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二章
高校時代
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高校生になった――――。
志望校に無事に入学できた。家からは距離があって、早起きしないとだし、定期代もかかるが、どうしてもこの高校に入りたかった。
なんでこの高校に拘ったかというと、県内でも新しい高校だったのもあって、通っていた中学からここに進学している人はまだ少ない。
私を虐めていた男子の学年――――一学年上の連中もいなかったし、そいつが行った高校より、偏差値も高かったのもある。
何より同学年で同じ中学は、誰もいなかった――――。
小学校から九年間、同じ面子で過ごしてきた呪縛から、ようやく解放された気分だった。
そんなことだから、中学の卒業式の時は女子は皆泣いていたけど、私は笑いたくて仕方なかったのを堪えていたくらいだ。
解放感――――その一言に尽きる。
自分のトラウマの部分を知っている人がいない世界は、呪縛を少し緩めていく。
それは気持ちが前向きになるものではなく、抑えつけていた感情が漏れやすくなったに過ぎなくて、私は思考は益々ブラックに色塗られるだけだった。
だけど燻っているより、マシだ――――。
今更小綺麗いになろうとも思わない。
清く澄んだ心が、どういうものかが分からないのだから――――。
同じ出身中学の人が居なくても、それなりに話せる人はい。スポーツ大会で知り合った他の学校の人たちが話しかけてきた。中には、小学校からの知人もいた。
キャプテンや部長をやっていたのも、顔が覚えられたのことに繋がった。経験は無駄にはならないことを実感する。
高校生になったら、絵を描くことだけに明け暮れたかった。だからもう運動部系に入るつもりはない。
どこで聞きつけるのか、中学時代の部活を調べて誘いに来る先輩たちもいたが、丁重にお断りをした。
高校生にでもなれば私なんかがその部活に入らなくても、レベルの高い人なんて、うんといる。
私は担任の青八木先生に、絵を描ける部活や愛好会があるか聞いた。
担任の教科は体育だったのもあって、文科系には詳しくなかったが、気さくな性格だった。
入学式が終わって間もなくした頃、私は突然、職員室に呼ばれた――――。
「早速何か悪いことしたの?」
クラスの人たちが冗談ぽく言っていたけど、私は頭の中に疑問符を浮かべながら職員室に向かう。
職員室の恐る恐る入ると、青八木先生が手招きした。
「おう! 悪いな山本。ちょっと頼みがあるんだ」
先生の頼みは、学校の広報に載せるのに、一学年の担任と副担任の似顔絵を描いて欲しいとのことだった――――。
「絵、得意なんだろ?」
私が相談したことを覚えていて、その役目を任せようとしたようだ。
正直驚いたけど、悪い気はしなかった。一応引き受けてはみたが、似顔絵の資料は先生方の集合写真一枚だけだった。
それでも入学早々の大仕事に、精一杯頑張って書き上げる。評価は上々で、先生方も、クラスメイトも驚いていた。
それから卒業するまでの三年間、学校での似顔絵やイラストを描く作業は自分がやることになって、全校生徒からも覚えられるようになっていった――――。
部活の方は、部ではなかったけど創作をメインとした愛好会があったので入会した。
趣味が同じなのもあって、クラスの友達より愛好会の友達との方が一緒にいることが多くなる。画材とかも一緒に買いに行けるのも、楽しく思えた。
愛好会でも自分の描いたものが、高評価だった。
先輩たちに、
「凄い、レベル高い!」
――――と言われて、素直に嬉しかった。
会報の表紙を描かせて貰う順番も、早く回ってきて気合が入る。
文化祭でもクラスの方の飾り付け、愛好会の方の作品制作と忙しくて充実していた。
絵を描く時間が増えたことは、素直に喜べることだった――――。
高校生には画材は、高い――――。お小遣いだけでは、欲しいものは揃えられない。
何より母が、バイトしろと口煩く言ってくる。
家の山の方じゃバイトなんて難しくて、学校の近くの方でバイトを見付けた。
小さなお弁当屋だったけど、それなりに忙しくて、人手が足りな時など結構頼られていく。
私の高校生活は、絵を描くこととバイトで明け暮れた――――。
進学は考えていなかった。一番の理由は家庭の経済状況だったが、高校卒業したらフリーターにでもなって、絵を描ける環境を整えようと思っていたからだ。
そのためだったら何でもやろうと思っていたのに――――
「やめてよ。就職して」
母に一喝されてしまう。
内心、納得がいかなかった――――。
姉には大学行かせているのに、何故私は自分の好きなことをさせて貰えないか?
生活費も、絵を描く道具も全部自分で稼ごうとしているのに――――。
そんなに生活が苦しいならと、高校二年生の時、就学旅行を行くのを止めた。担任が修学旅行担当だっただけに、自分のクラスから欠席者が出るのをプライド的に許せなったのか、相当揉めた。
「お金かかるから行きません」
と答えたら――――
「僕がお金をだすから!」
なんて言われてしまう。
そんな担任に嫌気がさしてしまったが、クラスに馴染めない人が釣られたように、一緒に不参加を決めていて、益々困惑する担任の姿が滑稽に見えた。
丁度その時期に、三者面談があった。普段ならこういうのは、母がくるのだが、この日は父がやって来た。
どっちが来ようと関係ない。進学しない自分としては、面談自体特に意味がないものだったのだが――――ここでもまた、歯車が大きく軋む。
経済的な理由もあって、進学をしない旨を伝えると担任が話を脱線させてきた。
「お金がないから、修学旅行に行かないって言うんですよ。僕がお金出そうかとも言ったんですけどね」
相当根に持っていたのだろうか、恨みがましく聞こえる。
こんな時に言う話ではないじゃないか! 内心、腹ただしかったが、余計なことを言うとこの父が何を言うか分かったもんじゃないから、やり過ごすしかない――――。
「無理に行っても意味がないし、本人が行きたくないならそれで良いと思ってますので」
修学旅行不参加に加勢してくれたことは助かった。だが相変わらず一言、余計だった――――。
「お金なくて悪いな~。だから大学進学も諦めてくれな!」
父はあっけらからんと、笑いながら言い放つ。
唖然とした――――。家庭の経済状況を気にして、進学も諦めて、修学旅行も不参加にしている子供の気持ちをこいつは全然汲み取る気がないんだ。寧ろ、ラッキーくらいに思っているんじゃないの?
情けなくて、悔しくて――悲しくて――――言葉が出ない。
まだ子供だった私は、そんなことを人前で平然と言ってのける甲斐性のない父を恨むことしか出来なかった――――。
志望校に無事に入学できた。家からは距離があって、早起きしないとだし、定期代もかかるが、どうしてもこの高校に入りたかった。
なんでこの高校に拘ったかというと、県内でも新しい高校だったのもあって、通っていた中学からここに進学している人はまだ少ない。
私を虐めていた男子の学年――――一学年上の連中もいなかったし、そいつが行った高校より、偏差値も高かったのもある。
何より同学年で同じ中学は、誰もいなかった――――。
小学校から九年間、同じ面子で過ごしてきた呪縛から、ようやく解放された気分だった。
そんなことだから、中学の卒業式の時は女子は皆泣いていたけど、私は笑いたくて仕方なかったのを堪えていたくらいだ。
解放感――――その一言に尽きる。
自分のトラウマの部分を知っている人がいない世界は、呪縛を少し緩めていく。
それは気持ちが前向きになるものではなく、抑えつけていた感情が漏れやすくなったに過ぎなくて、私は思考は益々ブラックに色塗られるだけだった。
だけど燻っているより、マシだ――――。
今更小綺麗いになろうとも思わない。
清く澄んだ心が、どういうものかが分からないのだから――――。
同じ出身中学の人が居なくても、それなりに話せる人はい。スポーツ大会で知り合った他の学校の人たちが話しかけてきた。中には、小学校からの知人もいた。
キャプテンや部長をやっていたのも、顔が覚えられたのことに繋がった。経験は無駄にはならないことを実感する。
高校生になったら、絵を描くことだけに明け暮れたかった。だからもう運動部系に入るつもりはない。
どこで聞きつけるのか、中学時代の部活を調べて誘いに来る先輩たちもいたが、丁重にお断りをした。
高校生にでもなれば私なんかがその部活に入らなくても、レベルの高い人なんて、うんといる。
私は担任の青八木先生に、絵を描ける部活や愛好会があるか聞いた。
担任の教科は体育だったのもあって、文科系には詳しくなかったが、気さくな性格だった。
入学式が終わって間もなくした頃、私は突然、職員室に呼ばれた――――。
「早速何か悪いことしたの?」
クラスの人たちが冗談ぽく言っていたけど、私は頭の中に疑問符を浮かべながら職員室に向かう。
職員室の恐る恐る入ると、青八木先生が手招きした。
「おう! 悪いな山本。ちょっと頼みがあるんだ」
先生の頼みは、学校の広報に載せるのに、一学年の担任と副担任の似顔絵を描いて欲しいとのことだった――――。
「絵、得意なんだろ?」
私が相談したことを覚えていて、その役目を任せようとしたようだ。
正直驚いたけど、悪い気はしなかった。一応引き受けてはみたが、似顔絵の資料は先生方の集合写真一枚だけだった。
それでも入学早々の大仕事に、精一杯頑張って書き上げる。評価は上々で、先生方も、クラスメイトも驚いていた。
それから卒業するまでの三年間、学校での似顔絵やイラストを描く作業は自分がやることになって、全校生徒からも覚えられるようになっていった――――。
部活の方は、部ではなかったけど創作をメインとした愛好会があったので入会した。
趣味が同じなのもあって、クラスの友達より愛好会の友達との方が一緒にいることが多くなる。画材とかも一緒に買いに行けるのも、楽しく思えた。
愛好会でも自分の描いたものが、高評価だった。
先輩たちに、
「凄い、レベル高い!」
――――と言われて、素直に嬉しかった。
会報の表紙を描かせて貰う順番も、早く回ってきて気合が入る。
文化祭でもクラスの方の飾り付け、愛好会の方の作品制作と忙しくて充実していた。
絵を描く時間が増えたことは、素直に喜べることだった――――。
高校生には画材は、高い――――。お小遣いだけでは、欲しいものは揃えられない。
何より母が、バイトしろと口煩く言ってくる。
家の山の方じゃバイトなんて難しくて、学校の近くの方でバイトを見付けた。
小さなお弁当屋だったけど、それなりに忙しくて、人手が足りな時など結構頼られていく。
私の高校生活は、絵を描くこととバイトで明け暮れた――――。
進学は考えていなかった。一番の理由は家庭の経済状況だったが、高校卒業したらフリーターにでもなって、絵を描ける環境を整えようと思っていたからだ。
そのためだったら何でもやろうと思っていたのに――――
「やめてよ。就職して」
母に一喝されてしまう。
内心、納得がいかなかった――――。
姉には大学行かせているのに、何故私は自分の好きなことをさせて貰えないか?
生活費も、絵を描く道具も全部自分で稼ごうとしているのに――――。
そんなに生活が苦しいならと、高校二年生の時、就学旅行を行くのを止めた。担任が修学旅行担当だっただけに、自分のクラスから欠席者が出るのをプライド的に許せなったのか、相当揉めた。
「お金かかるから行きません」
と答えたら――――
「僕がお金をだすから!」
なんて言われてしまう。
そんな担任に嫌気がさしてしまったが、クラスに馴染めない人が釣られたように、一緒に不参加を決めていて、益々困惑する担任の姿が滑稽に見えた。
丁度その時期に、三者面談があった。普段ならこういうのは、母がくるのだが、この日は父がやって来た。
どっちが来ようと関係ない。進学しない自分としては、面談自体特に意味がないものだったのだが――――ここでもまた、歯車が大きく軋む。
経済的な理由もあって、進学をしない旨を伝えると担任が話を脱線させてきた。
「お金がないから、修学旅行に行かないって言うんですよ。僕がお金出そうかとも言ったんですけどね」
相当根に持っていたのだろうか、恨みがましく聞こえる。
こんな時に言う話ではないじゃないか! 内心、腹ただしかったが、余計なことを言うとこの父が何を言うか分かったもんじゃないから、やり過ごすしかない――――。
「無理に行っても意味がないし、本人が行きたくないならそれで良いと思ってますので」
修学旅行不参加に加勢してくれたことは助かった。だが相変わらず一言、余計だった――――。
「お金なくて悪いな~。だから大学進学も諦めてくれな!」
父はあっけらからんと、笑いながら言い放つ。
唖然とした――――。家庭の経済状況を気にして、進学も諦めて、修学旅行も不参加にしている子供の気持ちをこいつは全然汲み取る気がないんだ。寧ろ、ラッキーくらいに思っているんじゃないの?
情けなくて、悔しくて――悲しくて――――言葉が出ない。
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