Smile

アオ

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1章

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 早くに寝たら早くに目が覚めるのは当たり前。
 夜明けとともに目が覚めた。
 スッキリ寝たせいか、目覚めも良く気持ちよくカーテンを開けた。
 おおぅ、いい天気だ。
 ベランダに出て飛んできた動物達とおはようの挨拶を交わし、
 顔を洗ってジャージ着替えて髪をポニーテールにして
 竹刀を手入れしてたらノックが聞こえニコが入ってきた。

  
 「おはよう、ヒナタ。もうおきてたの?まだ朝早いよ・・・・。
 私が起こしに来るまでゆっくりしてていいのに。
 ねぇ、なにそのへんてこな格好・・・」
 ワゴンを部屋に入れながら一瞬動きが止まり呆れた顔をして私を見た。
 「ああ、これね、ジャージといって運動するときに使う服装なんだ。
 見かけはおかしいかもしれないけど動きやすいし暖かいんだよ。
 この中にもTシャツ着ててね、暑かったら脱げばいいの」
 「なんで運動する格好してるの?」
 「うん?朝稽古したくって。ねえ、どこかに武道とか稽古する場所ある?」
 私の答えにすごく嫌そうな顔をした。
 あれ、こちらの世界ではあまり女の人はそんなことしないのかな。
 でもさ、身体動かしとかないと気分が悪いというか、気持ち悪い。
 少しでも竹刀を振っておかないとスッキリしない。
 いつもの日常から離れてしまったけど、身体を動かすのだけは出来るだけ続けておきたい。
 やっておいて無駄ではないし、現にこっちに来てすぐに襲われちゃったしね、
 ここに住むことになり安全になったといえどまあこの先どうなるかもわからないしね。
 「あるけど。まさか、剣術とかもするの?」
 「うん、一人でも出来るやり方もあるから場所さえあれば一人でやるんだけど。
 昨日稽古場みたいなところがあったけど使っちゃダメかな?」
 流石に一人は・・・とブツブツ言いながら考え込むニコ。
 首を傾げてるその姿は、とても可愛らしかった。
 そして笑顔で顔をあげた。
 「それならコーナン様に相談したら?毎日この時間は稽古してるはずだし。
 コーナン様なら剣の腕は素晴らしいと聞いたわ。この国での護衛官長ですもの」
 コーナンは昨日は私の腕前を見ただけで実際は手を合わせていない。
 確かに彼は私よりもはるかに強そうだった。
 剣の指導もしてくれるかな?それだといいな!
 ニコには朝の準備は全部一人でしたのでとりあえずお茶だけもらい稽古場に行くことにした。
 幸い、稽古場は迷うほどの道ではなく一人でも行けそうだったから
 ニコには数時間後の朝食の準備だけお願いしてきた。
 稽古場にはすぐ着いた。ドアがない作りになっていて外からこっそりのぞいてみた。
 まだ朝早いせいか誰もいない。シーンとした中は陽の光が入ってとても明るかった。
 どうしよっかぁ。一番にきた人に声をかけて使わせてもらえるよう交渉してもいいのかな。
 「もしかしてヒナタ様?」
 振り向くとコーナンさんが無表情で見下ろしていた。怒ってるかな?
 でも一番に会いたかった人にあえてよかった~。
 「よかったー。朝練習しようと思ってここに来たのはいいけど誰もいなくって。
 初めてなのに勝手に入っちゃ悪いし困ってたの」
 ニコニコしながらひなたは言った。

 この人はどうしてこう予想もつかない行動をするんだろう。
 そして何だこの服装は。子女はドレス姿が当たり前で
 顔合わせの時は足を出していることに殺到しそうだった。
 これが異世界の正装であると説明され心底驚いた。
 今日は今日で、みたこともない素材でズボン姿。
 動きやすそうにしているも女子にふさわしくない。
 コーナンはひなたを見ながら驚きつつも黙っていた。
 無表情でいるが彼はどうしようかと考えていた。
 「あ、もしかして迷惑だった?それならどこか違う場所で・・・・」
 慌てて去ろうとする少女を引き止めた。
 「いえ、違います。ちょっと驚いてるだけで。
 いま、稽古場を整えますのでちょっと待ってて下さい」
 一応、練習後は各々が片付けることになっているが、
 この異世界の少女に不愉快な思いをさせないように室内を見回した。
 
 「ねえ、コーナンさん。いくつなの?」
 後ろから呑気そうに声をかけられた。
 また、この人は脈絡の無いことを・・・・。
 「20歳ですが何か?」
 「じゃあ、私のことは敬語使うのやめてね。
 そんなだいそれた人間じゃないし。なれてないし。
 元の世界ではただの女子高生でまだまだ世間を知らないのに
 敬語とか使われると申し訳なくなってしまうというか、
 どっちかというと私がつかわなきゃいけないのね。ごめんなさい」
 「え・・・・?」
 ペコリと頭を下げたひなたに当惑した。
 予言の少女といえば誰もが敬意を払う人物。この国以外でもその予言は誰もが知っており
 平和を望むものからすれば光のような存在であった。
 だから少女に対して誰もが王族と同じように接することは当たり前であった。
 なのにこの人物はそれをやめてくれという。
 なんと、不思議な少女だろう。
 「いえ、謝らないでください。頭を下げられると困ります」
 「なんで?悪いことをしたら頭下げて謝るのはあたりまえでしょ?」
 不思議そうな目で見つめるひなたにコーナンはホッとした。
 というのも、予言の少女がとても素直で安心したからだった。
 「あなたはいい両親に育てられましたね」
 何気無いコーナンの一言がひなたの心に刺さった。
 「・・・・・・」
 ひなたが下を向いて黙ってしまった。
 「?どうかされましたか?」
 「ううん、なんでもない。ありがとう。自分が褒められるよりも嬉しい」
 笑顔で答えるひなたはとても可愛らしかった。
 「とにかく敬語はやめられません。あなたは予言の少女ですから」
 「予言の少女というより一人の人間として扱われるほうがうれしい。
 あなたが敬語をやめてくれないから私もあなたに対して敬語使いますよ?」
 変な脅しをかけてきたひなたに対して吹き出してしまった。
 「まったく、かなわないな・・・」
 コーナンがボソリと呟いたのをひなたは聞き逃さなかった。
 「じゃあ、敬語をやめてくれるのね?」
 ニヤリとしながら下からコーナンを覗き込んだ。
 上を向いて両目を閉じる。
 まだ、コーナンは心が揺らいでいた。
 ここまできたら頼み込むしかないと顔の前で両手を合わせた。
 ひなたはどうしても年上から敬語を使われるのも特別扱いされるのも嫌だった。
 自分自身をよくわかってもらってないのに異世界から来たからといって
 まだ何もしてない自分に対してこのような対応されるのが納得いかなかったのだ。
 「だめ、コーナン様って叫ぶから。コーナン様が私のお願い聞いてくれませーんて」
 大きな声を出そうと口の横に手を当てて外に向かうひなたをコーナンは慌てて止めた。
 こんなことをされたら後でどんなことになるかわかったもんじゃない。
 ため息をつき、コーナンはひなたの向き直った。
 「わかったよ。ほら、他の連中が来るからいくぞ」
 稽古場の中にひなたを促した。口調は乱暴だがレディーファーストをする。
 ようやく稽古をつけてもらうことができそうだ。とひなたはワクワクしたのだった。
 
 と、思った数分後。ひなたはすこぶる後悔していた。
 「コーナン、強すぎる・・・・」
 ぐったりと座り込んでしまったひなたに対しコーナンはまだ余裕が充分にあった。
 練習用の剣を肩にかけてひなたを見下ろしていた。
 「お前が手を抜くなって言ったんだろう?」
 「そうだけどさ・・・・。う、イタタタタ。これが乙女にする仕打ちなの?」
 練習用の剣と言えど、体に当たると痛い。
 そもそもひなたは防具をつけての練習ばかりやっており、
 防具なしでの稽古は初めてだった。
 この世界に来た時は相手は型も出来てないほどの腕前だったし、
 騎士団との試合は合気道の技のみ使い、相手の力を利用して人を投げていたため、
 剣を体で受けるということが初めてだった。

 しかし、コーナンは今までの剣士と比べることが出来ないほど動きが早く、
 一太刀が重かった。

 初めてだわ、こんなの。流石、騎士団団長だわ。
 「あれ?予言の少女よりも一人の人間として扱われるほうがよかったんじゃないのか?」
 「そうは言ったけどさ。う~、鬼・・・(ボソッ)」
 「おい。・・・・・聞こえてるぞ。鬼って何のことかわからないがどうせ良からぬことだろう」 
 あはははは~。悪口がバレてる。
 でも強い人がいると鍛えてもらえるからいいな。スッキリした。
 それにここまで、実力の差があると私の師匠になってほしい!
 もっと強くなれる!

 「ひなた様」
 入り口にニコが立っていた。それに数名の騎士っぽい方々が私たちの様子を伺うかのように覗き込んでいた。
 二人のあまりにも白熱した練習と、
 予言の少女と呼ばれるこの儚げな少女が自分たちの団長と練習していたため、
 自分たちが入っていいのかわからなかったのだった。
 「朝食の手配が出来ました。本日は、食事の後、陛下との接見も控えてますので
 そろそろ準備をした方がよろしいかと思います」 
 人目があるためか、ニコはメイドらしくひなたに声をかけた。
 ぶっちゃけ、「後で国王と合わなきゃいけんからはようご飯食べて!」ってことだろう。
 ひなたはあまりにも熱中しすぎて予定の時間を大幅に超えてることを稽古場の時計で気が付いた。
 「ああ、いっけない。コーナンありがとう!また相手してね!
 皆さんも稽古場貸していただきありがとうございました!」
 騎士達に一礼、稽古場に一礼し、ひなたはあわててニコと去っていった。
 皆は予言の少女の行動に驚き、動きが止まっていたが、
 もう慣れてしまったコーナンは大声で練習を始めるよう号令をかけた。

  

  
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