100日後に〇〇する〇〇

Zazilia

文字の大きさ
44 / 47
4 映画撮影

22日目 入国

しおりを挟む



19時5分


 入国審査を受けたのは、ぼくと浄、ヨハンナさん、そして、アーヴィンさんの4人だけだった。
 シェルナーさんとステファノさんは、少し離れたところからこちらを見ている。
「こんばんは」入国審査官は2人。1人は人間、1人は万能の魔法使いだった。どちらも、軍服に身を包み、大きな銃を持っている。人間の男性は、運転席のアーヴィンさん、助手席のヨハンナさん、後部座席のぼくと浄を見た。万能の魔法使いは、少し離れたところからこちらを見ている。「パスポートを見せてください」
 ぼくと浄は顔を見合わせた。
 ヨハンナさんは、アーヴィンさんを見た。
 アーヴィンさんは、入国審査官の男性を見た。「パスポート? どうして」
「ここから先はカラディシアです」入国審査官の男性は言った。
 アーヴィンさんは、窓枠に肘を載せて、ゲートの先を見て、入国審査官の男性を見上げた。「カラディシア?」
 ヨハンナさんは、地図を取り出した。「ウクライナに行きたいんだけど」
 入国審査官の男性は、ヨハンナさんを見た。「それでしたら、まだかなり先ですね」
 ヨハンナさんは後部座席のぼくたちを振り返った。「ごめんね。もう少し先だって」
 入国審査官の男性は、眉をひそめた。「みなさんは、ご家族で?」
 アーヴィンさんは、入国審査官の男性に微笑んだ。「うちにホームステイをしている子達だ。2人は日本人だ。私と妻はドイツに住んでいる」アーヴィンさんは、ゲートの先に見える街を見た。「良さそうな街だな。カラディシアか。初めて聞いたよ」
「去年独立を果たしたばかりです。新しい国ですよ」
「そうか。すまない、タロー、ハナコ、パスポートをくれ。今夜はここに泊まろう」
「ねえ、ムッシュー・バラデュール。おなかすいた」ぼくは、パスポートを差し出しながら、アーヴィンさんに、小さな声のつたないフランス語で言った。
「疲れたよ。なんでも良いから早く寝ようぜ」浄も、アーヴィンさんにパスポートを差し出した。
 入国審査官の男性は眉をひそめた。「ご出身はドイツで?」
「私はフランスだ。妻はドイツ」アーヴィンさんは入国審査官の男性に、4冊のパスポートを渡した。
「ありがとう」入国審査官の男性は、コピーを取ってから、パスポートをこちらに返してきた。「どうも」
「ありがとう」
「滞在日数は?」
「1日かな。2日かも。見るところはあるかい?」
「それでしたら、美術館がおすすめです」
 車内が、後ろから照らされた。
 後続の車両。
 ここに来るまでの長い間、前を走る車は1台も見かけなかった。
 入国直前から監視がついたと、シェルナーさんが言っていた。
 たぶん、これのことだ。
「まだやってるかな」
「あいにく。翌朝の9時に開館です」
「美味しいお店はあるかい?」
「申し訳ありません。ホテルで聞いてください。後続が控えておりますので」
 アーヴィンさんは、背後を振り返った。「あぁ、すまない。良い一日を」
 入国審査官の男性は微笑んだ。「そちらも。ようこそカラディシアへ」
「ありがとう」アーヴィンさんは車を出した。
 




 カラディシアの中は、以前訪れた東欧の首都のような感じだった。
 広々とした道路、均一な高さの、巨大な建物。
 人々の住居は主にアパートだろう。
 一軒家は見当たらない。
 建物の1階には店が収まっている。
 建物の2階より上にはアパートが収まっているようだ。
 道路は3車線ずつの合計6車線。
「あの店良さそうだな」浄が言った。
 アーヴィンさんは小さく笑った。「まずは、安いホテルを探そう」
 ぼくたちは、入国の直前から、演技を始めていた。この演技は、作戦を始める直前まで続ける予定だ。
 入国審査の際に、車やパスポートに盗聴器や発振器を仕込まれるかもしれないからだ。
 ぼくは、日本からやってきた田中ハナコ。
 浄は、兄の田中タロー。
 役に入り込むこと、つまりは、別人になるということだ。
 万能の魔法使いはこちらの心を読もうとしているようだったが、彼が読んだのは、ぼくの心ではなく、田中ハナコの心。
 長旅で疲れており、座りっぱなしでくたびれていたハナコの頭の中には、おなかすいたなー、疲れたなー、早くシャワー浴びて寝たいなー、ということしかなかったので、不審を抱かせるようなこともなかったはずだ。
 ぼくたちは、ネットでホテルを探し、まず初めに高級ホテルに入った。
 料金は、日本円で1万円ほどだった。
「ちょっと高いな」アーヴィンさんは、そう言った。
 ぼくたちは、車に戻った。
 それからいくつかのホテルを周り、最後にたどり着いたのは、目的のホテル。
 それは、中心部から離れたところにあった。
 ユライさんが泊まっているホテルだ。
 まず初めにアーヴィンさんがホテルに入り、チェックインを済ませる。
 ぼくたちは、車で待機。
 アーヴィンさんが戻ってきたところで、ぼくたちは、荷物を持って、ホテルに入った。
 受付にいるおばあさんは、ぼくたちに優しい笑顔を向けてくれた。
 アーヴィンさんの取ってくれた部屋は、最上階4階の、スイートルーム。
 ぼくたちは、シャワーを浴びて、ユライさんの待つレストランへ向かった。



しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...