100日後に〇〇する〇〇

Zazilia

文字の大きさ
42 / 47
4 映画撮影

21日目 東欧のカラディシア

しおりを挟む



 浄とは、ぼくが物心つく頃からの付き合いだ。
 子供の頃から、サッカーとは名ばかりの蹴り合いをしたり、図書室で一緒に本を読んだりしていた。
 小等部生のときに、なにを勘違いしたのか、ぼくに告白をしてきてからは距離が開いてしまった。
 ぼくたちの関係はそれっきりだと思っていたのだけれど、あちらはそう思っていなかったようで、高等部に進級したとき、あちらから声をかけてきた。
 中等部を卒業した時点で、ぼくは、学年上位12位の成績を取り、浄は24位の成績を取った。
 上位12位の成績を取った者は学園の仕事を手伝ったり、希望する職種のインターンに参加することが認められていたので、ぼくは、インターポールのインターンとして働き始めることにした。
 上位12位に入り込んだぼくには、13位から26位までの成績を取った同級生を部下として雇う権利があったけれど、生来、人付き合いが好きなわけではない上に、自分の技量や頭の出来に自信のあったぼくは、誰のことを雇うこともしなかったわけだけれど、そんなぼくに自分を売り込んでこようとする同級生たちも何人かいた。
 在学中にインターンとしての経験を積んだり、学園の仕事を手伝ったことは、魔法界において、かなり大きな意味を持つ。
 好き好んで目立とうとする人間性が、ぼくには受け付けなかったので、ぼくは、仕事を手伝わせて欲しい、インターンとして働くなら、自分を助手にして欲しいと言って近寄ってくる同級生たちを避ける以外の選択肢はなかった。
 浄は、そうやって自分を売り込んできた人たちの1人だった。
『お前を守れる男になりたくて頑張ったんだぜ』
 緑色の瞳でぼくを見ながら言う浄だったけれど、ぼくは『ぼくは男だって言ってんだろ』と言ってその股間を蹴り上げて奴に背を向けたのだった。
 そんな浄は、今はウルグアイで別のインターンの下で働いていると小耳に挟んだのだけれど、何故か今、ぼくと同じテーブルに着いていた。
 きらきらと輝く緑色の目でぼくを見ている。
 やめろそんな目で見るな。
 知ってんだぞお前。
 エロいこと考えてんだろ。
 そんなことを思いながら、ぼくは、浄から視線をそらした。
 テーブルには、ぼく、アーヴィンさん、ヨハンナさん、シェルナーさん、そして、初対面の、灰色の目をした男性が1人。
 彼は、名前をステファノと名乗った。
 ぼくたちは、東欧カラディシアへと向かう長距離列車の食堂車にいた。
 食事がてら、簡単な作戦会議というわけだ。
 食堂車内には、他のお客さんはいなかった。
 シェルナーさんが、精神の魔法を使って人払いを行ったらしい。
「カラディシアは、独立を謳っているが、未だに適っていない、人口1万人の小さな国だ」シェルナーさんがテーブルに置いたのは、数枚の写真。航空写真と、主要な場所がいくつか移されたもの、そして、美術館。
 見た感じでは、普通の東欧の首都という雰囲気だ。
 大きな石造りの建物、大きな道路。
「独立の動きは近年になって、急速に生まれたものでね、人々の団結は固く、よそ者を受け付けない。スラブ系は特に。私達のような西洋の連中も良い顔をされない。試しに、捜査官を数名向かわせたんだが、入国直前から監視が付き、最後は銃で脅され、尋問の後に追い出されてしまった。広さはルクセンブルクと同じくらい。もっとも、そのほとんどは農耕にも使えないような広大な雪原だ」シェルナーさんは、そのしなやかな人差し指で、美術館の写真を示した。「連中の目的の吸血鬼は、この地下にある棺で眠っている。回収が適っていないのは、カラディシアの人々にとって、私達の存在が警戒の対象でしかないからだ」シェルナーさんはコーヒーを啜り、唇を濡らした。「捜査官が1人潜入している。彼が逐一情報を送ってくれている。彼は守護天使の魔素の持ち主で、神の幸運に守られているから、心配はいらないし、救出の必要もないよ」シェルナーさんは、1枚の顔写真をテーブルに置いた。「ユライだ。ソラとヨハンナは知っているんじゃないか?」
 ぼくは頷いた。
 3年前、魔法使いの世界で知り合った。
 口を開けば愚痴ばかりが出てくるような、アラサーでバツイチで娘さんラブの、スロヴェニア系アメリカ人で、元ニューヨーク市警の警官だ。
 彼は人間だけれど、その身に宿している魔素が特別で、それこそ神に守られているかのような幸運で戦場を生き抜いていた。
「ユライは今、カラディシア内の安いホテルに泊まっている。そこで彼とは合流、その日のうちにすべてを終え、リヨンに戻る」
 ぼくは頷いた。
「まずは、私がカラディシアの街のすべてを精神の魔素で包む。ソラ、ユライ、ステファノは精神体になったまま美術館に潜入するんだ。アーヴィン、ジョー、ヨハンナは、周辺の観察」
 シェルナーさんは、ぼくとヨハンナさんの前にA4の紙を置いた。
 紙には、美術館の館内地図と内部の写真。
「頭に入れておくように。作戦は10分で終わらせる」
「連中が出てきたら?」ヨハンナさんが言った。
 シェルナーさんがヨハンナさんを見て、ぼくとアーヴィンさんを見た。「カラディシアの街を精神の魔素で包む際は、可能な限り全員を眠らせて記憶を奪うようにしておく。起きていられるのは、精神の魔法使いと、強力な万能の魔法使い、あとは対処が早かった極少数くらいだ。私の魔法に対抗出来るということはそういうことだが、そんな奴は数えるくらいしかいない。それくらいなら対処出来るだろ?」シェルナーさんは、ファイルをぼくとヨハンナさんの前に置いた。
 中には、いくつかの顔写真と名前、扱う魔素の種類、それぞれの過去の所業などが記されていた。「容赦はしなくて良い。それぞれのやり方で無力化すれば良いさ。ただ、彼らが情報源であることを忘れずに」
 ぼくは頷いた。「運転中の人とかが眠ったら、事故になるんじゃ……」
 シェルナーさんは優しくほくそ笑んだ。「言ったろ。すべてを精神の魔素で包む。ついでに、すべてを精神体に変える。そうすればあらゆるものが物理上の制約から開放される」
「出来るんですか?」
 シェルナーさんは笑った。
 ステファノさんが、意味ありげな目でシェルナーさんを見た。
 シェルナーさんはかぶりを振りながらコーヒーを啜った。「出来るさ。今回の作戦は、私達とユライの7人で行われる。十分すぎるくらいだ」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...