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7話 狩り人と魔物

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ソルとエルミースは森の中を歩き出した。



「どのくらい歩け街に辿り着くんだ?」



「まあ、一時間ってところかしら」



 ソルは苦々し表情を浮かべた。



「急いでもか?」



「急げないのよ。街との最短距離には凶暴な魔物の巣があるから」



「倒してはダメなのか?」



 エルミースは顎に手を当て可愛らしい唸り声をあげる。



「やめたほうがいいと思うわよ。もし失敗したら確実に牢屋行よ。それに簡単に倒せるなら苦労はしないわ。少なくとも一級の<狩り人/ハンター>じゃないと太刀打ちできない相手ね」



「<狩り人/ハンター>ってなんだ?」



 ソルは首を傾け、少女に問いかける。エルミースは呆れたような視線をソルに向けた。



「あなたそんなことも知らないの? ……本当にどんな秘境に住んでいたんだか。いい? 狩り人っていうのは魔物退治を生業とする職業のことよ。危険な魔物の討伐や素材の回収なんかを主にしているわね。それで狩り人には強さや実績に応じた評価を分かりやすく表した等級ってやつがあるの。一番下が5で数字が若くなるほど上の等級を表すわ」



「つまり、その道を塞いでる魔物は狩り人って奴らの中で最も上の等級に位置する人間しか相手ができないほど強いということか」



「そういうこと。でも、一級が一番上じゃないわよ。その上に特級という枠があるから。でもこの等級は本当に特別な階級で国に一人いるかいないかって程度だから」



 ソルはエルミースの話を興味深そうに聞いている。彼は浮かんだ疑問を少女にぶつける。



「ちなみにエルミースとさっきの男たちは狩り人なのか?」



「ええ、そうよ」



「等級は?」



「私も彼らも同じ二級よ」



 その言葉を聞き、ソルはにやりと笑う。



「そうか。なら、倒しに行こう」



 誤解を生んだのかもしれないとエルミースは早口で訂正する。



「ちょっと待って。私の話を聞いて勝てると踏んでいるならやめときなさい。二級と一級の溝は深いの。二級の人間が八人いて一級に届くかどうかってくらいの力の差はあるんだから」



 親切に危険性を説くエルミースだったがその発言は火に油を注ぐだけだった。つまりは二級を八人圧倒できれば一級に手が届くということなのだから。



「問題ない。さっきの戦闘では全く本気を出してないからな」



 ソルの発言は事実だった。あの男たちとの戦闘ではエルミースの方から注意を引き、尚且つある程度隙を見せる必要があったのだ。勝てないと思われて少女を人質に取られるのが一番面倒だったからである。



 そのような制約がなければあの程度の奴らは何十人いてももののの数ではない。ソルはそう思っていた、ソルのやる気の籠った紅瞳を見てエルミースは溜息をついた。



「もう引き留めても無駄みたいね。分かったわ、もう止めない。でも、今から言う三つの条件を呑んでもらう。呑んでくれないなら魔物の場所は教えない」



「その条件とは?」



「一つ、あなたが負けそうになったら私は即逃げる。二つ、戦うのはあなた一人で戦って。三つ、もし倒せたら付随して発生する報酬はすべて山分け。これでもいいかしら?」



 エルミースは妖しい笑みを浮かべながら強欲な提案をソルにぶつける。だが、実際のところこの提案はソルに討伐を止めさせるためのものだった。ここまで自分に得がなければやらないだろうと彼女はそう考えたのだ。だが、そんな思考を見透かしたようにソルは挑発的な笑みを浮かべた。



「いいぞ。その条件すべて呑もう」



 少女はまさか受けるとは思わず目をぱちぱちとさせている。その顔が滑稽だったのかソルは声を漏らして笑う。だが、そんなことが気にならないくらい彼女は混乱しているようだった。



「ほ、本当にいいの? この条件あなたに得なんてないわよ」



「そんなことは分かっているさ。俺は単純に早く街に行きたいだけだから気にするな」



 エルミースは引っ込みがつかないのか提案を取り下げることはしない。ソルは思惑通りにことが運んだことに内心ほくそ笑む。得がないとは言ったが実際得はあるのだ。それも二つも。



 一つは倒す魔物の素材だ。強いと有名な魔物ならそれなりの値段と売れるはずだ。手持ちが全くないソルには倒した方が都合がよい存在なのである。



 二つ目はエルミースに巨大な恩が売れることだ。命の危機を救われ、降って沸くように金銭まで手に入れられたら生半可なことでは裏切ることはできなくなるし、信頼も得られる。特に彼女のような真面目な人物ならなおさらだ。ソルは彼女の精神性まで加味してこの提案をしたのである。



 そんなこととは露も知らない少女は申し訳なさと不安が混在した表情を浮かべている。



「さて、それじゃあ件の魔物の場所まで案内してもらおうか」



 ソルは心の中でそろばんをはじきながら少女に声をかけるのだった。

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