路地裏のカフェは、もこもこ尽くし

藤見暁良

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第四章 もっこもこカフェ見習い開始!

樹木、揺れる心

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 昨日から男前なバウムさんに、ちょいちょい胸が高鳴ってしまう。擬人化バージョンのバウムさんは言うまでもなく凄くカッコいいけど、素のシロクマバージョンの時までイケメン過ぎる。このまま一緒に仕事をしていたら、本当に惚れてしまいそうになるんじゃないかとさえ思ってしまった。
「次、何をすればいいですか?」
「ん? 張り切ってるな」
「はい、初日ですし……」
 色んな意味で禁断的な想像を誤魔化すように、無駄にやる気を出してみたりする。だけどそれが自分の首を絞めることになる想像までは、及んでいなかった――――。

「じゃぁ運んできた薄力粉をふるいに掛けてくれ」
「ふるいに?」
「あぁ、これで取り敢えず二回篩ってくれ」
 バウムさんはステンレス製の大きな円形のザルみたいなのを無造作に俺に渡してきた。
「はい……」
 お菓子作りどころか料理もまともにしたことない俺は、この器具をどう使いこなすか分かっていなくて、またしても新たな難関にぶつかってしまう。
 渡されたザルを両手で持って顔を顰めていると、バウムさんが器具を取り上げてきた。
「あっ!」
 しまった――――怒られるのか!? さっきまでのときめきは何処へやら、一瞬にして全身が縮み上がる。
「やり方知らないんだな。見本を見せるから同じようにやればいい」
「は、はい……」
 威圧感は半端ないけど、やっぱりバウムさんは優しかった。なるべくいちいち怖がらないように、気を付けねばだな――――。

 バウムさんは大きなボウルを取り出して、その中にザルを載せた。袋の中から薄力粉を掬い出し、今度はザルの中に入れる。そして、ザルを左右に振り出した。
「わぁ~綺麗だ」
 ザルからサラサラとした薄力粉が勢いよく落ちていき、ボールの中に積もった粉は見た目にも肌触りが良さそうに見えた。
 それにしても、全てが大きいな~。やはり業務用だからかな? それともバウムさん仕様なのか?
 そんなこと思っている内に、あっという間にザルの中の薄力粉はなくなって、数粒塊が残っていた。

「これは?」
「ダマ」
「あ、すみません!」
 黙って作業をしろってことかと思って急いで謝って口を閉ざすと、バウムさんはちょっと首を傾けた。何となく、苦笑いしているように感じる。
「いや、『ダマ』と言って塊が出来ることだ。これがあると見た目も舌触りも悪くなる」
「ふぁごっ! そういうことなんですね。これって基本的に必ずやるんですか?」
「あぁ、大事な作業だから頼んだぞ」
「はい、分かりました!」
「先ずは、薄力粉十キロ分でいい」
「はい! 十キロですね!」
 無知を曝け出すのは恥ずかしいけど、知らないものは知らないし、それをバウムさんも解ってくれているだろう。
 何より何気に食べて来たお菓子に、こんな工程があったのを知っただけで凄く勉強した気分だ。ただ粉を篩うだけなのに、大事な一手間なんだな~。だからお菓子って美味しいんだ。
 俺は単純に感激をしていた。
「よし、頑張るぞ!」
 さっきの粉袋運びに比べたら全然ラクチンだろうし、一袋やる訳じゃないし、簡単な作業で良かったぁぁぁ――――と思ったのが後の祭りだった。

 篩えども篩えども、我が作業楽にならず!
 慣れない作業なのもあるだろうけど、思ったより『篩にかける』作業はハードだった。それに左右にひたすら篩うだけで単調だし、時たま前後に篩ったりして気分転換しても特に変わり映えもしない。
「まだ三キロしか出来ていない……」
 てか、さっきバウムさん『二回篩ってくれ』って言ってなかったっけ? て、ことは十キロ掛ける二回だから、二十キロ分篩うってことだよね?
「マジか……」
 最初はサラサラ落ちていく粉を見ているだけで楽しかったけど、今は大吹雪に見舞われてホワイトアウトさせられる感覚になって来る。 
 あぁ俺、家に帰れないぃぃぃ。ザルを揺らしながら、心も切なく揺れた――――。


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