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Zazilia

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3 出張

14日目 共同生活のはじまり

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14日目


4時


 目を覚ましたら、みんな、起きていた。
 ぼくが身を起こすと、みんなはぼくを見た。
「おはよー」「おはよ」「おはよう」「おはー」「よう」「おはよっ」「おはようございます」
 ぼくは、頷いた。「おはよう」
 ぼくは、シャワールームに入りながら、ポケットの中を探った。
 盗まれてはいない。
 ぼくは、ブラックベリーを取り出し、アナちゃんにメールを送った。充電は3%で危ないところだった。最後に充電をしたのは、確か3日前。このスマホに触るのは3日ぶりだった。
 温かいシャワーで寝汗と眠気を流し、リビングへ戻れば、みんないた。
 なんだか意外だ。
 てっきり、ぼくが寝ている間にどこかへ行ってしまうか、ぼくからなにかを盗むか、ぼくに危害を加えようとするかのいずれかをやると思っていたのだけれど、昨日あったばかりのみんなは、本当にぼくを信用してくれているようだ。
 ぼくというよりは、オドレイちゃんのことをだろうか。
 ぼくは炭酸の入ったミネラルウォーターを飲み、ボトルをテーブルに置いた。
 冷蔵庫の中も、誰かが触った様子はない。
「朝ご飯にしよっか」
 ぼくが言うと、みんなは嬉しそうな顔で頷いた。
「じゃあ、イネスはスクランブルエッグ、オドレイはぼくと一緒にサンドウィッチ、ジャンナとジャスミンは果物を剥いて。エドワードとゲイリーは、コーヒーをお願い」
 みんなは言葉や首肯で返事をすると、それぞれ動き始めた。
「卵は1人2個までね。今日はまた買い物に行くから、今朝は我慢して」
「わかった」イネスちゃんは頷いた。
「サンドウィッチにはなにを挟む?」オドレイちゃんは言った。
「なんでも良いよ」冷蔵庫には、ローストチキンとレタス、オリーブオイルとハーブソルトが入っていた。逆に言えば、それしかなかった気がする。
 なんだか気がついたら始まっていた、ホームレスの子どもたちとの共同生活。
 実はこういうのもはじめてじゃなかったりする。
 15歳の頃、旅の間に紆余曲折があって、ぼくもまたホームレスのような生活をしていた。
 その時は、北欧の山小屋で過ごしていた。
 食べ物は木の実やキノコ、サーモンや鹿やトナカイの肉。
 その時学んだことは、お金を使わずに豊かに過ごす術だ。
 ただ、それは大自然の中だから出来たことで、街中では同じ事は出来ない。
 もっとも、ここベネチアなら、釣りをしている人もちらほら見るから、多少は似たようなことも出来るだろう。
 幸い、アパートは運河に面していて、そこから釣りをすることも出来た。
 吸血鬼であるイリーナちゃんとゲイリーくんは、昼間は気軽に外出することが出来ないため、釣りを担当してもらうことにした。
 朝食を食べながら、ぼくはみんなに説明をした。
 地球上に暮らすすべての魔法族は、学園で学ばなければいけないこと、授業料はタダで、希望すれば地球上で有効な免許や資格もタダで取得出来ること、学園にいる間の衣食住はすべて保証されるということ、ぼくたちはこれからフランスへ向かい、フランス各地にある学園のうちのどれかへ向かう必要があること。
 魔法族が得られる福祉の外で生きてきたみんなに、この上手すぎるように聞こえてしまう話を信じてもらうことは苦労するかと思ったけれど、精神の魔法を扱うジャスミンちゃんと、万能の魔法を扱うイネスちゃん、そして、7人の中で一番聡明で大人びているオドレイちゃんの【人を見る目】は、他の子たちからも信用されているようで、ぼくはただ、ありのままのことを話すだけで、みんなに信じてもらうことが出来た。
 食事を終え、お皿を洗ったぼくたちは、一息を吐いてから、次の仕事に移った。
 ぼくは、みんなのために、手の平に魔素を集め、服を作り出した。
 ぼくたち魔法族は、魔素を使って様々な道具を作り出すことが出来る。
 ぼくの着ている服も、全部ぼくオリジナルのオーダーメイドだった。
「凄い、そんなこと出来るんだ」ジャンナちゃんは言った。少し話をしてみて気がついたのだけれど、ジャンナちゃんは、この中で1番オシャレに興味があるようだった。
「こういうのも、学園で学べるよ」ぼくは言った。
 ぼくに与えられた1日の予算は300ユーロ。
 みんな大食いの魔法族なので、食費だけで100ユーロほどがなくなってしまう。
 加えて、フランスまでの交通費を確保するために、ぼくは150ユーロを街中にあるATMから下ろすことにした。
 残った50ユーロほどのお金で、シャンプーやら洗剤やらを買えば、手元に残るお金は雀の涙ほどだ。
 今回は、ベネチアを観光をすることは諦めた方が良いだろう。
 フランスに行く必要があるのは、学園の入学手続きには1週間ほどかかるからで、3日間はこのベネチアで過ごすことが出来るのだけれど、その後は、仕事のためにフランスに帰る必要があるからということ、そして、この街に魔法族の孤児がいるということは、この街の警察に所属する魔法族たちは、彼らを救うつもりがないからだと思ったからだ。それについては、先日の件でベネチア警察に所属する魔法族たちと仕事をしたハリエットさんに、探りを入れてもらおう。
 みんなのために、3着ほど服を用意したところで、アナちゃんがアパートにやってきた。
「やあ、元気?」
 アナちゃんは、クールな感じで言った。
 顔がこわばっている。
 なんだか少し緊張しているようだ。
 アナちゃんは、7人と握手をすると、ぼくを見た。「わたしのカードも使って良いよ。でも、大丈夫なの?」
 ぼくは頷いた。「みんな良い子だよ」
「そうじゃなくて」アナちゃんは、琥珀色の瞳をぼんやりと光らせた。『なんで突然こんなこと』脳内に、アナちゃんの声が響いた。
 ぼくは、頭の中でアナちゃんへの言葉を思い浮かべた。『だって、助けられるし』
『家出してるだけってことはないの?』
『それはこれから聞くよ。アナちゃんは嘘かホントか見分けて欲しい。家出してるだけなら、学園で過ごさせれば良いよ。ご両親が引き取りに来るまで』
『臭いはついてないの?』
『臭い? シャワーは浴びさせたよ』
『違う。良くない連中に利用された過去は?』
『それならなおさら保護しないと』
『このアパートの上にシャボン玉1個飛ばしといたから、周りは観察出来る』
『良いね』
『ソラ、少し考えが甘いと思う』
『どういうこと?』
『この子達が、突然街に現れた見ず知らずのわたしたちに保護されたって、他の孤児の子たちが知ったらどう思う? 大人に希望を抱きすぎて、大人はみんな親切で優しくて自分たちを救ってくれるって考えちゃうかも知れない』
 ぼくの頭に、暗い考えが浮かんだ。『どうすれば良いかな』
『この子達に学園での暮らしを与えるっていうのは賛成』
『ぼくも』
『とりあえず、座ろっか』
『うん』
 1秒にも満たない脳内での会話を終えたぼくとアナちゃんは、ダイニングテーブルに着くことにした。
「なにもないねこのアパート」
 1LDKの小さなアパートにはベッドやダイニングテーブルがあるだけ。
 カーテンすらないので、ぼくは、それを手の平に作り出した。
「フランスのどこが良いかな」
「リヨンが良いかも。あそこならインターポールの本部があるし、フランスの学園じゃあそこが1番しっかりしてる」
「そっか。すぐに連絡しよう」
「だね」ぼくは、オドレイちゃんとジャスミンちゃん、イネスちゃんを見た。「アナちゃん」
「うん」『なに?』
『この子達を学園に預けることは、正しいことだと思う?』
『思う。協力するよ。ただ、わたしたちはカードも与えられて、裁量も与えられて、こうやってああいう子達にまともな生活を与えることが出来る。他にも色んなことが出来る。だから、わたしたちの行動が与える影響についてもよく考えないと。どこにどんな影響が及ぶか。ベネチアの魔法族はどうして、この子達を今の今まで放置していたのか、よく考えないと。ホームレスが犯罪に巻き込まれたり、犯罪に利用されたりなんてことは珍しくない。下手すると、ソラがその手の犯罪者と間違われるかも。勘違いした相手が警察なら問題ないけど、そうじゃなかったら面倒になるかもしれない』
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