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あの沢山泣いた日からどれくらい経ったのか分からないけれど、あの日を境に僕は『ランドルフ』だと思うようになった。引っかかっていた何かが取れたように、自然とそう思えるようになっていたのだ。
そして気付けば、ぼやけていた視界もはっきりとしていて。初めに見たのは、前からお母さんだと名乗る人の顔だった。
「あー、うー」
「ふふ、何かしら。母様のお顔になにかついてる?」
緑の瞳が柔らかく弧を描く。綺麗な顔だなと思い手を伸ばしてぺたぺたと顔を触ると、その手を優しく撫でられた。
優しくて綺麗なお母さん。サイカの時のお母さんも綺麗だったけれど、サイカの時のお母さんは体が傷だらけだった。顔だけは傷が少なかったけれど、首の後ろには痛そうな歯の形がいっぱいで。でもそれをお母さんに言うと、その時だけは怖い顔で怒るのだ。何でかは分からなかったけど、怖いお母さんは見たくなくて首の傷が増えても何も言わないようにした。
それに比べて僕の今のお母さんは何処にも傷なんて見当たらない。ずっとそのままでいて欲しいな。
「ランドルフ、大好きよ」
「う?」
僕を優しく抱きしめた母は、少しだけ泣いていたような気がした。僕が知ってる人はなんで皆泣きながら大好きって言うんだろう? どうせなら、笑って言ってくれたらいいのに。
そうして少しの間抱きしめられていると、コンコンと扉を叩く音がした。
「イレーネ様、旦那様がお帰りになられました」
「すぐ行くわ」
再び母の顔が見えるようになったけれど、母は泣いていなかった。良かったと思いながら、もう一度母の顔をぺたぺたと触る。本当に泣いてないかの確認だ。
「ランドルフ、父様が帰ってきたから一緒にお迎えに行きましょうね」
僕を抱いたまま、母は歩き出す。そうえいば、まだ父の顔を僕は知らない。声は聞いたことがあるけれど、目が見えるようになってからは会えていなかったのだ。だから少しだけワクワクする。
広い玄関扉の前で立ち止まった母は、僕の頭を撫でながら隣の女の人と何か話している。『しんでん』とか『まほう』とか聞こえてくるけれど、僕には何も分からなかった。だからただじっと扉を見つめて、父の帰りを待つ。
すると幾分もしないうちに扉が開いて、何人かの人が此方へと歩いてきた。
「おかえりなさい」
「あぁ、ただいま。ランドルフも、いい子にしてたか」
母に抱かれる僕へ手を伸ばした男の人は、そのまま僕を抱き上げた。それはいつも僕に『父様』だと言う人の声で。見上げたその人はびっくりするくらいかっこよくて、思わず腕の中へと隠れてしまった。この人が、僕のお父さん? お母さんもお父さんも、とても綺麗。母は黒い髪に淡い緑の目で、父は白い髪に青い目をしている。僕はいったいどんな色なんだろう。誰に似ているかな。お母さんに似てても、お父さんに似てても嬉しいな。
「ランドルフ?」
腕の中に顔を埋めた僕に、優しい声で父が名を呼ぶ。顔をあげれば嬉しそうに微笑んでくれて、僕も嬉しくなった。
「そうだ、イレーネ。一週間後に神殿に行けることが決まったから、準備しておいてくれ」
「分かりましたわ。メリー、ブルーノ、お願いね」
「畏まりました」
父の腕の中から周りを見れば、何時も母と一緒にいる女の人と、おじいちゃんのような見た目の男の人が返事をした。『しんでん』ってなんだろう。僕も行くのかな?
そういえば、お兄さんにも会えていないや。何処にいるんだろう。早くお兄さんの顔も見てみたいなぁ。
「さあ、今日はもう部屋へ戻って眠ろうか」
「あぶぅ」
父に抱えられたまま、母と一緒に元いた部屋へと連れられる。大きなベッドの端に座った父に体を揺すられると、眠気がやってきた。
「……この子はやっぱり、何かあるのかしら」
「何があったとしても俺達の可愛い子には変わりない」
「ええ、そうですわね。この子が苦労しないように守ってあげるのが親の勤めですもの。何があっても愛してあげましょう」
すやすやと寝息を立てている子の額に、祈りを捧げるように母は口付けた。
そして気付けば、ぼやけていた視界もはっきりとしていて。初めに見たのは、前からお母さんだと名乗る人の顔だった。
「あー、うー」
「ふふ、何かしら。母様のお顔になにかついてる?」
緑の瞳が柔らかく弧を描く。綺麗な顔だなと思い手を伸ばしてぺたぺたと顔を触ると、その手を優しく撫でられた。
優しくて綺麗なお母さん。サイカの時のお母さんも綺麗だったけれど、サイカの時のお母さんは体が傷だらけだった。顔だけは傷が少なかったけれど、首の後ろには痛そうな歯の形がいっぱいで。でもそれをお母さんに言うと、その時だけは怖い顔で怒るのだ。何でかは分からなかったけど、怖いお母さんは見たくなくて首の傷が増えても何も言わないようにした。
それに比べて僕の今のお母さんは何処にも傷なんて見当たらない。ずっとそのままでいて欲しいな。
「ランドルフ、大好きよ」
「う?」
僕を優しく抱きしめた母は、少しだけ泣いていたような気がした。僕が知ってる人はなんで皆泣きながら大好きって言うんだろう? どうせなら、笑って言ってくれたらいいのに。
そうして少しの間抱きしめられていると、コンコンと扉を叩く音がした。
「イレーネ様、旦那様がお帰りになられました」
「すぐ行くわ」
再び母の顔が見えるようになったけれど、母は泣いていなかった。良かったと思いながら、もう一度母の顔をぺたぺたと触る。本当に泣いてないかの確認だ。
「ランドルフ、父様が帰ってきたから一緒にお迎えに行きましょうね」
僕を抱いたまま、母は歩き出す。そうえいば、まだ父の顔を僕は知らない。声は聞いたことがあるけれど、目が見えるようになってからは会えていなかったのだ。だから少しだけワクワクする。
広い玄関扉の前で立ち止まった母は、僕の頭を撫でながら隣の女の人と何か話している。『しんでん』とか『まほう』とか聞こえてくるけれど、僕には何も分からなかった。だからただじっと扉を見つめて、父の帰りを待つ。
すると幾分もしないうちに扉が開いて、何人かの人が此方へと歩いてきた。
「おかえりなさい」
「あぁ、ただいま。ランドルフも、いい子にしてたか」
母に抱かれる僕へ手を伸ばした男の人は、そのまま僕を抱き上げた。それはいつも僕に『父様』だと言う人の声で。見上げたその人はびっくりするくらいかっこよくて、思わず腕の中へと隠れてしまった。この人が、僕のお父さん? お母さんもお父さんも、とても綺麗。母は黒い髪に淡い緑の目で、父は白い髪に青い目をしている。僕はいったいどんな色なんだろう。誰に似ているかな。お母さんに似てても、お父さんに似てても嬉しいな。
「ランドルフ?」
腕の中に顔を埋めた僕に、優しい声で父が名を呼ぶ。顔をあげれば嬉しそうに微笑んでくれて、僕も嬉しくなった。
「そうだ、イレーネ。一週間後に神殿に行けることが決まったから、準備しておいてくれ」
「分かりましたわ。メリー、ブルーノ、お願いね」
「畏まりました」
父の腕の中から周りを見れば、何時も母と一緒にいる女の人と、おじいちゃんのような見た目の男の人が返事をした。『しんでん』ってなんだろう。僕も行くのかな?
そういえば、お兄さんにも会えていないや。何処にいるんだろう。早くお兄さんの顔も見てみたいなぁ。
「さあ、今日はもう部屋へ戻って眠ろうか」
「あぶぅ」
父に抱えられたまま、母と一緒に元いた部屋へと連れられる。大きなベッドの端に座った父に体を揺すられると、眠気がやってきた。
「……この子はやっぱり、何かあるのかしら」
「何があったとしても俺達の可愛い子には変わりない」
「ええ、そうですわね。この子が苦労しないように守ってあげるのが親の勤めですもの。何があっても愛してあげましょう」
すやすやと寝息を立てている子の額に、祈りを捧げるように母は口付けた。
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