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11、思わぬ来訪者
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レンベルグ侯爵マウロ。
端的に言えば、彼はアザリアの味方だった。
それも、レドとは対称に位置するような人物であった。
傲岸不遜で無知なレドに対し、マウロは絵に描いたような紳士であり思慮深かった。
身分や聖女としての『燐光』が無いことでアザリアを糾弾するレドに対し、マウロは常にそれらが聖女としての実力には何も関係も無いと擁護してくれた。
天敵同士であるようにも見えた。
激しく言い争う2人を、アザリアは何度も目にしたものだが……
(そのレンベルグ侯爵さまがここに?)
あり得ないとすら思えたが、現実は違った。
「よぉ」
そんな農村の中年のようなざっくばらんさで、くだんのマウロがレドの書斎を訪れてきたのだ。
アザリアは目を見張ることになった。
最初の一言からしてそうだが、かなり今までの印象と違ったのだ。
アザリアの知る彼は模範的な貴公子だが、今は違う。
顔つき自体は上品でも、その立ち振る舞いには妙にくたびれた雰囲気が漂っている。
「なんと言うか、相変わらずしゃっきりとしないヤツだな」
レドが呆れ調子でそんな言葉を口にしたが、まさにその通りの様子であった。
マウロは「ふん」と鼻を鳴らした。
「別に良いだろうが。元々は爵位など縁のゆかりも無かった、4男坊のきかん坊だ。友人の前でぐらい素の調子でいさせてもらうさ」
そんな事情があるらしいが、気になるのは友人という一言だった。
(天敵では無いと?)
現状では無いと言う他に無かった。
2人の間にあるのは、まさに気の置けないといった空気感だからだ。
さらにはである。
アザリアは驚くことになった。
「しかし、不思議な状況だな。まさかこの屋敷で、こうしてメリル嬢に会うことになるとは」
この部屋にはメリルもいるのだが、マウロは彼女にそんな声かけをしたのだ。
アザリアの知る限り、メリルはマウロと声を交わしたことは無く、何かしらの関係にあるようには見えなかった。
しかし、メリルだ。
彼女はマウロに対して、気さくな笑みを返した。
「はい、私もまさかまさかです。マウロさまとこうした形でお会いすることになるとは」
マウロは仏頂面で頷きを見せる。
「まったくな。今はなんだ? ここで侍女か?」
「まぁ、侍女を気取っていると言いますか。客人で収まるのも居心地が悪いですので」
「そうか。しかし、気を落とすなよ。今回のことは君の分を超えているからな。君の責任では無いさ」
メリルはどこか力の無い笑みを浮かべた。
「はい。正直、そう納得しようとしても難しいところはありますが……お気遣いありがとうございます」
驚くべきことが多すぎて状況を理解することは難しかったが、一つ分かることがあった。
それは、この3人は繋がっていたということだ。
レド、メリル、マウロ。
表面上は敵対していたり、無関係に見えていたのだが、実は浅からずの関係を築いていたのだ。
(一体、何故? どういう関係なのですか? 何か目的があってのもので?)
そこが疑問でしかないのだが、思案は一時途切れることになった。
マウロが「ん?」と、かごの上に止まっているアザリアを見つめてきたのだ。
「あー、なんだ? お前に、鳥を飼う趣味でもあったのか?」
レドは首を左右にする。
「いや、無い。まぁ、ちょっとした縁があってな」
「ふーん、そうか。少し意外だな。聖女殿があのような状況で、お前にこんな余裕があるとは」
レドは苦笑の表情を浮かべた。
「余裕があるわけでは無いが、聖女殿は異常であっても変わらずにおられるからな。私に出来るのは、いつかお目覚めになると信じることだけだ。一応、そう割り切ってはいる」
アザリアはレドの顔を見つめた。
疑問点は数え切れないほどにある。
だが、一番は彼だった。
アザリアを陥れた張本人であるはずなのだ。
なのに、この表情は何なのか?
何故こんな、アザリアを巡って切なげな表情をしているのか?
そんな表情は一瞬だった。
レドは真顔で首をかしげた。
端的に言えば、彼はアザリアの味方だった。
それも、レドとは対称に位置するような人物であった。
傲岸不遜で無知なレドに対し、マウロは絵に描いたような紳士であり思慮深かった。
身分や聖女としての『燐光』が無いことでアザリアを糾弾するレドに対し、マウロは常にそれらが聖女としての実力には何も関係も無いと擁護してくれた。
天敵同士であるようにも見えた。
激しく言い争う2人を、アザリアは何度も目にしたものだが……
(そのレンベルグ侯爵さまがここに?)
あり得ないとすら思えたが、現実は違った。
「よぉ」
そんな農村の中年のようなざっくばらんさで、くだんのマウロがレドの書斎を訪れてきたのだ。
アザリアは目を見張ることになった。
最初の一言からしてそうだが、かなり今までの印象と違ったのだ。
アザリアの知る彼は模範的な貴公子だが、今は違う。
顔つき自体は上品でも、その立ち振る舞いには妙にくたびれた雰囲気が漂っている。
「なんと言うか、相変わらずしゃっきりとしないヤツだな」
レドが呆れ調子でそんな言葉を口にしたが、まさにその通りの様子であった。
マウロは「ふん」と鼻を鳴らした。
「別に良いだろうが。元々は爵位など縁のゆかりも無かった、4男坊のきかん坊だ。友人の前でぐらい素の調子でいさせてもらうさ」
そんな事情があるらしいが、気になるのは友人という一言だった。
(天敵では無いと?)
現状では無いと言う他に無かった。
2人の間にあるのは、まさに気の置けないといった空気感だからだ。
さらにはである。
アザリアは驚くことになった。
「しかし、不思議な状況だな。まさかこの屋敷で、こうしてメリル嬢に会うことになるとは」
この部屋にはメリルもいるのだが、マウロは彼女にそんな声かけをしたのだ。
アザリアの知る限り、メリルはマウロと声を交わしたことは無く、何かしらの関係にあるようには見えなかった。
しかし、メリルだ。
彼女はマウロに対して、気さくな笑みを返した。
「はい、私もまさかまさかです。マウロさまとこうした形でお会いすることになるとは」
マウロは仏頂面で頷きを見せる。
「まったくな。今はなんだ? ここで侍女か?」
「まぁ、侍女を気取っていると言いますか。客人で収まるのも居心地が悪いですので」
「そうか。しかし、気を落とすなよ。今回のことは君の分を超えているからな。君の責任では無いさ」
メリルはどこか力の無い笑みを浮かべた。
「はい。正直、そう納得しようとしても難しいところはありますが……お気遣いありがとうございます」
驚くべきことが多すぎて状況を理解することは難しかったが、一つ分かることがあった。
それは、この3人は繋がっていたということだ。
レド、メリル、マウロ。
表面上は敵対していたり、無関係に見えていたのだが、実は浅からずの関係を築いていたのだ。
(一体、何故? どういう関係なのですか? 何か目的があってのもので?)
そこが疑問でしかないのだが、思案は一時途切れることになった。
マウロが「ん?」と、かごの上に止まっているアザリアを見つめてきたのだ。
「あー、なんだ? お前に、鳥を飼う趣味でもあったのか?」
レドは首を左右にする。
「いや、無い。まぁ、ちょっとした縁があってな」
「ふーん、そうか。少し意外だな。聖女殿があのような状況で、お前にこんな余裕があるとは」
レドは苦笑の表情を浮かべた。
「余裕があるわけでは無いが、聖女殿は異常であっても変わらずにおられるからな。私に出来るのは、いつかお目覚めになると信じることだけだ。一応、そう割り切ってはいる」
アザリアはレドの顔を見つめた。
疑問点は数え切れないほどにある。
だが、一番は彼だった。
アザリアを陥れた張本人であるはずなのだ。
なのに、この表情は何なのか?
何故こんな、アザリアを巡って切なげな表情をしているのか?
そんな表情は一瞬だった。
レドは真顔で首をかしげた。
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