路地裏のカフェは、もこもこ尽くし

藤見暁良

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第四章 もっこもこカフェ見習い開始!

樹木、割れる心

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「お願い! もう止めて!」
 ふわふわ、もこもこが俺を蹂躙する――――。
「まだまだでちゅよ」
「もっとぷりぷりしちゃうでちゅよ」
 一対二な上に、相手の動きは凄く早くてしなやかで勝ち目なんかない――――。
「あぁぁっ! くすぐったいってばぁぁぁ!」
 小リスたちの執拗な『もこもこ尻尾』攻撃は留まる所を知らなかった――――。 

 俺たちが暫くはしゃいでいると、バウムさんの眼光が一段と鋭く光る。
「おいビスケ! サブレ! 樹木の邪魔してないで早く準備しろ」
「わっ! バウムさんちゅ!」
「怒っちゃうでちゅ!」
 バウムさんに一喝されて、やっと二匹は俺の肩から退散してくれた。流石にちびっ子たちにも、バウムさんは絶対的存在なのだろう。
何はともあれ、助かった。やっぱり困った時のバウムさんである。
「はぁ……はぁぁ……やっと終わった」
 俺は息を切らせながら作業台に両手をついて、ぐったりと頭を項垂れた。
くすぐられただけなのに、何だかやたら体力を消耗したな。折角、残りの粉をあの双子がやってくれて楽だったのに、これではプラマイゼロどころか、寧ろマイナスな感じすらする。
 でものんびり休んではいられない。次の仕事の指示を貰いに、バウムさんの所に聞きに行く。

「バウムさん。篩い終わりました。次は何をすればいいですか?」
 仕事を聞きに来たのを驚いたのか、バウムさん俺の顔を少し凝視した。
「休まなくて大丈夫か?」
「はい、さっきゆっくりさせて貰いましたから」
 正直、小リスたちの戯れの余韻は残っているが、ただ笑い転げただけだしこんなの疲れた内にならないし、恐れ多くて「疲れた」なんて言えないです。
 ハッキリと返した俺の言葉に、バウムさんは軽く頷いた。
「そうか。なら、あいつらと一緒に胡桃を割ってくれ」
「はい、分かりました!」
「樹木」
「はい!」
 指示を貰って勢いよく答えたものの、心なしかバウムさんの表情が曇っている。
 どうしたんだろう? ――――と思ったら、
「……くれぐれも、遊ばれるなよ」
「はい……承知しました……」
 ガァァァンと、頭上にたらいでも落ちてきたみたいな、強い衝撃が全身に走った。
 こんな注意を受ける俺って――――情けない!

 肩を落とし気味で小リスたちの『胡桃割り』作業に加わりに向かう。
 バウムさんに、あんなことを言わせてしまったのも凹むが、完全にちびっ子たちに遊ばれている事実に地盤沈下ならぬ自分沈下しそうな気分だ。
 正直尻尾のふっさふさ、もこもこ具合は最高だった。仕事中でなければ、いつまでも戯れてしまいそうな誘惑にも駆られた。そして恥ずかしいけど、ちょっとエクスタシーさえ感じてしまいそうだったのだ――――。
 それがあの、自分よりかなりちっこくて可愛らしい生き物たちによって、与えられたものかと思うと、物凄く自分が未熟者だと痛感させられる。
 いやいや、ちっこい癖にとか言っているんじゃないんだ。大きさじゃないんだよ。だって擬人化したって、双子はめちゃ可愛いじゃないか。その二人に弄り倒されている大学生って、どうなの? 傍からみたら、絶対可笑しいシチュエーションじゃん! 俺、変態扱いだよね?
 凹み過ぎて、自問自答だけはグングン成長していく。
「マジで気を付けよう……。どこから誰が見ているか分からないもんな」
 ――――この呟きが、然程遠くない未来に起こりえるなんて、この時の俺にはまだ知る由もなかった。

 俺が近付いてくると、双子の小リスたちは割る途中の胡桃を持ち上げたまま、ぴょんぴょんと跳んで近寄ってくる。嬉しそうに目を輝かせている姿は、可愛くて、気持ち嬉しく思えた。
「樹木でちゅ!」
「胡桃一緒でちゅ?」
「うん、割り方教えてくれるかな?」
「いいともでちゅ!」
「一緒、楽しいでちゅ!」
「お願いします~」
 昨日今日だけど、小リスたちの『チュッチュトーク』にも耳に慣れてきたのか、自然と会話が成立し始めている。
「胡桃、割ったことないんだけど、出来るかな?」
 胡桃の殻は凄く硬いイメージだ。実際触ってみると、本当に硬い。こんなの素人の俺には簡単に割れないだろう。また時間、掛かるだろうな~とほほ――――。
 早速、俺の心の森の中に暗雲が立ち込め出してきた。
 だけどビスケとサブレは――――
「大丈夫でちゅ!」
「とっても簡単でちゅ!」
 胡桃を持って、決めポーズの片足立てをする。ただポーズを決められたからって「そっか~なら安心だ~」とはならないから!
「二人は慣れているからだろ。俺はさっきの篩だって一苦労だったんだよ」
 本当に大変だった――――。ただザルみたいなのを篩い続ける作業が、あんなにも大変だったのに、今度はこんな硬い物体を破壊し続けるなんて、めっちゃ大変としか言いようがないじゃないか!
 ネガティブ発言の俺に陽気な双子も流石に一瞬黙ったが、直ぐにクスクスと笑い出した。
「な、なんだよ! 何が可笑しいんだよ!」
「樹木はアレを使えばいいでちゅ」
「胡桃割る道具、用意してあるでちゅ」
「え……そうなんだ」
「簡単に割れるでちゅ」
「楽ちんでちゅ」
 小リスたち顔を見合わせて、ニッコリと微笑んだ――――。

 良かったぁぁぁ! そうだよね。ちゃんと器具くらいあるよね! 至極当然のことじゃんか~!
 俺は胡桃を割るハサミみたいな器具を手に取って、物は試しに一個割ってみた――――ら、バキッ!! っと、軽快に胡桃の殻が割れた。
「割れた!」
「樹木、凄いでちゅ!」
「簡単に出来たでちゅ!」
 小リスたちはまるで自分ごとのように、はしゃいで喜び出す。
「出来た……」
 割ってみて気付いたけど、これちゃんと割易いように前準備がされているんだ。それが何をしたのかは今時点分からないけど、初めてでも簡単に割れたことは単純に嬉しかった。
 胡桃の山はまだ沢山あるけど、これはさっきの篩よりは楽しく出来そうな気がする。割った瞬間の感触が、小気味いいからなのもあるかもしれない。
「このまま、割っていけばいいのかな?」
「はいでちゅ!」
「そうでちゅ!」
 俺は調子づいて軽いノリで聞くと、ちびっ子たちもノリ良く返してくれる。それが更に俺のテンションを上げていく。
「じゃぁいきまぁ~す!」
「コンコンでちゅ!」
「パキパキでちゅ!」
 さっきより楽しく感じるのは、一人じゃないのもあるのかもしれないな。
 そんなこと思いながら、軽快に殻を割ろうとした瞬間だった――――カッ! パッキィィィ――――ンッ!! 
 物凄く爽快で、無駄や雑念を撥ね退けるような音が響き渡った。
「え……」
 カッ! パッキィィィンッ!! 
 カッ! パッキィィィンッ!! 
「な……」
 その音は、双子が胡桃を割った時に放っていた。
 小さい身体と手で胡桃を台に叩きつけて、一瞬で綺麗に割った上に、中身が自然と飛び出して形の整った実が空を舞っていく。
 俺がハサミで割ったのは殻も中身の半分に割れて、殻からほじくり出さないと胡桃の実は取り出せない。だから小リスたちみたいな綺麗な形にはならないのだ。
 身体だけは小リスたちより大きい癖に・・、俺は本当に非力で空っぽな人間だ!!
「あぁ凄い……やはり巨匠だ」
 カッ! パッキィィィンッ!! 
「今日も絶好調でちゅ」
「胡桃割り大ちゅきでちゅ」
 カッ! パッキィィィ――――ンッ!! 

 鳴り響く胡桃の殻の音と共に、俺の自身も、カッ! パッキィィィンッ!! ――――と、割られた感覚に陥った。


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