赤字国家に召喚されたので、まずは売却から始めます──でも断られたので価値を爆上げして帝国に頭を下げさせることにしました【TOP3入り感謝】

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第二部:国内動乱編

第七節:戦後処理

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 白大理石の床を舐める陽光が、王城の謁見(えっけん)の間を静かに照らしていた。

 天蓋の下、ミティア公国〈大公〉――加賀谷 零が正装のマントを翻し、円卓の奥に立つ。
 隣に並ぶのは、公女リィナ。文官たちと近衛副官、そして軍務長ガロウが控え、評議は今まさに結論を迎えようとしていた。

 鎖をかけられた捕虜が膝をつく。
 黒狼隊の指揮官ハーシェル、そして反乱を焚き付けた没落伯爵バルト・グレノア――かつての尊大さは影も形もなく、唇は血の気を失っている。

 加賀谷は一冊の帳簿を広げ、無機質な声で告げた。

 「偽装会計・資金洗浄・兵站支援。反逆の証拠は揃っている。――よって、グレノア伯爵家を反逆罪で断罪し、爵位を剥奪。資産は国庫へ編入する」

 ざわり、と文官席が揺れた。
 リィナが一歩前に出る。

 「諸侯の異議は?」

 誰も声を上げない。
 リィナは静かな決裁印を卓上の石板に押し、加賀谷へと視線を返した。

 「これより先は、法の手続きに則り執行いたしますわ。大公閣下、ご承認を」

 「異議無し」

 短い返答が、伯爵家の終焉を告げた。


* * *


 評議が散会し、側面の小会議室へ場所を移す。
 円卓中央に、捕虜供述・押収品の目録・裏金流通図が投影される。ミロが震える指でページを送りながら報告した。

 「武器商人《カンダス行商連》から流れた金貨五千、傭兵雇用証文が四通。資金源は、グレノアを含め貴族家三件――」

 「名を伏せるな」
 加賀谷が遮り、首を横に振る。

 「公文書に乗せる。貴族院の議席配分を全面的に洗い直す。兵站税を掌握する旧家は、次の改革の障壁になる」

 ガロウは腕を組み、頷いた。
 「軍制改革も進める。予備役の再編を急ぎ、王都外郭の守備線を強化する」

 「財務局は改訂予算案を三日で」
 加賀谷が言う。

 「数字を上げてくれ。人選は私が決める」

 「か、かしこまりました!」
 ミロが端末を抱え直し、瞳を輝かせた。


* * *


 夜半近く、長い回廊を二人の足音がゆく。
 リィナは欄干にもたれ、夜灯りの街を見下ろした。

 「……昔の私なら、貴族の横暴を正すだけで満足していたでしょうね」
 囁くような声だった。

 「けれど、国って数字だけじゃ動かない。感情も、誇りも、人の意志も――あなたに教わりました」

 加賀谷は歩みを止め、肩越しに夜景を眺めた。
 王都の市場には灯がともり、整い始めた街路を行き交う人々が小さく揺れている。

 「改革で“奪う価値”が生まれた。それを示したのが今回の反乱だ」

 低い声が石壁に反響する。
 「価値を生んだ以上、守り抜く仕組みを完成させる。それが次の仕事だ」

 リィナは小さく笑う。
 「――大公閣下。次の改造計画、私も前線に立ちますわ」

 「頼もしい」
 加賀谷は短く答え、歩を進めた。

 月光が二人の影を長く伸ばす。
 国はまだ未完成だ。それでも、確かに動き出している。

 数字と剣と、人の意志が噛み合う歯車の音が、静かに夜空へ広がっていった。
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