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Undeadman meets Vampiregirl
吸血姫《アルカード》
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俺はジェイクに指示を飛ばして直ぐ様身体を起き上がらせ、近くに転がっていた自らの頭を引っ掴む。
「ジャコ!パァァァス!」
「え、あ、えぇぇ!?」
そして一番近くに居たワイドレシーバーに思いっ切り投げてパス。
人の頭って意外と重いから、筋力で劣る俺が持ったら多分コケる。
あ、変に回転かかって脳が揺れるぅぅ…!
「わ、わ、とと!」
「な…ナイス、キャッチ」
ぼす、という気の抜けた音と共に、ジャコが俺の頭を胸で受け止める。
あ、背ぇちっちゃいけど胸は平均サイズ。
後頭部に柔い反動を受け、アホなことを考えながら俺はクォーターバックを走らせる。
首のない死体が猛ダッシュしたことにアルカ嬢もジャコも、ついでに俺の首をぶった斬ってくれた仔猫ちゃんもあっけに取られていた。
「ジャコ、ダッシュ。仔猫ちゃんから出来るだけ遠くに」
「へ!?あ、はい!」
胸に抱えられていた俺(頭)に促され、呆けていたジャコは走る。
「アルカ嬢、俺の身体のカバー!」
「ッ、分かったわ!」
状況を判断したランニングバックは俺(身体)の横を走る。
「な、待てっ!」
「……ここは通さん」
そこまで見て仔猫ちゃんは漸く現状を理解し、アルカ嬢に剣を向けたが、それをセンターが阻んだ。
「ちぃっ!どけぇ!」
「………!」
仔猫ちゃんに斬りかかられ、ジェイクは攻撃を防ぎながら一歩、また一歩と後退する。
確かに仔猫ちゃんはジェイクより強い。吸血種だからな。
あの速さはジェイクじゃ捕まえらんねーし、武器もジェイクのデカブツと違って取り回しは自由自在。
「こ…の…!しぶとい!」
「通さん、と言った筈だ」
だがな、防御に徹すればジェイクでも時間稼ぎ位出来る。
押されてはいても、仕留めきる事は出来ていない。
焦燥と苛立ちで仔猫ちゃんが攻めあぐねているのはよく分かった。
ジェイクは確かに常人種だけどな、伊達に叩き上げの冒険者じゃねぇのさ。
「舐…め…るなぁ!」
上手く攻め切れない仔猫ちゃんは、しびれを切らして左手を振り上げる。
直後、左手の血晶の爪が手から離れ、ジェイクの脇を抜けて飛び出した。
って、なんじゃそりゃぁ!?
俺の驚愕を余所に、爪は真っ直ぐにアルカ嬢の背中めがけて飛んで行く。
「ジャコ、俺を投げろ!!!」
「え!?」
「嬢が死ぬぞ!!」
「ッ!やぁっ!!」
一瞬躊躇したジャコだが、俺の叱責を受けた瞬間、カボチャの奥の眼窩を光らせて俺の頭を振りかぶる。
あ、また変に回転がァァァ!
目を回しながら俺(頭)は宙を舞い、俺の眉間と血晶の爪の横っ腹が空中で衝突した。
「アルカ嬢!」
「ビットさん!」
嬢が俺の頭を空中で受け止める。
そして嬢は俺の頭を持ち、振り返って走った。
既に俺は前方を走っていた身体を反転させて構えている。
アルカ嬢は俺の首の切断面に向かって両手を振り上げた。
「TOUCH DOOOOOWN!!!!」
俺は首が繋がった瞬間歓声を上げる。
「…………って、あれ?」
なんか視界が可笑しい。
前に進もうとしたら後ろに下がった。
視線を下に向ける。
ケツが前を向いていた。
「って、前後逆じゃねーの!」
「………あ、ご、ごめんなさい!?」
視界の外側でアルカ嬢が慌てたような声を上げる。
俺は両手で自分の頭を掴み、捻って首の位置を戻すと、アルカ嬢が申し訳無さそうに頭を下げた。
や、くっついたから良いけどね。
「ま、とーりーあーえーずー……ジャコ!悪いがジェイクの助太刀頼む!ジェエエェェイク。あと23秒追加だ。行けるな?」
「はい!」
「………あいよ」
ジャコとジェイクが俺の指示に従い、仔猫ちゃんに躍りかかる。
「くっ…貴様らァァァ!!!」
仔猫ちゃんは尽く自らの邪魔をされて激高する。
頭に血が上ってジェイク達に目が行ってる今がチャンスだ。
「さーて。アルカ嬢………んにゃ、キュリエ公女?」
「……っ」
俺がそう呼ぶと、アルカ嬢はさっと顔を青くした。
ああ、うん、事情があって隠してたんだなー。
正直キュリエ家の嫡女が吸血種だなんて思っても見なかった。可能性はあったんだろうけど。
その辺は追々考えるとして。
「ガス欠の原チャリ二台で満タンのフォーミュラ相手にすんのは流石に無理があるだろう」
「え…げんちゃ?」
繋がった首の具合を確認しながら俺がそう言うと、アルカ嬢は首を傾げた。
おっと、今のは通じなかったか。
「……穏健派なんてもんに属してんだ、血を飲むのに忌避感を覚えてるとかそんなんだろうが、今は我慢しろ」
「び、ビットさん?何を…」
狼狽するアルカ嬢だが、俺はそれを無視して彼女の頬に手を添える。
同時に自分の舌と唇を噛み切った。
深く切って口の中に鉄臭さが広がる。
「『初めて』だったら悪いな」
口にしたのはそれだけ。
「……んっ!?」
俺はアルカ嬢と唇を重ねていた。
「んっ、んんっ、んんーっ!!」
一瞬何が起こったのか分からなかったらしいアルカ嬢だが、俺の顔が目の前にあるのですぐに状況を察したらしい。
貞操観念だの、貞淑さだの、んなもん知らん。
俺は慌てるアルカ嬢の口に自分の舌を差し入れた。
「んんっ!?……ん…!」
口の中に広がる鉄の味で、何のために俺がこんな真似をしたのか理解したようだ。
「っ…ん…んく…」
最初こそ吐き出そうとしていたが本能に抗えなかったのか、ゆっくりと、しかし確実に、彼女は俺の唾液と一緒に血を、吸血種の糧を嚥下する。
…………!?
直後、俺に身体にも変化が起こる。
身体の内側から何かが抜けていく感覚。
血ではない、もっと根源的なもの。
この永い人生でずっと俺の中にあったもの。
…………アルヴィラの魔力が、俺の身体から彼女へと吸い上げられていた。
今まで生きてきてこんな事が起こるのは初めてだったので正直少し焦ったが、今はそんな悠長な事を考えていられる状況ではない。
これで現状を打破できるのであれば、魔力なんぞ幾らでもくれてやる。
そして数秒が経つ。
「……っ、は…」
「………」
俺たちは唇を離し、互いの目を見つめる。
「………ありがとう、ビットさん」
「………ああ、あとはよろしく」
交わす言葉は少ないが、それだけで十分。
アルカ嬢は俺に背を向け、俺はその場に尻餅をついた。
やっば、膝がめっちゃ笑ってる。
この症状は全身挽肉になるような大怪我で再生した時以来だ。
魔力枯渇。
魔力を過剰消費した際に起こる、体力や代謝を著しく消耗する現象。
早い話俺がガス欠になっていた。
アルカ嬢は俺の中にある魔力をかなり持って行った。
アルヴィラに直接身体を弄くられた所為で宿すことになった人間では測れないケタ違いの魔力を。
同時にそれは、彼女自身の最大魔力量がとんでもないということ。
あの神やろうの言葉が脳裏をよぎる。
同時に確信した。
アルカ嬢は、器を手にするに足る資格者だと。
金の髪が線を描いて疾走る。
戦いの渦中から十数メートルは離れていた距離を数瞬でゼロにし、ジャコとジェイクの背後からアルカ嬢は飛び出す。
「はぁっ!」
「ッ!?がぁっ!」
意識外からの襲撃に仔猫ちゃんは目を見開き、次の瞬間には胸を蹴り飛ばされていた。
先程までとは別人と思えるほどの動きで、アルカ嬢は血晶剣を構え直す。
仔猫ちゃんは打たれた胸を押さえながら嬢を睨みつけた。
「き、さま…吸血姫ぉ…!」
「さっきジャコを蹴っ飛ばしてくれたお礼よ、化け猫」
仔猫ちゃんに先程までの余裕はもうない。
不意打ち気味だったとは言え、アルカ嬢は奴の反射神経と瞬発力を上回った。
劣勢だった戦況は、一気に此方に傾く。
「ジェイクさん、ジャコ、時間稼ぎありがとう」
追撃を図ろうとしたジェイク達を、アルカ嬢は背中越しに手を挙げて制する。
「アルカ様!?」
「………ここからは、私一人でやるっ!」
そう言うとアルカ嬢は仔猫ちゃんに向かって斬りかかった。
「はぁぁっ!!」
「ちっ…この小娘っ!」
仔猫ちゃんは右手の血晶剣を更に肥大化させ、嬢の剣戟を受け止めようと構える。
遠目に見てもあの剣はかなりの厚みと幅が見て取れた。
あれならたかが剣一本受け止めるのは造作も無いだろう。
「んなっ…!?」
そう、剣が一本だったら。
ぎゃり、ぎゃりぎゃりと何度も剣がぶつかる音が響く。
「がっ…!?」
仔猫ちゃんの持つ血晶剣にヒビが入り、砕け散ると同時に仔猫ちゃんは吹っ飛ばされる。
「…………」
「なんだ…なんだそれは!?」
剣の状態を見るアルカ嬢へ、四つ足で着地した仔猫ちゃんは驚愕と焦燥の入り混じった顔で叫んだ。
無言で構え直すアルカ嬢の右手に握られた剣の柄頭には、いつの間にか血晶の鎖が繋がっている。
そしてその鎖には等間隔で繋がった7つの血晶剣が、アルカ嬢の背後に浮かんで刃を仔猫ちゃんに向けていた。
先程仔猫ちゃんの剣を砕いたのはこの複数の剣が同箇所を何度も斬りつけたものだ。
「さっき貴女が飛ばした爪を、私なりにアレンジしてみたわ。複数同時に操るのにちょっと慣れが必要そうだけど」
そういうアルカ嬢は軽く剣を振る。
それに追従するように他の剣も動き、じゃらんと鎖が鳴って円を描いた。
「行きなさい、ソード・スレイヴ」
手元の一本を残し、7本の剣が飛ぶ。
飛翔する剣にアルカ嬢が引っ張られるかと思ったが、手元の剣と距離が離れる程鎖が伸びていた。
「く…おぉぉ!!!」
ジャラジャラと鎖を鳴らしながら飛来する剣。
時には突き、時には薙ぎ、時には背後から斬りかかる。
鎖が音を立てながら間断なく剣が襲いかかる。
それを仔猫ちゃんは新たな血晶剣と爪を創りだして受け止め、捌いていた。
やはり伊達に異名がつくほど戦いに明け暮れていた訳では無い様だ。
だが、徐々にだがその身に細かな傷が刻まれていく。
「…ぐぅ…はぁ…はぁ…」
アルカ嬢が一度剣を退かせると、既に仔猫ちゃんは全身血だらけ、辛うじて剣を杖代わりにして立っていた。
「………まだやる?」
「ふざ…けるな…まだ…私は…立っているぞ…」
アルカ嬢の問いに、仔猫ちゃんはその赤い瞳に炎を灯しながら応える。
「戦場では…一瞬の油断が…命取りだ!!!」
仔猫ちゃんは叫びながら右手の血晶剣を手にまとわり付かせて左手と同じく爪に変化させると、四つ足を付いて身体を伏せる。
そして吸血種が持つ身体能力の全てを注ぎ込んだと思われる、凄まじいスピードでアルカ嬢へ跳びかかった。
「ソード・スレイヴ!!!」
その声と共に嬢の血晶剣は彼女の手元へ。
8つの紅い剣は一つに纏まり、一振りの巨大な剣へと変化する。
「#吸血姫おおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「終わりよ!!」
金と青が一瞬ぶつかり、爆ぜる。
二人はすれ違い、数秒が経つ。
「…………っ」
嬢の頬に赤い筋が入った。
「…………が…は…!」
仔猫ちゃんの右肩から袈裟斬りに血が噴き出し、力なく倒れる。
勝ったのは、アルカ嬢だった。
「ジャコ!パァァァス!」
「え、あ、えぇぇ!?」
そして一番近くに居たワイドレシーバーに思いっ切り投げてパス。
人の頭って意外と重いから、筋力で劣る俺が持ったら多分コケる。
あ、変に回転かかって脳が揺れるぅぅ…!
「わ、わ、とと!」
「な…ナイス、キャッチ」
ぼす、という気の抜けた音と共に、ジャコが俺の頭を胸で受け止める。
あ、背ぇちっちゃいけど胸は平均サイズ。
後頭部に柔い反動を受け、アホなことを考えながら俺はクォーターバックを走らせる。
首のない死体が猛ダッシュしたことにアルカ嬢もジャコも、ついでに俺の首をぶった斬ってくれた仔猫ちゃんもあっけに取られていた。
「ジャコ、ダッシュ。仔猫ちゃんから出来るだけ遠くに」
「へ!?あ、はい!」
胸に抱えられていた俺(頭)に促され、呆けていたジャコは走る。
「アルカ嬢、俺の身体のカバー!」
「ッ、分かったわ!」
状況を判断したランニングバックは俺(身体)の横を走る。
「な、待てっ!」
「……ここは通さん」
そこまで見て仔猫ちゃんは漸く現状を理解し、アルカ嬢に剣を向けたが、それをセンターが阻んだ。
「ちぃっ!どけぇ!」
「………!」
仔猫ちゃんに斬りかかられ、ジェイクは攻撃を防ぎながら一歩、また一歩と後退する。
確かに仔猫ちゃんはジェイクより強い。吸血種だからな。
あの速さはジェイクじゃ捕まえらんねーし、武器もジェイクのデカブツと違って取り回しは自由自在。
「こ…の…!しぶとい!」
「通さん、と言った筈だ」
だがな、防御に徹すればジェイクでも時間稼ぎ位出来る。
押されてはいても、仕留めきる事は出来ていない。
焦燥と苛立ちで仔猫ちゃんが攻めあぐねているのはよく分かった。
ジェイクは確かに常人種だけどな、伊達に叩き上げの冒険者じゃねぇのさ。
「舐…め…るなぁ!」
上手く攻め切れない仔猫ちゃんは、しびれを切らして左手を振り上げる。
直後、左手の血晶の爪が手から離れ、ジェイクの脇を抜けて飛び出した。
って、なんじゃそりゃぁ!?
俺の驚愕を余所に、爪は真っ直ぐにアルカ嬢の背中めがけて飛んで行く。
「ジャコ、俺を投げろ!!!」
「え!?」
「嬢が死ぬぞ!!」
「ッ!やぁっ!!」
一瞬躊躇したジャコだが、俺の叱責を受けた瞬間、カボチャの奥の眼窩を光らせて俺の頭を振りかぶる。
あ、また変に回転がァァァ!
目を回しながら俺(頭)は宙を舞い、俺の眉間と血晶の爪の横っ腹が空中で衝突した。
「アルカ嬢!」
「ビットさん!」
嬢が俺の頭を空中で受け止める。
そして嬢は俺の頭を持ち、振り返って走った。
既に俺は前方を走っていた身体を反転させて構えている。
アルカ嬢は俺の首の切断面に向かって両手を振り上げた。
「TOUCH DOOOOOWN!!!!」
俺は首が繋がった瞬間歓声を上げる。
「…………って、あれ?」
なんか視界が可笑しい。
前に進もうとしたら後ろに下がった。
視線を下に向ける。
ケツが前を向いていた。
「って、前後逆じゃねーの!」
「………あ、ご、ごめんなさい!?」
視界の外側でアルカ嬢が慌てたような声を上げる。
俺は両手で自分の頭を掴み、捻って首の位置を戻すと、アルカ嬢が申し訳無さそうに頭を下げた。
や、くっついたから良いけどね。
「ま、とーりーあーえーずー……ジャコ!悪いがジェイクの助太刀頼む!ジェエエェェイク。あと23秒追加だ。行けるな?」
「はい!」
「………あいよ」
ジャコとジェイクが俺の指示に従い、仔猫ちゃんに躍りかかる。
「くっ…貴様らァァァ!!!」
仔猫ちゃんは尽く自らの邪魔をされて激高する。
頭に血が上ってジェイク達に目が行ってる今がチャンスだ。
「さーて。アルカ嬢………んにゃ、キュリエ公女?」
「……っ」
俺がそう呼ぶと、アルカ嬢はさっと顔を青くした。
ああ、うん、事情があって隠してたんだなー。
正直キュリエ家の嫡女が吸血種だなんて思っても見なかった。可能性はあったんだろうけど。
その辺は追々考えるとして。
「ガス欠の原チャリ二台で満タンのフォーミュラ相手にすんのは流石に無理があるだろう」
「え…げんちゃ?」
繋がった首の具合を確認しながら俺がそう言うと、アルカ嬢は首を傾げた。
おっと、今のは通じなかったか。
「……穏健派なんてもんに属してんだ、血を飲むのに忌避感を覚えてるとかそんなんだろうが、今は我慢しろ」
「び、ビットさん?何を…」
狼狽するアルカ嬢だが、俺はそれを無視して彼女の頬に手を添える。
同時に自分の舌と唇を噛み切った。
深く切って口の中に鉄臭さが広がる。
「『初めて』だったら悪いな」
口にしたのはそれだけ。
「……んっ!?」
俺はアルカ嬢と唇を重ねていた。
「んっ、んんっ、んんーっ!!」
一瞬何が起こったのか分からなかったらしいアルカ嬢だが、俺の顔が目の前にあるのですぐに状況を察したらしい。
貞操観念だの、貞淑さだの、んなもん知らん。
俺は慌てるアルカ嬢の口に自分の舌を差し入れた。
「んんっ!?……ん…!」
口の中に広がる鉄の味で、何のために俺がこんな真似をしたのか理解したようだ。
「っ…ん…んく…」
最初こそ吐き出そうとしていたが本能に抗えなかったのか、ゆっくりと、しかし確実に、彼女は俺の唾液と一緒に血を、吸血種の糧を嚥下する。
…………!?
直後、俺に身体にも変化が起こる。
身体の内側から何かが抜けていく感覚。
血ではない、もっと根源的なもの。
この永い人生でずっと俺の中にあったもの。
…………アルヴィラの魔力が、俺の身体から彼女へと吸い上げられていた。
今まで生きてきてこんな事が起こるのは初めてだったので正直少し焦ったが、今はそんな悠長な事を考えていられる状況ではない。
これで現状を打破できるのであれば、魔力なんぞ幾らでもくれてやる。
そして数秒が経つ。
「……っ、は…」
「………」
俺たちは唇を離し、互いの目を見つめる。
「………ありがとう、ビットさん」
「………ああ、あとはよろしく」
交わす言葉は少ないが、それだけで十分。
アルカ嬢は俺に背を向け、俺はその場に尻餅をついた。
やっば、膝がめっちゃ笑ってる。
この症状は全身挽肉になるような大怪我で再生した時以来だ。
魔力枯渇。
魔力を過剰消費した際に起こる、体力や代謝を著しく消耗する現象。
早い話俺がガス欠になっていた。
アルカ嬢は俺の中にある魔力をかなり持って行った。
アルヴィラに直接身体を弄くられた所為で宿すことになった人間では測れないケタ違いの魔力を。
同時にそれは、彼女自身の最大魔力量がとんでもないということ。
あの神やろうの言葉が脳裏をよぎる。
同時に確信した。
アルカ嬢は、器を手にするに足る資格者だと。
金の髪が線を描いて疾走る。
戦いの渦中から十数メートルは離れていた距離を数瞬でゼロにし、ジャコとジェイクの背後からアルカ嬢は飛び出す。
「はぁっ!」
「ッ!?がぁっ!」
意識外からの襲撃に仔猫ちゃんは目を見開き、次の瞬間には胸を蹴り飛ばされていた。
先程までとは別人と思えるほどの動きで、アルカ嬢は血晶剣を構え直す。
仔猫ちゃんは打たれた胸を押さえながら嬢を睨みつけた。
「き、さま…吸血姫ぉ…!」
「さっきジャコを蹴っ飛ばしてくれたお礼よ、化け猫」
仔猫ちゃんに先程までの余裕はもうない。
不意打ち気味だったとは言え、アルカ嬢は奴の反射神経と瞬発力を上回った。
劣勢だった戦況は、一気に此方に傾く。
「ジェイクさん、ジャコ、時間稼ぎありがとう」
追撃を図ろうとしたジェイク達を、アルカ嬢は背中越しに手を挙げて制する。
「アルカ様!?」
「………ここからは、私一人でやるっ!」
そう言うとアルカ嬢は仔猫ちゃんに向かって斬りかかった。
「はぁぁっ!!」
「ちっ…この小娘っ!」
仔猫ちゃんは右手の血晶剣を更に肥大化させ、嬢の剣戟を受け止めようと構える。
遠目に見てもあの剣はかなりの厚みと幅が見て取れた。
あれならたかが剣一本受け止めるのは造作も無いだろう。
「んなっ…!?」
そう、剣が一本だったら。
ぎゃり、ぎゃりぎゃりと何度も剣がぶつかる音が響く。
「がっ…!?」
仔猫ちゃんの持つ血晶剣にヒビが入り、砕け散ると同時に仔猫ちゃんは吹っ飛ばされる。
「…………」
「なんだ…なんだそれは!?」
剣の状態を見るアルカ嬢へ、四つ足で着地した仔猫ちゃんは驚愕と焦燥の入り混じった顔で叫んだ。
無言で構え直すアルカ嬢の右手に握られた剣の柄頭には、いつの間にか血晶の鎖が繋がっている。
そしてその鎖には等間隔で繋がった7つの血晶剣が、アルカ嬢の背後に浮かんで刃を仔猫ちゃんに向けていた。
先程仔猫ちゃんの剣を砕いたのはこの複数の剣が同箇所を何度も斬りつけたものだ。
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そういうアルカ嬢は軽く剣を振る。
それに追従するように他の剣も動き、じゃらんと鎖が鳴って円を描いた。
「行きなさい、ソード・スレイヴ」
手元の一本を残し、7本の剣が飛ぶ。
飛翔する剣にアルカ嬢が引っ張られるかと思ったが、手元の剣と距離が離れる程鎖が伸びていた。
「く…おぉぉ!!!」
ジャラジャラと鎖を鳴らしながら飛来する剣。
時には突き、時には薙ぎ、時には背後から斬りかかる。
鎖が音を立てながら間断なく剣が襲いかかる。
それを仔猫ちゃんは新たな血晶剣と爪を創りだして受け止め、捌いていた。
やはり伊達に異名がつくほど戦いに明け暮れていた訳では無い様だ。
だが、徐々にだがその身に細かな傷が刻まれていく。
「…ぐぅ…はぁ…はぁ…」
アルカ嬢が一度剣を退かせると、既に仔猫ちゃんは全身血だらけ、辛うじて剣を杖代わりにして立っていた。
「………まだやる?」
「ふざ…けるな…まだ…私は…立っているぞ…」
アルカ嬢の問いに、仔猫ちゃんはその赤い瞳に炎を灯しながら応える。
「戦場では…一瞬の油断が…命取りだ!!!」
仔猫ちゃんは叫びながら右手の血晶剣を手にまとわり付かせて左手と同じく爪に変化させると、四つ足を付いて身体を伏せる。
そして吸血種が持つ身体能力の全てを注ぎ込んだと思われる、凄まじいスピードでアルカ嬢へ跳びかかった。
「ソード・スレイヴ!!!」
その声と共に嬢の血晶剣は彼女の手元へ。
8つの紅い剣は一つに纏まり、一振りの巨大な剣へと変化する。
「#吸血姫おおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「終わりよ!!」
金と青が一瞬ぶつかり、爆ぜる。
二人はすれ違い、数秒が経つ。
「…………っ」
嬢の頬に赤い筋が入った。
「…………が…は…!」
仔猫ちゃんの右肩から袈裟斬りに血が噴き出し、力なく倒れる。
勝ったのは、アルカ嬢だった。
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