路地裏のカフェは、もこもこ尽くし

藤見暁良

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第四章 もっこもこカフェ見習い開始!

樹木、震える心

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 バウムさんが作ってくれた癒しのサンドイッチと、ステラさんが淹れてくれた励ましの紅茶で一休みしたのもあって、強力粉を篩う作業は捗ったのだけど、全粒粉と強力粉バージョンになった頃には若干スピードが落ちてきた。
 これは気持ちより、腕が辛くなってきたのだ。動きは小さいけど、ひたすら同じ動きを続けるから、俺の貧弱な筋肉が悲鳴を上げてきている。
 だけどステラさんに尽力すると言ってしまったし、他にまともに出来る作業、多分ない。
 せめてこの地味なようで重要な作業くらいは、ちゃんとやり遂げたい。何よりバウムさんが任せてくれた仕事だ! バウムさんの期待に、俺は応えたい!
 実際バウムさんが本当に期待しているか、真意のほどは分からないけど、今の俺のモチベーションアップの理由の一つでもあった。
 技術と体力が足りない分、気力でカバーだぁぁぁ! 元より大してない気力を何とか振り絞ろうとした――――。

「おはようございまちゅ」
「おはようでちゅ」
「ぬわっ!」
 一気に緊迫感を打ち破る、ほのぼの空気が登場する。
 突然のちびっ子たち、小リスのビスケとサブレの声に篩を揺すっていたリズムが崩れて、手が滑ってしまった。
瞬間――――手から弾けたように篩が吹っ飛んだ。そして飛んだ篩が勢いよく双子に飛んでいく。
「篩がでちゅ!」
「フライングでちゅ!」
 何故いちいち二人で言葉を分けるんだぁぁぁ――――は、さて置いて、このままだと小リスサイズの二匹に直撃してしまう。
「避けて――――!!」
「あいでちゅ!」
「きたでちゅ!」
 反射的に手を伸ばした先で、飛んできたフリスビーでもキャッチするみたいに、軽々と小リスたちは篩をキャッチしていた。
「……えっ? 何で?」
 スローモーションのように見えたけど、実際は一瞬の出来事で頭が付いていかない。唖然としている俺の元へ、ちびっ子たちは篩を両手で持ち上げてキャッキャッとはしゃぎながら運んでくると、真っ黒な大きな瞳を輝かせ、嬉しそうに俺に篩を差し出した。
「篩でちゅ」
「キャッチでちゅ」
「あ、ありがとうございます」
「久々のキャッチでちゅ」
「楽しかったでちゅ」
 恐縮気味でお礼を言うと、双子は小さなてを口に当てて微笑み、互いだけで会話を成立させている。何だか分からないけど、凄く気になるし、羨ましくも思えた。
「本当にごめんね。怪我とかしてないかな?」
「大丈夫でちゅ」
「篩キャッチ、慣れてるでちゅ」
「慣れてるって? 篩が飛んでくるのを!?」
「はいでちゅ」
「昔、良く飛ばしてたでちゅ」
「良くとばしてたって……」
 ――――どういうことでしょうか?? 
 こんなちびっこいのに、篩を飛ばしてキャッチするなんてどうやってんの? イメージが全然湧いてこないし、敢えて想像してみたら絵面が凄くシュールになってくる。
 ま、まさか――――バウムさんが特訓したとか? スポ根みたいに、千本ノックならぬ、千個篩とか!? バウムさんがそんなスパルタなんて思いたくないっすぅぅぅ――――!
 想像のキャパシティー越えで、頭がショートし始める。青ざめた顔で口をあけ、固まっていると、ちびっ子たちが篩に残りの粉を入れ始めた。
「こうやるでちゅ」
「楽しいでちゅ」
 まるでこれから遊び出すかのようなはしゃぎっぷりで、小リスは篩を振り出す――――。
「な、なんじゃこりゃ!」
 粉を落とすボウルを挟むように物凄いスピードで篩が左右に揺れ始めた。
 いや、揺れているというかビスケとサブレが高速で篩を投げて取っての繰り返しているのだ。それも絶妙な阿吽の呼吸でそれを繰り返しているから、篩が勝手に震えているようにしか見えない。
 凄い巧みな技である。この二匹は、身体はとっても小さいけど技術は巨匠なんだ! お師匠さんと呼ばせて下さいぃぃぃぃ!
 篩が震えている間に、俺の心は感動に震えた――――。

「篩い終わったでちゅ」
「楽しかったでちゅ」
 俺なんかの何倍も早く、残りの粉は見事に篩われていた。想像を絶す光景に、俺は度肝を抜かれた呆然んと立ち尽くしか出来なかった。
 カフェの観葉植物どころか、ただの独活の大木の如く立ち尽くす俺の前で、小リスたちはぴょんぴょん跳ねてふわふわの尻尾を揺らしている。
「樹木、いっぱい篩ってくれたでちゅ!」
「凄いでちゅ! 助かるでちゅ!」
 さっきまで泣き言を言いながら、篩った粉の山を見てビスケとサブレは感動してくれている。本当ならその言葉に素直に喜べるはずなに、俺のちっぽけな自尊心など木の葉のように吹き飛ばされていく。
「全然……凄くなんかないよ……。二人に比べたら全然……」
 普通に考えたら、小リスより人間の方が色々優れていると考えだろう。でもこのもっこもこカフェは普通なんて通用しない。きっと俺が誰よりも、未熟で力がないのだ。
 ここにいればこの先もっと、自分の非力を突き付けられる。さっきだってそうだ。同じことの繰り返しじゃないか。俺はそれに耐えられるのか?
 多分――――無理だ。
「俺……やっぱり……」
「樹木は凄いでちゅ!」
「僕たちの篩キャッチ見てくれたでちゅ!」
「いや……それは別に凄くはなくて……」
 否応なしに見えるだけだから――――と言おうとしたら、頬っぺたが今度はくすぐったい。
「ひゃっ! 何っ!?」
「また見て貰うでちゅ!」
「樹木も一緒に篩キャッチするでちゅ!」
 小リスたちが俺の肩に乗っかって、プリプリ尻尾で頬を摩っていた。
「わっ! くすぐったいよ! 二人とも降りて!」
「尻尾ふわふわでちゅよ!」
「もっこもこカフェでちゅよ!」
 尻尾のこそばゆさに悶える俺の姿に、ビスケとサブレは更に尻尾を振ってくる。くすぐったくて堪らないが、頬を撫でる毛の感触はとっても柔らかくて、気持ちが良い――――。
 小リスたちは頬だけじゃ飽き足らず、首筋や耳の中まで尻尾を擦りつけて来た。
「ひゃっ! 駄目だって、そこはっ! あぁぁぁっ!」
「樹木、面白いでちゅ」
「他の所も尻尾、当ててみるでちゅ」
「あぁぁぁん! そこは勘弁してぇぇぇ~!」

 キッチンの片隅で、可愛いちびっ子たちに変な声を出させられながらのたうち回る、非力な成人男子が一名誕生したのであった――――。
 

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