赤字国家に召喚されたので、まずは売却から始めます──でも断られたので価値を爆上げして帝国に頭を下げさせることにしました【TOP3入り感謝】

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第六章:共栄連合構想──繁栄は交差する

第二十三節:投資議会と“株式の夜明け”

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 ヴェステラの政庁議会室。
 かつては無名の辺境だったこの都市に、いまや五十を超える都市・国家・ギルドの代表者が集っていた。

 壇上に立つ加賀谷の声は、静かで、それでいてよく通る。

「――国家ファンドの創設から、ちょうど半年ほどになります」

 この一言に、場内が一瞬だけ静まり返る。
 それは、参加者それぞれの記憶と成果を呼び起こしたからだ。

 ファンド──
 それは信用によって成り立つ、未来への投資機関だった。
 “国家そのもの”を事業と見なし、透明な帳簿と利益配分によって信用を高めてきた。
 税ではなく出資で、公国を運営するという奇跡のような制度。
 そして、それが信頼を生んだ。

「だが、次は――もっと開かれた形で未来を共有したい。新たに導入する制度は、“公開株式制度”です」

 加賀谷の背後で、ミロが端末を操作すると、魔導投影が空中に図式を描き出した。

「株式は、“事業”や“組織”の将来価値を、小口で売買できる形にした証券です。
 誰でも手にできるようにすることで、より多くの資本を引き寄せ、挑戦の土壌を広げられます」

 ざわつく議場。その中から、重厚な声が響いた。

「……都市ごと“売りに出す”つもりか?」

 その声が響く少し前。
 議場の中で、加賀谷の視線がひとりの男を捉えていた。

 旧ギルド連合、ティグラット連合の代表席。そこに堂々と座るのは、貿易王の異名を取る男――レオン。
 かつて中継貿易の構想を打ち出した際、誰よりも早く賛同し、物資と人脈を動かしてくれた協力者だった。
 武よりも商で支配する。都市間を結び、物流の要衝を押さえる手腕は並ぶ者がない。

 つい最近も、魔法布の販路拡大計画の危機に瀕した際、加賀谷とジルを救ってくれたばかりだ。

 元は一介の交易頭に過ぎなかったが、ギルド連合の分裂と内紛の混乱の中、彼は一人、交易網と信用を武器に旧勢力を次々と懐柔した。
 気づけば、ティグラット連合は彼の旗のもとに再統一されていた。
 いまや彼は、交渉と流通を以て周囲の都市を動かす、“静かなる覇者”である。

 加賀谷にとっては、戦場の武将よりも、こうした“利で動く賢者”の存在こそが、なにより頼もしかった。

(――しれっと現われたけど、ティグラットの顔の見えない首領って、コイツだったのかよ)

 そんな内心をよそに、レオンはにやりと笑う。   

〈ティグラット〉の新たな首領、レオンの発言は切り込んだ内容だが口調は咎めではない。
 むしろ、問いかけに似た興味。

「都市ではありません。“企業”です。今後、この連合に参加する各地で、事業体としての企業を設立します。その資本を一般に公開するだけの話です」

「……ふむ。つまり、金を持つ者が都市の一部を買えるということではない、というわけか」

 「むしろ逆です」と、加賀谷は頷く。

「これまで力を持たなかった者たちにも、“持てる”チャンスを広げるための制度です。貧民にも、異国の旅商にも、“未来を買う権利”を開放する。それがこの制度の本質です」

 場内が静まり、そして――砂漠の民が動いた。

 キャラバン国家〈ゼルハ・トゥーラ〉の代表者、深紅のターバンを巻いた青年がゆっくりと立つ。

「我らは代々、“信”によって貨物を渡し、“義”によって契約を果たしてきた。……ならば、“株”という証に、未来の利益を託すのも、同じことかもしれんな」

 大きく頷きながら、南岸の港湾都市〈メルフィリア〉の長も立ち上がる。

「この制度が根付けば、我が街の港も、交易も、もっと活気づく。……だが、一点、懸念がある」

「どうぞ」

「海外資本による“企業乗っ取り”の危険だ。規模の小さい都市ほど、一気に買われかねん。防波堤は?」

 加賀谷は一拍、息を吸うと、明確に返す。

「出資比率の上限、敵対的買収の制限、取締役の選任基準――すべて想定済みです。法的枠組みと連携し、段階的に整備を進めます」

「……ならば、協力しよう。だが、あまり“幻想”は見るな。制度は血を流さぬ戦争の道具でもある。気をつけることだな」

「ご忠告、痛み入ります」

 次々に賛同の手が挙がる。
 議場の温度が、確かに変わった。

 ティグラットのレオンが、にやりと笑った。

「まったく……国ごと売るつもりだった男が、今度は“未来”まで売りに出すとはな。だが面白い。ティグラット連合として、第一号企業の設立に協力しよう」

「心強い限りです」

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