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9 sideユリウス
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「あれぇ、ニンゲンってこんなにこわれやすいものだっけ?」
「しんじゃう? でもしんだら、あのこはどうなるのー?」
頭の中に反響する高い声に、息苦しさも相まって頭痛がした。声の主を探そうとしても、辺りは変わらず光で包まれているため、姿形は分からない。
「貴方達、勝手なことはしてはいけないと言ったでしょう」
「「ヴィオラさま!」」
きゃらきゃらとした頭に響くうるさい声の中に、ひとつだけ落ち着いた声が響く。しかし、それを認識しても息苦しさと視界を奪われていることで、声の主が誰なのかまではこの時まだ分かっていなかった。
「「でもぼくたちは、わるくないよ?」」
「そうだとしても、駄目よ……と言っても、意味は無いのでしょうね」
スッと視界を覆っていた光が落ち着いてくる。息苦しさは続いたままだが、なんとか目は開けられそうだ。そうして両目を開いた先では、水で創られたような女性が佇んでいた。どこかで見たような気がしたけれど、目の前の人とは言えぬそれに問いかけられて思考は霧散した。
「人の子よ、選びなさい」
「……え、ら……ぶ」
「自己か、他者か」
何の説明もなしに選べ、と言われても答えられるわけが無い。けれど、ここで選ばなければこの息苦しさから抜け出せず、それこそ最後にはそのまま『死んでしまう』ことは理解していた。そしてこの選択が、今後の人生を大きく左右してしまうことも。
ふと、息苦しさで蹲ったときにほんの少しだけ何か大事な記憶が頭を過ったことを思い出す。
(そうだ、私は……私は誰かをずっと、探していた)
それが誰かは分からない。今後それが分かるとも限らない。それでも一縷の望みに掛けて、問に答えた。
「た、しゃ……を、……あの、こを……」
「貴方の選択を受け入れましょう。私の大事な子を、今度こそ守って頂戴ね」
落ち着いた声とともに頭に手が翳され、すうっと息苦しさが消えていく。死が迫っていた焦燥感はなくなったが、未だに動悸は収まらない。
「ぼくたちからは、こんせのしゅくふくを!」
「そして、かこのだいしょうを!」
水を纏った人ならざるものの周りを、跳ねるように飛んでいる小さな何か。それらが拙い舌使いで言葉を発すると共に、自分の周りを飛び跳ねた。
くるり、くるりと複数の小さな人型の水が自分の周りを跳ねる度に、冷たい水が自身の体を覆っていく。それが本能的に危険であることを悟りながらも、受け入れなければならない事だと頭の片隅で理解していた。
(あぁ、そうだ。この方は……ヴィオラ様は、水の精霊王ではないか)
今更になって気付いたところで、どうすることも出来ない。事前に知っていたからといって、どうにか出来る存在でもないのだが。
自分の周りを飛び跳ねているのは、水の精霊たちだろう。彼ら、彼女らが口にした『今世の祝福』と『過去の代償』とは一体なんの事なのだろうか。
本来ならば精霊という貴重な存在をこの目で見れたことに感謝すべき所なのだろうが、今の自分にはそこまでの精神は持ち合わせていなかったらしい。畏敬の念よりも、理不尽なこの状況による嫌悪や疑心が勝っていた。
「それでいいのよ。盲目的な信仰は国を滅ぼすもの」
頭の中に語りかけるように、静かな声が反響する。
過去には、神という存在を崇めていた時代があった。現在ではその存在は無きものになり、代わりに精霊を称える国が出来上がったのだ。神は信仰なくして存在することは出来ないとされているが、精霊はそうではないらしい。神というのは人が創り出した偶像であるため、人がそれを忘れれば消えていく。
それに比べて精霊という存在はそれ自体が個として存在しており、人を創ったのが精霊だと言われている。実際のところは分からないが、人が魔法を扱えるのは精霊の存在があるからなのは間違いないのだ。
水の精霊王『ヴィオラ』の言葉は、過去の人々が神を信仰していたことによって起こった国々の争いの事だろう。
「さあ、そろそろお目覚めの時間よ」
「こんどこそ、あのこをまもってね――ユキト」
水の膜で自身が覆われていくのを、何処か他人事のように受け入れていた。
しかし、最後に聞こえた人の名前に目を見開く。それと同時に濁流に呑まれるように、様々な記憶が渦となって思考を支配した。
「しんじゃう? でもしんだら、あのこはどうなるのー?」
頭の中に反響する高い声に、息苦しさも相まって頭痛がした。声の主を探そうとしても、辺りは変わらず光で包まれているため、姿形は分からない。
「貴方達、勝手なことはしてはいけないと言ったでしょう」
「「ヴィオラさま!」」
きゃらきゃらとした頭に響くうるさい声の中に、ひとつだけ落ち着いた声が響く。しかし、それを認識しても息苦しさと視界を奪われていることで、声の主が誰なのかまではこの時まだ分かっていなかった。
「「でもぼくたちは、わるくないよ?」」
「そうだとしても、駄目よ……と言っても、意味は無いのでしょうね」
スッと視界を覆っていた光が落ち着いてくる。息苦しさは続いたままだが、なんとか目は開けられそうだ。そうして両目を開いた先では、水で創られたような女性が佇んでいた。どこかで見たような気がしたけれど、目の前の人とは言えぬそれに問いかけられて思考は霧散した。
「人の子よ、選びなさい」
「……え、ら……ぶ」
「自己か、他者か」
何の説明もなしに選べ、と言われても答えられるわけが無い。けれど、ここで選ばなければこの息苦しさから抜け出せず、それこそ最後にはそのまま『死んでしまう』ことは理解していた。そしてこの選択が、今後の人生を大きく左右してしまうことも。
ふと、息苦しさで蹲ったときにほんの少しだけ何か大事な記憶が頭を過ったことを思い出す。
(そうだ、私は……私は誰かをずっと、探していた)
それが誰かは分からない。今後それが分かるとも限らない。それでも一縷の望みに掛けて、問に答えた。
「た、しゃ……を、……あの、こを……」
「貴方の選択を受け入れましょう。私の大事な子を、今度こそ守って頂戴ね」
落ち着いた声とともに頭に手が翳され、すうっと息苦しさが消えていく。死が迫っていた焦燥感はなくなったが、未だに動悸は収まらない。
「ぼくたちからは、こんせのしゅくふくを!」
「そして、かこのだいしょうを!」
水を纏った人ならざるものの周りを、跳ねるように飛んでいる小さな何か。それらが拙い舌使いで言葉を発すると共に、自分の周りを飛び跳ねた。
くるり、くるりと複数の小さな人型の水が自分の周りを跳ねる度に、冷たい水が自身の体を覆っていく。それが本能的に危険であることを悟りながらも、受け入れなければならない事だと頭の片隅で理解していた。
(あぁ、そうだ。この方は……ヴィオラ様は、水の精霊王ではないか)
今更になって気付いたところで、どうすることも出来ない。事前に知っていたからといって、どうにか出来る存在でもないのだが。
自分の周りを飛び跳ねているのは、水の精霊たちだろう。彼ら、彼女らが口にした『今世の祝福』と『過去の代償』とは一体なんの事なのだろうか。
本来ならば精霊という貴重な存在をこの目で見れたことに感謝すべき所なのだろうが、今の自分にはそこまでの精神は持ち合わせていなかったらしい。畏敬の念よりも、理不尽なこの状況による嫌悪や疑心が勝っていた。
「それでいいのよ。盲目的な信仰は国を滅ぼすもの」
頭の中に語りかけるように、静かな声が反響する。
過去には、神という存在を崇めていた時代があった。現在ではその存在は無きものになり、代わりに精霊を称える国が出来上がったのだ。神は信仰なくして存在することは出来ないとされているが、精霊はそうではないらしい。神というのは人が創り出した偶像であるため、人がそれを忘れれば消えていく。
それに比べて精霊という存在はそれ自体が個として存在しており、人を創ったのが精霊だと言われている。実際のところは分からないが、人が魔法を扱えるのは精霊の存在があるからなのは間違いないのだ。
水の精霊王『ヴィオラ』の言葉は、過去の人々が神を信仰していたことによって起こった国々の争いの事だろう。
「さあ、そろそろお目覚めの時間よ」
「こんどこそ、あのこをまもってね――ユキト」
水の膜で自身が覆われていくのを、何処か他人事のように受け入れていた。
しかし、最後に聞こえた人の名前に目を見開く。それと同時に濁流に呑まれるように、様々な記憶が渦となって思考を支配した。
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