路地裏のカフェは、もこもこ尽くし

藤見暁良

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第四章 もっこもこカフェ見習い開始!

樹木、荒ぶる心

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「はぁ……やっと一回目が終わったぁ」
 少しずつコツは掴んできたけど、十キロを篩い終わるのにかなり時間を要している。これがバウムさんなら、きっともっと早く終わっているんだろう。
 慣れないのもあってか、力加減が下手で腕が地味に痛い。こんなことをバウムさんは毎日やっているんだ。そしてあんな美味しいお菓子やケーキを作っているんだと思ったら、今度からもっと味わって食べようと胸の中で誓った。
「さて、二回目を始めないとだな……」
 溜息のように重たい声で独り言を呟いた瞬間、ふとタルトの小生意気な顔が頭に浮かんできた。 
 そう言えばあいつ、クッキーとかバクバク遠慮なく食べていたよな。バウムさんがこんなに手間を掛けて作っていること知っているのか? 知っていなかったにせよ、知っていたにせよ、どっちにしても頭にくるな! 今日は好き勝手に威張らせてたまるか!
 昨日の俺様態度からして気に食わなかったのもあって、タルトへの怒りが腕の動きを加速させ、何故か作業が捗り始めた。
 打倒、タルト! 打倒、俺様猫! 心の中で掛け声を掛けながら、激しく篩を振っていく。みるみる篩に掛かって山盛りになっていく白い粉に、高揚感さえ湧いてくる。
 そんな俺の様子に気付いたバウムさんが、自分の作業を止めて傍に寄ってきた。

「おい」
「は、はいっ!」
 目の前に来たバウムさんを見上げると、見下ろされる目つきがどうしても怒っているように見えてしまう。
 あぁぁぁ! 俺、何かやらかしたのかも! それともタルトへの闘争心で頭いっぱいになっていたのがバレたのか?
 ジッと睨み付けてくるバウムさんに、ただただ怯えるしかなかった――――。
「疲れたら、一息いれながら篩え」
「……え?」
「煮詰まってやると楽しくないだろ」
「は……い」
 バウムさぁぁぁぁん! どうしても見た目は怖いけど、やっぱり優しい! 
 またしてもハートを鷲掴みならぬ、熊掴みされてしまう。
「ありがとうございます」
「もう少ししたら、双子も来るから」
「はい!」
 バウムさんの励ましに、タルトの嫌味な笑顔も空の彼方へ吹っ飛んだ。バイバイだ~タルト!!
 朝から緊張していたのもあったから全然気持ちに余裕が持てなかったけど、バウムさんの心遣いに甘えて軽く腕や肩を回してストレッチをしてみると、気持ちも解れてくる感じがした。
 バウムさんは、誰よりもキッチン作業も大変さを分っているんだよな。だからまだ見知ったばかりの俺の心情も察してくれるんだ。それに人生の年季も感じる。ここのもこもこたちが何歳かはおいおい分かるだろうけど、バウムさんに関しては確実に人としてというか、懐の深さを感じる。俺もこんな風に頼りになる男に成長したいな――――。
 まさか薄力粉からこんな風に考えられるようになる日が自分の人生に訪れるとは、思ってもいなかった。
 そもそも動物が喋ってカフェ経営していること自体、早々遭遇することではないのだけど――――。

 軽く気分転換も出来たし、気持ち新たに篩を手に持ち直す。残り約五キロくらいだ、一気に篩い切ってしまおう! ――――と気合入れた時だった。
 バウムさんが、俺を凝視しながら忠告してきた。
「あと、向きになるなよ」
「えっ!」
 もしかしてやっぱり、タルトへの敵対心が見透かされていたのか!? バウムさんの底知れぬパワーに内心焦ってしまいそうになったが、
「調理は愛情を込めてやれ。料理に気持ちが伝わる」
 それは俺の早合点でしかなかった。
 バウムさんの料理への愛情の熱さに、俺のハートも熱くなった。自然と衝動が、喉の奥から弾け飛ぶ。
「……はいっ!! 承知しました!」
 俺の威勢のいい返事に、バウムさんは軽く頷くと自分の作業に戻っていった。バウムさんの白い大きな背中を見詰めながら、俺は引き続き白い薄力粉を愛情込めて篩い出す。
 やっぱりバウムさん、カッコいいっすぅぅぅ! もこもこメンバーでは、断トツ一推しっす!
 いつの間にか俺の中で、『バウムさんファンクラブ』が創立される日も訪れそうだった――――。
 


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