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1巻
1-2
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どんな言葉をかけたらいいのかわからなくなってしまい、つい思ったままのことを口走ってしまう。
「は?」
私の言葉に社長は頬を真っ赤に染めた。
(社長が照れる姿なんてめずらしい。こんな表情をするなんて……!)
「観葉植物、お好きなんですか?」
「十歳年下の妹がいるんだ。彼女が外国に留学するときしばらく離れるからと、『私だと思って大切に育ててね』と寄越したんだ。それで、いつも声をかけながら水をやっていた」
「そうだったのですね」
思わず質問してしまったが、社長は丁寧に答えてくれた。
「きっかけは妹だったが、いつのまにか観葉植物もいいものだなと思うようになって」
「実は私も観葉植物が好きなんです。見ているだけで癒やされますよね。でも、日当たりの条件だとか、株分けだとか、花を咲かせるにはお手入れが難しくて。ここにある観葉植物は青々としていて愛情をかけてもらっているんだなと思っていたんです」
大好きな観葉植物についてだったので、思わず言葉数が多くなってしまった。
私も部屋を植物でいっぱいにしてみたいが、金銭的に余裕はなく、丁寧に世話をする時間もないので、一つしか置けていない。
「余計なことを話してすみません。お掃除に入らせていただきます」
恥ずかしくなった私は慌てて社長室に入り、掃除を始めた。
掃除中いつもより視線を感じる気がして、チラリと社長の方向を見ると何度も目が合う。
「何か……?」
「宮本ゆめさん……だったね」
「はい……」
余計なことを話しすぎたので、叱られるのではないかと身体を震わせる。
「そんなに怖がらないでくれ。毎日顔を合わせているのに話をしたことがなかったから、観葉植物の話で盛り上がれて俺も嬉しかった」
優しく包むような声で語りかけられて、ドキリとする。
(社長の声って、低くてよく通る声で心地がいい。イケボってやつだ)
怖そうだからあまり関わらないでおこうと思っていたのに、一気に心が奪われていく。
(この感情……何だろう)
「緑は癒やされる」
「そうですよね。眺めているだけでリラックスできますし」
「ああ。実は長期出張のとき、水をやれなくて心配していたんだが、もしよかったら宮本さんに植物の世話をしてもらえないだろうか? 俺の不在時にも入室できるように話はつけておくから。もちろんその分の手当は支払わせてもらう」
たった三つの小さな観葉植物だし、お安い御用だ。
「わかりました。実は私も社長が不在にされているとき、植物のことが気になっていました。追加の手当なんて結構です」
私がにっこりと笑うと、社長はまた頬を赤く染めた。
「ありがとう。この子達も心強いと思う」
(擬人化してる……! やっぱり社長って可愛い一面もあるんだ)
「安心だ。数が少ないので専門家に頼むのもどうかと迷っていて」
「お任せください」
社長が大切にしている観葉植物のお世話を任せてもらえるなんて嬉しい。大事にお世話させてもらおう。
*
社長室の担当になって三ヶ月が過ぎた。七月に入り、太陽の日差しがますます強くなっている。
私は社長が長期出張するたびに、植物のお世話をさせてもらっていた。
水をあげて、枯れてないかチェックする程度だったが、役に立てて光栄だ。
「おはようございます。今日も皆さん元気そうですね」
観葉植物に話しかける。もちろん返事はないけれど、青々とした葉っぱは声をかけられて喜んでいるように感じた。
ふと、いつも社長が座っている椅子を見る。主不在の椅子は、こころなしかぽつんと寂しげに感じられた。
(社長がいないのが寂しい……え? 私、なんでそんなことを考えているんだろう?)
私は自分の頭に浮かぶ感情を払うように、首を振った。
(明日になれば社長が帰ってくる。しっかりしないと)
次の日、久しぶりに社長が出勤するとあって、私は張り切って出社した。昨日も遅くまで居酒屋のアルバイトだったから、朝早く起きるのは少し大変だったけど、社長に会えるのだと思うと不思議と足取りは軽くなった。
「失礼します」
掃除道具を持って中に入り、いつものように作業していく。でも無音だった最初の頃とは違い、社長が話しかけてくるようになった。
「植物の調子がよさそうだ」
「ええ。社長がいらっしゃらない間もとても元気そうでした」
「宮本さんが愛情を込めて接してくれたおかげだ。面倒を見てくれてありがとう」
応接セットのテーブルを拭きながら社長に視線を向けると、やっぱり無表情だがかすかに笑っているような気がした。
「お役に立てて光栄です」
嬉しくなり微笑み返すと、社長は咳払いをして目をそらす。
(照れているのかな)
たわいない話をしながら作業をしているうちに、あっという間に十五分が過ぎてしまった。
「以上で終わりです。何か気になることはありますか?」
話しかけると社長が近づいてきた。手には紙袋を持っている。
「今回はパリに行ってきたんだ。お土産をどうぞ」
「いつもありがとうございます! ただ、気を遣わないでください」
観葉植物の世話を任されるようになってから、社長は出張のたびにお土産を買ってきてくれるようになった。でも、毎回出張土産をもらっていてはさすがに気が引けてしまう。
「トリュフチョコだ。甘いものは嫌いか?」
遠慮して断ると悲しそうな顔をされてしまう。
(せっかくのご好意だし、いただくことにしよう)
「大好きです。大切に食べさせていただきます」
一度は断ったものの、やはり嬉しい。社長が買ってきてくれる物はいつも可愛かったり、美味しかったりする物ばかりで、内心楽しみになっていた。
もちろん、物をもらえるから喜んでいるのではない。出張中で忙しいはずなのに、私のことを思い浮かべて選んでくれたことが嬉しいのだ。
「いつももらってばかりですし、本当にこれからは大丈夫ですので」
「植物の様子を見てもらっているお礼もあるが、宮本さんの嬉しそうな顔を思い浮かべるとついお土産を購入したくなってしまうんだ」
そう言って見つめられ、じわじわと頬に熱が集まってきた。
まるで時の流れが止まったかのようで、一瞬、呼吸をするのを忘れてしまう。
(強面だけど瞳の奥はすごく優しい。河原社長ともっといろいろなことを話してみたい)
しかし、朝の掃除の十五分間しか会うことができない関係だ。時間も限られているうえ、仕事中に雑談ばかりするのも気が引ける。
(社長はきっと、噂と違って親切なんじゃないかな。だから私だけが特別だと勘違いしちゃいけない)
しばらく見つめ合っているとドアをノックする音が聞こえた。
ハッとして私は河原社長から一歩離れた。
社長が返事をすると、新田さんが中に入ってきた。
「新田、どうかしたか?」
「お急ぎの資料があるとおっしゃっていたので、早くお渡ししようかと」
(新田さん、いつ見ても知的で仕事ができそうでかっこいいな)
「ありがたいが、清掃が終わった後で問題ない」
「申し訳ございません」
「気を遣わせてしまって悪かった」
社長が業務の指示をしている姿を見たのは初めてだ。仕事だから仕方がないのだろうが、厳しいことが伝わってきた。でも、社員を気にかけていることが伝わってくる。
新田さんは表情一つ変えることなく河原社長を見ている。
仕事でいつも一緒にいる彼らには、二人にしかわからない空気感があるのだろう。少し羨ましい。
「かしこまりました。ではのちほど」
新田さんが社長室から出て行く途中で、ちらりとこちらに視線を送ってきたので、私は出張土産を背中に隠して頭を深く下げた。
再び二人になると、河原社長は私に視線を移して目を細めた。他の人から見ると無表情に感じるかもしれないけれど、私にはすごく穏やかな表情に見える。
「チョコレートの感想、今度聞かせてくれ」
「ありがたくいただきます。では、時間なので失礼いたします」
名残惜しかったが、私は一礼すると退室した。
(何か河原社長にお返しができないかな)
最近は気がつけば彼のことばかりが頭に浮かんでいる。
(いけない。集中しなきゃ)
私は頭を振って気持ちを切り替えた。
夕方になり、清掃の仕事を終えていつものように居酒屋のアルバイトへと向かう。店に到着すると裏口にいつも来ているサラリーマンが立っていた。
目が合ったので頭を下げると、彼もちらっとこちらを見て会釈をした。
(何であんなところにいるんだろう?)
不思議に思ったものの、始業時間が迫っていたので中に入って着替えを済ませる。
「お疲れ様です、今日もよろしくお願いします!」
店に出て店長や先に来ていたスタッフに声をかける。
店内を見渡すと、今日も大盛況だ。
(今日も忙しくなりそうだな、頑張ろう)
アルバイト中も味噌料理を見ると、河原社長のことを思い出してしまった。
いつもお土産をもらってばかりなので何かお礼をしたい。
(河原社長に私が大好物の味噌焼きおにぎりを作ってみようかな。でもそんな庶民の食べ物をもらっても迷惑かな)
『カワラ食品』の味噌は、深いコクがあって本当に美味しい。
さすがに社長も味噌焼きおにぎりは口にしたことがあるだろうけど、私にできるお礼を考えたとき、これくらいしか思いつかなかった。
(おばあちゃんの味噌焼きおにぎりは本当に美味しかったし、あれなら社長にも喜んでもらえるかもしれない)
居酒屋のバイトを終えて家に帰ると、朝にご飯が炊けるように炊飯器をセットして眠りについた。
次の日の朝。
いつもより少し早く起きて、炊き上がった白米でおにぎりを握る。表面に味噌を塗り、焼き目をつければ味噌焼きおにぎりの完成だ。
試食も兼ねて朝食として食べると、とても美味しい。
祖母が作ったほうが美味しいけれど、ちゃんと作れるように教えてもらっていたおかげでかなり似た仕上がりになっている。これならぜひ社長に食べてもらいたい。
そう意気込みながら味噌焼きおにぎりを袋に詰めたところで、急に不安がよぎる。
(やっぱり手作りのおにぎりをもらったって迷惑……かな)
迷いながらも私はおにぎりを袋に入れて会社に向かった。
――トントン。
「はい、どうぞ」
社長室のドアをノックをすると、中から社長の声が聞こえてくる。
「失礼いたします」
入室すると、忙しそうに仕事をしている姿が目に入ってきた。
社長は昨日と同じ色のネクタイをしている。いつもきれいにセットされている髪も少し乱れているし、もしかして家に帰れなかったのだろうか。
気になってじっと見つめていると、社長と目が合う。
「あの……失礼だったら申し訳ありません。もしかして、お家に帰られていないのですか?」
「なぜわかるんだ?」
「昨日とネクタイの色が一緒でしたので……」
私の指摘を聞いて社長はハッとした表情になり、パソコンのキーボードから手を離した。
「緊急でやらなければいけないことがあって」
「そうだったんですね……。ちゃんと食事は摂られていますか?」
彼はこちらを見て一瞬黙り込んだ。
「そんなことまで気にかけてくれるんだな」
「おせっかいで申し訳ありません……」
なぜか社長のことが気になって仕方がない。心配になって思わず声に出してしまったが、社長からすれば余計なお世話だろう。
「立場上、たまにはこういうこともある。一度家に戻ってシャワーを浴びてこようと思っていたのだが、気がつけばこんな時間になってしまった。もう少ししたら家に戻るよ。臭うかもしれないからあまり近づかないでくれよ」
冗談めかした口調で言って笑っている。
(朝まで仕事をしていたなら、大したものを口にできていないんじゃないかな)
焼きおにぎりを渡すか悩んでいたけれど、やっぱり渡そう。私は掃除を終えると社長に紙袋を差し出した。
「あの、よかったらどうぞ」
社長は驚いた表情で紙袋を見つめている。
「これは?」
紙袋に注がれていた視線が私に移される。
「いつもお土産を買ってきてくださるお礼をしたいと思いまして」
「そんなこと気にしなくていいんだ。あれは観葉植物の世話をしてくれるお礼だから」
「でも、それ以上にいただいているので……」
彼は眉間にシワを寄せながらも受け取ってくれた。
「実は小さい頃から『カワラ食品』の味噌のファンなんです。地元が神奈川で、河原家のご実家の近くでして。祖母がよく私にこの味噌を使って焼きおにぎりを作ってくれました。それが私の大好物で。お口に合わないかもしれませんが……」
そう言いながらもすでに渡したことを後悔している。こんな庶民の食べ物をもらって嬉しいわけがない。
「……手作りの物をもらうなんて気持ち悪いですよね。捨てていただいても構いません。でも、やっぱりもったいないので私のお昼ご飯にします」
手を伸ばして紙袋を奪い取ろうとすると、ひょいと上に持ち上げられた。
「ありがとう。とても腹が減っていたんだ。今、食べさせてもらうよ」
「えっ」
社長はそう言いながら紙袋の中に手を入れておにぎりを持った。
大柄の彼が持つと小さく見える。
(いつもよりは大きめに握ったつもりなんだけど……)
そのまま社長はおにぎりを包んでいた包装を剥がして口に運ぶ。目の前で味の審査をされているような気持ちになり、いたたまれなくなる。
「ものすごくうまい」
「……ありがとうございます」
あっという間に一つ目を食べ終えて、二つ目を手に取った。心なしか社長の目がキラキラと輝いているように見える。
二つ目もすぐに食べ終えてしまった彼は、こちらに視線を向けてきた。
「本当に美味しかった。満たされたよ。ありがとう」
「喜んでいただけてホッとしました」
おにぎりも渡したし、これ以上ここに留まっているわけにはいかない。
「宮本さん」
帰ろうとしたところで、社長に呼び止められた。
「何かありましたか?」
「たまにでいい。俺におにぎりを作ってもらえないか? もちろん食材は用意するし、会社のテストキッチンを利用してもらっても構わない。代金も支払う」
予想外のことを言われて、私はポカンと口を開けて立ち止まってしまった。
「無理なお願いをしてしまって申し訳ない……。宮本さんだって忙しいよな」
「あ、いえいえ。気に入っていただけたようで嬉しいです。また作って持ってきますよ。テストキッチンを借りるとか、材料を用意していただくとか、そんなことしていただかなくても大丈夫です」
心を込めて作ったおにぎりを美味しいと言ってもらえただけで、すごく嬉しかった。
「それでは申し訳ない。光熱費もかかってしまう。それに炊飯器や道具も消耗してしまうだろう。まあ、後から請求してもらっても構わないが。ひとまずテストキッチンの使用許可を出しておくので、お願いできないだろうか?」
そこまで言われてしまえば断れない。雇い主からのお願いなので快く引き受けることにした。
「わかりました。では作らせていただきます」
「心から感謝する。毎日でも食べたいくらい美味しかった。とはいえ宮本さんの負担を増やしてはいけないな。金曜日に、三十分早く出勤することは可能か?」
「はい。朝食としてお召し上がりでしょうか?」
「あぁ。これを食べたら一日の始まりにエネルギーがもらえる気がしたんだ」
社長は先ほどまで疲れた顔をしていたのに、今は頬にほんのりと赤みが差している。こころなしか周りの空気も軽くなったように感じる。
(朝食なら本当は家で食べてから出勤したいんじゃないかな?)
後でシャワーを浴びてくると言っていたので、家が近くにあるのかもしれない。
「ご自宅はお近くですか? もしご迷惑でなければお届けします」
「実は、俺の家はこのビルの最上階にある。最上階から三フロアは居住スペースになっているんだ」
「そうだったんですか」
まさか社長がこのビルの上に住んでいるとは知らなかった。
「考えてみれば、テストキッチンは一人で利用するには広すぎるかもしれないな。宮本さんがよければうちの台所を使うのはどうだろう?」
「おにぎりくらい私の家で作って持ってきます」
「先ほども言ったが、光熱費や炊飯器などの消耗品も……」
同じことを何度か繰り返した結果、金曜日の朝、私は社長の家で焼きおにぎりを作らせてもらうことになった。
「白米だけご自身で炊いていただくのは可能でしょうか?」
「それくらいはできる」
「よろしくお願いします」
社長のお役に立てるのが嬉しいと素直に思っていた。
*
金曜日になり、私は早起きをして社長の自宅にお邪魔するために家を出た。あくまでおにぎりを作るためだが、冷静になって考えてみたら男性の家で二人きりになるのだ。恋人がいたことのない私は、男性の家に行くのも当然初めてだ。想像すると急に心臓がドキドキしてきた。
(最初に社長の家でと提案したのは私だし、しっかりしないと)
でも、オフィスの上に住んでいたなんて驚きだ。
いつもと同じルートで出勤し、会社のビルに到着する。
居住スペース専用の入口は、重厚な作りの自動ドアで、エントランスにはコンシェルジュが待機していた。
エントランスだけで、大人数を集めてパーティーできそうなくらい広い作りになっている。
奥のほうには応接スペースまである。
(すごい! 庶民の私が足を踏み入れるようなところじゃないな)
訪問先と名前をコンシェルジュに伝えると、事前に連絡が入っていたようですんなりエレベーターホールに通された。
エレベーターも操作盤までピカピカに磨かれていて高級感がある。
緊張しながら中に進み、河原社長が住む四十二階のボタンを押す。
(わぁっ、最上階だ)
静かで揺れを感じない箱で、あっという間に四十二階まで到着してしまう。
最上階には玄関の扉がたった一つしかない。
震える指でインターホンを押す。
すぐにドアが開き、河原社長が出迎えてくれた。先に出勤準備を終えていたのか、いつものようにスーツ姿だ。
「おはようございます」
「おはよう。待っていたよ、どうぞ」
よく磨かれた白い玄関に足を踏み入れる。
社長が用意してくれたふかふかのスリッパを履き、まっすぐ進んでいくと三十畳ほどあるリビングがあった。
ほぼ全面が窓だ。しかも一つ一つがとても大きい。
その窓からはレインボーブリッジまで見えていて、まるで高級ホテルのようだ。
(こんな広いところで一人暮らしをしているなんて、さすがは大企業の社長……!)
「すぐ下が会社だなんて、いつでも仕事場にいるようで落ち着かないんだが、何かあったときにすぐに対応できるから楽でね」
「そうだったんですね」
ソファーの前には、映画のスクリーンかと思うほど大きなテレビが設置されていた。
右側にはキッチンがあり、ダイニングテーブルセットが置かれている。
その隣の棚に小さな観葉植物が置かれていた。
(あの観葉植物も妹さんからのプレゼントなのかな)
「では、早速キッチンをお借りします」
キッチンはほとんど使われていないようで、コンロもシンクも綺麗なままだ。調理台も広々としていて、こんな素敵なところで毎日料理ができる生活なんて憧れてしまう。
社長は約束通り準備してくれていたようで、炊飯器にはしっかりとご飯が炊かれていた。
私はいつもより大きめにおにぎりを握り、味噌を塗りつけると、フライパンにアルミホイルを敷いて焼く。
しばらくすると味噌が焼けた香ばしい香りがしてくる。
(おにぎりだけじゃもの足りないかな)
「自宅に豆腐とネギがあったので持ってきたのですが、味噌汁も作っていいですか?」
「もちろんだ。材料費は後で請求してくれ」
「いえ、これは私からのお礼です」
少しだけ強い口調で言うと社長は納得したように頷いた。
料理が完成したことを伝えると一緒に食べてほしいとリクエストされ、私は社長の目の前に座った。
味噌焼きおにぎりと味噌汁だけの質素な朝食だが、彼は美味しそうに食べている。
身体が大きいのに、まるでわんぱくな少年のようだ。
「すごく美味しい」
「味噌がいいからだと思います」
「それもあるだろうが、宮本さんが上手だからじゃないか?」
たわいない内容なのに、相手が社長だと話しているだけで楽しい。
「は?」
私の言葉に社長は頬を真っ赤に染めた。
(社長が照れる姿なんてめずらしい。こんな表情をするなんて……!)
「観葉植物、お好きなんですか?」
「十歳年下の妹がいるんだ。彼女が外国に留学するときしばらく離れるからと、『私だと思って大切に育ててね』と寄越したんだ。それで、いつも声をかけながら水をやっていた」
「そうだったのですね」
思わず質問してしまったが、社長は丁寧に答えてくれた。
「きっかけは妹だったが、いつのまにか観葉植物もいいものだなと思うようになって」
「実は私も観葉植物が好きなんです。見ているだけで癒やされますよね。でも、日当たりの条件だとか、株分けだとか、花を咲かせるにはお手入れが難しくて。ここにある観葉植物は青々としていて愛情をかけてもらっているんだなと思っていたんです」
大好きな観葉植物についてだったので、思わず言葉数が多くなってしまった。
私も部屋を植物でいっぱいにしてみたいが、金銭的に余裕はなく、丁寧に世話をする時間もないので、一つしか置けていない。
「余計なことを話してすみません。お掃除に入らせていただきます」
恥ずかしくなった私は慌てて社長室に入り、掃除を始めた。
掃除中いつもより視線を感じる気がして、チラリと社長の方向を見ると何度も目が合う。
「何か……?」
「宮本ゆめさん……だったね」
「はい……」
余計なことを話しすぎたので、叱られるのではないかと身体を震わせる。
「そんなに怖がらないでくれ。毎日顔を合わせているのに話をしたことがなかったから、観葉植物の話で盛り上がれて俺も嬉しかった」
優しく包むような声で語りかけられて、ドキリとする。
(社長の声って、低くてよく通る声で心地がいい。イケボってやつだ)
怖そうだからあまり関わらないでおこうと思っていたのに、一気に心が奪われていく。
(この感情……何だろう)
「緑は癒やされる」
「そうですよね。眺めているだけでリラックスできますし」
「ああ。実は長期出張のとき、水をやれなくて心配していたんだが、もしよかったら宮本さんに植物の世話をしてもらえないだろうか? 俺の不在時にも入室できるように話はつけておくから。もちろんその分の手当は支払わせてもらう」
たった三つの小さな観葉植物だし、お安い御用だ。
「わかりました。実は私も社長が不在にされているとき、植物のことが気になっていました。追加の手当なんて結構です」
私がにっこりと笑うと、社長はまた頬を赤く染めた。
「ありがとう。この子達も心強いと思う」
(擬人化してる……! やっぱり社長って可愛い一面もあるんだ)
「安心だ。数が少ないので専門家に頼むのもどうかと迷っていて」
「お任せください」
社長が大切にしている観葉植物のお世話を任せてもらえるなんて嬉しい。大事にお世話させてもらおう。
*
社長室の担当になって三ヶ月が過ぎた。七月に入り、太陽の日差しがますます強くなっている。
私は社長が長期出張するたびに、植物のお世話をさせてもらっていた。
水をあげて、枯れてないかチェックする程度だったが、役に立てて光栄だ。
「おはようございます。今日も皆さん元気そうですね」
観葉植物に話しかける。もちろん返事はないけれど、青々とした葉っぱは声をかけられて喜んでいるように感じた。
ふと、いつも社長が座っている椅子を見る。主不在の椅子は、こころなしかぽつんと寂しげに感じられた。
(社長がいないのが寂しい……え? 私、なんでそんなことを考えているんだろう?)
私は自分の頭に浮かぶ感情を払うように、首を振った。
(明日になれば社長が帰ってくる。しっかりしないと)
次の日、久しぶりに社長が出勤するとあって、私は張り切って出社した。昨日も遅くまで居酒屋のアルバイトだったから、朝早く起きるのは少し大変だったけど、社長に会えるのだと思うと不思議と足取りは軽くなった。
「失礼します」
掃除道具を持って中に入り、いつものように作業していく。でも無音だった最初の頃とは違い、社長が話しかけてくるようになった。
「植物の調子がよさそうだ」
「ええ。社長がいらっしゃらない間もとても元気そうでした」
「宮本さんが愛情を込めて接してくれたおかげだ。面倒を見てくれてありがとう」
応接セットのテーブルを拭きながら社長に視線を向けると、やっぱり無表情だがかすかに笑っているような気がした。
「お役に立てて光栄です」
嬉しくなり微笑み返すと、社長は咳払いをして目をそらす。
(照れているのかな)
たわいない話をしながら作業をしているうちに、あっという間に十五分が過ぎてしまった。
「以上で終わりです。何か気になることはありますか?」
話しかけると社長が近づいてきた。手には紙袋を持っている。
「今回はパリに行ってきたんだ。お土産をどうぞ」
「いつもありがとうございます! ただ、気を遣わないでください」
観葉植物の世話を任されるようになってから、社長は出張のたびにお土産を買ってきてくれるようになった。でも、毎回出張土産をもらっていてはさすがに気が引けてしまう。
「トリュフチョコだ。甘いものは嫌いか?」
遠慮して断ると悲しそうな顔をされてしまう。
(せっかくのご好意だし、いただくことにしよう)
「大好きです。大切に食べさせていただきます」
一度は断ったものの、やはり嬉しい。社長が買ってきてくれる物はいつも可愛かったり、美味しかったりする物ばかりで、内心楽しみになっていた。
もちろん、物をもらえるから喜んでいるのではない。出張中で忙しいはずなのに、私のことを思い浮かべて選んでくれたことが嬉しいのだ。
「いつももらってばかりですし、本当にこれからは大丈夫ですので」
「植物の様子を見てもらっているお礼もあるが、宮本さんの嬉しそうな顔を思い浮かべるとついお土産を購入したくなってしまうんだ」
そう言って見つめられ、じわじわと頬に熱が集まってきた。
まるで時の流れが止まったかのようで、一瞬、呼吸をするのを忘れてしまう。
(強面だけど瞳の奥はすごく優しい。河原社長ともっといろいろなことを話してみたい)
しかし、朝の掃除の十五分間しか会うことができない関係だ。時間も限られているうえ、仕事中に雑談ばかりするのも気が引ける。
(社長はきっと、噂と違って親切なんじゃないかな。だから私だけが特別だと勘違いしちゃいけない)
しばらく見つめ合っているとドアをノックする音が聞こえた。
ハッとして私は河原社長から一歩離れた。
社長が返事をすると、新田さんが中に入ってきた。
「新田、どうかしたか?」
「お急ぎの資料があるとおっしゃっていたので、早くお渡ししようかと」
(新田さん、いつ見ても知的で仕事ができそうでかっこいいな)
「ありがたいが、清掃が終わった後で問題ない」
「申し訳ございません」
「気を遣わせてしまって悪かった」
社長が業務の指示をしている姿を見たのは初めてだ。仕事だから仕方がないのだろうが、厳しいことが伝わってきた。でも、社員を気にかけていることが伝わってくる。
新田さんは表情一つ変えることなく河原社長を見ている。
仕事でいつも一緒にいる彼らには、二人にしかわからない空気感があるのだろう。少し羨ましい。
「かしこまりました。ではのちほど」
新田さんが社長室から出て行く途中で、ちらりとこちらに視線を送ってきたので、私は出張土産を背中に隠して頭を深く下げた。
再び二人になると、河原社長は私に視線を移して目を細めた。他の人から見ると無表情に感じるかもしれないけれど、私にはすごく穏やかな表情に見える。
「チョコレートの感想、今度聞かせてくれ」
「ありがたくいただきます。では、時間なので失礼いたします」
名残惜しかったが、私は一礼すると退室した。
(何か河原社長にお返しができないかな)
最近は気がつけば彼のことばかりが頭に浮かんでいる。
(いけない。集中しなきゃ)
私は頭を振って気持ちを切り替えた。
夕方になり、清掃の仕事を終えていつものように居酒屋のアルバイトへと向かう。店に到着すると裏口にいつも来ているサラリーマンが立っていた。
目が合ったので頭を下げると、彼もちらっとこちらを見て会釈をした。
(何であんなところにいるんだろう?)
不思議に思ったものの、始業時間が迫っていたので中に入って着替えを済ませる。
「お疲れ様です、今日もよろしくお願いします!」
店に出て店長や先に来ていたスタッフに声をかける。
店内を見渡すと、今日も大盛況だ。
(今日も忙しくなりそうだな、頑張ろう)
アルバイト中も味噌料理を見ると、河原社長のことを思い出してしまった。
いつもお土産をもらってばかりなので何かお礼をしたい。
(河原社長に私が大好物の味噌焼きおにぎりを作ってみようかな。でもそんな庶民の食べ物をもらっても迷惑かな)
『カワラ食品』の味噌は、深いコクがあって本当に美味しい。
さすがに社長も味噌焼きおにぎりは口にしたことがあるだろうけど、私にできるお礼を考えたとき、これくらいしか思いつかなかった。
(おばあちゃんの味噌焼きおにぎりは本当に美味しかったし、あれなら社長にも喜んでもらえるかもしれない)
居酒屋のバイトを終えて家に帰ると、朝にご飯が炊けるように炊飯器をセットして眠りについた。
次の日の朝。
いつもより少し早く起きて、炊き上がった白米でおにぎりを握る。表面に味噌を塗り、焼き目をつければ味噌焼きおにぎりの完成だ。
試食も兼ねて朝食として食べると、とても美味しい。
祖母が作ったほうが美味しいけれど、ちゃんと作れるように教えてもらっていたおかげでかなり似た仕上がりになっている。これならぜひ社長に食べてもらいたい。
そう意気込みながら味噌焼きおにぎりを袋に詰めたところで、急に不安がよぎる。
(やっぱり手作りのおにぎりをもらったって迷惑……かな)
迷いながらも私はおにぎりを袋に入れて会社に向かった。
――トントン。
「はい、どうぞ」
社長室のドアをノックをすると、中から社長の声が聞こえてくる。
「失礼いたします」
入室すると、忙しそうに仕事をしている姿が目に入ってきた。
社長は昨日と同じ色のネクタイをしている。いつもきれいにセットされている髪も少し乱れているし、もしかして家に帰れなかったのだろうか。
気になってじっと見つめていると、社長と目が合う。
「あの……失礼だったら申し訳ありません。もしかして、お家に帰られていないのですか?」
「なぜわかるんだ?」
「昨日とネクタイの色が一緒でしたので……」
私の指摘を聞いて社長はハッとした表情になり、パソコンのキーボードから手を離した。
「緊急でやらなければいけないことがあって」
「そうだったんですね……。ちゃんと食事は摂られていますか?」
彼はこちらを見て一瞬黙り込んだ。
「そんなことまで気にかけてくれるんだな」
「おせっかいで申し訳ありません……」
なぜか社長のことが気になって仕方がない。心配になって思わず声に出してしまったが、社長からすれば余計なお世話だろう。
「立場上、たまにはこういうこともある。一度家に戻ってシャワーを浴びてこようと思っていたのだが、気がつけばこんな時間になってしまった。もう少ししたら家に戻るよ。臭うかもしれないからあまり近づかないでくれよ」
冗談めかした口調で言って笑っている。
(朝まで仕事をしていたなら、大したものを口にできていないんじゃないかな)
焼きおにぎりを渡すか悩んでいたけれど、やっぱり渡そう。私は掃除を終えると社長に紙袋を差し出した。
「あの、よかったらどうぞ」
社長は驚いた表情で紙袋を見つめている。
「これは?」
紙袋に注がれていた視線が私に移される。
「いつもお土産を買ってきてくださるお礼をしたいと思いまして」
「そんなこと気にしなくていいんだ。あれは観葉植物の世話をしてくれるお礼だから」
「でも、それ以上にいただいているので……」
彼は眉間にシワを寄せながらも受け取ってくれた。
「実は小さい頃から『カワラ食品』の味噌のファンなんです。地元が神奈川で、河原家のご実家の近くでして。祖母がよく私にこの味噌を使って焼きおにぎりを作ってくれました。それが私の大好物で。お口に合わないかもしれませんが……」
そう言いながらもすでに渡したことを後悔している。こんな庶民の食べ物をもらって嬉しいわけがない。
「……手作りの物をもらうなんて気持ち悪いですよね。捨てていただいても構いません。でも、やっぱりもったいないので私のお昼ご飯にします」
手を伸ばして紙袋を奪い取ろうとすると、ひょいと上に持ち上げられた。
「ありがとう。とても腹が減っていたんだ。今、食べさせてもらうよ」
「えっ」
社長はそう言いながら紙袋の中に手を入れておにぎりを持った。
大柄の彼が持つと小さく見える。
(いつもよりは大きめに握ったつもりなんだけど……)
そのまま社長はおにぎりを包んでいた包装を剥がして口に運ぶ。目の前で味の審査をされているような気持ちになり、いたたまれなくなる。
「ものすごくうまい」
「……ありがとうございます」
あっという間に一つ目を食べ終えて、二つ目を手に取った。心なしか社長の目がキラキラと輝いているように見える。
二つ目もすぐに食べ終えてしまった彼は、こちらに視線を向けてきた。
「本当に美味しかった。満たされたよ。ありがとう」
「喜んでいただけてホッとしました」
おにぎりも渡したし、これ以上ここに留まっているわけにはいかない。
「宮本さん」
帰ろうとしたところで、社長に呼び止められた。
「何かありましたか?」
「たまにでいい。俺におにぎりを作ってもらえないか? もちろん食材は用意するし、会社のテストキッチンを利用してもらっても構わない。代金も支払う」
予想外のことを言われて、私はポカンと口を開けて立ち止まってしまった。
「無理なお願いをしてしまって申し訳ない……。宮本さんだって忙しいよな」
「あ、いえいえ。気に入っていただけたようで嬉しいです。また作って持ってきますよ。テストキッチンを借りるとか、材料を用意していただくとか、そんなことしていただかなくても大丈夫です」
心を込めて作ったおにぎりを美味しいと言ってもらえただけで、すごく嬉しかった。
「それでは申し訳ない。光熱費もかかってしまう。それに炊飯器や道具も消耗してしまうだろう。まあ、後から請求してもらっても構わないが。ひとまずテストキッチンの使用許可を出しておくので、お願いできないだろうか?」
そこまで言われてしまえば断れない。雇い主からのお願いなので快く引き受けることにした。
「わかりました。では作らせていただきます」
「心から感謝する。毎日でも食べたいくらい美味しかった。とはいえ宮本さんの負担を増やしてはいけないな。金曜日に、三十分早く出勤することは可能か?」
「はい。朝食としてお召し上がりでしょうか?」
「あぁ。これを食べたら一日の始まりにエネルギーがもらえる気がしたんだ」
社長は先ほどまで疲れた顔をしていたのに、今は頬にほんのりと赤みが差している。こころなしか周りの空気も軽くなったように感じる。
(朝食なら本当は家で食べてから出勤したいんじゃないかな?)
後でシャワーを浴びてくると言っていたので、家が近くにあるのかもしれない。
「ご自宅はお近くですか? もしご迷惑でなければお届けします」
「実は、俺の家はこのビルの最上階にある。最上階から三フロアは居住スペースになっているんだ」
「そうだったんですか」
まさか社長がこのビルの上に住んでいるとは知らなかった。
「考えてみれば、テストキッチンは一人で利用するには広すぎるかもしれないな。宮本さんがよければうちの台所を使うのはどうだろう?」
「おにぎりくらい私の家で作って持ってきます」
「先ほども言ったが、光熱費や炊飯器などの消耗品も……」
同じことを何度か繰り返した結果、金曜日の朝、私は社長の家で焼きおにぎりを作らせてもらうことになった。
「白米だけご自身で炊いていただくのは可能でしょうか?」
「それくらいはできる」
「よろしくお願いします」
社長のお役に立てるのが嬉しいと素直に思っていた。
*
金曜日になり、私は早起きをして社長の自宅にお邪魔するために家を出た。あくまでおにぎりを作るためだが、冷静になって考えてみたら男性の家で二人きりになるのだ。恋人がいたことのない私は、男性の家に行くのも当然初めてだ。想像すると急に心臓がドキドキしてきた。
(最初に社長の家でと提案したのは私だし、しっかりしないと)
でも、オフィスの上に住んでいたなんて驚きだ。
いつもと同じルートで出勤し、会社のビルに到着する。
居住スペース専用の入口は、重厚な作りの自動ドアで、エントランスにはコンシェルジュが待機していた。
エントランスだけで、大人数を集めてパーティーできそうなくらい広い作りになっている。
奥のほうには応接スペースまである。
(すごい! 庶民の私が足を踏み入れるようなところじゃないな)
訪問先と名前をコンシェルジュに伝えると、事前に連絡が入っていたようですんなりエレベーターホールに通された。
エレベーターも操作盤までピカピカに磨かれていて高級感がある。
緊張しながら中に進み、河原社長が住む四十二階のボタンを押す。
(わぁっ、最上階だ)
静かで揺れを感じない箱で、あっという間に四十二階まで到着してしまう。
最上階には玄関の扉がたった一つしかない。
震える指でインターホンを押す。
すぐにドアが開き、河原社長が出迎えてくれた。先に出勤準備を終えていたのか、いつものようにスーツ姿だ。
「おはようございます」
「おはよう。待っていたよ、どうぞ」
よく磨かれた白い玄関に足を踏み入れる。
社長が用意してくれたふかふかのスリッパを履き、まっすぐ進んでいくと三十畳ほどあるリビングがあった。
ほぼ全面が窓だ。しかも一つ一つがとても大きい。
その窓からはレインボーブリッジまで見えていて、まるで高級ホテルのようだ。
(こんな広いところで一人暮らしをしているなんて、さすがは大企業の社長……!)
「すぐ下が会社だなんて、いつでも仕事場にいるようで落ち着かないんだが、何かあったときにすぐに対応できるから楽でね」
「そうだったんですね」
ソファーの前には、映画のスクリーンかと思うほど大きなテレビが設置されていた。
右側にはキッチンがあり、ダイニングテーブルセットが置かれている。
その隣の棚に小さな観葉植物が置かれていた。
(あの観葉植物も妹さんからのプレゼントなのかな)
「では、早速キッチンをお借りします」
キッチンはほとんど使われていないようで、コンロもシンクも綺麗なままだ。調理台も広々としていて、こんな素敵なところで毎日料理ができる生活なんて憧れてしまう。
社長は約束通り準備してくれていたようで、炊飯器にはしっかりとご飯が炊かれていた。
私はいつもより大きめにおにぎりを握り、味噌を塗りつけると、フライパンにアルミホイルを敷いて焼く。
しばらくすると味噌が焼けた香ばしい香りがしてくる。
(おにぎりだけじゃもの足りないかな)
「自宅に豆腐とネギがあったので持ってきたのですが、味噌汁も作っていいですか?」
「もちろんだ。材料費は後で請求してくれ」
「いえ、これは私からのお礼です」
少しだけ強い口調で言うと社長は納得したように頷いた。
料理が完成したことを伝えると一緒に食べてほしいとリクエストされ、私は社長の目の前に座った。
味噌焼きおにぎりと味噌汁だけの質素な朝食だが、彼は美味しそうに食べている。
身体が大きいのに、まるでわんぱくな少年のようだ。
「すごく美味しい」
「味噌がいいからだと思います」
「それもあるだろうが、宮本さんが上手だからじゃないか?」
たわいない内容なのに、相手が社長だと話しているだけで楽しい。
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