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好きと言わない攻めが後悔する話

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 学校の人気者の攻めにずっと片思いしていた受け。玉砕覚悟で告白するとまさかの「いいよ、付き合おう」と言われ天にも昇る気持ちで浮かれる受け。それから一緒に昼ご飯を食べたり登下校を一緒にしたりと恋人らしいことをしていくたびに、受けは幸せすぎて怖かった。
 しかし、受けはあるとき気付いた。攻めは確かに優しいし恋人として扱ってくれるが一度も「好き」と言われたことはないことに。そのことに気付いてしまってから、受けは本当に攻めは俺のことを好きなのか、何で俺と付き合ってくれているのかと不安に思う時間が増えていく。ずっと不安に苛まれるくらいなら攻めに自分のことを好きか聞いてみようと勇気を振り絞ることにした。

「攻め…今日もかっこいい、好きだよ」
「うん、ありがとう」
「…攻めは?」
「ん?」
「攻めは僕のこと、好き?」
「……」

 昼休み、ご飯を食べ終えたタイミングで聞いてみた受けだったが、攻めはふいっと顔を背けて黙り込んだ。
 受けは攻めのその反応に頭に大きなタライが降ってきたような衝撃を受けた。無言の空気に耐えられなくなった受けはパッと話題を変えてその後は攻めも普通に話をしてくれた。しかしこの出来事は受けの中でさらに不安を増大させ、それから何度も攻めに「好き」と言わせようと奮闘するも全て空振りだった。

 次第に受けは攻めは自分を好きで付き合ったのではなく、虫除けのために自分の告白を受け入れてくれてのではないかと思い始めた。攻めはしょっちゅう女子から告白をされていたがそのたびに丁寧に断っていた。しかしそれが面倒だと言っているのを聞いた事がある。今は恋人がいると攻めが公言しているので告白の回数はかなり減ったようだ。もちろん恋人が男である受けだとは明かしていないが、一緒にいる時間が増えたことから感付いている人間も増えてきているようだ。
 攻めと恋人であることに嬉しさと誇らしさを感じていた受けだったが、攻めは自分を好きではないかもしれないと思い始めてからだんだんと笑顔が減っていく。
 受けは今まで誰かに告白されたこともないし「好き」と言われたこともない。だから初めての恋人である攻めに初めての「好き」を言われたかった。しかし、どんなにその言葉を引き出そうとしても無理だったことですっかり自信を失くした受けは攻めとの恋人関係を続けていていいものか悩むようになっていた。笑顔が減り何かに悩む様子の受けに攻めは気付きながらも何も聞かずにいた。

 そんなある日、受けの靴箱に今時珍しい一通の手紙が入っていた。伝えたいことがあるから放課後体育館裏に来てほしいと書かれたその手紙を一緒に登校した攻めと共に読む。受けは何だろうと不思議に思い宛名を確認するが名前はない。とりあえず放課後はこの手紙の差出人に会うから先に帰っていてもいいと攻めに言えば、攻めは「…いや、近くで待ってるよ」と受けの提案を断った。
 わざわざ待っていてくれるなんてこんな時まで優しいんだなと受けは思いつつ、それでもその優しさは自分を好きなわけではなく、みんなに優しい攻めだからだと言い聞かせた。

 放課後、手紙に書かれた通り体育館裏に行くとそこには体格のいい、身長の高い男子生徒の姿があった。ネクタイの色から後輩だと気付き、どこかで見覚えがあるなと思いながら受けは彼に近づく。後輩くんは受けの姿に気付くとパッと明るい顔になった。

「受け先輩!来てくれたんですね!」
「…えと、君が手紙の差出人かな?」
「そうです!俺、入学式の時に受け先輩に案内してもらったんですよ。覚えてますか?」
「…ああ!あのときの。覚えてるよ」
「嬉しいです。それで受け先輩…俺…」

 入学式で新入生の教室の場所が分からず迷っていた彼を案内してあげたことを思い出す。後輩くんは嬉しそうに頬を染めたあと、緊張した面持ちで受けを真っ直ぐ見つめながら口を開いた。

「俺、受け先輩のことが好きです!俺と付き合ってください!」

 後輩くんの言葉に、受けは大きく目を見開いた。初めて人から告白をされたことで初めての感覚を覚えたのだ。

「え…好き?俺を?」
「はい!めっちゃ好きです!男相手からで気持ち悪いかもしれないですけど…」
「い、いや!全然そんなことはないよ!むしろ…ありがとう、とっても嬉しい。初めてなんだ、人に告白されたの。"好き"って人から言われるとこんな気持ちになるんだね…」
「可愛い…」

 頬を赤く染めて嬉しそうにはにかむ受けがあまりにかわいくて後輩くんは思わず見惚れる。その様子を、近くにいた攻めがこっそりと見ていることも知らずに。

(攻め視点)
 後輩からの告白の言葉に頬を染めて照れる受けの表情を見た攻めは、呆然としていた。
 初めて人から"好き"と言われた受けがあんなに可愛いらしくなるなんて、恋人であるはずの自分は知らなかった。恋人であるはずの自分を差し置いて、別の男にそんな可愛い顔を見せるなんて、と激しい嫉妬を覚える。しかしなぜ自分は受けのあんなに可愛い顔を見たことがないのだと憤って、気付く。一度も受けに「好き」と言ったことがないことに。
 何度も受けから聞かれて、そのたびに心の中では思いっきり「めちゃくちゃ好きだ!!」と叫んでいた。しかし声に出せたことは一度もなかった。言葉にしようとすると恥ずかしさと緊張で喉が詰まるのだ。いつか言いたいと思いつつ、中々言葉に出来ない口下手な攻めは行動で受けへの気持ちを示してきたつもりだった。
 しかし、言葉にされた受けがあんなに可愛い顔をすると分かっていたなら何が何でも言えば良かったと心底後悔する。それと同時に、受けの"初めて"はすべて自分が良かったのに初めて受けに「好き」と伝えたのが他の男だったことに、自業自得だと分かってはいるものの悔しくて堪らなかった。

 何で俺という恋人がいるのにすぐに告白を断らず、そんなに可愛い顔を見せているの?何で俺以外からの「好き」でそんなに嬉しそうにしているの?「好き」と言ってくれるなら誰でもいいの?
 身勝手な感情が胸の中を渦巻き、醜い嫉妬心に支配される。我慢できなくなった攻めは2人の元に歩み寄った。

(受け視点)
 突然目の前に現れた攻めの姿に驚いて口をパクパクとすることしか出来ない。それだけではなく、攻めは突然受けの身体を引き寄せ、腕の中に閉じ込めると聞いたことのない暗く沈んだ声で後輩くんに向かって言った。

「悪いけど、受けは俺のだから。俺と付き合ってるから諦めてもらえる?」

 攻めの言葉に瞬きを繰り返すことしか出来ない。後輩くんは傷付いたような表情を見せたあと、謝りながら走り去って行った。

「せ、攻め…見てたの?」
「…全部見てたし聞いてた」
「断ろうと思ってたんだけど初めて"好き"って言われたことに驚きと嬉しさですぐに言えなくて…ごめんね、勘違いした?」

 受けが攻めの顔色を窺いながら言うと、攻めは真っ黒な目をしながら無言で受けを見つめる。そして受けの肩を強く抱いたまま、足早に歩き出した。

「攻め!?ど、どうし…」
「俺以外に"好き"と言われて喜ぶなんて許せないからお仕置きする」

 攻めのその言葉に、受けは思わず眉を寄せた。むくむくと小さな怒りがわいてくる。受けは思わず足を止めて、俯いた。そんな受けを怪訝そうに見下ろして強く肩を引っ張り動かそうとする攻め。受けは攻めの手を振り払って叫んだ。

「そもそも攻めから"好き"なんて言われたことない!聞いても言ってくれなかったのに…こんな時だけずるいよ!」

 涙と共にずっと不安で苦しかった本音が溢れてしまう。受けはきゅうと引き絞られるような胸の痛みを抑えながら尚も続けた。

「僕のこと、嘘でも"好き"と言えないなら僕たち、別れ…」
「黙って」

 もうこの苦しみから解放されたくて勢いのまま言ってしまいそうだった言葉を攻めの手が受けの口を塞いだ。

「その言葉を言ったら俺、何するか分からないから言わないで」
「…っ」
「ごめん、受け。不安にさせていたんだね。受けに好き?と聞かれるたびに何度も心の中では"好きだ"って返してた」
「そ、そんなの嘘…今さら…」
「本当だ。信じてほしい。ずっと言いたくて…でも受けの事が好きすぎてなかなか言葉に出来なかった。俺にとって"好き"と伝えるのはとても大切な、重いものなんだ。簡単に言葉に出きるような単純な思いじゃない。俺の受けへの感情は、受けが思っている何倍も重いものなんだよ。それを受けにぶつけて拒絶されるのが怖かった。一度"好き"と言ってしまったら無限に言ってしまいそうで…俺がこんなに重い奴だったなんてと思われたくなくて…ずっと言葉に出来なかった」

 攻めから初めて聞かされる本音に受けは信じられない気持ちで聞きながらも、攻めの切実な声と表情は本物であることを物語っていた。

「でも受けがあいつに告白されて初めて好きだと言われたと知って…受けの初めてをあいつに奪われたのが悔しくてたまらない。許せない。受けがあんなに可愛い顔をすると知っていたなら…この場所に来させなかった。手紙は破り捨てておけば良かった。早く"好きだ"と伝えれば良かった。心底後悔している。…俺が重い男で、ひいた?」

 不安そうに顔を覗き込みながら聞かれ受けは驚きと共にはっきりと嬉しさを感じた。ずっと攻めは好きでもない僕と付き合っているのではないかと不安だった。何度も攻めの気持ちを確かめようとしたけど答えはもらえなくて不安は増していく一方だった。その不安がたった今、攻めの言葉で流されていく。綺麗に速やかに不安がどこかへ流れていく。

「本当に…僕の事、好き?」
「……世界で誰よりも、俺からの"好き"しか耳に入れてほしくないくらい、大好き。いや……愛してる」
「!ぼ、僕も攻めが大好き!う、嬉しい~うぅ~!」

 受けは初めて攻めから"大好き"と"愛してる"を言われ、嬉しさから号泣した。攻めは受けは泣き顔も可愛いんだなと興奮しながら見ていたが、しっかり抱き締めて何度も耳元で"好きだ"と囁いた。その後、攻めは毎日毎秒受けの耳に他人の言葉が入らないほど愛の言葉を伝えるようになった。終

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