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06 街へ

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 首輪の所有者登録の変更が終わると、バルツァーを追い出し、再びディートハルトは有紗をベッドに押し倒した。

「ちょっとくらいなら抵抗してもいいよ。必死に堪えてるのも良かったけど、嫌がってるアリサを抱くのも悪くない」
(この下衆野郎……)

 有紗には全く有難くない事に、よっぽどこの魔力を通さない身体とやらがお気に召したらしい。

「今度は全部脱いでやろっか」
 そう言ってディートハルトは一旦有紗を起こすと、服に手をかけてきた。
「やだっ……」
「破ってもいいの? 元の世界の服だよね?」
 それは脅迫だ。有紗は抵抗をやめ、ディートハルトが服を剥いていくのを屈辱の表情でこらえた。

 服を全て剥ぎ取ると、ディートハルトもまた全裸になる。そして、ベッドで待っていた有紗を転がすと、今度は後ろから抱きすくめてきた。

「んっ……」
 胸を揉まれ、有紗は身動ぎする。
 足を絡めてこられるのがいやらしい。お尻には、硬いものが当たっている感触がある。

「アリサは何歳?」
「二十歳……」
「俺と四つしか違わないのか……童顔なんだね。うーん、じゃあもうこっちは成長しないか……」

 不満があるのなら触らないで欲しいと思う。

「揉めば成長するって話だから頑張るよ」
「っ、んあぁっ!」

 きゅ、と乳首を摘まれ、有紗は悲鳴を上げた。



 二回目は後ろから犯された。
 初めてだった相手に同じ日に何度もとか、鬼畜の所業である。
 事が終わると有紗はそのまま泥のように眠りについた。



   ◆ ◆ ◆


 翌朝、身体が辛く、有紗はベッドから起き上がれなかった。
 まだ股の間に何かが挟まっているような気がする。
 ヒリヒリとした痛みと共に身体全体が重怠かった。

 一方でディートハルトはつやつやしており、朝食を取りに行くと言って寝室を出て行った。

 王族であり、この浮遊戦艦ヴァルトルーデが属する空挺団の団長を務めるディートハルトは、艦の中でも一番広い部屋を宛てがわれていて、その個室は寝室と執務室に別れていた。

 艦で個室を持っているのは、ディートハルトの副官であるバルツァーと、この艦の艦長の三人だけらしい。

 後の乗組員は複数人で一つの部屋を使っており、任務自体が厳しく、また艦内でのプライバシーの確保が難しい為、女性の乗組員は居ないということだ。

 初めてを奪われただけでなく、立て続けに抱かれ、最低の気分だった。

(かえりたい)

 日本の事、大学の事、家族の事、思い出すだけで涙が出てくる。

「……あまり無体はなさらないようにと伝えましたのに。随分と彼女がお気に召したようですね」

 声を殺して泣いていると、バルツァーの声が隣の執務室から聞こえてきた。

「お前、それ本気で言ってる?」
「いいえ、テラ・レイスなら殿下は絶対に気に入ると確信しておりましたよ。だから少々無理をしてでも買い求めたのです」
「バルツァーの思惑通りになるのは癪だけど認めるよ。気兼ねなしに女を抱く事があんなにも気持ちいいとは思わなかった」
「約束はお忘れなきよう」
「わかってる。父上が選んだ女のうち一人選んで会えばいいんだろ」

 バルツァーとディートハルトの会話に、有紗は身を硬くした。

 ディートハルトは王子様だから、きっと相応しい身分の女性をお妃様にする。
 ならばその時自分はどうなるのだろう。
 女奴隷だなんて絶対地位は低い。後宮的な場所で女の戦いに巻き込まれる未来が予想できる。

 青ざめながらぐるぐると考えているうちに、バルツァーは退出したらしい。
 朝食の載ったトレイを持って、ディートハルトが寝室側にやって来た。

「取りあえず食べて、食べ終わったら横になって休もうか。明日にはここを離れるから、できたら昼からアリサと街に行っておきたい。この艦は男ばっかだから、女の子が生活していくのに必要なものは何一つないんだ。少しでも体力を回復させておいて」
「……はい」

 有紗は頷くと、ディートハルトから食事のトレイを受け取った。パンにオムレツ、そしてサラダが付いた普通に美味しそうな洋風の朝食だった。


   ◆ ◆ ◆


 朝食を終え、一眠りすると随分体力は回復したので、有紗はディートハルトと共に街へと向かった。
 足は前日にバルツァーに乗せてもらったのと同じ魔動四輪車である。
 こちらの季節は夏だ。戦艦の中は空調が効いていて涼しいが、外はむっとする暑さだった。

「化粧品、着替え、寝間着、他に必要なものって何かあったっけ」
「……髪を纏めるものと乗り物酔いの薬が欲しいです。あまり乗り物は得意ではないので……あとはせ、生理用品、とか……」

 男性に言うのは恥ずかしく屈辱だった。でも言っておかなければいけない事だ。

「わかった。他にも何か思い付くものがあったら遠慮なく言って」

 軽薄で下品な王子様だが、実はそう悪い人間ではないのかもしれない。

「ああ、それと、人前では王子様じゃなくて、殿下って呼ぶようにしようか。それが王族に対する正しい呼びかけ方だからね。アリサの身分は奴隷だからね、ちゃんとした呼称を使わないと難癖付けて来る奴が現れるかも」
「……はい」
「そこは『承知しました』の方がいいかな」
「……承知しました」

(ちゃんと敬語を使えって事ね……)

 ちょっとムカつく。が、身分差がある以上そこは受け止めなければならない事なのだろう。

「ボロ出さない為にも普段からちゃんとした言葉遣いをしておくよう心掛けておいた方が良いかもね。俺は別に気にしないんだけど、うるさい連中もいるから」

 そう言ってディートハルトは面倒そうに顔を顰めた。

「かしこまりました。変な言葉を使ってたらどうぞご教授下さい」
「……慇懃すぎるとそれはそれでムカつくね」
(じゃあどうしろと……)

 面倒くさい奴だな、と有紗は思った。


   ◆ ◆ ◆


 ディートハルトが有紗を連れて行ったのは、こちらの民族衣装のワンピースが沢山掛かっている服屋だった。

「艦内生活がしばらく続くから、申し訳ないんだけど最小限にして欲しい。街の女が着るような服で悪いけど、王都に戻った時にはちゃんとした服を仕立ててあげるから」
「最小限って何着ですか? あと、こちらの服はよくわからないんで、選ぶの手伝ってください」
「そうだなあ、北部の山岳地帯にも行く予定だから長袖もいるとして……」

 街娘が着るランクの服、と言われたが、アンナやペトラが着ていたものに比べるとずっと質がいい。
 やはりあの農村は貧しかったのだな、と改めて認識した。中国の都市部と農村部の貧富の差が連想される。

 ディートハルトに手伝ってもらい、有紗は長袖と半袖のシャツを各二枚、それに合わせる胴衣とスカートを三枚ずつ、上着を二枚買ってもらった。

 王子様だけあって趣味がいい。有紗が選んだらシンプルな無地のものばかりを買ったと思うが、ディートハルトは着回しも考えた上で可愛らしいプリント生地のスカートと胴衣を選んでくれた。

 追加で瞳の色を目立たなくするための帽子も購入する。リボンとレースのついたストローハットは、ゴシックロリータっぽくてちょっと可愛かった。



 下着屋、雑貨屋、薬屋と回って、全ての買い物を終えた時にはあたりはもう真っ暗だった。

 空には赤い月が浮かんでいて、日本では田舎に行かないとまず拝めないような、満天の星空が広がっていた。

「こちらの街は街灯が無くて暗いんですね」
「ここらは田舎だからね。王都や県都くらいの規模になると、魔道灯が整備されてるよ」
「魔道灯……こちらでは魔力が全ての動力なんですか?」
「そうだね。だから月の加護を強く受け、豊富な魔力を持つ王侯貴族が絶対的な権力を持っている」

 こちらの空気は綺麗だ。化石燃料を使っていないからだろう。緑も豊富で有紗の知らない未知で溢れている。
 身分制度さえなければもっと良かったのに。

「元の世界に帰った人っているんですか?」
「帰りたい?」
「当たり前じゃないですか! 突然売られて、こんな首輪なんか付けられて、奴隷ってふざけてる」
「そうだね、この世界はテラ・レイスには理不尽に出来ている。魔力の高い支配者層にとって都合のいい体質をしてるからね」

 魔動四輪車を運転するディートハルトの横顔は静かで、何を思っているのか読み取れなかった。

「残念ながら、帰れた者は今までに居ない。俺が奴隷としてのアリサを手放したくないから言ってるんじゃないよ? 本当に居ないんだ」

 ディートハルトはここで一度言葉を切った。

「……現代の魔法学では、残念ながらテラ・レイスが何故こちらにやって来るのかは、まだ解明されていない。彼らは二、三十年に一度くらいの周期で唐突にこちらに来るんだ。それも、どうやら同一の世界から。そちらの世界の人間は、随分と色々な人種がいるようだね。我々と似た肌の白い者も居れば、君のように淡い黄系統の者も、黒い肌の人間もいる。共通しているのは、どうやら同じ『テラ』の人間だと言うことと、そして魔力を受け付けない体質だ」

「魔力が多い人にとって、異世界人はそんなに特別なんですか……」

「ああ、特に俺って魔力量が規格外だからさ、相手探すのが結構大変なんだよね」
 これでも苦労してるんだよ、とディートハルトは続けた。

「王都には一人、知ってるテラ・レイスがいるからいずれ会わせてあげる。もう七十越えのご老体だけど」
「本当ですか!?」
「うん」
 食いついた有紗に対して、ディートハルトはこくりと頷いた。

「それと、アリサはこちらに来てまだ日が浅いって聞いた。戻れない以上、こちらで生きていきやすいよう、こちらの世界の事を学んだ方がいい」
「……その為の知識は与えてもらえるんですか?」
「そうだね。ペットを可愛がるのは飼い主の義務だからね」

 ペット――
 いい人かと少しだけ思ったけど、やっぱりこいつは嫌な奴だ。
 有紗はディートハルトから目を逸らし、車上から見える景色へと視線を移した。


   ◆ ◆ ◆


 浮遊戦艦のスペースは限られており、王族用の個室といっても全く広くはない。執務室が四畳ほど、寝室はセミダブルサイズのベッドがギリギリ入る程度の広さだ。
 また、小さなお手洗いもついていて、水洗ではないけれど、日本のトイレ並に清潔な仕様になっていた。浄化の魔術が込められているとかで、紙も不要の不思議トイレだ。浄化の魔術は飛行船の魔力を使って発動するようになっているとかで、有紗にもスイッチ一つで動かせた。

 クローゼットは寝室に備え付けられていた。
 中には、ディートハルトの服が掛かっていたが、最低限の着替えしか入っていない。買ってもらった有紗の服を入れるとぎゅうぎゅう詰めになった。

「必要最低限のものしか入れてないんですね。王子様なのに」
「乗務中に余計なものは必要ないからね。誰かと会うのも軍服があれば事足りるし、有事の時に必要なものをすぐに取り出せないと困るだろ?」

 購入してきた有紗のものを、あちこちに収納するディートハルトの手際はかなり良かった。
 彼の部屋は隅から隅まですっきりと片付いていて、几帳面さがうかがえる。

「さてと、片付いた。前も言ったけど、この部屋からは基本出ないようにね。艦内には機密がいっぱいだから勝手に出歩かれるのは困るんだ。それに、ここは飢えた男の巣窟でもあるから危ない」
「はい」
「閉じこもりっ放しは身体に悪いから、時々散歩くらいはさせてあげる。退屈かもしれないけど、この航空任務が終わるまでは我慢して欲しい」
「航空任務が終わったら私はどうなるんですか?」
「俺の邸に住む事になるね。立場としては寵姫という事になるかな」

 寵姫……愛人という事か。有紗は気持ちが落ち込むのを感じた。

「食事を持ってくるからアリサは少し休んでいるといい」

 ディートハルトは有紗の額に口付けると部屋を出て行った。その背中を見送り、有紗はこっそりとため息をついた。
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