ちゃんとしたい私たち

篠宮華

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恋人

15.甘いひととき

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 結局あの後ベッドに戻り、二人身を寄せ合ってもう一度寝直してから迎えた朝。

 どうやら7時を回ったところのようだ。
 体はなんだか筋肉痛気味だけれど、ぐっすり眠ることができた分すっきりしているし、心も晴れやかだ。
 チェックアウトまで時間があるというので、バスローブを着てベッドの中でごろごろしていると、同じくバスローブ姿の彼が戻ってくる。
 ベッド脇に座り、私の頭を撫でる。

「浴室見た?湯船がすごく大きかったよ」
「わ、本当?入りたいな」
「お湯張ったからすぐ入れるよ」

 そう言いながら、彼は私を背中から抱き起こす。「運んであげる」と、慣れたように抱き上げられて、私も素直に彼の首裏に手を回した。

 脱衣所にそっと下ろされたので、辺りを見回すと、さすが高級ホテルなだけあってアメニティがたくさん並んでいた。浴室に続く扉を開くと、お湯が溜められた白く大きなバスタブが静かに湯気を立てている。

「ほんとだ、広いね」
「ね、これなら一緒に入れる」
「え」
「え?」
「一緒に?」
「俺はそのつもりだったけど…」

 当然のことのように言われて、やや気が動転する。

「それはちょっと…恥ずかし過ぎるかと…」
「でも広いし、チェックアウトの時間もあるし。あ、でもそれなら俺は入らなくても…」
「それはだめだよ!」

 ここまで全部してもらっていて、さすがに私だけ入るわけにはいかない。

「じゃあ一緒でもいい?」
「…う、うん…」

 私が渋々頷くと、彼は「やった」と嬉しそうに微笑むから、もう逃げられないと腹を括る。
 すると、「じゃあ入っちゃおうか」とバスローブの紐を引っ張られた。するりと前が開く。面倒だったので中にショーツ以外を身につけていなかったことが災いし、すぐに胸や臍が露わになる。

「ちょ…っ!」
「え、もう入るでしょ?」
「じ、自分で脱ぐから…!」

 と言っても、ほとんど着ていないのだけれど。
 狼狽える私を見下ろし、あっさりと「そっか」と言った彼は、さらりと自分のバスローブを脱ぐ。明るいところで見ても、やっぱり均整のとれた身体だった。

「じゃあ俺は先に入ってるね」

 すたすたと浴室に消えた彼を見送り、小さく溜息をつく。昨夜散々いろいろしたのだから、今更恥ずかしがることでもないような気もするのだけど、何も気にせずに全部脱いでしまうには勇気が足りなかった。
 一人きりの脱衣所でバスローブをのろのろと脱ぐ。
 ふと大きな鏡に目をやると、両胸の間や鎖骨辺りに、虫刺されのような小さな跡がぽつぽつと残っているのに気付く。もしかしてこれは…

「キスマーク…?」

 その時、浴室から声がかかる。

「若菜ー?大丈夫ー?」
「だ、大丈夫!ちょっとタオル探してて…」
「え?近くの籠に入れておいたよー?」

 慌てて体にタオルを巻き、置かれていた髪留めで髪を上げた。浴室への扉を開ける。彼は髪をもう洗い終えて、さっぱりした様子で湯船に浸かっていた。

「タオル巻いたままだと洗いづらくない?」
「…でも明るいし恥ずかしいもん」
「昨日見たし、今日も見たいし、明日も見たいけど」

 急にあけすけにそんなことを言い出したので眉間に皺を寄せて驚愕の眼差しを向けると、浴槽の縁に肘をついて、彼はあははと笑う。

「そんな顔されると思ってなかったんだけど」
「いや、宏隆らしくない言い方だったからちょっとびっくりして」
「そうかなぁ。でもなんていうか…浮かれちゃってさ。まさかこんな大人になってからも一緒に風呂入るような関係になれると思ってなくて」

 感慨深そうに言われて、気が抜けてしまう。
 なんだかこそこそするのも面倒になって、「ちょっとだけ、目瞑ってて」と頼み、体に巻いていたタオルを外す。見たこともない、ものすごくいい匂いのするシャンプーやボディーソープで、頭と体をざっと洗う。本当はもっと丁寧に洗いたかったけれど仕方ない。
 シャワーで泡を適当に流してから、湯船の空いているスペースに急いで体を沈める。確かに広い。

「…もう目開けていい?」
「…うん」

 静かに目を開けて、湯船の中で体を縮こまらせる私を見た彼は「可愛いなあ」などと呟く。

「そんな小さくなってないで ほら、こっちおいでよ」

 腕を引かれて近付くと、ぎゅっと抱き締められて、彼の足の間に収まった。素肌が触れ合って温かい。
 向かい合ったままその広い胸に手をつくと、当たり前のことながら視線が合った。
 そのまま、どちらからともなく顔が近付いて唇が重なる。ついこの間までは、キスひとつするのにも心臓がばくばくしていたのに、今は何だか引き寄せられるように、流されるようにしてしまう。
 始めはちゅっ、ちゅっ、と軽く触れ合うだけだったそれは、あっという間に深くなる。お互いの舌を追いかけ合うように絡み合わせながら彼の肩に手を置くと、彼の長い足が私の足の間に伸ばされたので、そこに跨るように座った。
 太腿に彼の大きく硬くなったものが当たり、思わず腰を浮かせると、彼は私の腰を掴んで入口にそれを擦り付ける。

「んっ…や、それ、だ、め…!」
「…ぬるぬるしてるけど」
「だって…っ」
「だって…何?聞きたい」

 耳の奥に注ぎ込むような甘く掠れた声に、お腹の奥がずくんと反応したような気がした。そのまま耳に舌を這わされ、頭がくらくらしてくる。

「…宏隆にそんなキス、されたら、きもちよく、なるにきまって、る」
「…っ…ほんとに、どうなっても知らないよ」

 ざばりと体を持ち上げられて、浴槽の縁に座らされた。不安定だったので壁に寄りかかると、膝に手をかけられ足を大きく広げられる。
 直後、そこに彼の頭が埋められ、尖らせた舌先で秘所を舐め上げられて、悲鳴のような嬌声をあげてしまう。

「やあぁん…っ!」
「…溢れてくるね」
「あ、ん、ぁぁあ…!!」
「昨日初めてだったから無理させたくないんだけど」
「も、そんなとこで、しゃべらないで…ぇ…」
「若菜が可愛くて、えっちだから我慢できないかも」

 彼は独り言のようにそう呟いてから、私の中にぬぷぬぷと指を突き立てた。太く骨張ったそれが、いい所を探すように中で曲げられて、すぐに腰ががくがく震えだす。浴室は音を反響させるから、自分の声も、体の中心を弄られて聞こえる水音も大きく聞こえる。
 内壁を長く骨張った指が容赦なく擦る。同時に胸の先をしゃぶられては、ちゅぱっと音を立てるように弾かれて、あっという間に私の体は限界を迎える。

「だめ、だめ、変になっちゃう…っ!」
「なって。若菜が変になるところ見せてよ。それで、今若菜を変にさせてるのは俺だってちゃんと覚えておいて」
「あ…っ、やん、あああぁっ!!」

 びくびくっと体が震えて、全身から汗がふき出した。くたっと壁に寄りかかる私の頭を撫でてから、彼はどこから取り出したのか避妊具を装着する。はじめからこうなるつもりで持ち込んでいたということだろうか。それをやや恨みがましい目で見つめると「若菜と裸でいて冷静でいられる自信はさすがになかったから、念の為持ってた」などと開き直られた。
 めそめそする私の足を抱えて、彼が自分のものを蜜口に当てる。昨日は緊張していたけれど、今は快感の方が圧倒的に上で、くたくたになりながら彼の首元に腕をまわすと、中に彼が入ってくる。
 息ができなくなるのではないかというくらい深く口付けられながら、めりめりと体を押し上げられるような感覚に体を震わせる。

「若菜の中、吸い付いてくるみたい。気持ちよすぎてすぐイきそうだ…っ」

 そう言いながら、彼は私の胸の間に唇を押し当てて、強く吸った。ちりっとした痛み。

「あ、ん…ね、今したのって……キスマーク…?」
「そう、若菜は俺のだよっていうしるし」
「も…いっぱいついてるよ…」

 「服から見えない所だから許して」と言いながら、私をぎゅうぎゅう抱き締めてくる彼を、「宏隆も私のだよ」と抱き締め返した。
 少しずつ激しくなる抽送に、されるがままになりながら私は恋人との触れ合いに酔いしれる。

 言わずもがな、そんなことをしているうちにあっという間にチェックアウトの時間になってしまって、慌てて身支度をすることになった。



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