あの人と。

Haru.

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本編

147 再会

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 4人がかりで抱きしめられ、懐かしくてたまらない香りに包まれる。

「と、さん……か、さん……にぃ、さん……っっ!!!」

 間違いない、僕の、本当の家族だ。思ってもいなかった再会に、ぼろぼろと涙が溢れるのを止める手段はなかった。

 どうしてここに……? 僕のことは忘れたはずじゃ……いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。

「まってて、父さん母さん兄さん。僕が、みんなを守る……!」

 父さん達は魔法は使えない。何かあっても、この世界じゃ自衛の手段が皆無と言っていい。父さんと兄さん達は合気道をやっていたけれど、魔法や世界じゃ通用しないだろう。

「防御、結界を……!」

「ユキ様いけませんお身体が……!!」

 たしかに魔力はもうほとんど空だけど、家族を守らなくちゃ……!!!


「その必要はないよ、幸仁。私に任せておくれ」

「神、様……?」

「幸仁は家族とそこで待っていなさい。君達を傷付けさせはしないから安心して」

 神様の言葉には、絶対的な安心感がある。一度力を入れなおした身体からずっと力が抜け、崩れ落ちた。

「幸仁!」

「ユキ様!」

「あは、大丈夫……安心しただけ……」

 もう何が何だかわからないけど、神様が来たなら何も心配はない。もう、大丈夫だ。


「悪しき者を捕縛せよ」

 神様がただそれだけ言った瞬間、おそらく今回の犯人に当たる人たちがいばらのような蔓で拘束され、宙高く掲げられた。

「人間の騎士達よ。お前達にだけこれは解ける。捕らえたいならば捕らえたいと願いながら触れなさい」

 その声に、唖然としていた騎士達は動き出し、1人また1人と捕縛していく。

「さて、私の出番はもうないかな。幸仁、場所を移そう」

「え、と……助けてくださってありがとうございます。でも、ダグが……」

 きっとリディアに当たりそうだったあの攻撃魔法も、神様が無効化してくれたのだろう。感謝しかないが、ダグを置いて動くというのは……

「ダグラスも運ぶさ。君の部屋へ行かないと、色々と説明が出来ない」

「あの、失礼ながら貴方方は……ご助力いただいたことは感謝しておりますが、素性の知れない方々をユキ様のお部屋へご案内することはできかねます」

「リディア、この方は神様だよ。僕をこの世界へ連れて来た神様だ。そして、この4人は……僕の、本当の家族」

 そう紹介した途端、近くにいた神官や騎士、治癒師達が一斉に跪いた。ロイ達がそんな僕たちの様子を見て、側に来ようとしているのが見えた。

「な……し、失礼いたしました。私はユキ様専属お世話役を務めております、ヴィルヘルム国王城神殿神官長、リディアと申します」

「知っているよ。そのように畏まらなくとも構わない。ああ、人間の王よ、君達も来て欲しい。これから大事な話があるんだ」

 近くにいた騎士に神様の正体を聞いたのだろう。ロイ達は慌てて礼を取り、応えた。一国の王であるロイが跪くなど、そう見れる光景ではない。こちらの様子を伺っていた舞踏会の参加者達はその光景にどよめいている。

「仰せのままに。しかし、この場の収集の為に代わりの者へ指示を出さねばなりませんので、王妃と王子を先に向かわせます。私は後からすぐに向かいますので、ご容赦ください」

「うん、それでいいよ。あまり急がなくても大丈夫だからね。さて、では行こうか。ダグラスは私が運ぼう。幸仁、行こうか」

「は、はい……」

 神様がついっと指を振ると、フワリとダグの身体が浮かび上がった。そのまま神様が歩けばついていくダグの身体の側に寄り、父さん達と共に僕の部屋へ向かう。

「神様、ダグの目はいつ覚めますか……?」

「じきに覚めるよ。幸仁が頑張ったからね」

 そっか……ならよかった。

 ねぇダグ、僕早く起きて欲しいな。紹介人たちがいるんだよ。

「なぁ幸仁、これが幸仁の旦那か?」

「え?!」

 なんで知ってるの?!!

「心配しなくていいのよ、ゆきちゃん。私達はゆきちゃんの結婚相手が男でも気にしないからね」

「え、と……うん。部屋に行ったら色々説明するよ。みんながここにいる理由も聞かせてね」

 とりあえず反対はされなくてよかった、かな……?

「ええ、もちろんよ!」



 しばらく歩いて部屋に着くと、僕は寝室のドアを開けた状態で固定し、ベッドへダグを寝かせてもらった。

「服どうしよう……」

「ジャケットだけ脱がせておきましょうか」

 そう言ってリディアがせっせと大きな身体からジャケットだけ剥ぎ取り、そのまま寝かせた。

 少し心配だけど、家族も放っておけなくて、ちらちらと見ながらいつものカウチへと座る。父さん達は先に座ってたみたい。アル達の分も全部椅子があるのは神様が出したか何かだろう。見覚えのない椅子が結構あるし。

「さて、4人ともフードを取っていいよ。感動の再会といこうじゃないか」

 神様がそう言うと、4人は被っていたフードを取った。見えた顔は間違いなく、僕の家族だった。

「黒髪、黒眼……」

「な、神子がユキの他に4人……?!」

「いや、この4人は神子じゃないよ。私が認めた神子は幸仁だけだ。この4人は魔力への耐性も何もないからね。かけらも魔力を持たないただの異世界人だ」

 まぁでも黒髪黒眼が神子の証なら、神子と勘違いしてもおかしくないよね。舞踏会の会場で4人がフードを目深に被っていたのは、髪と目を隠す為だろう。神子が5人って普通に考えておかしいからね……

「父さん母さん兄さん……どうしてここに? 僕は存在ごとなくなったはずで……」

「それがね、幸仁。この4人は自力で思い出したんだよ。君が願ったのは家族の幸せ。しかし君の家族は君がいないと幸せにはなれないと。だから私は君達を引き会わせた」

「幸仁、ごめんなぁ……父さん達、ずっと幸仁がいなくなったことに気付かなくて……やっと気付いたのはちょうど1ヶ月前なんだ。こんなところにいたんだな……」

 父さん……でも、それでも、気付いてくれた。僕は、父さん達の中から、いなくなってなかった。それがどれほど嬉しいか……

「思い出してくれて、ありがとう……っ!」

「当たり前だろ! お前は俺等の可愛い弟なんだからな」

「蒼兄さん……ふふ、うん、そうだね」

 ガバリと抱きしめに来た蒼兄さんを抱きしめ返せば、後ろからは翠兄さんに抱きしめられた。懐かしい、これ日本でよくされたなぁ……双子の兄さんはよくこうして2人で僕を抱きしめてたよね。

「おい、お前たちばかりずるいぞ。俺たちにも幸仁を抱きしめさせろ」

「父さん……」

 渋々といった様子で兄さん達が離れると、今度は父さんと母さんに抱きしめられた。なんだか少し気恥ずかしいけどそれ以上に嬉しくてたまらない。

「父さん、母さん……」

「ああ、本物の幸仁だ……」

「可愛いゆきちゃんだわ……」

 父さんと母さんの涙、久しぶりに見た……

「心配かけて、ごめんなさい」

 ぽろりとまた1つ、涙がこぼれた。
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