あの人と。

Haru.

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After Story

side.サダン

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「っ、なんだよ、これ……」

 学園についた俺は、クラスメイトに渡された新聞の内容に愕然とした。

 なんで、バレてるんだ……だって、ユーキは機密だって……ここまでバレてしまったら、あいつはどうなるんだ? 俺にバレたことで留学がなくなるかもってなってる時に……

「ごめんなさい……! こんなことになるなんて……俺が父さんに話さなければ……」

 詳しく聞けば、神子が好きすぎて調べてたロマはユーキが神子だって気付いて、それを父親に自慢したらしい。そこから父親が友人の記者にポロっと言ってしまって……泣きながら謝るロマを責めることはできなかった。

 見間違いであって欲しいと、何度も新聞を読み直しているとマザーク先生が入ってきて俺を呼んだ。

「ウェールズ、ちょっと来い」

「はい」

 新聞を返して着いて行くと、着いた先は学園長室だった。

「学園長、連れてきました」

「入ってくれ」

 先生と共に中に入り、そっと一礼すると学園長はすぐに遮音結界を張った。その手には、さっき俺が見せられた新聞があった。

「ウェールズ君、おはよう。この新聞は、見たかい?」

「さっき、教室で見せてもらいました」

「そうか……君が事件に巻き込まれたことは聞いている。そしてユーキ・タネルの正体を知ったことも、ね」

 おそらく、王家から報告が行ったのだろう。俺がこの学園の生徒である以上、学園長に報告が行くことは当たり前だ。結構危なかったしな。

「私とマザーク先生だけが、神子様のことを知っていた。そこに君が加わっただけのことだったが、今や不特定多数が知ることになってしまった。おそらくもう彼はこの学園にいられないだろう」

「……そうです、よね」

 やっぱりそうだよな……

「君は何か聞いているかい? 仲が良かっただろう?」

「いいえ。新聞が発行される前の時点で、どうなるかわからないとしか」

 あの時点で留学が終わる可能性があったんだ。もう、望みは少ないだろう。

「そうか……困ったことになったね。楽しそうに授業を受けているところは少し見ていたから、なるべく留学を続けて欲しかったが……」

「俺も、ユーキといるのは楽しかったので、いなくなるのは嫌です」

「神子だと知っても、君は彼の友人であることを望んだのかい?」

「ユーキはユーキです。俺が接してきたユーキはあいつそのものです。俺は素直でちょっと抜けたところもあるユーキのことが好きですから。身分がどうだったとしても、俺から離れることはありません」

 あいつはコロコロと変わる表情で、いつも楽しそうに、キラキラした目でいろんなものを見ていた。その時その時を目一杯楽しんでいるようだった。俺は、そんなユーキが好きだ。今でも変わらない。

「タネル君はいい友人を得たようだ。留学は短くなってしまったけれど、いい友人を得れたことはためになったのかな……」

「何も教えることができなかったのが気がかりです」

 マザーク先生もそんな気持ちを持っていたのか……どうやらユーキは教師達にも好かれていたようだ。真面目で優秀で素直だもんな。好かれるのも当然か。

「そうだね。だが我々があれこれと考えても仕方ない。発表があるまで、我々は真実を口にすることはないように気をつけよう」

「はい」

 そこまでで教室へと戻され、俺はそのまま授業を受けた。あいつのことが気がかりであまり頭に入ってこなかった。質問責めにもあってあんまいい日ではなかった。


 次の日にはユーキの言葉が発表された。紛れもなく、あいつの本心だった。神子としての身分に心をすり減らされたあいつの本心には、周りの奴らも心を打たれているようだった。暗い表情を浮かべるあいつを思い浮かべて俺も思わず顔をしかめてしまった。

 あいつに幸せになって欲しい。苦しめられることなく幸せに暮らして欲しい。ただただそう思った。

 それからさらに2日後、ユーキが国へ帰ると聞いた。伝えにきた王家の遣いの人は俺に見送りも可能だと言った。もちろん俺は見送りに行くことを望んだ。当時の朝に迎えに来ると言われ、その日は眠れなかった。


 当日、緊張しながら寮の前で待っていると王家の馬車が寄せられた。前と同じ遣いの人に促され、乗り込めばすぐに馬車は走り出した。

 ユーキがいるという部屋へと案内され、中に入ればユーキは驚いた表情をして、次の瞬間には泣きそうになっていた。俺が来るとは聞かされていなかったらしい。馬鹿だな、来るにきまってるだろ。大事な友達が国に帰るんだからな。

 俺はユーキと話して終わりのつもりだったんだけど、ユーキが爆弾を投下した。

「ラギアスと話してきたら?」

 な、なんでラギアスと……ま、まさか俺の気持ちに気づかれて……? いやいや、ユーキがそんな察しのいいはずがないよな……

 でも、ラギアスとも別れの挨拶はしたかった。だからユーキに言われた通りに2人で寝室へと入った。

 ラギアスと向き合おうと身体の向きを変えた瞬間、キツく抱き込まれた。

「ラギ、アス……?」

「……好きだ。サダンのことが、好きだ。今は返事はいらない。お前がいつかヴィルヘルムの騎士になった時、その時に聞かせてくれ。待っている」

 ゆっくりと言い聞かせるように溢された言葉に、俺は息を詰めた。まさ、か……そんな……

「っ……お、れ……っ!」

 俺も、好きだ。その言葉は、音にすることはできなかった。何故なら口を塞がれたからだ。ラギアスの、唇で。言葉をなくした俺に、ラギアスは何かを抑えたような声でこう言った。

「……言わないでくれ。返事を聞いてしまえば、俺は抑えられなくなる。問答無用で連れ帰って離さないだろう。サダンの夢を潰したくない。いつか夢を叶えるサダンを、見たいんだ。だから、今は返事は聞きたくない」

「ラギアス……待っててくれ。俺、絶対そっちに行く。だから、その時は────」

「ああ、待っている。サダンを信じている」

「うん、ありがとな」

 待つと、信じると言ってくれたラギアスに俺からも抱きついた。いつかまた、こうやって出来るようにこれから頑張ろう。ラギアスのため……いや、俺のために、何が何でもヴィルヘルムの騎士になってやる。

 自然に寄せ合った唇が触れ合い、顔が熱を持ったことを自覚した。触れるだけのキスだったけど、今の俺を赤面させるには十分だった。

「俺、返事してないのに……」

「返事を聞いたらこれどころじゃないぞ?」

「っ……ばか」

 ニヤリと笑ったラギアスに赤面してバシバシと叩けば楽しそうに笑われた。悔しい。でも、そんなやりとりをするのは嫌じゃなかった。

「そろそろ時間だな。戻ろう」

「……ん」

 部屋へ戻れば赤い顔をした俺にユーキは何か聞きたそうにしていたけど、やめたようだった。助かった。

 そのあとはすぐにユーキ達は飛竜へ乗って行ってしまった。またいつか会えるようにと、願いを込めて遠ざかる飛竜をいつまでも見つめた。



 俺がラギアスを好きになったのは、あの事件がきっかけだった。俺も正直、あの時は怖かったんだ。それが、ラギアスに助けられて話していると落ち着いていくのがわかった。体から力が抜けて、ラギアスの腕の中にいることに安心した。まぁ、流石に横抱きは恥ずかしくて抵抗したけど。

 城に連れて行かれて、部屋をあてがわれるとラギアスは混乱する俺の面倒を一から十まで見てくれた。触れられて気持ち悪かった身体を隅々まで洗い、甲斐甲斐しく世話をしてくれた。何より、自分のことのように苦しそうなラギアスを見てなんていい奴なんだろうと思った。

 俺は正直助かることはないと思っていた。それがまさかラギアスのお手柄で助かるなんて……なんでわかったのか聞いた俺に、ラギアスはこう答えた。

「サダンの匂いを辿った。なんとしてでも助けたかった」

 真剣なその目に、俺は心臓が強く打ち付けたことを自覚した。まさにこの時だった。俺が想いに自覚したのは。

 一直線に俺の元へ向かって、俺を助けてくれたラギアスの姿が思い出された。好きになるのも仕方ない。

 言葉にしてくれたラギアスに返事を返すことは拒まれたけれど、同じ言葉を口に出来る日は必ず来る。それまで会えないと思うと辛いものもあるが、それはラギアスも同じ気持ちだろう。俺のためを考えてくれたラギアスのために、俺も頑張るしかない。

 ラギアス、大好きだ。

 いつかその言葉を音にしよう。
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