ふたなり治験棟 企画12月31公開

ほたる

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✨2025年ご褒美企画✨ 12月31日公開

南先生の治験棟時代1

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颯希side

これは今から約10年前、治験棟で生活していた僕の話し。

僕は、南 颯希そうき18歳。
47都道府県全てに設立されているという治験棟の1つに入所して、早2年治療に明け暮れる日々を送っていた。
月経は来るようになったものの排卵がなかなか起きず、同年代の子たちから少し遅れている事は自覚していた。
焦っても仕方ないが、僕には夢があった。
その為には、後1年半で出産まで持って行きたいのが正直な気持ち。

その夢は、医者になること。

治験棟で生活が始まり沢山の先生に支えられ、時には怒りをぶつけ衝突したり、1人では耐えられない治療にも傍で寄り添い励ましてくれて、本当に感謝してもしきれない。
僕が人生で出会った人たちの中でも特に大切な存在になっていた。
そんな先生たちの背中を追って、次世代のふたなりの子たちをサポート出来る頼れる医者になる事が僕の夢になった。

「颯季ー、岡本先生が呼んでるぞ。」

友人とロビーで話していると、白いスクラブを着たかなり初々しい男性が声をかけてきた。
今年の春からここの治験棟で、研修をしている北都先生だ。
柔らかく笑う北都先生は、兄貴肌でみんなに慕われていた。
僕が、医者になりたいと初めて話した先生でもあった。

「…颯希、今日の治療受けなかったんだって?」

「……もう聞いたの?…さっすが情報通だね。」

「今の治療が1番排卵に効果的なの分かってんだろ?」

「……ぅん。なんか…もう妊婦できなくてもいいかなって…。」

ここ最近急激にメンタルが落ちている事は自分でも分かっていたが、治療をすればするだけ虚しい気持ちが大きくなり、積極的に治療を受ける事ができなくなっていた。
それがグループリーダーの先生の目に余ったのか呼び出されたらしい。

スタッフステーションに入ると、岡本先生の他に同じ治療グループの先生が2人デスクに座っていた。

「颯希、そこの椅子に座って。」

椅子に座ると、北都先生も僕の隣に座った。

「……今日、治療を受けなかったのはごめんなさい。」

「先生達も今の颯希に治療を強制させるつもりはないから声をかけに行かなかったの。今不安や不満に感じてる事があるなら話して欲しいな。それから今後の治療展開について一緒に考えようか。」

岡本先生は、穏やかに微笑み俯く僕の肩を優しく摩って、僕が話し始めるのをゆっくり待ってくれた。

「……前回の検査でまた排卵されてないって聞いて、周りからどんどん遅れを取ってるって……ッ…焦っても仕方ないのは分かってるんだけど…。」

自分の気持ちを吐き出せば吐き出すだけ涙が込み上げ言葉に詰まる。


「…どんなに治療を受けても排卵しない。パートナーの人を見つけるリストにも載れない…ッ……そう思ったら、治療受ける意味がないんじゃないかって…。」

「…ん~、なるほどね。颯希が焦りを感じているのは分かったよ。でもドナー候補のリストに載るのは、20歳を待ってでもいいと思うのね?今はじっくり身体が成熟していくのを待ってみよう?」

それじゃ…駄目なんだよ。
俺たちふたなりが医者になるには、出産する事が第1条件にある。

「20歳でリストに載ってからだと間に合わないんだよ!あと1年半で出産までしないと…。」

岡本先生に掴みかかりそうになる俺を北都先生が抱きしめ抑えてきた。

「颯希、落ち着けっ!」

「…どうした?颯希、間に合わないって何に?」

「…颯希、岡本先生に話してもいい?」

「……グズッ…ん。」

「颯希は医者になりたいと以前話してくれました。医大に進学する為の条件にふたなりの子は、出産があります。」

「そうか…。医者になりたかったんだね。……颯希の気持ちはよく分かった。これからの治療方針を決めよう。」

一緒に話を聞いていたグループの先生の萩野先生が、棚から点滴のパウチを持って来た。

「この誘発剤を颯希に使うのは渋っていたんだが、早急に排卵を促すためには使うのも1つ手だと思う。だけど身体との相性もあるからな。副作用が強く出る可能性が高い。」

「この誘発剤と卵子を育てる注射剤を併用して、今効果が出てきている電気治療をしていこう。」

「はい。」

その日の夕方から、排卵促進剤の点滴が繋がれた。
就寝時間になる頃には、胃のむかつきが本格的に吐き気に変わり、気持ちが悪く眠りにつく事もままならない。
これが今後続いて行くのかと絶望したが、医者になるという目標が落ち込みそうになる弱い心を奮い立たせた。

「…ッ……うっ…ぉえ……。」

翌日、体力が落ちないように無理して食べた朝食は、全て吐き戻してしまった。

午前中に予定されていた治療は、何とか受けられたが、早く排卵しないとこの苦しさからは抜け出せないというプレッシャーからか、思うように快感を感じられずに終わった。

電気治療は、卵巣に電気を流して卵子を刺激し成長を促進する治療だ。
その治療の時に快感を得られる方が、女性ホルモンが多く分泌され効果が増幅する。
だからただ電気を当てているよりも性感帯を刺激して、快感を得られるようにする必要があった。

「颯希、昼食どうする?」

部屋に戻った後も吐き気が強く
ガーグルベースンを抱えている僕の所に北都先生が来た。

「……食べる。」

「大丈夫?本当に食べるの?」

「…ん。食べる。」

「分かった。…昼食に中華スープが出るから、ご飯入れて中華雑炊にしてもらう?」

消化が良くて食べやすい雑炊にしてくれるのは助かる。

「お昼ご飯持って来たよ。」

北都先生が、1人前用の小さな土鍋に熱々の湯気が上る中華雑炊を運んで来てくれた。

「……吐き気止め欲しい…。」

「しんどいよなぁ…。颯希、ずっと吐いてるしな。…この誘発剤、吐き気止めを一緒に使えないんだ。」

「……座薬でもいい。」

「座薬も使えない。…それに颯希は、副作用でよく嘔吐するだろ?だから先生たちもこの薬を使うのを渋ってたんだよ。」

「……グズッ…もう、やりたくない…。しんどい…。」

グズグズ泣く僕の背中を抱き寄せてくれる北都先生の温もりに少しだけ気持ちが軽くなる。
僕もこういう先生になりたい…。
その思いが、暗がりに灯る道標のようだった。

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