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ツンッとした冬の匂いと共に、背後からのふわっとした柑橘系のいい香りが鼻腔をくすぐるのを感じ、後ろを振り向くと同時に声をかける。
「おつかれ、早かったな」
そこには、今から声をかけようとしたばかりのかのような、手を伸ばした真琴が立っていた。
「…お疲れ、相変わらずの反応速度だな」
目を見開き、くすりと笑う真琴は通りがかりの通行人の眼を引くくらい綺麗だ。
「偶々だよ」
「偶然にしては毎回なんだよなぁ…俺が声かける前に俺って分かるのほんとになんで?」
「偶々だって、それより飯何する?」
「んー、寒いからシチューとかどう?」
「いーね、いこっか」
仕事終わりに2人で待ち合わせて家に帰り、ご飯を作って食べる生活を、大学でて仕事を始めた頃からずっと続けている。勿論どちらかが残業をしてたりしたら、その時は別々だったりするのだが、基本は一緒に。幼馴染という関係だけで成り立つこの習慣は贅沢すぎだが、お互いに不都合もないためなんの不自由なく過ごしていた。
少し指が悴んで冷たい。両手にはぁーっと息を吹きかけると、その両手を包むかのように手が添えられた。香りだつ柑橘の香り。
驚きで肩が跳ね、慌てて顔を上げた。さっきまで少し離れたところにいた真琴がいつの間にか距離を縮めて目の前に立っている事実に心臓も跳ねる。
「なっ…」
「冷たいね、待った?」
すりっ、と指先を撫でられる。
「あ、いや、そんなに待ってない」
「昔から冷え性だもんな、行こうか」
そのまま繋がれた手が引かれ、歩き出した。
「おい、手離せって」
「ごめんごめん、でもほら人が多いからさ」
昔からスキンシップの多いやつだった。しかも俺限定で。幼馴染の特権ってやつだろうか。駄目だとわかってるものの嬉しさが勝ち、文句を言う程度のことしか言えなかった。
「…真琴、お前俺だからまだいいものの、他のやつにしたら間違いなく勘違いされるやつだぞ」
「しないよ、もしかして俺そんなに軽いやつだと思われてる?」
「あぁ」
「心外だな、やらないよ」
「嘘つけ」
「嘘じゃないって、っと、はい乗って乗って。すぐエンジンかけるよ」
漸く駐車場まで辿り着く。助手席のドアをあけ、完璧なエスコートをする幼馴染に同じ男としての嫉妬と憧れを抱き複雑な気分になる。毎日のルーティンとかしてることに対しても腹が立ってくる。
こんなアルファに惚れないわけがないだろう。幼馴染という肩書きだけでここまでしてくれるのだ。好きにならないわけがない。そう、俺は幼馴染である進藤真琴にずっと恋をしている。運命というものを省いたとしても。
そう何を隠そう、このアルファである幼馴染の進藤真琴とオメガである俺、佐藤ひなたは運命の番だった。だったのにも関わらず、フェロモンが分からない幼馴染に、俺はまだ運命の番であることを本人に伝えきれていない。そのままもう5年の月日が流れようとしている。胸の内側に燻った熱はまだ熱いままだ
伝えきれていない理由は佐藤ひなた、俺の初めての発情期が起こった高1に遡る。
###
「…ふ…っ……あっ、…っ」
一瞬の昂りと共に乳白色のドロっとした液体が勢いよくでる。いつもなら一回で満足するのだが、足りない。ただ足りない。もっと。この熱を発散させたい。
一昨日から少し身体が怠いと思っていた。微妙に熱っぽく、幸にして学校は三連休で休みだった為、まだいいかと風邪薬を飲んで寝た記憶までは覚えている。
まさか発情期に入っていたなんて、誰も思わないだろう。前兆があるとは聞いていたが非常にわかりにくい。ムズムズとした感覚と出したいという下半身にたまる熱が主張する。
気怠げにパンツを下ろす。少しもたげたものは外のひんやりとした空気と熱、期待ですぐに立ち上がった。すでに先走りがでており、触るだけで気持ちがいい。
ぬちょっとした先を指で弄りつつ、優しく握り、ゆっくりと上下に動かしていく。
「…ふっ……ぁ…っ」
手も疲れて、腹筋もあそこも痛いくらいだが内側からくる熱は治る様子がない。もうどのくらいたつのか、何度目になるか分からない。
「…っく……はぁ…はぁ…」
軽い痙攣と踏ん張り、荒い息遣いが空気を揺らす。冷たい空気が吸いたくなり、ほんの少し窓を開けた。冬の冷たい空気が肌を撫で、溜まった熱を覚ましてくれる。
深く息を吸い込み、息を整える。汗と液体で全身がベタベタしていた。冷たい空気と、薬、あと色々出したおかげで頭が冴えてきたような気がする。
「…シャワー浴びよ」
汚れたシーツとタオル、枕カバーを全部手に取り、脱衣所へと向かい洗濯機に突っ込む。着ている服もまとめて回し、シャワーを浴び、新しい服に着替えた。換気終わったかなとか考えながら自室に向かう途中母親と鉢合う。
「あら、終わったの?」
「母さん、ちょっと落ち着いたとこ」
「そう、…匂い的には、今日が最後かな?明日から学校いけそう?」
冷たい手のひらがおでこに乗せられ気持ちがいい。聞くと、フェロモンが薄くなってきているらしい。
「うん、多分。」
「なら大丈夫ね、ご飯用意してあげるから座っときなさい」
「ありがとう」
俺の母はアルファである。ついでに言うなら父もアルファだ。確率的に言えば子供もアルファになる可能性が高いのだが、世の中そう簡単ではないらしい。
ぼふんっとソファに沈み、何気なしに携帯を取り出す。
「は?」
そこには夥しい量の通知が。しかも全て1人の人間からだ。最後に携帯を見たのは、金曜の夜。そこからまるまる2日ほど見てなかった分が溜まっている。
熱っぽい、と送った後の「大丈夫か?無理すんなよ」から始まり、「おはよ、体調どんな感じ?」「倒れてない?」「心配だから見舞いにいくわ」「会えないくらいしんどいのか?」「おばさんに会ったけど、寝てるのな、ゆっくりしろよ」「最近忙しかったもんな、疲れが出てるから休め」「週明け楽しみにしてる」と言う心配や「猫がいた」「クリスマスマーケットやってる、今度行こ」「見てみてサンタ」と言った日常的な報告まで。写真やスタンプ合わせて3桁もくるとは思わなかった。
こいつ暇人か?俺のこと好きなのか?
と勘違いしてしまう量だ。まぁ、そんなことあるわけないのだが。「起きた、おはよ」とだけ返す。すると即既読がつき電話がかかってきた。
「…もしも」
「ひなた、大丈夫か?!」
声色からして心配してる様子が頭に浮かぶ。
「…ふふ、必死かよ。大丈夫」
その様子がおかしくてくすくすと笑ってしまった。
「必死にもなる。熱は?」
「ある程度は下がったから明日は行けそう」
「そうか、よかった。既読も返信もなかったから余計に心配した」
「にしても3桁はないだろ」
「そんなに送ってたか?」
「自分の見てみろよ、電話かけてくれたのに寝てた、悪いな」
「いや、俺は心配で胃に穴が空くくらいだから、寝ててくれ。」
「んな、大袈裟な」
コトンと前に雑炊が置かれる。
「悪い今から飯」
「…わかったまた連絡する」
「またな、ありがとう」
「また」
プッと電話を切り、ほかほかの雑炊に手を伸ばす。
「今のって進藤くん?」
「そう」
「貴方が寝込んでる間会ったわよ、ふふ、愛されてるわね」
「母さんもやっぱそう思う?」
「思うわ、いつになったら番うのかしらって。」
「…どうかな、あいつは運命を嫌ってるのに運命を求めてるから」
「…聞いたわ、フェロモンが分からないとか…でもそんな些細なことで諦めるようならやめてしまいなさいな。お互いにね。やっぱり我が子には幸せになってもらいたいもの。お見合いでもなんでも準備はできるんだから、当たって砕けてきなさい」
「いや砕けたらだめだろ」
もうこの人は、俺が何に悩んでるのか見抜いてるらしい。さすが母親というべきか。
そう、俺の初めての発情期はおわった。これで成人として、フェロモンが出るようになり、分かるようになったんだ。ならやることはただ一つ。幼馴染に会う。これだけだ。
###
翌朝。いつも通り支度をしいつも通りの朝を迎えた俺は外に出る。冬の朝の匂いを胸いっぱいに吸い込み、足を進める。
運命ってなんだろうか。約束された恋人?幸せの象徴?偶然が重なり必然となりそれが運命になるのか。
曲がり角に差し掛かった時、大きく心臓が揺れた気がした。同時にフワッとした柑橘系の匂い。いい匂いだ。匂いの元を辿りたい。足が震え、腰が立てなくなり、塀に手をつく。
荒い息遣いが鼓膜を揺らす。熱い。熱い熱い熱い熱い、いい匂い…
「お、ひなた、おはよ…ひなた?ひなた!??!大丈夫か?!まだ体治ってないんじゃ…」
運命だ…これが運命だ。誰に説明されるわけでもなく、誰に諭されるわけでもなく本能で理解する。佐藤ひなたの運命が進藤真琴であると。もしくは進藤真琴の運命が佐藤ひなたである、という事実が。
「おい、しっかりしろ、ひなた!ひなた!!」
動転している幼馴染がきらきらと光って見える。それは冬の光のせいではない。幻覚でもない、はすだ。
「…まこと、」
「どうした?何が欲しい?何をして欲しい?」
そこで事実に気がつく。それは紛れもなく異変。
俺は運命を感じているのに。こんなにも愛しくて、こんなにもいい匂いで、こんなにもキラキラ眩しいのに。今すぐにでも抱きしめてほしい、キスして欲しい、抱いて欲しい、噛んで欲しい、攫ってほしい、お前だけの、お前だけの番にして欲しいのに。何一つとして感じておらず、困惑と焦燥した表情を浮かべる彼を、ただ呆然と眺める。
「ひなた?」
運命でも、フェロモンが分からない。運命という言葉を何よりも嫌う彼になんで言えばいいのだろう。運命なら分かってくれると思ってた。まさか運命でも分からないなんて。誰が予想できようか。
目の前が真っ暗になる。息は荒い。身体は熱い。全身が、心が、身体が、俺の全てが運命である彼を、今、求めている。
それなのに。
これから先の未来を想像し絶望を抱き、ついには自身の処理能力を超えた。
重くなる瞼に抗えず、落ちていく。
「ひなた!?ひなた!!大丈夫か、ひなた…」
薄れゆく意識の中、ただ倒れる俺の体を抱き留めながら名前を呼ぶ、運命で幼馴染の滅多にない焦った声が聞こえた。
「おつかれ、早かったな」
そこには、今から声をかけようとしたばかりのかのような、手を伸ばした真琴が立っていた。
「…お疲れ、相変わらずの反応速度だな」
目を見開き、くすりと笑う真琴は通りがかりの通行人の眼を引くくらい綺麗だ。
「偶々だよ」
「偶然にしては毎回なんだよなぁ…俺が声かける前に俺って分かるのほんとになんで?」
「偶々だって、それより飯何する?」
「んー、寒いからシチューとかどう?」
「いーね、いこっか」
仕事終わりに2人で待ち合わせて家に帰り、ご飯を作って食べる生活を、大学でて仕事を始めた頃からずっと続けている。勿論どちらかが残業をしてたりしたら、その時は別々だったりするのだが、基本は一緒に。幼馴染という関係だけで成り立つこの習慣は贅沢すぎだが、お互いに不都合もないためなんの不自由なく過ごしていた。
少し指が悴んで冷たい。両手にはぁーっと息を吹きかけると、その両手を包むかのように手が添えられた。香りだつ柑橘の香り。
驚きで肩が跳ね、慌てて顔を上げた。さっきまで少し離れたところにいた真琴がいつの間にか距離を縮めて目の前に立っている事実に心臓も跳ねる。
「なっ…」
「冷たいね、待った?」
すりっ、と指先を撫でられる。
「あ、いや、そんなに待ってない」
「昔から冷え性だもんな、行こうか」
そのまま繋がれた手が引かれ、歩き出した。
「おい、手離せって」
「ごめんごめん、でもほら人が多いからさ」
昔からスキンシップの多いやつだった。しかも俺限定で。幼馴染の特権ってやつだろうか。駄目だとわかってるものの嬉しさが勝ち、文句を言う程度のことしか言えなかった。
「…真琴、お前俺だからまだいいものの、他のやつにしたら間違いなく勘違いされるやつだぞ」
「しないよ、もしかして俺そんなに軽いやつだと思われてる?」
「あぁ」
「心外だな、やらないよ」
「嘘つけ」
「嘘じゃないって、っと、はい乗って乗って。すぐエンジンかけるよ」
漸く駐車場まで辿り着く。助手席のドアをあけ、完璧なエスコートをする幼馴染に同じ男としての嫉妬と憧れを抱き複雑な気分になる。毎日のルーティンとかしてることに対しても腹が立ってくる。
こんなアルファに惚れないわけがないだろう。幼馴染という肩書きだけでここまでしてくれるのだ。好きにならないわけがない。そう、俺は幼馴染である進藤真琴にずっと恋をしている。運命というものを省いたとしても。
そう何を隠そう、このアルファである幼馴染の進藤真琴とオメガである俺、佐藤ひなたは運命の番だった。だったのにも関わらず、フェロモンが分からない幼馴染に、俺はまだ運命の番であることを本人に伝えきれていない。そのままもう5年の月日が流れようとしている。胸の内側に燻った熱はまだ熱いままだ
伝えきれていない理由は佐藤ひなた、俺の初めての発情期が起こった高1に遡る。
###
「…ふ…っ……あっ、…っ」
一瞬の昂りと共に乳白色のドロっとした液体が勢いよくでる。いつもなら一回で満足するのだが、足りない。ただ足りない。もっと。この熱を発散させたい。
一昨日から少し身体が怠いと思っていた。微妙に熱っぽく、幸にして学校は三連休で休みだった為、まだいいかと風邪薬を飲んで寝た記憶までは覚えている。
まさか発情期に入っていたなんて、誰も思わないだろう。前兆があるとは聞いていたが非常にわかりにくい。ムズムズとした感覚と出したいという下半身にたまる熱が主張する。
気怠げにパンツを下ろす。少しもたげたものは外のひんやりとした空気と熱、期待ですぐに立ち上がった。すでに先走りがでており、触るだけで気持ちがいい。
ぬちょっとした先を指で弄りつつ、優しく握り、ゆっくりと上下に動かしていく。
「…ふっ……ぁ…っ」
手も疲れて、腹筋もあそこも痛いくらいだが内側からくる熱は治る様子がない。もうどのくらいたつのか、何度目になるか分からない。
「…っく……はぁ…はぁ…」
軽い痙攣と踏ん張り、荒い息遣いが空気を揺らす。冷たい空気が吸いたくなり、ほんの少し窓を開けた。冬の冷たい空気が肌を撫で、溜まった熱を覚ましてくれる。
深く息を吸い込み、息を整える。汗と液体で全身がベタベタしていた。冷たい空気と、薬、あと色々出したおかげで頭が冴えてきたような気がする。
「…シャワー浴びよ」
汚れたシーツとタオル、枕カバーを全部手に取り、脱衣所へと向かい洗濯機に突っ込む。着ている服もまとめて回し、シャワーを浴び、新しい服に着替えた。換気終わったかなとか考えながら自室に向かう途中母親と鉢合う。
「あら、終わったの?」
「母さん、ちょっと落ち着いたとこ」
「そう、…匂い的には、今日が最後かな?明日から学校いけそう?」
冷たい手のひらがおでこに乗せられ気持ちがいい。聞くと、フェロモンが薄くなってきているらしい。
「うん、多分。」
「なら大丈夫ね、ご飯用意してあげるから座っときなさい」
「ありがとう」
俺の母はアルファである。ついでに言うなら父もアルファだ。確率的に言えば子供もアルファになる可能性が高いのだが、世の中そう簡単ではないらしい。
ぼふんっとソファに沈み、何気なしに携帯を取り出す。
「は?」
そこには夥しい量の通知が。しかも全て1人の人間からだ。最後に携帯を見たのは、金曜の夜。そこからまるまる2日ほど見てなかった分が溜まっている。
熱っぽい、と送った後の「大丈夫か?無理すんなよ」から始まり、「おはよ、体調どんな感じ?」「倒れてない?」「心配だから見舞いにいくわ」「会えないくらいしんどいのか?」「おばさんに会ったけど、寝てるのな、ゆっくりしろよ」「最近忙しかったもんな、疲れが出てるから休め」「週明け楽しみにしてる」と言う心配や「猫がいた」「クリスマスマーケットやってる、今度行こ」「見てみてサンタ」と言った日常的な報告まで。写真やスタンプ合わせて3桁もくるとは思わなかった。
こいつ暇人か?俺のこと好きなのか?
と勘違いしてしまう量だ。まぁ、そんなことあるわけないのだが。「起きた、おはよ」とだけ返す。すると即既読がつき電話がかかってきた。
「…もしも」
「ひなた、大丈夫か?!」
声色からして心配してる様子が頭に浮かぶ。
「…ふふ、必死かよ。大丈夫」
その様子がおかしくてくすくすと笑ってしまった。
「必死にもなる。熱は?」
「ある程度は下がったから明日は行けそう」
「そうか、よかった。既読も返信もなかったから余計に心配した」
「にしても3桁はないだろ」
「そんなに送ってたか?」
「自分の見てみろよ、電話かけてくれたのに寝てた、悪いな」
「いや、俺は心配で胃に穴が空くくらいだから、寝ててくれ。」
「んな、大袈裟な」
コトンと前に雑炊が置かれる。
「悪い今から飯」
「…わかったまた連絡する」
「またな、ありがとう」
「また」
プッと電話を切り、ほかほかの雑炊に手を伸ばす。
「今のって進藤くん?」
「そう」
「貴方が寝込んでる間会ったわよ、ふふ、愛されてるわね」
「母さんもやっぱそう思う?」
「思うわ、いつになったら番うのかしらって。」
「…どうかな、あいつは運命を嫌ってるのに運命を求めてるから」
「…聞いたわ、フェロモンが分からないとか…でもそんな些細なことで諦めるようならやめてしまいなさいな。お互いにね。やっぱり我が子には幸せになってもらいたいもの。お見合いでもなんでも準備はできるんだから、当たって砕けてきなさい」
「いや砕けたらだめだろ」
もうこの人は、俺が何に悩んでるのか見抜いてるらしい。さすが母親というべきか。
そう、俺の初めての発情期はおわった。これで成人として、フェロモンが出るようになり、分かるようになったんだ。ならやることはただ一つ。幼馴染に会う。これだけだ。
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翌朝。いつも通り支度をしいつも通りの朝を迎えた俺は外に出る。冬の朝の匂いを胸いっぱいに吸い込み、足を進める。
運命ってなんだろうか。約束された恋人?幸せの象徴?偶然が重なり必然となりそれが運命になるのか。
曲がり角に差し掛かった時、大きく心臓が揺れた気がした。同時にフワッとした柑橘系の匂い。いい匂いだ。匂いの元を辿りたい。足が震え、腰が立てなくなり、塀に手をつく。
荒い息遣いが鼓膜を揺らす。熱い。熱い熱い熱い熱い、いい匂い…
「お、ひなた、おはよ…ひなた?ひなた!??!大丈夫か?!まだ体治ってないんじゃ…」
運命だ…これが運命だ。誰に説明されるわけでもなく、誰に諭されるわけでもなく本能で理解する。佐藤ひなたの運命が進藤真琴であると。もしくは進藤真琴の運命が佐藤ひなたである、という事実が。
「おい、しっかりしろ、ひなた!ひなた!!」
動転している幼馴染がきらきらと光って見える。それは冬の光のせいではない。幻覚でもない、はすだ。
「…まこと、」
「どうした?何が欲しい?何をして欲しい?」
そこで事実に気がつく。それは紛れもなく異変。
俺は運命を感じているのに。こんなにも愛しくて、こんなにもいい匂いで、こんなにもキラキラ眩しいのに。今すぐにでも抱きしめてほしい、キスして欲しい、抱いて欲しい、噛んで欲しい、攫ってほしい、お前だけの、お前だけの番にして欲しいのに。何一つとして感じておらず、困惑と焦燥した表情を浮かべる彼を、ただ呆然と眺める。
「ひなた?」
運命でも、フェロモンが分からない。運命という言葉を何よりも嫌う彼になんで言えばいいのだろう。運命なら分かってくれると思ってた。まさか運命でも分からないなんて。誰が予想できようか。
目の前が真っ暗になる。息は荒い。身体は熱い。全身が、心が、身体が、俺の全てが運命である彼を、今、求めている。
それなのに。
これから先の未来を想像し絶望を抱き、ついには自身の処理能力を超えた。
重くなる瞼に抗えず、落ちていく。
「ひなた!?ひなた!!大丈夫か、ひなた…」
薄れゆく意識の中、ただ倒れる俺の体を抱き留めながら名前を呼ぶ、運命で幼馴染の滅多にない焦った声が聞こえた。
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