届く想い、届かない声

御厨カイト

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少年目線

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今日もこの日がやってきた。

今日はアイツに会いに行く日だ。
アイツは楽しみにしてくれているだろうか。

そう思いながら俺は綺麗に彫られ、整えられた石が並ぶ場所に足を運ぶ。

少し歩くと目当ての場所に着く。

俺は目の前の綺麗な直方体の石に声をかける。


「また来たよ」


声が返ってくるわけでもないのに俺はいつもそう声をかける。


「今回もお前の好きなもんを持ってきたよ」


俺はそう言いながら手に持って行ったビニール袋からいちご大福を取り出す。
これはアイツの大好物だ。
機嫌が悪い時もこれをあげるとすぐに上機嫌になる。

今も上機嫌になっているアイツの姿が容易に想像できる。


それから俺はこの綺麗な石の掃除を始める。
一応アイツにも声をかけておくか。


「ちょっと今からお前を綺麗にしてやるからな」


まずは、周りに落ちている落ち葉を箒で掃く。
それから、雑巾でこの綺麗な石を更にきれいになるように拭き上げる。

1か月来ないと意外と汚れるもんだな。


「うーん、いつも綺麗にしているけど意外と汚れているもんだな」


俺はそう口に出しながらもてきぱきと掃除を続ける。
少しして綺麗になった石を眺めてこう言う。


「よっし、綺麗になった。やっぱりお前はこうじゃなくっちゃ」


それから俺はこの綺麗な石の前で胡坐をかいて座り込む。
そして、いつも通り他愛のない話を始める。


「そういえば来月から俺、高校生になるんだよ」


絶対アイツの事だからバカだった俺に関してバカにするだろう。


「……絶対今バカにしてんな」


一応ツッコミを入れておく。
これでアイツがバカにしてなかったらただ恥をかいただけになるのだが。
……ハハハッ、どんなネガティブ野郎だ俺は。


「まぁいいや。それでな……不安しかないんだよ」


俺はそう悩みを吐露する。


「同じ中学校からその高校に行く奴がいなくなったから俺一人なんだよな。知っている奴がいないから結構不安」


本当に不安だ。
環境がガラリと変わってしまうのは。
こういう時こそアイツに隣にいて欲しかった……。


でもアイツの事だから「君のコミュ力があれば大丈夫でしょ」とか言ってくれるだろう。


だが「俺には確かにコミュ力があるけれどそれでも、やっぱりな~……何とかなるのかな」


まあアイツの事だ。
適当に大丈夫、大丈夫って言ってきそうだ。


いや、それとも「そればかりは君次第だよね」と言うかな。


こういう時は後者かな。
こういう時はアイツは茶化さず真剣に冷静に返してくるからし。


「まぁ、これは自分の力で頑張るしかないか」


俺はそう口に出して気持ちを固める。


それはそうと次はアイツの心配をする。


「ところでお前こそ平気か?寂しくないか?」


答えは帰ってこないと分かっているが俺はそう問いかける。
こんな問いをしときながら逆に俺が寂しくなる。


「……と言ってもお前が寂しくなくても俺が寂しいんだがな」


俺はそう静かに呟く。
でもアイツは地獄耳だから聞こえているんだろうな。
そして多分喜んでいるだろうな。


「……これ、俺が普段言ってなかったから絶対喜んでいるぞ」


てかなんでもういないアイツの気持ちが分かるんだろうな。
幼馴染だからか、それとも…………
……いや、もうその気持ちはアイツがいなくなった日に闇に葬り去ったはずだ。


「ずっと今まで一緒に過ごしてきたからいなくても分かるようになっちまった」


俺はそう口に出してそれを事実として心に刷り込む。


まだまだ話していたい。
まだまだこの場にいたい。


俺は毎回そう思う。
だが、そうはいかない。


俺は口に出して「おっと……そろそろ時間が来ちゃったな」と言う。


そうも言わないと俺はこの場から立てなくなるだろう。
そう心の中で決心しないと俺はダメになるだろう。


よし、また来月来よう。

俺はそう決心してその場に立って物を片付けて立ち去ろうとする。


その前に俺はこの綺麗な直方体の石に対して「来月また来るからな」

そう声をかける。


そして立ち去る時に俺は誰にも聞こえないような声でため息と共に呟く。


「はぁー、会いたいな」


これもしかしたら地獄耳のアイツには聞こえているかな。
まあ、いいか。


てか、相変わらず未練タラタラだ。
いや、未練というか後悔だな。




こんなことになるんだったら……アイツにちゃんと「好きだ」と伝えておけば良かった……





俺はそう思いながら綺麗に彫られ、整えられた石が並ぶ場所を後にする。







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