Smile

アオ

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2章

4

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 ひなたとベルの様子をロンは自分の部屋の窓から見ていた。
 二人で楽しそうに笑いあいながら動物たちと遊んでる姿を見て
 ホッとため息をついた。
 「うまくいったみたいですね」
 後ろからロールが声をかけた。
 「そうだな、みんなヒナタ病におかされたみたいだ」
 「ブブ、ヒナタ病?ですか・・・・。なんですかそれ」
 「ヒナタに関わった人間はみんな変っていく。
 ニコはとても厳しいメイド養成所で教育され首席卒業したメイドだ。
 自分の意見などいうのはもってのほか。なのにヒナタと関わると友達というか、
 ヒナタに対して文句までいう不思議な関係になっている。」
 ここにきたときニコはそれはそれは教育されて教えられてとおりの厳格なメイドだった。
 「ですが、私は今のニコのほうが、生き生きとして彼女らしいと思います。」
 「コーナンだってそうだ。あいつは男社会で育ち働いているため女の扱いというか、
 女の前に来るだけでいやな顔をしていた。だが、ヒナタに対してはどうだ?
 毎日、剣術の稽古についてるらしいじゃないか」
 「ヒナタ様はなんでも剣術がとても秀でてるらしく
 自分の後輩達より筋が良いと言ってましたね」
 コーナンは代々王家の護衛としての家に生まれていた。
 赤毛はその家の証という。
 なぜか、その家には男の子しか生まれてこないという不思議な家庭だった。
 なので、コーナンの周りには母親か祖母しか女性がいなかったのだ。
 必然的に女性苦手で必要な言葉意外は話さないというふうになっていた。
 「それとハリー。あいつはあまりにも小さいときに両親をなくしたばっかりに
 子供らしく振舞うこと、ひとにわがまま言ったり甘えることを知らなく育った。
 オレがもっとしっかりすればよかったんだが・・・」
 「しかし、いまじゃあすっかりヒナタ様と子供の喧嘩を毎日やってますね。
  すっかり本の虫じゃなくなりました」
 毎日、毎日、自分を支えるんだと頑張って勉強ばかりしていたことを知っていたロンは心を痛めいていた。
 自分ができなかった故にせめて弟には子供のうちは子供らしく育ってほしいと思っていた。
 しかし本人が頑張ってることをやめさせるわけにもいかず、
 同年代の友達を見つけてきてもまったく遊ばないし、見向きもしなかった。
 「ベルもオレばかりをみて求めて大事なことを見落として育ちそうで・・・。
 しばらく様子を見るつもりだったが、この分じゃ、早くに兄離れしそうだな」
 「そうですね。大人びた笑顔ではなく、あのような子供らしい笑顔は久しぶりですね」
 そういって、2人とも窓の外を見た。日向とベルは動物達にもみくちゃにされて大笑いしていた。
 「ベルがいやがらせしたのは知っていた。
 だが、ヒナタならきっとベルを良い方向に導いてくれると信じてた」
 「あなたもヒナタ病におかされた一人みたいですね」
 ニヤニヤしながらロールは仕事を再開するために自分の書類に目を落とした。
 「な、なにを言ってる。オレは、一人の人間としてヒナタを信じてるだけで・・・。」
 「はいはい、わかりました」
 そういいながら文書に目をと通してサインをしていくロールを
 横目で睨みながら自分の机に戻り文書にサインをした。

 ヒナタとは実にふしぎな人間だ。今まで、周りにはいなかった。
 女性といえば、自分から何かをするわけでもなく、ただ従順にと育てられるのが当たり前だった。
 その代わり自分を磨き上げるのにすべてを費やしてごてごてにいしていく。
 そしてオレが何かを言ったらすべてニコニコしながら話を聞くか、
 自分が綺麗かきいてくるかとても退屈な相手でしかなかった。
 しかし、ヒナタは違った。
 剣術にはたけているどころか、ふしぎな柔術をする。(合気道とかなんとかいってたな。)
 ドレスがいやで丈の短いスカートであちこち走り回っている。
 足を出すなんてもってのほかだと説明しても動きづらいと言って
 元の世界の服装で過ごしてる。
 化粧なんかもってのほか。
 一つの場所になかなかとどまってない。
 何をしでかすのかまったく予想がつかない。
 だけど、不思議と絶対大丈夫だとなぜか信じられる。
 なぜだろうか。このオレがここまで短時間で信じられるとは。
 予言の少女だからか・・・・。
 いや、違う、ヒナタだからだ。彼女という人間だからだ。
 彼女は周りの人間を幸せにする不思議な力があるのだ。
 ロンははたから見ると恥ずかしくなるくらいの笑顔になった。
 もちろん、本人は気づいてないが。
 「ロン様、手が止まってます。誰かのことを考えてもいいですが、
 手は動かしてください」
 ロールの声に真っ赤になって手を動かした。
 ヒナタ病に一番おかされたのはきっとロン様でしょう。とロールは心の中でつぶやいた。
 ロンはヒナタが来まであまり笑わなかった。笑う余裕がなかった。
 毎日、毎日、公務に追われ国のこと、家族のことばかり考えていた。
 それに冷静で瞳が深い青いせいか、冷酷に見える。
 若くして国王になり国をまとめる。
 貴族や重臣たちから馬鹿にされないよう必死に表には出さないように頑張ってきた。
 頭脳は優秀であったが本人の陰ながらの努力が並大抵のものでは無い。
 それを継続し続け現在の王としての地位を固めることができたのだ。
 前王が崩御し数年、やっと落ち着きを取り戻し国が安定し皆からも認められてきた。
 そこへ、予言の少女がやってきた。とてもタイミングよく。
 あまりにもタイミングがよすぎる。なのに誰も疑っていない。
 彼女を誰が召還したのか、彼女はもとの世界に戻れるのか。
 召還した人間が鍵を握っている。
 ロール自身、今それをひそかに調べていた。そしてある人物に行き着いた。
 行き着いたが、確定では無い。
 それについてもうすぐですべてがわかりそうになっている。
 それまでこの平和がつづけばいいのだがと心より主人を眺めながら願った。

 
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