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7『あなたのために』

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今日は久しぶりに弁当ではなく、会社近くのカフェで三浦さんとランチを取っている。
ランチを食べ終えて過ごしていると、三浦さんは私に口紅を差し出してきた。
「ねえ、彩歩ちゃん。使いかけの口紅なんだけどあげる。有名ブランドのなの。……あのさ、元は可愛いんだからお洒落したら?もったいないよ」
「可愛い……?ありえません」
吹き出しそうになる私の眼鏡をすっと取られた。
じっと見つめられる。
強制的に口紅をつけられ、バッグからコンパクトな鏡を出すと、私に見せてくれた。
「ほーら。可愛い。セクシーな唇じゃない?」
「まぁ……確かにプルプルしているようには見えますけど……」
「もっと自信持ちなよ。恋する年頃なんだからさー」
「……はい」
なぜか女性は友人の恋を応援したがる生き物だ。
三浦さんは、恋をしているのだろうか。
じっと見つめてしまうと「な、なによ」って不思議そうな顔で言われる。
「恋、してますか?」
「んー。千場店長かな」
「えっ」
「あ、焦ったぁー。冗談よ」
ニヤリと意味ありげに笑っている。
私は表情を変えないように眼鏡をクイッと上げた。
千場店長のことが好きだと三浦さんに知られたのは痛い。信用しているけれどもしも噂が広まったら厄介だな……。
「私も、営業部にカッコイイなぁって思う人がいるんだ。だけど、人気ありそうだし、話すキッカケないし」
「そうなんですね」
「お互いに頑張ろうね」


昼休みが終わり、三浦さんは本社に寄ってから来るとのことで、先に帰ると、郷田さんだけがいた。店舗でふたりきりだ。
「お疲れ様です」
郷田さんがチラッと見てきた。私だとわかると微かに笑みを浮かべる。
「お疲れ様です」
店にはお客様がいない。窓に貼ったポップがズレているので直すと、窓に映った自分と目が合う。
ちょっといつもと違う口紅をつけただけなのに、顔が違う気がする。
千場店長に気がついてもらえるかな。
佐々原主任のように色気を漂わせてみたい……。
ふと、千場店長としたセックスを思い出した。気持ちよさそうな表情が脳裏に浮かぶと胸が疼く。
千場店長が喜んでくれるなら、あなたのために色気づきたい。褒め言葉じゃないかもしれないけれど、色っぽくなって女として扱ってもらいたい。
こんなふうに思うなんて、私も女だなぁ。
「あれ、お化粧変えました?」
「へっ」
気がつくと郷田さんがすぐ隣りにいた。
頬を染めて私を見ている。
そんなこと言われると思わなかったから、驚いた。
……さらにじっと見つめられる。
「そ、そんなに見つめないでください」
「いや、なんか……綺麗です。いつもより大人っぽいというか」
「本当ですか?」
「ええ。なんかドキッとしちゃいます」
「嬉しいです。あまりお化粧は得意じゃなくて」
褒めてくれたのが素直に嬉しくて、ほほ笑んで郷田さんを見た。
咳をひとつして眼鏡を中指で上げている。
「普段から……可愛いですけど……ね」
「はい?」
「ですから」
なにかを言いたそうにしている。
そんな郷田さんの話を遮るように「お疲れ」と明るい声がする。
千場店長が入ってきた。
(会話を聞かれていたかもしれない)
千場店長は笑顔のまま近づいてきたが、目は笑っていない。
「邪魔したか?仕事中はラブラブすんなよー」
郷田さんの肩をポンポンって叩いく。
郷田さんは焦っているようだ。
「いえ、なにもしておりません」
「ハハハ。冗談だよ。焦ると本気っぽいぞ?郷田のタイプなのか?飲み会でゆっくり聞かせてくれよ」
郷田さんは困った顔をしていた。
千場店長と一瞬目が合う。
「午後からも頑張って売ってくれよ」
千場店長は、バックヤードへ行った。
ああ……絶対、怒ってる。
私には、怒りオーラが見えた。

その日――。
珍しく、私は残業だった。バックヤードのテーブルで作業をしている。
地方発送したいと言ってくださったお客様がいらっしゃったのだが、大量注文だったのだ。
しかも、なるべくはやくしてほしいとのことで必死で伝票整理をしていた。
なかなか終わらず仕事を集中してやっていると、郷田さんが心配そうに見てきた。
「大丈夫ですか?」
「はい。もうすぐで終わると思います」
「残って終わるのを待っていたいのですが……」
残業代がかかってしまうので、特別な事情がある場合を除いて帰らないといけない。
「平気ですよ」
笑顔を向ける。
「では、明日。お先に失礼します」
郷田さんは丁寧に頭を下げてくれた。
そして千場店長に頭を下げる。
「お疲れ様」
千場店長は明るい声で郷田さんを見送っていた。
バックヤードに残ったのは、私と千場店長だけ。
テーブルで作業する私。千場店長は勤務シフトを作っていた。
しばらくすると、仕事を終えた千場店長は、私の目の前に座って手伝ってくれる。
会話を一言もしなかったおかげではやく終えることができた。
「千場店長、ありがとうございました」
無言で立ち上がった千場店長は、私が作業していたテーブルに手をついて睨んでくる。スイッチが入ったらしい。
それに今日は昼間からご機嫌が斜めのようだ。
「いつから彩歩は、色気づくことに目覚めたワケ?」
いきなりそんなこと言われて理解不能なんですけど。
きょとんとして千場店長を見ると、明らかに怒っている。
すると、千場店長の指が伸びてきて唇に触れた。
胸がギュンギュンと激しく動き出す。そして体温が上がりだす。
オフィスでイケないことをしちゃうのだろうか。タイムカードを切ってからにしなきゃ。
「あ、あの……タイムカード、切りますね」
断りを入れてからタイムカードを切る。
もしかして、千場店長とこれから触れ合えるのかもと思うとつい笑みが零れそうになるが我慢だ。
「あの、着替えてきます」
千場店長に言うと、近づいてきて指についた口紅を見せてきた。
「そんなに郷田に好かれたいわけ?」
「はい?」
「交換条件……もっと厳しくする。彩歩、俺の女になれ」
イライラした口調で言われて、私はなんだか悲しい気分になる。
なんだか、切ない。
なんでこんなに胸が苦しくなるんだろう……。
呆然と見つめたまま、しばらく動けずにいた。
私は、怒った顔じゃなくて、千場店長の笑顔が見たい。
優しくほほ笑んでくれる顔のほうがいいのに。
千場店長はいつもなにかあるたびに怒った顔をする。
どうしてなのかはわからないけど、嫌だ。
交換条件で女になれなんて――……。
なんだか、力が入らない。
身体にエネルギーが行ってない感じがする。
誰かに抱きしめられて、思い切り甘やかされて眠りたい――そんな気持ち。
私らしくないよね。
どうしてこんな風になってしまったのだろう。
――色気づくことに目覚めた。
違う、そんなんじゃない。郷田さんに好かれたいわけじゃない。
たしかに、郷田さんは私の理想とするタイプだけど、恋愛感情は湧いていないのだ。
好きなタイプと好きになる人は違うらしい。
恋愛小説を書いているくせにちゃんとわかっていないんだ、私。
恋することや愛することってなんだかとても複雑で難しい。
家に帰ったら『恋』や『愛』と言う字を辞書で調べてみよう。
「おい。いつまでぼーっとしてるの?」
「……あ、やだ……ごめんなさい」
「俺の女にならないなら、言いふらすつもりだけど。どうする?」
憎たらしいほど、厭味ったらしい笑顔だ。
私は、そんな最低な男性を好きと自覚してしまったが、千場店長の心はなにを思っているのかわからない。
千場店長の女になっても、彼女ではない。
それに交換条件で結ばれた関係なのだ。
これほど、悲しいことはあるだろうか。
郷田さんとちょっと仲良く話しただけでこんなことを言うなんて。
全ての女性が自分を見ていないと嫌なのか。
私を好きじゃない千場店長の女になってしまえば、どんどん傷ついてしまうだろう。
でも……エッチな小説を書いているなんて知られたくない。
「……なります」
消えてしまいそうな声で呟いた。千場店長は満足そうな表情を見せながら「じゃあ、これからもよろしく」と言った。
「着替えてきます……」
更衣室で着替えをしようと思って中に入る。
緑のエプロンを外してブラウスのボタンを全て外した瞬間、ドアが開いた。
慌てて手で隠す。
「な、なんですか!」
「ふたりきりだからいいだろ」
自分の言うことがまるで正当だとでも言いたそうな口調で入ってきた。
「俺の印が残ってるかチェックさせてもらおうと思って」
なにを言っているか分からなかったが、キスマークのことだと悟る。千場店長は、背後にぴたっとくっついてきた。
お腹の前に手を回して後ろから抱きしめられた。
千場店長の昂ぶりが当たってビクッとなる。
まさか、本当に職場で?
髪の毛を持ち上げられた。
「消えかかってる」
そう言うと、遠慮なく首に吸い付いてきた。チクっと痛みが走る。
「いやんっ」
「たまらない声出すんだな、彩歩。誘わないでくれる?」
ふっと顔を上げると鏡越しに千場店長と目が合った。
千場店長は背後からキャミソール越しに胸に触れはじめる。
そして耳朶をじとっと舐め出した。
くちゅくちゅと耳元で音がして一気に体温が上昇する。
もっと、もっと、触ってほしい。
千場店長はキャミソールの上から胸の頂きを摘む。
「んっ」
一度しか経験していないのに、快楽が蘇ってくる。
器用にブラジャーのホックを外すと、カップが浮いた。
キャミソールに浮き上がった突起を手のひらで撫でる。
「はぁ、んっ」
「気持ち良いの?」
「いいえっ」
強がって頭を振る。
「鏡で自分の顔、見てみろよ。真っ赤にして目もうるうるして、明らかに感じている顔だぞ」
そう言われて恥ずかしいけれど顔を上げると、言われた通りの顔が鏡に映った。
「全身が映る鏡だったらもっと面白かったのにな」
制服であるスカートが捲られる。
こんな日に限って白いショーツなんて色気がない。
左手は相変わらず胸の先っぽをコリコリとイジメつつ、右手は降りてきて太腿に触れた。
「……んっ、あんっ」
「シー。あまり声出さないで。我慢するのも気持ちいいぞ」
「だって」
ショーツの上をツーっと辿る中指。電流が流れたように快楽が走り抜ける。敏感になっている粒を押され私は身を捩った。
すると、千場店長は抑えこむようにショーツの中に指を入れた。下の唇の間を割って指の腹が当てられる。
「んっ!」
痛かった初めての夜を思い出したが、痛みを感じることなくスルリと指は入ってしまった。
そんなに自分が濡れているなんて思わなくて、なんだか悪い子になった気がする。
「うわ、すごいな。ぐちょぐちょ」
職場で一体、なにをやってるんだろう。明日からも通う場所なのに。
更衣室に入るたびに思い出してしまいそうだ。
ゆっくりと引き抜いた指はまたゆっくりと入ってくる。そのたびに湿った音が耳に届く。
「はぁ………ん、はぁ………っ」
千場店長の指に翻弄されて頭がおかしくなっちゃいそう。少しずつ少しずつはやくなる動きに合わせてエッチな音が響く。
声を、我慢しなきゃ……。
手で口を覆って声が漏れないようにする。
「エロ」
千場店長が愛しそうな声で言って左手で上半身をきつく抱きしめてくれた。
果実全体を包み込まれるように与えられる刺激。
もう、ここが職場でもいい。
イッてしまいたい。
そう思った時、コンコン――ノックが鳴った。
手の動きを止めた千場店長は、「はーい」と愛想のいい声で返事をする。
更衣室から出て行くと私は力が抜けて座り込んでしまった。寸
前でこうなるなんて生殺し状態だ。
「はい」
ドアを開ける音が聞こえる。
私は、更衣室で息を潜めて待っている。
着替えを済ませてしまおうとそっと服を掴んだ。
「お疲れ様です」
聞こえてきたのは郷田さんの声だ。
びっくりして息を止める。
「おう、どうしたの?」
「天宮さん、終わったかと思いまして。たまたま用事を終えて通りがかったので……」
郷田さん、私のこと心配してくれたんだ。なのに破廉恥なことをしていた。悪いことをした気になる。
「あー……天宮なら帰ったよ。俺も手伝ったし。郷田が心配することないさ。明日も出勤だろ?はやく帰って休んで」
「そうでしたか。よかったです」
そして、ふたりは無言になる。
更衣室にいる私は、ふたりがどんな表情をしてるのかわからない。ただ、郷田さんがはやく帰ってくれるのを願うしかない。
「千場店長」
「なに?」
「いえ……なんでもありません。失礼します」
ドアが閉まる音が聞こえた。
上着を着たところで更衣室のドアが開いた。
「……腹、減ったね」
「え……は、あ……そうですね」
ありえない状況に心臓がバクバク言っている。
「飯、行くか」
「はい」




千場店長は、私をお洒落な創作居酒屋へ連れて来てくれた。
カウンター席しか空いていなくて並んで座る。
肩がぶつかりそうなくらい近くて身を縮こませた。
先ほどまで火照っていた身体が、またいつ火がついてしまうか不安だ。微かな刺激を与えられただけで一気に快感が蘇ってきそう。
千場店長はビールで私はミントの味がするカクテルを選び「乾杯」と控えめにグラスをぶつける。
一気飲みする千場店長はビールの泡が唇についたが、ペロッと舐めり取る。
そんな姿もいちいちカッコイイから嫌になってしまう。そして、いまの私は官能的なことと結びつけてしまう。
あの舌に色々されたい。
あーヤダヤダ。
よりによって、苦手なタイプの人を好きになってしまうなんて。
千場店長を狙う人は多い。
ライバルが多すぎて、争奪戦に勝利したとしても交際していく上で不安な毎日を過ごすことになるだろう。
そんな命を削るような恋はしたくなかったのに……。
「このガーリックポテトほくほくで美味いぞ。あーん」
どさくさ紛れてあーんってしてくれる。
だから、ついつい口を開けてしまった。
「…………あ、美味しいですね」
「だろ」
こうやってこのまま側にいたいって思うのは、自分を苦しめる行為なのかな。カップルみたいに寄り添って食事して、いっぱい愛されながら抱かれて一緒に眠る。
そんな夢は見るだけ無駄だろう。
「お前さ。口紅とかどうしちゃったの?その唇で誰かを誘惑したかったとか?」
「三浦さんにいただいたんです。試しにつけただけで」
「そうなんだ。本当にそれだけ?」
「はい」
くすっと笑う千場店長は、ビールをゴクッと飲み干して呟く。
「俺、一体どのくらいの間……振り回されるんだろうな」
その言葉は、本当に私を思ってくれている感じがする。
だけど、勘違いしてはいけない。これは交換条件なのだ。
「あまり綺麗になると嫉妬するぞ。俺の前だけにして」
「そもそも私、不細工なんで」
「そうやって卑下すんなって。彩歩は綺麗だぞ」
珍しく優しい言葉なんてかけてさ。
もっと、もっと、好きになっちゃうじゃない。
「――郷田。彩歩のこと、好きなのかな」
カウンターに肘をついて手の甲で顎を支えながら、千場店長は呟いた。
私は手を振って否定する。
「ないですよ」
「だって迎えに来たじゃん。気に食わん」
まるで自分の彼女にちょっかいを出されている、みたいな口調だ。
「でも、わざわざ優しいですよね。きっと、郷田さんとお付き合いしたら幸せだろうなぁ」
何気なく、会話の流れで言っただけなのに千場店長は盛大なため息をつく。
「それってさ、俺じゃダメみたいな言い方なんだけど」
「そんなこと言ってないです」
「俺だって、めちゃくちゃ大事にするけど。絶対、浮気はしないし。……だから、彼女を愛す回数は増えてしまうけどな」
なんだか凄そう。
浮気はしないってことは……。
今は私と身体の関係があるから……彼女はいないのかな。
じゃあなんで休みの日に佐々原さんと一緒にいたのだろう。佐々原さんも私のように弱みを握られていて、そういう関係なのだろうか。
んー……千場店長が他の女性といちゃいちゃするところなんて想像したくない。
気を紛らすためにアルコールをぐいぐい流す。
「飲みっぷりいいな。飲み過ぎて動けなくなっても知らないぞ」
「大丈夫ですっ」
「まあ、そうなったら俺が好きにしちゃうけどな」
しばらく飲んだ後、居酒屋を出てふたりで肩を並べて歩いていく。
やはり、ちょっと飲み過ぎてしまって、支えてもらいながら歩いている。
私としたことが、ついついお酒が進んでしまった。
千場店長は私の腰に手を回して、ゆっくりと歩幅を合わせてくれる。千場店長の体温が伝わって、恥ずかしい。
けれど、もっと擦り寄って千場店長を感じたい……な。
そうやって思うのは千場店長だから。郷田さんに同じことをされてもこうはならない。
好きだと言ってしまいたいけど、得るものがあれば失うものもあるのが世の中の法則だ。
そう思うと、なかなか勇気が出ない。
私がいままで恋愛をしてこなかった理由が見えた気がする。
きっと……失うのが怖くて勇気が出なかったのだろう。

千場店長は、家まで送ってくれた。
ふらふらしている私を心配していて、部屋の中まで一緒についてきてくれた。
ソファーに私を座らせて、水を飲ませてくれる。
「おい、大丈夫?」
「はい……」
目の前に膝立ちになって、じっと視線を合わせて千場店長は私の様子を見ている。
そんなに心配しないで……。
さっきの続きをしてほしくなっちゃう。
チュッとキスをされる。
が、無抵抗の私。
千場店長は「可愛い」と言いながらキスを重ねてくる。
千場店長の唇が離れるたびに、もっとしてほしいと思ってしまうのだ。
だけど、そんなこと……言えない。
「なあ、続きしようか?」
かすれた甘い声で呟いて私の首に顔を埋めてくる。
その言葉だけでお腹の奥底が疼いてくる。
首筋をペロリと舐められた。
それだけのことなのに全身に電流が走っていく。
俺の女……と言うのは、セフレと言う意味なのだろう。
ぼんやりする思考で必死で考える。
私、いいのかな。このままズルズル流されても。
千場店長は我慢できないという様子で、いままでに体験したことないくらい激しいキスを浴びせてきた。
呼吸する隙も与えてくれない。
あまりにも必死な千場店長に、私は圧倒されている。
ギュッと強く抱きしめられて、抵抗できない。
抵抗するのを諦めて力を抜くと、ひょいっと私を持ち上げてお姫様抱っこをした。
ベッドまで運ばれる。
リビングの明かりはついたままで、ベッドルームは薄暗い。
私を組み敷くと、早速スカートに手をかけた。もそもそと動き出す私を制するように一気にストッキングを脱がせた。
すーっとすると思ったらショーツまで一緒に剥ぎ取られている。
「いやっ」
秘部を手で隠そうとするが一歩遅かった。
千場店長は太腿の間に顔を入れて隠れていた膨らみを鼻の先で刺激する。
「ああ、あああっ、ああんっ」
更衣室でされたことを一気に思い出し、再び快楽が爆発した。
吸ったり舐めたり。
突然に下から責められてしまったけど、すっかり千場店長を受け入れる準備ができてしまった。
「彩歩、入れてもいいか?」
「……ダメって言っても入れますよね?」
「正解」
千場店長は、隠し持っていたコンドームをセットする。素早いなーと感心していると、脚を押し開かれた。
やはりまだ緊張していて身体が固くなる。
「ちゃんと力抜けって。気持ちよくしてやるから」
「……はい」
私の頭を撫でて丁寧にキスをしてくれる。
そして、膝を抑えられてもっと脚を開かれると、ゆっくりと入ってきた。
好きだと思っている人に、愛されないまま、抱かれてるんだ……私。
ああ、切なすぎる。
私の書く小説ならどんなに辛くてもハッピーエンドにしてあげるけれど、この関係の先は予測できない。
こんなに悲しいのに、千場店長のセクシーな眼差しに胸をときめかせて、まるで乙女みたい。
千場店長は腰を動かしながら器用に私の上着を脱がしていく。
一瞬感じた痛みも蜜と交じり合えば、薄れていく。
そして、あっという間に快感へ変わった。
千場店長は腰を動かして、私の感じるポイントを突き上げる。
「あんっ、あっ」
「彩歩はここが好きみたいだな」
脳みそが溶かされていく。
そして、千場店長はいつの間にかあらわになっていた私の胸の頂きをついばむ。
「は……んっ」
甘い痺れに思わず声を出してしまう。
体温が混ざり合っていく。
必死でついて行くことでいっぱいになった。
激しく激しく、打ち付けられて肌がぶつかり合う音が聞こえる。パンパンとリズミカルな音を奏でていた。
「ごめん、ヤバイ……っ」
余裕のない声にキュンってすると、激しく動き出した。
そして、千場店長は果てたのだった。




千場店長は私を抱きしめたまま離さない。
抱きしめられた腕を解く気力もなくぼーっと考える。
付き合う人は、私の夢を応援してくれる人がいい。
だけど、ティーンズラブを受け入れてくれる男性はいるのだろうか?
千場店長は実際どう思っているのだろう。
私と千場店長は交換条件の間柄であって、愛し合える関係ではない。
だから、千場店長がどんなことを考えていてもどうでもいい。
……と、強がってみる。
本当は交換条件なんかじゃなく、本気で愛されてみたい。
そして、佐々原主任の存在が気になる。
ふたりは婚約者同士なのかもしれない。
ハッキリ聞いたら答えは出るかもしれないけれど、千場店長とプライベートで会える関係が終わってしまうかもしれない。
そうなると、寂しいな……。
スースーと寝息が聞こえてくる。
誰かの寝息を聞いて心安らぐなんて、不思議だ。
私もそっと瞳を閉じた。
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