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ザッカリーも卒業する時期が近くなり、王子兄弟の婚約者を選定する気運が高まってきた。
主に兄のヒューゴの相手について、周辺国との関係から他国の姫を娶って関係強化を図るべきか、または国内貴族と婚姻し、内政を安定化させるべきか、国王陛下と宰相の間で議論がすすんだ事による。
ヒューゴは国王陛下の執務室に呼ばれた。
「失礼します。父上、お呼びでしょうか?」
「ああ、ヒューゴ。知っての通り隣国との同盟関係において、わが国はより関係強化しなければ存続が危うい状況になっている。申し訳ないが隣国の姫を次の王妃として娶り、関係強化をはかるべきと思う。王になるものとしての責務と考えて欲しい」
「そうですか。わかりました。仰せの通りに致します」
「殿下には他に思われる御方が居られますか?」
「宰相閣下、私はマテオが好きです。叶うならマテオに側妃として側で支えて欲しいと思います」
「そうでございましたか…」
「そうか…大変申し訳ない。マテオの家は貴族家の中でも力が強い。国内安定化のためには兄弟どちらかと結婚をさせたいのだが。ザッカリーがマテオを妃に希望している。マテオの家でもヒューゴの側妃よりザッカリーの正妃の方が了承しやすいだろう。おまえの気持ちを汲んでやれなくて済まない」
「わかりました」
ヒューゴは、産まれながら王を継ぐものとして妃が自分の希望通りになるとは思っていなかった。自分が隣国の姫を娶るのは仕方ない。お互いに何とか愛せる相手だと良いが。
しかしむしろ自分よりマテオの事が心配だ。最近のザッカリーの態度を見るに、移り気なザッカリーに側妃が増えてマテオを困らせたりしないだろうか。オメガであるのにベータのザッカリーと婚姻しても発情期には大丈夫だろうか。
自分の好きな人だ。ザッカリーと幸せになってくれたら良いが、近くで辛い姿を見るのは居たたまれない。ヒューゴは、マテオの身を案じた。
「マテオ、国王陛下からザッカリー殿下との婚約の打診が来ている」
「え?それは…」
「ヒューゴ殿下が隣国の姫と、ザッカリー殿下がマテオと婚約して、国を安定化させたいとの意向だ」
「そうですか…でもザッカリー殿下は他の貴族女性と交際されていらして、私の事は疎んでおられるご様子でしたので...」
「まあ、陛下と宰相閣下のお決めになった事だから。王子である以上、国で決めて正式に婚約するのだ。これからは他の女性とのお付き合いは控えるだろう。もしかしたら結婚後は側妃を娶りたいとおっしゃるかもしれないから、多少心配ではあるのだが。こちらもお断りはしにくい」
「そうですね…貴族として、陛下の仰せのままに。かしこまりました」
「マテオの気持ちを尊重できずに申し訳ないが、卒業したら婚約になる」
学院でも婚約の内定について話題に上がっていた。ザッカリーもそれからは女性との逢瀬を控えて、卒業パーティーにはマテオをエスコートしたのだった。
「ご卒業おめでとうございます」
「ありがとう」
「殿下とマテオ様のご婚約もおめでとうございます」
「そうだな。兄上の婚約と同時に成される事になった」
「マテオ様のような美しく優秀な方と婚約なさって良かったですね」
「ああ。兄の婚約者の姫より美しいと評判だよ。それにマテオの家は由緒ある有力な家柄だ」
ザッカリーと交際の噂のあった女性達は、遠巻きに二人を見ており、自分が責められるような居心地の悪さに耐えて静かに側にいたマテオ。
国王とヒューゴは、落ち着きを取り戻したザッカリーに安心しながらもやはりマテオには申し訳なく心配する眼差しでもあった。
ヒューゴは、もう手に入らない憧れの人を心配しながらじっと目に焼き付けるように見つめていた。
卒業後、国内外に両王子の婚約が知らされた。マテオは屋敷の中で花嫁修行に勤しみ、王宮での教師からの王子妃教育を受けたり王妃からも細々と仕事の話を聞いたり、お茶に呼ばれたりと日々を忙しくしていた。
そして年齢は遅めであったが初めての発情期が訪れ、屋敷に籠って過ごす日々を送った。
ベータのザッカリーが相手であれば番う事もできないし、発情を治めて貰うにもどの程度の効果かわからない。自分一人で過ごせるようになる必要があった。
その苦しい発情の最中に、ザッカリーは学院で関係のあった女性とマテオを裏切って浮気をしていたのだった。
それがわかったのは数ヶ月後の事。二回目の発情期を苦しく過ごしてやっと落ち着いた頃。
相手の女性とその父である当主が王家に陳情した。娘を傷物にしてあまつさえ子供まで作った。王子には責任を取って娘を正妃にして結婚をして欲しいと。
国王と宰相は大変な慌てようで、ザッカリーを叱責した。確かに関係していたと告白したザッカリーは、しかしその原因がマテオが自分に優しくない、冷たい態度だったからだと言い訳をしたのだった。
国王、王妃、兄のヒューゴはこれまでのザッカリーの態度や生徒会での様子、周囲からも見聞きしてザッカリーに非があると認めた。ザッカリーを王宮の自室で謹慎しさせることとして今後の方策が練られた。
勿論話を聞いたマテオの両親も大変憤った。結婚前からこれではマテオの苦労は目に見えている。マテオに非があるとのたまうなどとんでもない。ましてや正妃でなければマテオは嫁がせないと王家に伝え、王子有責での婚約解消と補償を求めたのだ。
「マテオには、本当に済まないことになった。父は他の貴族家の相手をこれから探すよ」
「仕方ありませんよ父上。王子妃となったら、大変な事が多かったでしょうし。今後他の縁が得られなくともお気になさらないでください」
「マテオ、私達はマテオに幸せになって貰いたいんだよ。はじめから移り気でベータの殿下ではと心配もしていたのに了承してしまった。次は失敗しないようにするからね。ごめんなさい」
母は泣きながらマテオに詫びた。父も何とか良い人を、出来ればアルファで浮気をしない人を探そうとつてを当たる事にした。
主に兄のヒューゴの相手について、周辺国との関係から他国の姫を娶って関係強化を図るべきか、または国内貴族と婚姻し、内政を安定化させるべきか、国王陛下と宰相の間で議論がすすんだ事による。
ヒューゴは国王陛下の執務室に呼ばれた。
「失礼します。父上、お呼びでしょうか?」
「ああ、ヒューゴ。知っての通り隣国との同盟関係において、わが国はより関係強化しなければ存続が危うい状況になっている。申し訳ないが隣国の姫を次の王妃として娶り、関係強化をはかるべきと思う。王になるものとしての責務と考えて欲しい」
「そうですか。わかりました。仰せの通りに致します」
「殿下には他に思われる御方が居られますか?」
「宰相閣下、私はマテオが好きです。叶うならマテオに側妃として側で支えて欲しいと思います」
「そうでございましたか…」
「そうか…大変申し訳ない。マテオの家は貴族家の中でも力が強い。国内安定化のためには兄弟どちらかと結婚をさせたいのだが。ザッカリーがマテオを妃に希望している。マテオの家でもヒューゴの側妃よりザッカリーの正妃の方が了承しやすいだろう。おまえの気持ちを汲んでやれなくて済まない」
「わかりました」
ヒューゴは、産まれながら王を継ぐものとして妃が自分の希望通りになるとは思っていなかった。自分が隣国の姫を娶るのは仕方ない。お互いに何とか愛せる相手だと良いが。
しかしむしろ自分よりマテオの事が心配だ。最近のザッカリーの態度を見るに、移り気なザッカリーに側妃が増えてマテオを困らせたりしないだろうか。オメガであるのにベータのザッカリーと婚姻しても発情期には大丈夫だろうか。
自分の好きな人だ。ザッカリーと幸せになってくれたら良いが、近くで辛い姿を見るのは居たたまれない。ヒューゴは、マテオの身を案じた。
「マテオ、国王陛下からザッカリー殿下との婚約の打診が来ている」
「え?それは…」
「ヒューゴ殿下が隣国の姫と、ザッカリー殿下がマテオと婚約して、国を安定化させたいとの意向だ」
「そうですか…でもザッカリー殿下は他の貴族女性と交際されていらして、私の事は疎んでおられるご様子でしたので...」
「まあ、陛下と宰相閣下のお決めになった事だから。王子である以上、国で決めて正式に婚約するのだ。これからは他の女性とのお付き合いは控えるだろう。もしかしたら結婚後は側妃を娶りたいとおっしゃるかもしれないから、多少心配ではあるのだが。こちらもお断りはしにくい」
「そうですね…貴族として、陛下の仰せのままに。かしこまりました」
「マテオの気持ちを尊重できずに申し訳ないが、卒業したら婚約になる」
学院でも婚約の内定について話題に上がっていた。ザッカリーもそれからは女性との逢瀬を控えて、卒業パーティーにはマテオをエスコートしたのだった。
「ご卒業おめでとうございます」
「ありがとう」
「殿下とマテオ様のご婚約もおめでとうございます」
「そうだな。兄上の婚約と同時に成される事になった」
「マテオ様のような美しく優秀な方と婚約なさって良かったですね」
「ああ。兄の婚約者の姫より美しいと評判だよ。それにマテオの家は由緒ある有力な家柄だ」
ザッカリーと交際の噂のあった女性達は、遠巻きに二人を見ており、自分が責められるような居心地の悪さに耐えて静かに側にいたマテオ。
国王とヒューゴは、落ち着きを取り戻したザッカリーに安心しながらもやはりマテオには申し訳なく心配する眼差しでもあった。
ヒューゴは、もう手に入らない憧れの人を心配しながらじっと目に焼き付けるように見つめていた。
卒業後、国内外に両王子の婚約が知らされた。マテオは屋敷の中で花嫁修行に勤しみ、王宮での教師からの王子妃教育を受けたり王妃からも細々と仕事の話を聞いたり、お茶に呼ばれたりと日々を忙しくしていた。
そして年齢は遅めであったが初めての発情期が訪れ、屋敷に籠って過ごす日々を送った。
ベータのザッカリーが相手であれば番う事もできないし、発情を治めて貰うにもどの程度の効果かわからない。自分一人で過ごせるようになる必要があった。
その苦しい発情の最中に、ザッカリーは学院で関係のあった女性とマテオを裏切って浮気をしていたのだった。
それがわかったのは数ヶ月後の事。二回目の発情期を苦しく過ごしてやっと落ち着いた頃。
相手の女性とその父である当主が王家に陳情した。娘を傷物にしてあまつさえ子供まで作った。王子には責任を取って娘を正妃にして結婚をして欲しいと。
国王と宰相は大変な慌てようで、ザッカリーを叱責した。確かに関係していたと告白したザッカリーは、しかしその原因がマテオが自分に優しくない、冷たい態度だったからだと言い訳をしたのだった。
国王、王妃、兄のヒューゴはこれまでのザッカリーの態度や生徒会での様子、周囲からも見聞きしてザッカリーに非があると認めた。ザッカリーを王宮の自室で謹慎しさせることとして今後の方策が練られた。
勿論話を聞いたマテオの両親も大変憤った。結婚前からこれではマテオの苦労は目に見えている。マテオに非があるとのたまうなどとんでもない。ましてや正妃でなければマテオは嫁がせないと王家に伝え、王子有責での婚約解消と補償を求めたのだ。
「マテオには、本当に済まないことになった。父は他の貴族家の相手をこれから探すよ」
「仕方ありませんよ父上。王子妃となったら、大変な事が多かったでしょうし。今後他の縁が得られなくともお気になさらないでください」
「マテオ、私達はマテオに幸せになって貰いたいんだよ。はじめから移り気でベータの殿下ではと心配もしていたのに了承してしまった。次は失敗しないようにするからね。ごめんなさい」
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