追加してしまう。甘めだった実家の味が、こんなところに影響していた。一瞬だけ、料理教室に行くことも考えたが、その時以外そのレシピを使わない気がしてやめた。

(やっぱ慣れた味が美味しいな、って思っちゃうんだよねぇ……)

 そんなことを考えながら、私は南瓜をレンジにかけた。こうしてから切ると、硬い皮もすんなり切ることができるから好きだ。……うっかりかけ過ぎると、実がボロボロになるか、乾燥してしまうが。面取りしないから型崩れしやすいのかもしれない。

「さぁ、俊君が帰ってきたら、ちゃんと言うぞ」

 私は俊君に話す内容を再度繰り返しながら、帰りを待った。
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