胡蝶は揺りかごの中で眠る

玲瓏

文字の大きさ
10 / 16

10 sideユリウス

しおりを挟む
 どれくらいの時間が経ったのかは分からないが、神殿の者たちがこの部屋に誰も入ってきていない事を考えるとそう時間は経っていないのだろう。
 いつの間にか横たわっていた体をゆっくりと起こすと、針で刺されるような痛みが頭の中を駆け巡る。

(一旦、整理した方が良さそうだな)

 長く息を吐き出してから、今現在の自分のことから振り返ることにした。
 名前は『ユリウス・ウィン・オークリッド』。水の精霊王ヴィオラを称える国エルミースの第一王子であり、王位継承権は第二位。隣国アーリスの王女を母に持つ。王位継承権が第二位であるのは、アーリス国がこの国よりも小さい国であり、母は側妃として迎えられたからだ。正妃はこの国の公爵の出であり、現在八歳の王位継承権第一位の王子を産んでいる。
 父である陛下とは関わりが殆どなく、会話した記憶は数える程しかない。王位に興味がある訳でもないため、スペアとして育てられることに不満がある訳では無い。けれど王族としての矜恃もあるため口に出したことはないが、父に見向きもされないというのはやはり子供にとっては辛いことだった。それも今ではどうでもいい事になってしまったが。

(だって“俺”には、探さなきゃいけない人がいる。今度こそ守りきらなければ)

 精霊の言っていた『祝福』と『代償』。祝福が何かはまだ分かっていないが、代償はすぐに判明した。代償はこの左目だ。目が覚めてすぐに、左目が見えていない――正確に言えば視えて・・・いる――ことに気付いた。
 右目は変わらずその場にあるモノを捉えているのに対して、左目はそのモノ自体は分からないが魔力や魔素の流れを捉えられるようになっている。ある意味それが祝福のように思えるが、精霊という特殊な存在がそんな簡単な話で終わらせるわけが無い。
 そして代償はそれだけでは終わらない。今はまだ何も起こっていないが、近いうちに魔力暴走が起こるだろう。それを確認するためにも、痛む頭を押さえながら奥にある台座へと足を伸ばした。

「これはもう確実だろうな」

 台座の上に乗っている羊皮紙の、バース性が書かれた欄を見遣る。そこには紛れもなく『‪α ランクSSS‬』と記入されていた。過去に二人だけ居たとされる、‪α‬のランクSSS。その三人目となってしまったらしい。
 バース性のランクは魔力と密接な関係にあり、ランクが高ければ高いほど親和性が高く、高度な魔法を扱えるようになる。しかしそれは一概に良いと言えるものでは無いのだ。‪α‬とΩのみに存在している発情を促すフェロモンを発するようになれば、親和性の高いSランク以上の‪‪α‬やΩは魔力暴走を起こしやすくなる。幾ら魔力制御を学習していても、突発的に発生するそれは防ぐことが難しい。大人であるならまだしも、フェロモンを発するようになるのはバース判定を受けてから半年から一年程の子供なのだ。
 加えて、それによって被害を被るのは何も本人だけでは無いのである。魔力暴走は体内で収まりきらない魔力を、魔法として勝手に排出する。過去に居た‪α‬のランクSSSの二人はその魔力暴走によって幼くして亡くなっているのだ。
 そういった魔力暴走を鎮めるための魔道具も存在しているし、魔力相性の良い存在が居れば魔力排出を促してもらうことも出来る。けれど、魔道具に関してはランクが高い‪α‬やΩの絶対数が少ないことにより、発展途上と言っていい。ランクSSSの自分が使用すれば間違いなく一瞬で破壊され、意味を成さないだろう。
 魔力相性に関してはランクが同程度かそれ以上でなければ、魔力暴走した人の魔力に助力者が呑まれ、最悪死ぬ可能性すらある。唯一そうならない存在というのも居るには居るが、自分にとってそれはまず無理な話である。

「それを分かった上で精霊たちはあの子を守れなんて言うんだから、本当に厄介だよな……」

 少しの焦燥と苛立ちを覚え、羊皮紙をぐしゃりと握り潰す。幸いにも自分には魔力や魔素が視えるようになった。それを使って生き延びろという事か。
 本当に理不尽極まりないが、前世で幸人ゆきととして生きていた自分が守れなかった唯一無二が、この世界にも存在することが分かったのだ。精霊王の言葉から察するに、あの子は精霊王の子だと考えて相違ないだろう。そうだとすれば相当特異な存在として生まれているはずで、自分が知る限りではそれらしき人物は居ない。つまりいつか生まれてくるあの子を守れるだけの力を今のうちにつけておけ、と。
 死ぬことは許されない。もし魔力暴走で自分が死にかけるような事があればあの精霊王のことだ、何としてでもその死を捻じ曲げに来るだろう。それくらい精霊にとって同種の魂というのは大切なものらしい。あの子がなぜ人の子として生きているのかは不明であるし、何故その相手に自分が選ばれているのかも理解が出来ない。まあ、高位の存在である精霊の考えを理解しようとすることすら烏滸がましいことなのだろうが。

「兎に角まずは陛下と神官長に諸々の許可を貰わないとな」

 魔力暴走を出来る限り最小限に押し留めるためにも、神殿に留まる必要がある。神殿には至る所に結界が張ってあるため、バース判定によって魔力暴走が考えられる子供たちは一時的に神殿へと預けられるのだ。安定すれば帰ることが出来るが、自分の場合は叔父と同じように神殿に身を捧げた方が生存率は上がるだろう。
 面倒なことになってしまったが、愛しい人のためを思うならば苦ではない。僅かに口角を持ち上げ、くしゃくしゃになった羊皮紙を握り締めたまま扉の方へと足を向けた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました 2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。 様々な形での応援ありがとうございます!

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

処理中です...