赤字国家に召喚されたので、まずは売却から始めます──でも断られたので価値を爆上げして帝国に頭を下げさせることにしました【TOP3入り感謝】

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第六章:共栄連合構想──繁栄は交差する

第二十四節:異世界でもIPO

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 加賀谷は深く頭を下げ、静かに礼を述べた。
 その動作ひとつが、場に誠意を伝える。議場の空気が、協調と期待に変わっていくのが分かる。

 その後ろで、ミロがもう一枚の魔導投影を展開する。そこには、第一号企業の構想図が描かれていた。社名はまだ仮のものだが、事業内容、初期資本、所在地、そして運営予定の人材が記されている。

「第一号企業は、このヴェステラにて設立予定です。事業内容は――魔導輸送と情報通信の一元化。名を『ルミナリンク社』と仮称しています」

 ざわめきが広がる。
 この都市の急成長を支えてきた、魔導路と転送点、それに連なる通信網。誰もが便利さを実感していたが、それを“事業”として切り出す発想は、まだ斬新だった。

「これまで国家やギルドの枠組みに依存していたインフラを、一企業として独立採算で運営する。そのかわり、利益と成長は投資者全体に還元されます。──まさに、新時代のモデルケースです」

 議場の前方。ティグラット連合のレオンが再び口を開く。

「……その企業の株を、俺らにも譲渡できるということだよな?」

「もちろんです。議決権の範囲や、初期保有比率は調整しますが、連合としての出資も歓迎します」

 レオンは腕を組み、ふんと笑う。

「いいだろう。うちの若い衆にも“金が働く仕組み”ってやつを学ばせてやるさ」

 その横で、ゼルハ・トゥーラの代表が静かに手を挙げた。

「では、我らも少額ながら出資しよう。……一口に、砂漠に光の道を通せるかもしれんからな」

 次いで、港湾都市メルフィリアの代表が頷く。

「港にも、情報と輸送の網は必要だ。出資だけでなく、港の一角に拠点を提供しよう。広域運営の実験地として、我が街を使え」

 次々に、前向きな声があがる。
 この瞬間、ひとつの理念が制度となり、制度が現実へと踏み出したのだった。

 加賀谷は、壇上で静かに目を閉じる。

(ここから先は、ただの制度導入ではない)

 それは、“誰もが未来の担い手になれる”という、希望の可視化だった。
 資本は、差別の道具にもなり得る。
 だがそれを“共有する力”として扱うなら、人は生まれや境遇に関係なく、夢を持てる。

 壇上の彼の横で、ミロがそっと囁いた。

「れ、れいしゃちょー……設立申請書の署名、よろしいですか……?」

「……ああ。ありがとう、ミロ」

 彼女が差し出したのは、一枚の契約書。
 それはこのヴェステラから始まる、“未来への最初の出資証明”だった。

 加賀谷は羽根ペンを手に取り、一文字ずつ、確かに名前を書き記す。
 その筆跡を読み取るように、魔導投影が光り、議場の中央に“企業設立”の証と、その名が浮かび上がった。

 ──ルミナリンク社。
 この瞬間、異世界に初めて“上場企業”が誕生した。

 加賀谷零、ミティア公国大公にして、CEO。
 彼にとって、これは人生で二度目の上場だった。
 今度は異世界の地で。

 だが――

 その意味は、かつての比ではない。
 これは一国の希望を背負った、“民の手で育てる国家”という夢への第一歩だった。

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