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第一章
5、怒れる天使
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「シーモア公爵と何を話していたの?」
エレオノーラはどこで見ていたのか、フランツがシーモア公爵と話していたのを知っていた。
「特別なことは何も。元気にしているかとか、そんな事を聞かれました」
エレオノーラは不機嫌そうにフランツをじっと見つめてから言った。
「シーモア公爵は用事の無い人間に話しかけないわ。相手は世間話と思っていても、必ず何か情報を引き出しているの。私、あの人は大嫌いよ。フランツみたいな実直な人が一番餌食にされるんだから、気をつけてね」
天使の横顔をツンとさせて『社交界の華』と呼ばれるシーモア公爵を大嫌いと言ってのけるエレオノーラ。
「お言葉ですが、シーモア公爵様はとてもお優しい方だと思います」
「そんな訳無いじゃない! フランツもレイチェルさんも騙されてるのよ。二人とも人を疑うってことを知らないのね、それは素晴らしい事でもあるけれど……」
「レイチェル様とは?」
「あの冷徹人間が唯一溺愛してる女性。すごく良い人だけど、ものすごく可愛いから、フランツには会わせたくない」
「それは大層お美しいのでしょうね。ですがエレオノーラ様より美しい方などいらっしゃらないと思います」
「な、何言ってるの、急に」
「──失礼致しました」
(本当に何言ってるんだ、俺は──)
真っ赤になるエレオノーラの横で、フランツも顔が熱くなった。
そして益々、退職を決意した事に間違いは無いと確信する。
このままここに居ては、エレオノーラの為にも自分の為にもならない。
「フランツ、残念でならないが、君のキャリアも青春も長きに渡って奪ってしまった我々が、これ以上君を縛り付けるのは間違っている。騎士団でもここでの様に真面目に努めていれば、きっとすぐに芽がでるだろう。今まで本当に世話になったな、ありがとう」
「もったいないお言葉、痛み入ります。至らない所の多い自分に、今日まで大切なお嬢様の護衛と言う重大な任務を勤めさせて頂いたご恩はこれからも一生胸に刻んでまいります」
侯爵夫妻に挨拶をして、親しかった使用人達にも挨拶をすると、ダンスのレッスン中のエレオノーラを遠くから目に焼き付けて、鞄一つを手に屋敷を出た。
後任の護衛達の教育も終わっていたし、もう思い残すことは何も無い。
これで良かったのだ。
むしろ何故もっと早くにこうしなかったのか。
最初はエレオノーラがいつか結婚したら自分の役目も終わる、そう思っていたのに、いつしか、彼女が誰かの元へ嫁ぐのをこの目で見ればこの気持ちも収まるはずだ、にすり変わっていた。
エレオノーラにプロポーズされて、気休めにでも「いいですよ」と答えられ無かったのは、自分が勘違いや身の程知らずな期待をしてしまうのが怖かったからなのかもしれない。
いつかは来ると分かっていた瞬間だけれど、これ程唐突に終わりの時が訪れるとは思っていなかった。
エレオノーラはどこで見ていたのか、フランツがシーモア公爵と話していたのを知っていた。
「特別なことは何も。元気にしているかとか、そんな事を聞かれました」
エレオノーラは不機嫌そうにフランツをじっと見つめてから言った。
「シーモア公爵は用事の無い人間に話しかけないわ。相手は世間話と思っていても、必ず何か情報を引き出しているの。私、あの人は大嫌いよ。フランツみたいな実直な人が一番餌食にされるんだから、気をつけてね」
天使の横顔をツンとさせて『社交界の華』と呼ばれるシーモア公爵を大嫌いと言ってのけるエレオノーラ。
「お言葉ですが、シーモア公爵様はとてもお優しい方だと思います」
「そんな訳無いじゃない! フランツもレイチェルさんも騙されてるのよ。二人とも人を疑うってことを知らないのね、それは素晴らしい事でもあるけれど……」
「レイチェル様とは?」
「あの冷徹人間が唯一溺愛してる女性。すごく良い人だけど、ものすごく可愛いから、フランツには会わせたくない」
「それは大層お美しいのでしょうね。ですがエレオノーラ様より美しい方などいらっしゃらないと思います」
「な、何言ってるの、急に」
「──失礼致しました」
(本当に何言ってるんだ、俺は──)
真っ赤になるエレオノーラの横で、フランツも顔が熱くなった。
そして益々、退職を決意した事に間違いは無いと確信する。
このままここに居ては、エレオノーラの為にも自分の為にもならない。
「フランツ、残念でならないが、君のキャリアも青春も長きに渡って奪ってしまった我々が、これ以上君を縛り付けるのは間違っている。騎士団でもここでの様に真面目に努めていれば、きっとすぐに芽がでるだろう。今まで本当に世話になったな、ありがとう」
「もったいないお言葉、痛み入ります。至らない所の多い自分に、今日まで大切なお嬢様の護衛と言う重大な任務を勤めさせて頂いたご恩はこれからも一生胸に刻んでまいります」
侯爵夫妻に挨拶をして、親しかった使用人達にも挨拶をすると、ダンスのレッスン中のエレオノーラを遠くから目に焼き付けて、鞄一つを手に屋敷を出た。
後任の護衛達の教育も終わっていたし、もう思い残すことは何も無い。
これで良かったのだ。
むしろ何故もっと早くにこうしなかったのか。
最初はエレオノーラがいつか結婚したら自分の役目も終わる、そう思っていたのに、いつしか、彼女が誰かの元へ嫁ぐのをこの目で見ればこの気持ちも収まるはずだ、にすり変わっていた。
エレオノーラにプロポーズされて、気休めにでも「いいですよ」と答えられ無かったのは、自分が勘違いや身の程知らずな期待をしてしまうのが怖かったからなのかもしれない。
いつかは来ると分かっていた瞬間だけれど、これ程唐突に終わりの時が訪れるとは思っていなかった。
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