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第一章

56.依存の果て

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 男はケラケラと笑いながら話しかける。

「しばらく落ち込んでて、そんな表情も好きだったのに、急に元気になっちゃって。それだけ傍にいたかったってことですか」

 パソコン画面にはたくさんの写真が並んでいる。先ほどからそれに向かって、男は話しかけていた。

「ずっと一緒にいますよ。でも、そんなに悩まなくても廊下ですれ違ったら話しかけてくれればいいのに。恥ずかしがり屋なんですね」

 席から立ち上がり、ベッドに寝転がった男は、くすくすと楽しそうに笑った。
 こんな嬉しいことが起こるなんて人生捨てたもんじゃないなと、男は身体をくねらせて喜ぶ。

「早く、あの続きをしたい……」

 幸せな思いを浮かべながら目を瞑ると、男の携帯電話が鳴った。
 ゆっくりと起き上がって電話を取れば、

『圭太、どこにいる?』

 と、低い声が電話の向こうから聞こえてくる。一気に夢から覚めた。

「まさちゃん……今は、家だよ」
『それなら早く俺の家に来い』
「今日は練習あるって言ってたから……」
『中止になった。今、家に誰もいないから早くしろ』
「……わかったよ」

 電話を切って、男はため息を吐いた。

「これが現実なんだ……」

 そんな思いを振り払うように首を横に振って、再びパソコン画面を見つめた。

「こんなの終わりにするよ。待っててくださいね」

 パソコンの電源を落とし、男は部屋を出た。
 そして、呼び出された相手の家に向かうため、男が玄関の扉を開ける。

 外の日差しが眩しすぎて、眉を顰めた。昼間でも部屋のカーテンを閉めているせいか、じりじりと焼けるような日差しが不快に思えた。

 今年一番の猛暑日になると、ネットのニュースで見たのを思い出す。
 今日は夏休み最初の日。これといって、楽しい予定もない。今までだって夏休みなど関係なく、楽しいことなんてほとんどないのだが、何だか虚しくなった。

「学校が休みだとつまらないよ。今、何してるのかな」

 男は、呼び出された相手の家とは反対の方へふらふらと歩き始めた。
 呼び出しを無視したのは、これが初めてだ。

「ボクは、あなただけですからね」

 男が携帯画面を見つめて、うっすらと笑みを浮かべた。
 そこには、パソコン画面と同じく矢神史人の写真が映し出されていたのだった。
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