路地裏のカフェは、もこもこ尽くし

藤見暁良

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第二章 もっこもこカフェ営業中!

ときめきキッチン

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「ステラさん、俺なんかがキッチンになんて入ったら、邪魔になるだけですよ!」
「全然大丈夫ですよ~。そんなに狭いスペースじゃありませんから」
 それって俺くらいの人間、簡単にさばけるくらいの場所はあるってことなのかぁぁぁ――――!?
 今すぐ逃げ出したいのに、俺の腕を掴むステラさんの手が振りほどけない。人形のように可愛らしい彼女のどこにこんな、成人男子一人を引っ張れる力があるのだろう。ステラさんでこんな力があるのなら、バウムさんには絶対に敵いっこないじゃない!
 北海道で売られてい木彫りの熊が頭を過る。あの躍動感のある熊の口に咥えられた魚みたいに、俺もバウムさんの爪先と牙に踊らされてしまうに違いないんだ――――。
 簡単にイメージが浮かんでしまう自分の情けない結末に、涙目になってきた。
 あのクリームシチューは、より美味しく食べるための下味が施されていたのかもしれないな。うん、凄く美味しかったもんな。せめて俺も、美味しくなりますように――――って、簡単に食べられちゃ駄目だろ!!
 無駄な抵抗だとしても、諦めずに抗ってみせる。
「マジ、俺の美味しくないですって~!」
「今日はキッチンの見学だけですから! 仕事に慣れてきて料理とかも出来そうでしたら簡単なものとか作って貰うかもしれませんが、それはバウムさんが決めると思います」
 ステラさんの言葉に、ようやく事態が飲み込めてきた。
「え……俺が、料理を作るんですか?」
「おいおいですかね~。料理は向き不向きがあると思いますので、テストはさせて貰いますね」
 良かった――――どうやら俺は『食べられない』ようだ。
 材料にならずに済んだ安堵感で、ついつい深く考えずに受け答えをしてしまう。
「はぁ~それは構わないんですが……」
「わぁ~お料理もやる気になって頂けて嬉しいです! 今から楽しみにしていますね!」
「え……い……」
 ――――いや! 構うだろ!  
料理なんて、まともにしたことないし! 目玉焼きしか作れないよ? てか、やる気にまだ全然なっていないんですけど~!
 俺の心の激しい動揺など感知もせず、ステラさんは嬉しそうにキッチンへ突入していく。
 ステラさぁぁぁん! もこもこたちの真の姿が見えるなら、俺の心の中も読み取ってくださぁぁぁい!
 そんな心の叫びは少しも届くことなく、俺はとうとうキッチンの中に入ってしまった――――。

 キッチンの入り口には料理を置きやすいようにか、カウンターがあって、キッチンに直結はしていなかった。
 店内とキッチンを仕切る壁には小さな窓のような穴が数か所開いていて、ステラさんは入り口から一番奥の窓の所に椅子を用意する。どうやら今度は、ここが俺の見学場所のようだ。
「ここから店内の様子も見れるようになっていますので、自由にしててくださいね」
「はぁ……ありがとうございます」
「じゃぁバウムさんたちも、宜しく頼みますね~!」
 ステラさんは、やたらはつらつとした笑顔で、キッチンから去っていった――――。
 キッチンに突っ込んだら、後は丸投げですか? いくら見学だけとは言っても、何も出来ない俺がここに居るのって邪魔じゃないのかな?
 なんか申し訳ない気持ちで、恐る恐るバウムさんの方を見ると――――。
「そこで見てればいいから」
 ――――俺の思っていたことが、見透かされた。これにはまたしても、胸がきゅぅぅぅんとときめいてしまう。
 ステラさんにも読んで貰えなかった胸の内をバウムさんは気付いてくれた。
 やっぱり擬人化イケているおじ様バウム様! 俺なら絶対、バウムさん推しです! 男も惚れる男っす!
 一人勝手に、バウムさんファンクラブ状態になっていく――――。

「ありがとうございます。お邪魔にならないようにしていますので」
「あぁ、すまんな」
 ――――きゅぅぅぅん! バウムさんのさり気ない気遣いに、俺の胸のときめきが止まらない。
声も良いから、余計に心に響くぜ! 俺、いきなりそっちの方に開花しちゃうのかな?
 両手で胸元を押さえると、心臓の鼓動の高鳴りに頬が熱くなる。
 いや違うってば、俺は女の子が大好きだ! これは憧れの先輩を尊敬するような感覚だから! 
「うん!」
 興奮気味で思わず声に出して頷いてしまう。そんな怪しげな俺の顔を覗き込んでくる人影があった――――。
「大丈夫ですちゅか?」
「顔が赤いでちゅな? 熱でもあるんちゅかね?」
 まるで赤ちゃんにでも話しかけてくるような口調で、ひそひそ話をしている。なんだろう、この何かのアニメで聞いたみたいなシチュエーション!?
「胸元押さえて震えてるし、病気なのかもしれないっちゅ」
「それは大変っちゅ!」
 バウムさんへのときめきが変に誤解されて、病気にされそうになっている。これで騒がれたりしたら、次の予約に向けて準備中なのに、迷惑を掛けてしまうではないか!
「いえっ! 病気じゃないから気にしないでください!」
「ちゅっ!」
「元気みたいっちゅ!」
「あ……君たちは?」
 誤解を解こうと慌てて顔を上げたせいか、驚かせてしまったようで――――両手を上げた『双子』が立っていた。
「ビスケでちゅ」
「サブレでちゅ」
 目の前で万歳したままの双子が、順番に名前を告げる。
そしてまた、この双子もめちゃ可愛いんですけど――――今度は何の動物なんだ??
 てか一体、もこもこたちは一体何匹居るんだぁぁぁ――――!?
 
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