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東の国編
4.報告 2 後
しおりを挟む「じゃあ、相手には片目を隠したレッドの目のルークが見られてるんだよね」
「そうなる」
「この国に、チャールズ国王の下に、オッドアイがジョン先生以外にもうひとり居るの、バレたんだよね?」
「っ…」
ルークの今までの任務は、特別任務でも全て騎士としての任務だった。レッドの左目を眼帯で隠して、何かあっても忘却魔術をかけてどうにでもできた。左目を隠していたおかげで、ルークが魔術師であることは、明らかになっていなかったのだ。
今回は魔術師として初めての任務で、レッドの左目を見せていないと制服と合わない。グリーンの目を隠しても、普通の魔術師なら片目を隠すことはない。結局、片目に何かあるのは相手に伝わってしまい、ルークがオッドアイであることは相手に導かれてしまう。
ルークが攻撃魔術を跳ね返し、その目を見た時点で、相手が敵わないと判断したかもしれない。ルークがオッドアイであることに、あの一瞬で気付いたとすれば、相当な手練れだ。
なぜ、そこまで考えが回らなかった? ルークは騎士として有名だ。新聞など、他国にその情報は流れていてもおかしくないが、魔術師としては公になっていない。あろうことか、東にルークの目の情報を持って帰られてしまった。通信魔術を送ろうとしていた文面を消す。
「…ありがとう、ミア。今から、王都へ飛ぶ」
「うん、一緒に連れてって」
この国で、魔力が一番強いのは、紛れもなくオッドアイのルークだ。次が番のミア、そして師匠であるジョン。
番を持たないジョンは、生まれた時から魔力総量がほぼ変わらないと言っていたが、ルークとミアは増えるばかりだ。そのルークが暴走するほどだとすれば、この中央国の魔術師が敵の攻撃魔術を受けたら、暴走を起こし戦えなくなる。魔力暴走は厄介で、中和しなければ、小康状態になってもまた興奮状態がやってくる。
ルークの魔力は、ミア以外の他人の魔力に反発して暴走したと考えるのが妥当だろう。ルーク単独の総量で押し込められなかったあの魔力は、一体…?
頭を回しつつ、ミアと一緒にジョンの書斎へと転移した。ジョンは書斎にいて、授業の記録でもつけていたのだろうか、机に向かっていた。ジョンは、普段のように資料でも見に来たのだろうと、手元の仕事を進めようとした。
「至急、話したいことがあります」
ジョンが手を止めて、ルークを見る。ミアの表情も堅い。そういえば、特別任務の報告をもらっていない。直接話すべき事案があったのか。気になることが、なかったわけではない。
「…ルークが送ってきたあの通信魔術には、ルーク以外の魔力が微かに載っていた。通信魔術はオッドアイ同士であれば干渉されないし、扱えたなら大丈夫だが…」
「暴走して、交わって中和しました。それよりも重大なことが」
「ん?」
暴走したと、今ルークは言った。それをすでに中和して、さらに重大なことがあると。ここまで切羽詰まったような表情を見せるふたりを、ジョンは見たことがなかった。
「オッドアイ魔術師なら、片目を隠す意味もないですよね」
「どういう意味だ」
「さっき、ミアに言われて、だから慌てて転移してきたんですが」
ジョンにも、ミアから聞いたことを伝える。ルークが寝耳に水だったこともあり、ジョンの想定からも抜けていたらしい。
「…そうか、オッドアイ魔術師としての特別任務は初だったな」
「完全に盲点でした」
「今回の件で、東方がここ、中央国を目的に動いてきたことは確かだ。時間を空けずに次の動きがあるだろう」
「そうですね…」
ルークとジョンの話を聞いていたミアの心は、まだ落ち着かず、ずっとざわざわしたままだ。まだ、何かある。忘れていることがあるか、それとも、これから起こることへの不安だろうか。
「もう少し気を配るべきでした」
「いや、問題ない。王都には結界もある。ルークひとりに任務をさせている以上、ある程度のリスクは考慮の上だ。たとえオッドアイの魔術師だからと言っても、自ら晒す必要はない。ルークは予知を聞いて、指示通りに任務を行っただけだ。それ以上もそれ以下もない」
「……」
チャールズなら、ルークの今回の任務が失敗だとは言わないだろう。だからこそ、ルークは気付けなかった自分に腹が立つ。これから東の国が動きを強めてくる。今回のような油断は、今まで以上に許されない。
「改めて、今回の報告を聞こうか。橙の景色はどうした?」
ルークはジョンに、ミアに話していたことを伝えた。チャールズには、ジョンが伝えてくれるらしい。ミアも、その方がいいと思っていた。ルークは明らかに動揺しているし、魔力暴走もあった直後だ。落ち着くための時間が必要な気がした。
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