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心地よい暖かさに包まれながら、甘い匂いに誘われるようにゆっくりと目を覚ました。まだ寝ていたかったけれど、どうしてもその甘い匂いが気になって仕方がないのだ。
匂いの元を辿るように顔を動かすと、すぐ近くで甘く香ってくることに気付く。良い匂いの元に顔を埋めると、ぎゅっと抱き締められる感覚がした。
「……殿下、そろそろ我が子をお返し頂いても?」
何処からか父の声が聞こえてくる。『でんか』ってなんの事だろう。ランドルフになってからは知らない言葉が多くて、覚えるのが大変だ。サイカの時も、学校には行ったことがないから他の子達よりも頭は良くなかったけれど。今よりはもう少しひとつひとつの言葉の意味が分かっていた気がする。
それよりも、今僕を抱えているのは一体誰だろうか。さっきまでアンヘルに抱っこされてたはずなのだけれど、匂いが違う。アンヘルはもっとレモンみたいな匂いがするもの。
今僕を抱っこしてくれてる人の匂いは知らないはずなのに、懐かしい感じがする。甘くて美味しい砂糖菓子みたいな匂い。ずっと嗅いでいたいけれど、誰なのかも見てみたいと思い顔をあげようとした。でも抱きしめられてるから動けない。
「すみません、急に取り乱してしまい。彼はお返し致します。ですが、後程少しだけお時間を頂けませんか」
「……分かりました」
僕を抱えていた人は、そっと僕を父に返してくれた。少し離れたため、その顔をじっと見つめる。
金色の綺麗な髪は長くて、ゆるく三つ編みがされていた。目は……青と、灰色。右と左で目の色が違う人って居るんだね。その目はきらきらしてて、宝石みたいだった。
僕の家族はみんな綺麗な色をしているけれど、この人は特別な感じがする。例えるなら、絵本の中の王子様みたいな。
「あう、あぶぅ」
もっと近くで見たくて、もっとあの甘い匂いが欲しくて手を伸ばす。しかしその手は届かない。お父さんの腕の中が嫌な訳では無いけれど、あの人の傍にずっといたいと思ってしまったのだ。それなのにお父さんはその手ごと僕を抱きかかえてしまって、あの人はそのまま遠ざかろうとしていた。
――待って、行かないで!
「ぅ、っ……ぅあああ!」
叫ぶように泣けば、辺りに自分の声が響き渡る。うるさいと言われるかもしれないと頭では分かっていても、悲しくて寂しくて涙が止まらない。
僕があの時置いていってしまったから? 僕があの時死んでしまわなければ、ずっと一緒に居てくれた?
また、会えたと思ったのに。
「ランドルフ、どうした。お腹がすいたのか?」
父はそう言いながら僕を縦に抱え直したため、あの人が視界から消えてしまう。甘い匂いはずっとしているのに、見えないことに不安が募る。
「どうしたの、ランドルフ。母様が抱っこしましょうか?」
「兄様もここに居るよ」
そういうことでは無いのだ。家族では代わりにならない。僕はあの人がいいの。家族だって大好きだけど、この人だけは何かが違うんだ。僕の中の何かが、離れちゃいけないって叫んでる。
それを言葉で伝えられない代わりに、体を暴れさせて泣きながら必死に訴えた。
「失礼」
「で、殿下?」
ひょい、と誰かが父の腕から僕を取り上げた。ふわりと香る甘い匂いがして、縋るように顔を近付ける。
すると優しく背中を撫でられ、泣いていたのがだんだんと落ち着いてきた。ぷうぷうと鼻を鳴らしながら、近くにあった揺れる金色のひもらしきものを口に入れる。
「あぁ、やっぱり君は……」
「殿下……もしかして、」
「その話は後にしましょう。それよりも先ずはやることがあるのでしょう。私もご一緒させて頂いても?」
ひもをしっかりと手で掴んで、口の中でもぐもぐと頬張る。反対の手では、僕を抱き締めてくれているその人の服を離されないようにしっかりと掴んだ。
「え、えぇ。ランドルフは殿下から離れたくはないようですので……」
「ありがとうございます。では神官長の元までご案内します」
甘い甘い砂糖菓子を食べた時みたいに、幸せに包まれる。まだ少し流れる涙にしゃくりあげながらも、どこよりも安心できる場所を見つけたことで再び眠りに落ちるのだった。
匂いの元を辿るように顔を動かすと、すぐ近くで甘く香ってくることに気付く。良い匂いの元に顔を埋めると、ぎゅっと抱き締められる感覚がした。
「……殿下、そろそろ我が子をお返し頂いても?」
何処からか父の声が聞こえてくる。『でんか』ってなんの事だろう。ランドルフになってからは知らない言葉が多くて、覚えるのが大変だ。サイカの時も、学校には行ったことがないから他の子達よりも頭は良くなかったけれど。今よりはもう少しひとつひとつの言葉の意味が分かっていた気がする。
それよりも、今僕を抱えているのは一体誰だろうか。さっきまでアンヘルに抱っこされてたはずなのだけれど、匂いが違う。アンヘルはもっとレモンみたいな匂いがするもの。
今僕を抱っこしてくれてる人の匂いは知らないはずなのに、懐かしい感じがする。甘くて美味しい砂糖菓子みたいな匂い。ずっと嗅いでいたいけれど、誰なのかも見てみたいと思い顔をあげようとした。でも抱きしめられてるから動けない。
「すみません、急に取り乱してしまい。彼はお返し致します。ですが、後程少しだけお時間を頂けませんか」
「……分かりました」
僕を抱えていた人は、そっと僕を父に返してくれた。少し離れたため、その顔をじっと見つめる。
金色の綺麗な髪は長くて、ゆるく三つ編みがされていた。目は……青と、灰色。右と左で目の色が違う人って居るんだね。その目はきらきらしてて、宝石みたいだった。
僕の家族はみんな綺麗な色をしているけれど、この人は特別な感じがする。例えるなら、絵本の中の王子様みたいな。
「あう、あぶぅ」
もっと近くで見たくて、もっとあの甘い匂いが欲しくて手を伸ばす。しかしその手は届かない。お父さんの腕の中が嫌な訳では無いけれど、あの人の傍にずっといたいと思ってしまったのだ。それなのにお父さんはその手ごと僕を抱きかかえてしまって、あの人はそのまま遠ざかろうとしていた。
――待って、行かないで!
「ぅ、っ……ぅあああ!」
叫ぶように泣けば、辺りに自分の声が響き渡る。うるさいと言われるかもしれないと頭では分かっていても、悲しくて寂しくて涙が止まらない。
僕があの時置いていってしまったから? 僕があの時死んでしまわなければ、ずっと一緒に居てくれた?
また、会えたと思ったのに。
「ランドルフ、どうした。お腹がすいたのか?」
父はそう言いながら僕を縦に抱え直したため、あの人が視界から消えてしまう。甘い匂いはずっとしているのに、見えないことに不安が募る。
「どうしたの、ランドルフ。母様が抱っこしましょうか?」
「兄様もここに居るよ」
そういうことでは無いのだ。家族では代わりにならない。僕はあの人がいいの。家族だって大好きだけど、この人だけは何かが違うんだ。僕の中の何かが、離れちゃいけないって叫んでる。
それを言葉で伝えられない代わりに、体を暴れさせて泣きながら必死に訴えた。
「失礼」
「で、殿下?」
ひょい、と誰かが父の腕から僕を取り上げた。ふわりと香る甘い匂いがして、縋るように顔を近付ける。
すると優しく背中を撫でられ、泣いていたのがだんだんと落ち着いてきた。ぷうぷうと鼻を鳴らしながら、近くにあった揺れる金色のひもらしきものを口に入れる。
「あぁ、やっぱり君は……」
「殿下……もしかして、」
「その話は後にしましょう。それよりも先ずはやることがあるのでしょう。私もご一緒させて頂いても?」
ひもをしっかりと手で掴んで、口の中でもぐもぐと頬張る。反対の手では、僕を抱き締めてくれているその人の服を離されないようにしっかりと掴んだ。
「え、えぇ。ランドルフは殿下から離れたくはないようですので……」
「ありがとうございます。では神官長の元までご案内します」
甘い甘い砂糖菓子を食べた時みたいに、幸せに包まれる。まだ少し流れる涙にしゃくりあげながらも、どこよりも安心できる場所を見つけたことで再び眠りに落ちるのだった。
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