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07 艦上生活 1 ※
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「あっ、あっ、ふっ……、ん、あぁあっ……」
「ちょっとは慣れてきたかな? ここで感じるようになってきたよね?」
ディートハルトは楽しげに微笑みながら、ぐり、と自身の性器で有紗の最奥を小突いた。
後ろから犯された二回目は、動物の交尾みたいで最低だったが、だからと言って前からの方がいいかと言えばそんなこともなかった。
感じてる顔を見られるから、正面から組み伏せられるのも同じくらい最低だ。しかもディートハルトは奥ばかりを突いてくる。有紗の子宮口をよほど開発したいらしい。
「アリサは愛玩奴隷だから、俺に抱かれるのが仕事だよ」
押し倒される前、ディートハルトにそう言われた。
それはその通りなのかもしれないが、その理不尽を気持ちの部分で飲み込めるかはまた別の話だ。
昼間、街で有紗の生活に必要な物を揃えてくれた事には感謝している。
ディートハルトは格好いいし、王子様だし、娼館などに売られるよりは、余程いい生活を送らせて貰えるであろう事も理解出来る。でも。
お前は性欲処理に使う女だと言われて、わかりましたと受け入れる事は、現代日本の倫理の中で育った有紗には出来なかった。
憲法によって人権が当たり前のように尊重されていた日本という国は、本当に素晴らしい国だったのだと離れてみて初めてわかる。
身体や精神の自由も職業選択の自由も法の下の平等も――何一つこの世界では有紗には認められていない。
帰りたいという思いとともに、ぽろぽろと涙が零れた。
ディートハルトは先端で子宮口を虐めるのが余程好きらしく、執拗だった。
何度も何度も鈴口を有紗の最奥に擦り付けてくる。
小刻みに前後に動かすだけではない。回すように動かしたり、強く押し付けて抉るように動かしたり、その度にだらだらと零れる先走りが塗り込められているのだと思うと、卑猥さに気が遠くなった。
最奥まで挿入されているという事は、ディートハルトの全てを咥え込まされているという事だ。
根元までずっぽりと捩じ込まれ、有紗は喘ぎながら身を捩った。
「うっ、ん、ふっ、あ……」
「滅茶苦茶気持ちいいよ、アリサ……締め付けすご……」
ディートハルトはとろりと蕩けた眼差しで、有紗に覆い被さりながら耳元に口付けてきた。
胸の膨らみがディートハルトの胸板に押し潰されている。身体の前面全体にディートハルトの逞しい身体を感じた。
「アリサは? 気持ちい……?」
尋ねられて有紗はふるふると首を振った。
微弱な快感らしきものは感じられるが、それよりも苦しさの方が強い。体格相応に大きなものを目一杯押し込まれて、内臓が押し上げられるような苦しさがある。
絶対にディートハルトには白状したくないが、陰核や浅い部分の性感帯を弄られる方がずっと気持ちいい。
「も、奥ばっか、や……苦し……」
「そうだろうね。アリサは小さいから。早くこっちで感じられるようになろうね」
囁きと共にちゅ、と口付けられた。そしてそのまま、舌が侵入してくる。
口腔内を貪る舌の動きと子宮口への攻めが連動する。
(この変態、奥ばっか……)
ディートハルトの顔が至近距離にあると、彼の匂いであるミント系の香りを強く感じる。
キスされながらの挿入は嫌だ。なんだか身体が切なくなって、有紗の意志とは関係ない場所でディートハルトのものをきゅうっと締め付けてしまう。
「あー、やばい、いきそ……」
唇がようやく解放された。
とろんとした囁きと共に、ディートハルトは腰を激しく動かし始めた。
これは彼が達する為の動きだ。ようやく性交を終わらせてくれる気になったらしい。
何度も最奥に先端を擦り付けるのは変わらない。男根を刻み込み、自身の体液を擦り込むために何度も何度も。
一際きつく子宮口に先端を押し付けられて――
びゅる、と吐精が始まった。
肉棒は精を吐き出す度に痙攣し、胎内を白く染めていく。容赦のない膣内射精だ。
テラ・レイスである有紗とディートハルトの間には子供は出来ないのだという。だから毎回ディートハルトは胎内に放つ。
それが有紗にはとても悲しい。お前は精液を排泄する為の穴なのだと言われている気がするのだ。
ぼろぼろと泣きながら有紗はディートハルトの白濁を受け止めた。
◆ ◆ ◆
一度では終わらず追加で二回、また身体を好き勝手にされた。二回目はお腹に掛けられ、最後はもう一度中で出された。
ディートハルトは絶倫野郎だ。おかげで今日も身体が重だるい。
有紗が目覚めると、既にこの浮遊戦艦ヴァルトルーデは陸を飛び立ち、空中にあった。
重い身体を叱咤し、有紗は身支度を整える。そして、寝室の窓から見える外の景色が視界に入ってきて――思わず見入ってしまった。
「そんなに外は面白い? テラにも空飛ぶ乗り物はあるはずだよね? 飛行機も飛行船も」
窓にかじりついて外を眺めていると、寝室を覗きに来たディートハルトが声を掛けてきた。
今日も腹立たしいくらいに軍服が似合っている。
「ありますけど、向こうでは飛行機が主流で、飛行船に乗るのは初めてです」
「面白いね。こちらではどちらも使われてるけど用途が違う。飛行船は飛行機よりも飛行の為の魔力効率に優れていて、航続距離が長く大量の物資を積めるから、人と物の輸送用として使われている。一方で機動性の高い飛行機は戦闘機として開発されてきた」
「そうなんですか」
「うん。そっちではどうして飛行船は廃れたの?」
ディートハルトに尋ねられ、有紗は記憶を探った。
小説、漫画、新聞、テレビ、何で見たのかまでは思い出せないが、確か第一次世界大戦の時は、飛行船は軍用としても旅客輸送としても使われていたはずだ。
「確か……あまり速く飛べない上に、気球の部分に燃えやすいガスを使ってて、安全性に問題があったから、だったと思います。大きな墜落事故があったような……」
アメリカでは、海の空母に変わる空中空母構想というのもあったようだ。しかし飛行船の安全性に問題があったため頓挫し、結局実現はしないまま終わった筈だ。
「ふうん、こちらでは、気球があるからこその魔力効率なんだよね。補助揚力として気球を使ってて、気球内部に入れているのは、不燃性の特殊な浮揚ガスなんだ。メインの動力は魔力だからね、速度も結構出るんだよ。少なくとも複葉機には負けない」
「かなり大きいですけど的になったりはしないんですか? 確か地球で飛行船が廃れたのは、飛行機が発達して、いい的になるだけだったからって何かで見たような気がします。あやふやですけど」
「そう簡単に撃墜されたりしないよ。結界を張ってるからね。そもそもこの浮遊戦艦ヴァルトルーデを動かしてるのは俺だ。俺の魔力を突破できる奴はそうそう居ない」
「そうなんですか?」
「言わなかったっけ? 俺の魔力は規格外だって」
そう言ってディートハルトはふふん、と胸を張った。
「それにしても有紗は割と博識だね。向こうではどんな職業に就いてたのかな?」
「ただの学生です」
「ただの学生とは思えないけどね……何を勉強してたの?」
「歴史です」
有紗の答えに、ディートハルトは目を見開いた。
「テラの歴史か。バルツァーが喜びそうだ。勿論俺もこの可愛い頭の中に何が詰まっているのか知りたいな」
ディートハルトが有紗の目を覗き込んできた。そして髪に触れられる。
(軽薄、気障)
軽蔑の眼差しを向けると、ディートハルトは苦笑いをした。
「お腹は空いてない? 軽食をこちらに用意してあるからおいで」
ディートハルトは、有紗に執務室の方に移動するよう促した。空腹を感じていたのでついて行くと、応接セットのテーブルの上にドーム状のカバーが被せられたトレイが置かれていた。
「出来たてじゃなくてごめんね。艦内では食事の時間は決まってるんだ」
「いいえ、用意して頂けるだけでありがたいです」
(時間通りに食べれないのはあんたのせいだけど)
有紗は心の中で突っ込みながらも、有難く食事を頂くことにした。
カバーを外すと、彩りの綺麗なサンドイッチとサラダ、果物が並べられていた。
「冷たい……」
「食事が傷まないようそのディュシュカバーには保冷の魔術が込められてるんだ。司厨長が気を利かせたみたいだね」
「司厨長?」
「料理を担当する軍人の事だよ。一番上が司厨長。その下は司厨員」
「へえ……」
この船の食事は結構美味しい。サンドイッチもサラダにかかっているドレッシングも、お洒落なカフェみたいな味がした。
執務用の机に書類を広げながら、ディートハルトは何が楽しいのか食事を摂る有紗を観察している。
「見られると食べにくいです」
「ああ、ごめんね、動物みたいだったからつい」
安定のペット扱いに有紗の心の中に澱が積もった。
こちらにいる事に気付いてから、その澱は積もり続けている。
書類仕事に戻ったディートハルトは、食事が終わったのを確認してから有紗に近付いてきた。
警戒する有紗に、本を差し出してくる。
「俺は後で艦橋に行かなきゃいけないから、その間の暇潰しに」
「……読めません」
表紙には、見た事の無い記号のような文字でタイトルが書かれている。
「そう言うと思って挿絵が楽しめるものを選んだんだ。多少の時間は潰せると思うよ」
ぱらぱらと捲ると、画集と絵本の中間のような本だった。
こちらの風景だろうか、初めて目覚めた農村に似た村や、都市部の絵が白黒印刷だが美しい筆致で描かれている。
「文字は読めないのに言葉は通じるっておかしくないですか? どうして皆日本語を話してるんです?」
「ニホンゴ? それがアリサの母国語?」
「そうですけど……」
何か話が噛み合ってない気がして、有紗は眉を顰めた。
「声として発せられる言葉には魔力が宿ると言われてるんだ。だから、こちらの世界では、どんなに遠国の人間とでも会話は通じる。文書に関してはそれぞれの国のものを学ぶ必要があるんだけどね。アリサと俺の会話が通じるのはその為だと思う。俺にはアリサがフレンスベルク語を話しているように聞こえてる」
「……不思議な世界ですね」
有紗にはそう言う事しか出来なかった。
「ちょっとは慣れてきたかな? ここで感じるようになってきたよね?」
ディートハルトは楽しげに微笑みながら、ぐり、と自身の性器で有紗の最奥を小突いた。
後ろから犯された二回目は、動物の交尾みたいで最低だったが、だからと言って前からの方がいいかと言えばそんなこともなかった。
感じてる顔を見られるから、正面から組み伏せられるのも同じくらい最低だ。しかもディートハルトは奥ばかりを突いてくる。有紗の子宮口をよほど開発したいらしい。
「アリサは愛玩奴隷だから、俺に抱かれるのが仕事だよ」
押し倒される前、ディートハルトにそう言われた。
それはその通りなのかもしれないが、その理不尽を気持ちの部分で飲み込めるかはまた別の話だ。
昼間、街で有紗の生活に必要な物を揃えてくれた事には感謝している。
ディートハルトは格好いいし、王子様だし、娼館などに売られるよりは、余程いい生活を送らせて貰えるであろう事も理解出来る。でも。
お前は性欲処理に使う女だと言われて、わかりましたと受け入れる事は、現代日本の倫理の中で育った有紗には出来なかった。
憲法によって人権が当たり前のように尊重されていた日本という国は、本当に素晴らしい国だったのだと離れてみて初めてわかる。
身体や精神の自由も職業選択の自由も法の下の平等も――何一つこの世界では有紗には認められていない。
帰りたいという思いとともに、ぽろぽろと涙が零れた。
ディートハルトは先端で子宮口を虐めるのが余程好きらしく、執拗だった。
何度も何度も鈴口を有紗の最奥に擦り付けてくる。
小刻みに前後に動かすだけではない。回すように動かしたり、強く押し付けて抉るように動かしたり、その度にだらだらと零れる先走りが塗り込められているのだと思うと、卑猥さに気が遠くなった。
最奥まで挿入されているという事は、ディートハルトの全てを咥え込まされているという事だ。
根元までずっぽりと捩じ込まれ、有紗は喘ぎながら身を捩った。
「うっ、ん、ふっ、あ……」
「滅茶苦茶気持ちいいよ、アリサ……締め付けすご……」
ディートハルトはとろりと蕩けた眼差しで、有紗に覆い被さりながら耳元に口付けてきた。
胸の膨らみがディートハルトの胸板に押し潰されている。身体の前面全体にディートハルトの逞しい身体を感じた。
「アリサは? 気持ちい……?」
尋ねられて有紗はふるふると首を振った。
微弱な快感らしきものは感じられるが、それよりも苦しさの方が強い。体格相応に大きなものを目一杯押し込まれて、内臓が押し上げられるような苦しさがある。
絶対にディートハルトには白状したくないが、陰核や浅い部分の性感帯を弄られる方がずっと気持ちいい。
「も、奥ばっか、や……苦し……」
「そうだろうね。アリサは小さいから。早くこっちで感じられるようになろうね」
囁きと共にちゅ、と口付けられた。そしてそのまま、舌が侵入してくる。
口腔内を貪る舌の動きと子宮口への攻めが連動する。
(この変態、奥ばっか……)
ディートハルトの顔が至近距離にあると、彼の匂いであるミント系の香りを強く感じる。
キスされながらの挿入は嫌だ。なんだか身体が切なくなって、有紗の意志とは関係ない場所でディートハルトのものをきゅうっと締め付けてしまう。
「あー、やばい、いきそ……」
唇がようやく解放された。
とろんとした囁きと共に、ディートハルトは腰を激しく動かし始めた。
これは彼が達する為の動きだ。ようやく性交を終わらせてくれる気になったらしい。
何度も最奥に先端を擦り付けるのは変わらない。男根を刻み込み、自身の体液を擦り込むために何度も何度も。
一際きつく子宮口に先端を押し付けられて――
びゅる、と吐精が始まった。
肉棒は精を吐き出す度に痙攣し、胎内を白く染めていく。容赦のない膣内射精だ。
テラ・レイスである有紗とディートハルトの間には子供は出来ないのだという。だから毎回ディートハルトは胎内に放つ。
それが有紗にはとても悲しい。お前は精液を排泄する為の穴なのだと言われている気がするのだ。
ぼろぼろと泣きながら有紗はディートハルトの白濁を受け止めた。
◆ ◆ ◆
一度では終わらず追加で二回、また身体を好き勝手にされた。二回目はお腹に掛けられ、最後はもう一度中で出された。
ディートハルトは絶倫野郎だ。おかげで今日も身体が重だるい。
有紗が目覚めると、既にこの浮遊戦艦ヴァルトルーデは陸を飛び立ち、空中にあった。
重い身体を叱咤し、有紗は身支度を整える。そして、寝室の窓から見える外の景色が視界に入ってきて――思わず見入ってしまった。
「そんなに外は面白い? テラにも空飛ぶ乗り物はあるはずだよね? 飛行機も飛行船も」
窓にかじりついて外を眺めていると、寝室を覗きに来たディートハルトが声を掛けてきた。
今日も腹立たしいくらいに軍服が似合っている。
「ありますけど、向こうでは飛行機が主流で、飛行船に乗るのは初めてです」
「面白いね。こちらではどちらも使われてるけど用途が違う。飛行船は飛行機よりも飛行の為の魔力効率に優れていて、航続距離が長く大量の物資を積めるから、人と物の輸送用として使われている。一方で機動性の高い飛行機は戦闘機として開発されてきた」
「そうなんですか」
「うん。そっちではどうして飛行船は廃れたの?」
ディートハルトに尋ねられ、有紗は記憶を探った。
小説、漫画、新聞、テレビ、何で見たのかまでは思い出せないが、確か第一次世界大戦の時は、飛行船は軍用としても旅客輸送としても使われていたはずだ。
「確か……あまり速く飛べない上に、気球の部分に燃えやすいガスを使ってて、安全性に問題があったから、だったと思います。大きな墜落事故があったような……」
アメリカでは、海の空母に変わる空中空母構想というのもあったようだ。しかし飛行船の安全性に問題があったため頓挫し、結局実現はしないまま終わった筈だ。
「ふうん、こちらでは、気球があるからこその魔力効率なんだよね。補助揚力として気球を使ってて、気球内部に入れているのは、不燃性の特殊な浮揚ガスなんだ。メインの動力は魔力だからね、速度も結構出るんだよ。少なくとも複葉機には負けない」
「かなり大きいですけど的になったりはしないんですか? 確か地球で飛行船が廃れたのは、飛行機が発達して、いい的になるだけだったからって何かで見たような気がします。あやふやですけど」
「そう簡単に撃墜されたりしないよ。結界を張ってるからね。そもそもこの浮遊戦艦ヴァルトルーデを動かしてるのは俺だ。俺の魔力を突破できる奴はそうそう居ない」
「そうなんですか?」
「言わなかったっけ? 俺の魔力は規格外だって」
そう言ってディートハルトはふふん、と胸を張った。
「それにしても有紗は割と博識だね。向こうではどんな職業に就いてたのかな?」
「ただの学生です」
「ただの学生とは思えないけどね……何を勉強してたの?」
「歴史です」
有紗の答えに、ディートハルトは目を見開いた。
「テラの歴史か。バルツァーが喜びそうだ。勿論俺もこの可愛い頭の中に何が詰まっているのか知りたいな」
ディートハルトが有紗の目を覗き込んできた。そして髪に触れられる。
(軽薄、気障)
軽蔑の眼差しを向けると、ディートハルトは苦笑いをした。
「お腹は空いてない? 軽食をこちらに用意してあるからおいで」
ディートハルトは、有紗に執務室の方に移動するよう促した。空腹を感じていたのでついて行くと、応接セットのテーブルの上にドーム状のカバーが被せられたトレイが置かれていた。
「出来たてじゃなくてごめんね。艦内では食事の時間は決まってるんだ」
「いいえ、用意して頂けるだけでありがたいです」
(時間通りに食べれないのはあんたのせいだけど)
有紗は心の中で突っ込みながらも、有難く食事を頂くことにした。
カバーを外すと、彩りの綺麗なサンドイッチとサラダ、果物が並べられていた。
「冷たい……」
「食事が傷まないようそのディュシュカバーには保冷の魔術が込められてるんだ。司厨長が気を利かせたみたいだね」
「司厨長?」
「料理を担当する軍人の事だよ。一番上が司厨長。その下は司厨員」
「へえ……」
この船の食事は結構美味しい。サンドイッチもサラダにかかっているドレッシングも、お洒落なカフェみたいな味がした。
執務用の机に書類を広げながら、ディートハルトは何が楽しいのか食事を摂る有紗を観察している。
「見られると食べにくいです」
「ああ、ごめんね、動物みたいだったからつい」
安定のペット扱いに有紗の心の中に澱が積もった。
こちらにいる事に気付いてから、その澱は積もり続けている。
書類仕事に戻ったディートハルトは、食事が終わったのを確認してから有紗に近付いてきた。
警戒する有紗に、本を差し出してくる。
「俺は後で艦橋に行かなきゃいけないから、その間の暇潰しに」
「……読めません」
表紙には、見た事の無い記号のような文字でタイトルが書かれている。
「そう言うと思って挿絵が楽しめるものを選んだんだ。多少の時間は潰せると思うよ」
ぱらぱらと捲ると、画集と絵本の中間のような本だった。
こちらの風景だろうか、初めて目覚めた農村に似た村や、都市部の絵が白黒印刷だが美しい筆致で描かれている。
「文字は読めないのに言葉は通じるっておかしくないですか? どうして皆日本語を話してるんです?」
「ニホンゴ? それがアリサの母国語?」
「そうですけど……」
何か話が噛み合ってない気がして、有紗は眉を顰めた。
「声として発せられる言葉には魔力が宿ると言われてるんだ。だから、こちらの世界では、どんなに遠国の人間とでも会話は通じる。文書に関してはそれぞれの国のものを学ぶ必要があるんだけどね。アリサと俺の会話が通じるのはその為だと思う。俺にはアリサがフレンスベルク語を話しているように聞こえてる」
「……不思議な世界ですね」
有紗にはそう言う事しか出来なかった。
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