永遠の別れと流氷(仮)

藤見暁良

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二章

存在理由

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 ――――『なんのために生きているんだろう』。
 そう思ったのは、小学生の時。鬱々とした毎日が、そんな思考を呼び起こす。


 自分には、寂しい・・・という感情が欠落している――――。
 昔はまだ、無性に寂しいと思ったことがあった感覚は覚えている。姉の方を可愛がっている母を見て、孤独感に襲われた時とかに寂しさを感じていたと思う。
 虐めてくる男子に負けたくないのもあったけど、頑張って結果を出して親を喜ばせたかったのもあった。
 小さい頃は己の能力のレベルも数値も、知る訳がない。
 だけど頑張れば結果は付いてきた。だから頑張った――――。人一倍、頑張った。
 テストで百点を頻繁に取れるようになっていった。
 ある日の、採点されたテストが返ってきた。百点だった。
 夜になって、母が洗濯物を干しに部屋に来た時に、意気揚々と答案を見せる――――。
「テストでね。百点取れたんだよ」
 私いっぱい、頑張ったんだよ――――。
 当然の結果だと思っていたんだ。だけど母にとっては違っていた――――。
「出来過ぎても気持ち悪い。そんなことより、面白い話とかないの? お姉ちゃんみたいに……」
 母には、勉強を頑張る子供は必要なかったようだ。寧ろ『気持ち悪い』んだ――――。
 私はこの日を境に、頑張ったことを言わなくなった。
 頑張っても、否定・・されるから――――。

 だけどそれから、勉強をしなくなることはなかった。
 勉強自体は好きだったし、新しいことを覚えることに満足感もある。絵を描くのに何かしら役に立てていこうと思っていたのだ。
 何よりこの国は、『学歴社会』だ――――。勉強は出来ないより、出来た方が良いと思っていた。
 良い学校に入って、良い仕事に就いて――――お金を稼ごう。そのためには、勉強は必要だと――――。

 お金がないことで諦めなければならないことは沢山あった。お金のトラブルで、父と母の喧嘩が絶えなくなった。
 毎日、父が何か言葉を発するだけで、母は急に愚痴を言い出して怒り出す。そんな母に、短気な父も怒鳴る。そんな二人を冷たい目で見るしかなかった。
 結婚しても喧嘩はする。裕福な暮らしが出来る訳じゃない。自由なんてない――――。
 お金さえあれば、幸せは買えるし、手に入る――――。この時の私は、本気でそう思っていた――――。

 今思えば、本当に姉みたいに単純に感情に任せて生きていれば楽だったのかもしれない。
 頑張っても、頑張っても現実は簡単には変わらない――――。
 大学だって、姉は行けても私は行かせて貰えないのだから――――。


 どうにもならない現実を誰かのせいにして、憎んでいく。
 この人が父親じゃなかったら――――。
 この人が母親じゃなかったら――――。
 この人が姉じゃなかったら――――。
 あいつさえ引っ越してこなかったら――――。
 絶対、みんな許さない――――そう思っていないと、真っ暗な闇の中を踏ん張れなかったんだ。


 こんなに辛いのに、何のために生きるんだろう?
 こんなに頑張っても、死んだら全部なくなっちゃうんだよ?
 記憶も全て、なくなるの――――?
 そう思った瞬間、宇宙の闇にでも放り込まれた感覚になった――――。
 先も後も、未来も過去も何も見えない闇の中――――。

 やたら広がっていく想像力が、追い打ちを掛けていく。
『怖い――――!!』
 冷や汗が出そうな程の恐怖が、胸の奥から噴き出してくる。
 真っ暗な闇が怖いのではない――――頑張ったことが無駄になってしまうのが怖いのだ――――。


 深い絶望感が襲ってくると同時に、狂おしい程の欲望が沸き上がる。
「残したい……」
 生きた証を残したい――――そう思ったんだ。

 両親を見ていて、結婚願望も失せた。自分みたいな歪んだ人間の遺伝子も残したくもない。
 あぁ――なら尚更、絵を描こう――――。
 せめて絵を残そう。自分の生きざまを刻み込んで――――。
 それが出来れば、怖くもないし、寂しくもない。ずっと独りぼっちでも構わない。
 だって基本――生まれるのも、死ぬのも――――『一人だから』。
 その瞬間、私は『寂しさ』を捨て、生きる『理由』を得た――――。

 いつか迎える死の瞬間に、悔いなく死んでいけるように、毎日を必死で生きていこう――――。

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